『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。

最新主演映画『空白』が9月23日に全国公開予定の俳優・古田新太(ふるた・あらた)さんが大好きなドラマや映画への思い、自身の演技論を熱く語る!

■演技の極意は「なるべく無理をしない」

――子供の頃に見て印象に残っている作品は?

古田 久世光彦(くぜ・てるひと)さん演出のドラマ『あとは寝るだけ』(1983年)。高校生かな? で、西郷輝彦さん主演の『どてらい男(ヤツ)』(1973年)。一生懸命見てました。当時小学生でしたね。

――どこが気に入りました?

古田 (後者は)貧乏なやつがどんどんのし上がっていく、いわゆる出世モノなんです。特にタイトルバックが印象的で。建設作業員の格好をした西郷さんが杭(くい)をハンマーでダンって打っていくと、後ろにビルディングが建っていくんです。それがカッコよくて。本宮ひろ志の世界ですね。

――この連載を始めて2年になりますが、タイトルバックに言及した人は初めてかも。

古田 そうなんですね。でも、さっきの『あとは寝るだけ』とかも最終回のラストシーンとかすごく良くて。出演者がお茶の間のセットから降りるんですよ。で、裏に坂道と雑木があって、サブスタジオに行く階段でみんな立っているところがラストシーンになる。

――セットだとバレちゃうと。演劇的ですね。

古田 そうなんですよ、ものすごく演劇的な手法で。それに小泉キョン吉くん(小泉今日子)が出てて、「あのシーンめちゃくちゃ覚えてて......良かった」って話をしたら、「出演者はけっこうみんなつらかった」って(笑)。

――そういう作品に限って出てる人は大変だったりしますもんね(笑)。では、ご自身が演劇の道に進むきっかけになった作品は?

古田 今のオイラがいるのは『ロッキー・ホラー・ショー』(1976年)があったから。

――古田さんが2度、日本版に出演されたミュージカル作品ですね。

古田 本家をやるのはある意味、本末転倒かもしれないけど、「ああいうミュージカルを日本でできないかな」って思ってました。それで、実際にやってみてわかったのは「よくできてるなあ」ってこと。

ゲスで、LGBTのことなんて何も考えてない、SFといってるのに科学的なことは何もしない、散々なことやってる作品なんです。でも、1時間40分にまとまっていて、なんか知らないけど同じところで泣いちゃうし、カッコいいと思っちゃう......。出演してすごさがわかったからこそ、「これは絶対まぐれだ」と思いました。

――まぐれなんですね(笑)。社会派作品にも多く出演されてますが、視聴者としてはそういう系がお好きですか?

古田 好きなのは、やっぱりスラップスティック(どたばた喜劇)です。けど今回の映画『空白』とか、ああいう静かな淡々とした、ともすれば社会派とも呼べるようなのも出る分には好きです。

――やる楽しさってどこにあるんでしょう?

古田 すべての作品で、どっかしら、「そんなやついねえよ」って思いながらやってるからでしょうね。前は殺人鬼とかヤクの売人とかそんな役ばっかりで、それはそれで自分が経験できないことだから楽しかったけど、今は逆にマイホームパパとかの仕事が来るとワクワクします。『空白』でも「こんな漁師いねえよ」って思って演じてました。

――なのに、めちゃめちゃリアリティを感じさせるんですよね。演技のコツとかあります?

古田 なるべく無理をしない。お芝居をしない。工夫をしない。監督に言われたことしかやらない。

――それってスラップスティックでも?

古田 そうです。実写版の『忍たま乱太郎』(2011年)に出てるんですけど、食堂のおばちゃん役なんです。セリフは「お残しは許しまへんでェ!」しかない。そんなのに役作りします?(笑)

――難しそうです(笑)。

古田 あのおばちゃんのバックボーンはとてもじゃないけど抱えきれないから、その場で監督が笑えばいいって思って演じていました。

――ちなみに『半沢直樹』(2020年)はどうでした?

古田 キツかった......(笑)。だって、「そんなやついねえよ」大会じゃないですか。(市川)猿之助(えんのすけ)とか香川(照之)とか「そんな銀行員いねえよ!」って。周りでやられちゃってるから、「この隙間入りにくい!」って思ってました。

だから結局、オイラはもう何もしないことにしたんです。やっても、ボールペンを握りつぶすくらい。あそこに唯一、「そんなやついねえよ」感を込めました。

■「あなたの周りに寺島しのぶいません?」

――この連載でいつも聞いているんですが、MovingMovieに触れたとき、「出てみたい」「作ってみたい」のどちらでした?

古田 「見てみたい」ですね。

――どっちでもないんですね。

古田 参加させてもらったら楽しいだろうな、みたいな。オイラは『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1994年)がめちゃくちゃ好きなんです。ティム・バートンって基本そうだけど、あれってなんのタメにもならない映画でしょ? ハロウィンタウンの人たちがクリスマスを勘違いしてむちゃくちゃにしちゃったっていう。

だけども、間違ってることが哀れでおかしくもあり、でも最後は「俺は頑張った」っていう歌もある。もしああいうミュージカル的なものを日本人でやろうかなって思う人がいたら、チョロ出でで出してほしいですよね。

――『空白』についてお聞きします。万引未遂事件を起こして逃げた中学生の娘が交通事故に遭い、彼女の無実を晴らそうと古田さん演じる父親・添田が暴走していくお話です。この映画を見終わって、生き方が少しポジティブになりました。

古田 それは良かったです。

――これも『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』と同じように、最後に救いがある構造ですよね。

古田 ちょっとだけね。本当にわずかな希望なんですけど、「これからも頑張って生きていかないといけない」みたいな。本当はオイラも爽快感があるお話が好きなんです。でも、ちょっとだけでも人間を取り戻した瞬間が垣間見えたなら、若干の前向きさも感じられるんじゃないかって。

――どんな方に見てほしいですか?

古田 できれば女性に見てもらいたい。それで「あなたの周りに寺島(てらじま)しのぶいません?」って聞いてみたいです。

――いますね(笑)。僕の周りにも何人かいます。

古田 「あ、あの人だ!」って思ってほしいですね。

●古田新太(ふるた・あらた)
1965生まれ、兵庫県出身。数々の映画、テレビドラマに出演する一方、「劇団☆新感線」など舞台でも活躍中。主な出演作はドラマ『木更津キャッツアイ』『ぼくの魔法使い』『夢をかなえるゾウ』『あまちゃん』『逃げるは恥だが役に立つ』『俺のスカート、どこ行った?』『エール』『半沢直樹』など

■『空白』9月23日(木・祝)より全国公開予定
©2021『空白』製作委員会 配給:スターサンズ/KADOKAWA PG-12
スタイリング/渡邉圭祐 ヘア&メイク/田中菜月 衣装協力/シャツ(パンクドランカーズ)

【★『角田陽一郎のMoving Movies』は毎週水曜日配信!★】