人気小説家の燃え殻さん(右)と爪切男さんで熱いキン肉マントーク! 人気小説家の燃え殻さん(右)と爪切男さんで熱いキン肉マントーク!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!! 

希代のストーリーテラーのふたりが5月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

***

●『キン肉マン』とタッグ戦

今回の「先月の肉トーク」テーマ
第346話王位継承者の一言!!の巻(5月10日分)
第347話インテリジェンス・モンスターの真価!!の巻(5月24日分)
第348話知性の復讐!!の巻(5月31日分)

あらすじ
イタリア・コロッセオで繰り広げられた、超人タッグ・ゴッドセレクテッド(スーパー・フェニックス&ビッグボディ)VS超神タッグ・マイティハーキュリーズ(イデアマン&ザ・ノトーリアス)の一戦。試合展開がうまくいかず、ビッグボディに命令口調で当たるフェニックス。それに反発するビッグボディという、最悪の流れをキン肉マンの一言で一気に断ち切る。闘い以外の面でも魅せる、成熟した『キン肉マン』が読める

爪切男(以下、) 前回の対談(5月17日発売『週プレ』22号掲載)、何か反響ありました?

燃え殻(以下、) 僕のツイッターを見てる、『キン肉マン』に縁がない人から反応があって、50代くらいの女性なんだけど、フェニックスをキン肉マンだと思ってて。

 はははは!

 超(スーパー)サイヤ人みたいに、キン肉マンが怒ると、ああいう姿になるんだな、と。昔、アニメとかで『キン肉マン』を知ってたんだけど、何十年かぶりに見たら、すごく変わってるじゃん!という(笑)。

 変わりすぎだよ!

 そう考えると、こんなに主人公が試合に出ないで続いてるマンガ、すごいよね。それだけキャラクターがみんな立ってる。

 昔からそうですけど、確かに『週刊プレイボーイ』に移籍してから、キン肉マン、ほとんど試合に出てない。闘った回数、2、3回じゃないかな(vsピークア・ブー、vsネメシスの2戦)。

 特殊なマンガですよ、そう考えると。

 僕、6月6日、さいたまスーパーアリーナの「サイバーファイトフェスティバル」に......。

 あ、行ったんだ?

 そのときに見た、NOAHの清宮海斗(かいと)と稲村愛輝(よしき)のタッグが......稲村ってむちゃくちゃ体がでかくて、パワー型で、耐える。で、清宮は、若くて、天才肌で。そのふたりがギクシャクしていて、結局、DDTの竹下幸之介と上野勇希のタッグに負けたんですけど。そのギクシャク感が、フェニックス&ビッグボディとかぶるというか。

 ああ、確かに。

 タッグっておもしろいな、と思いました。燃え殻さんもよく誰かとコンビ組むじゃないですか、連載とかで。

 うん。しょっちゅうギクシャクしてますよ(笑)。うまくいくほうが難しいんじゃないかな。物語の中では魅力的だけどね、タッグは。

 俺の世代だと、絶対『あぶない刑事』だったんですよ。タカとユージ、憧れましたね。

 『キン肉マン』の中のタッグでは? 僕が特に好きなのは、ペンタゴンとブラックホールなんだけど。

 ああ、かませ犬としても、最高でしたね。

 最後、マッスル・ドッキングで負けるじゃない? そこも含めていい試合だった。

 俺が好きなのは、アシュラマンとサンシャイン。「あ...悪魔にだって友情はあるんだーっ」とか、名シーンが多すぎた。アシュラマンが泣いたり。

 泣いたね。手もげたりね。

 それに近いことが起きるのかな、って、読みながら思っちゃいますよね。フェニックスとビッグボディは。

 不穏な感じなんだよね。

 そう、ちょっと不協和音があるから。アシュラマンとサンシャインみたいに、仲違いを経て真のタッグ屋になったりするのかな。

燃 でも、フェニックスもビッグボディも、これでもう、全部の技を出したよね。だから、新しいツープラトン技を出さないと、ヤバい。

 でも、ツープラトン、合体技って難しいですよね。俺は、ロード・ウォリアーズのダブルインパクトが好きで。肩車した相手にダイビング・ラリアット。衝撃だった。

 うん......でも、現実のプロレスでも、名タッグは多いけど、その割に名合体技って、少ないかもね。

 そう。俺が見てた頃の新日も、例えば武藤敬司と馳浩、いいタッグだけど、合体技はなかったですよね。

 馳と佐々木健介もね。

 そうそう、どっちも補い合って強いけど。

燃 だから、もしかしたら、ゆでたまご先生の中に、現実のプロレスの世界よりもおもしろい合体技を、っていうのがあるのかもしれない。

爪 確かに。あと、なんかビッグボディがアツいんですよね。「当たり前だろ、俺たちふたりでゴッド・セレクテッドだ」とか。『あぶない刑事』の「俺たちはふたりでひとりだろ」みたいな恥ずかしいことを、サラッと言う。さらに「おまえがいないとダメだ」みたいなことを言ったら、これはもう、BL的な試合になりますよ。

 ああ、BL感はあるなあ。

 ヘタしたら、フェニックスとビッグボディの同人誌を描いてるやつがいるかもしれないぐらい。

 いや、いるだろうね。ダメだけど......。

 ビッグボディ、ボディタッチが多いですしね。

 (笑)。ほんとだ!

 手を組んだり、ワハハって肩を叩いたり、抱きついたり。ビッグボディは無意識にやっていて、フェニックスがキュンキュンしてるわけですよ(笑)。フェニックスからしたら、昔は余裕で倒してたやつが、今こんなに強くなって、「俺が耐える!」とか言って前に出られたらーー。

 そうだよねえ。

 燃え殻さんだって、俺が前に出て「耐えるから!」って言ったら、ちょっとヤバくないですか?

 ああ、いいですねえ(笑)。

 でも、フェニックスとビッグボディって、「夢のタッグを考えてください」ってファン投票したらーー。

 一番出てこないんじゃない? ビッグボディが誰と組むかって考えたら、キン肉マンだよね。だから、一番考えられないふたりが、ビッグボディとフェニックス。

 今、ちょっとビッグボディの見方が変わってきましたね。こんなにカッコよくて、アツいやつで、BLで。

 うん。BLは僕らが言ってるだけだけど(笑)。

 でもほんと、ビッグボディ、応援したくなるキャラですよ。映画とかでもそうじゃないですか。『ロード・オブ・ザ・リング』とか、『ブレイブハート』とか、味方の側に絶対デブがいる。なかなか死なないデブ。けっこう最後まで生き残る。

 うん。で、最後、1000本ぐらい矢を食らって死ぬ、みたいな。

 そう、ずっと主人公のそばにいて、最後の最後にかばってね。それに近いものをビッグボディに感じます。

●『キン肉マン』にアンチが少ないワケ

 そういえば10月からWOWOWでドラマが始まるんだよね、『キン肉マン THE LOST LEGEND』。

 ああ、なんか、不思議な番組ですよね。

 『キン肉マン』を実写映画化しようとしている人たちを、ドキュメンタリー風に追っていく。テレビ東京の深夜でやってたモキュメンタリー、『山田孝之の東京都北区赤羽』とか『山田孝之のカンヌ映画祭』みたいな――。

 あの2作を撮った松江哲明監督(*2作とも山下敦弘(のぶひろ)氏と共同)ですよね、これも。でも、主演は眞栄田郷敦(まえだ・ごうどん)で、ウォーズマン役。「キン肉マンじゃないんだ?」っていう。

 そこも、今の連載でキン肉マンは全然試合してないのと一緒で。主人公以外のキャラもみんな知ってるから、なんでもできちゃう。

 どんな話になるのか、想像がつかないですよね。

 でも、ギャグにもできるっていうのも『キン肉マン』の強みだよね。ほかのマンガだったら、ギャグにしたら怒る人、いるじゃない?

 いるでしょうねえ。

 某人気マンガが、何度もTシャツになってるの、ブランドとコラボして。そのたびに「それは違う!」って怒っている人を見た、ツイッターで。

 ああ、ファンが。

 うん。そういう厳しい目が、『キン肉マン』のファンにはまったくないと思う。

 はははは。そうかも。

 この対談も、僕が懸念していたのは......『キン肉マン』のコアなファンから「おまえら程度のやつらが語るな!」みたいな声が出てくるかと思ったら、誰もいなかった。すっごいホメてくれた人は、何人もいたけど。

 俺も喜ばれただけだな。

 こんなに長年にわたって、熱狂的なファンがいっぱいいるのに、いわゆるうるさ型の読者が、異常に少ない。それが不思議。

爪 そうですよね。別のマンガだったら、こんなに平和なわけない気がする。

 それは、昔読んでいた人たちのためにさ......『スター・ウォーズ』の新しいシリーズが始まったとき、サービスしまくったじゃない? ハン・ソロを出したり。『キン肉マン』も、ベンキマンを一回光らせるとか、レオパルドンで4週描くとか。

 ああ、確かに。

 「これを描いてほしい!」っていうポイントをまず全部描いた、ファンサービスを完璧にやった。みんな最初に満足させてもらったから、アンチになる要因がないというか。ビッグボディの今の活躍だって、期待以上に描いてくれてるから。これが同人誌で、ファンがビッグボディを主役にして描く、っていうんだったらわかるけど。

 そう! 妄想の範囲。なのに、それをゆでたまご先生本人が、すごいクオリティで描いてくれる。そう考えると、アンチが発生しない理由もわかる気がする。(編集に)どうなんですか?

編集 ほかのマンガは、SNSでいろいろ言われるのが普通ですけど、『キン肉マン』に関しては、僕自身、心配になるくらい「おもしろかったです」っていう感想ばかりで。

爪 超越してるのかな。俺たちだってアンチになれないですもんね、何をされても。

 確かに。爪さんが見に行った「サイバーファイトフェス」、俺、生中継を見てたんですよ。で、武藤敬司と丸藤正道の試合、武藤があの曲(『HOLD OUT』)で出てくると......俺、感動しちゃって。どんな試合内容であっても、もう、文句言えない。

 最後にムーンサルトプレスを出して負けたけど、あれで全部持っていっちゃった。お客みんな泣いてましたからね、俺ぐらいの年のおじさんは。武藤が飛んだ時点で。

 あれをやられたら、もうねえ? アンチになれない。というのと同じで、俺は小学生の頃から『キン肉マン』を読んじゃってるから。もうね、死のうが、実は生きてたって言われようが、「そうですか」以外ないんですよ(笑)。

 確かに。そんなマンガ、『キン肉マン』と『男塾』シリーズくらい。

 はははは!

 あと、高橋よしひろ先生の『銀牙』シリーズとか。でもほんと、『キン肉マン』、ここまでインターネットが整備された時代に、アンチがいないってすごいですよね。

 『週プレNEWS』で、ネット配信もやってるのに。

 だからって、無視されてるのかというと――。

 注目されてる。ツイッターのトレンドに、レオパルドンまで入ったもんね。

 Yahoo!ニュースに流してみたら? ひどいことを書くのでおなじみのヤフコメ勢なら、叩くでしょ。

 それが、ヤフコメもけっこうあったかいんだよ。

 マジですか!

 あのヤフコメがあんなにきれいなの、信じられない。

 そうか。本当に、国民的な作品なんでしょうね。

●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となっている

爪切男さん、燃え殻さんの最新著はこちら!

●『キン肉マン』第75巻、好評発売中! 

●8月16日(月)発売『週刊プレイボーイ』35号には、「爪切男×燃え殻の先月の肉トーク!!」の最新コラムを掲載!!