JAE社長にして故・千葉真一さんの愛弟子、金田治氏 JAE社長にして故・千葉真一さんの愛弟子、金田治氏

今年は「仮面ライダー生誕50周年」。そこで9月13日に発売された『週刊プレイボーイ39&40合併号』では「仮面ライダーヒロイン集結」と題し、歴代の仮面ライダーヒロインたちが登場。さらに、1作目から最新作までのライダーバイクを一挙に紹介しているほか、『リバイス』主演俳優・前田拳太郎さんも登場している。

そんな特集から、仮面ライダーシリーズにおいてなくてはならない、仮面ライダーや怪人を演じる"スーツアクター"をクローズアップ。

彼らの多くが所属するジャパンアクションエンタープライズ(JAE)社長の金田治さんは、初代『仮面ライダー』でスーツアクターを経験したレジェンドだ。彼が語るスーツアクターの哲学とは? そして、先日逝去された"日本アクション界の父"、師匠の千葉真一さんについても語ってもらった。

■前日に言い渡された初代ライダーの撮影

――『仮面ライダー』生誕から50年。金田さんが社長を務めるJAEことジャパンアクションエンタープライズは、数多くの仮面ライダーシリーズに参加し、ライダーや怪人のスーツアクトも担当しています。金田さんご自身もスーツアクターを務め、『仮面ライダー』にも出演されていましたが、そもそもどのような経緯でアクションの世界に足を踏み入れたんですか?

金田 スタントマンは給料がいいって友達から聞いたから、もともと体操の経験もあったしやってみようと。それで千葉真一さんが立ち上げたジャパンアクションクラブ(JAC。現・JAE)に入所しました。

しばらくして、練習中に「面(マスク)かぶって飛んでごらん」と言われるままにやってみたら、「明日『仮面ライダー』の撮影があるから行ってくれる?」って言われてね。

僕はトランポリンを使ってキックするシーンや、ライダーにやられる戦闘員のアクション、崖から落ちるシーンの撮影に参加しました。トランポリンアクションの撮影は4、5回しか行なっていないんだけど、よく覚えているのが前方宙返りを撮ったときのこと。

着地に失敗して思いっきり地面に突っ込んだんだけど、スタッフさんに駆け寄られて最初に言われたのが、「おい、面は大丈夫か!?」って言葉だった(笑)。

スーツアクターとしてはその後、『ロボット刑事』(73年、フジテレビ)で主役を演じたんだけど、スーツが今と違って分厚くて重いから手足が上がらなかった。そういう状態で無理やり動いていたから疲労が普段の10倍くらいで、ワンカット撮り終わるたびに息切れしていたね。

今みたいにエアコンもないから、撮影中に大量に汗を出して、もともと痩せ形だったのに一気に体重が6㎏落ちたよ。それで、実際の画面で自分が動いている姿を見たら恥ずかしくてね。

――納得いかなかった?

金田 撮影中に自分が思い浮かべていたようなアクションが全然できていなかったんだよね。立ち姿やアップは問題ないんだけど、動いている姿は「(動きが)かったるいなぁ」「こんなんでいいのかな?」と思いながら見ていました。

■役者というのが前提。芝居のセンスが必要

――1987年の『仮面ライダーBLACK』(TBS)以降、今のJAEの方々がスーツアクターを任され、最新作『仮面ライダーリバイス』までその歴史が続いています。現在、JAEに入所される方の中には、仮面ライダーシリーズに憧れて門を叩くケースも多いのでしょうか。

金田 8割くらいの人がそうじゃないかな。僕からしたら最近のことだけど、『仮面ライダークウガ』(2000年、テレビ朝日)を見てた子が20いくつになっているわけだからね。子供の頃に見て憧れたという人もいるけど、中学生くらいに作品を見返して、こんな仕事があるのかと知って来る人も多い。

でも、JAEはスーツアクターを育てる事務所ではなく、仕事のひとつとしてスーツアクターがあるのであって、あくまで俳優の事務所なんだっていうのは必ず最初に言っています。

たまたま面をかぶっているけど、それで芝居をやらなければいけない。どんなにアクションが上手でも、芝居心がなければスーツアクターにはなれないと。運動神経がよければできると思ったら大間違い。

――アクションの技能だけでなく、俳優としての表現力も必要ということですね。

金田 もちろん。だからJAEではアクションや体操の練習だけでなく、台詞(せりふ)読みや滑舌といった演劇的な芝居の授業もひと通りあります。アクションはお芝居ですから。スーツで表情が見えないけど人間を演じるから、目的に合った芝居をやらなきゃいけない。

――スーツアクターには素顔のままの俳優とは異なる、特殊な技能が求められますか?

金田 特殊かもしれないですけど、スーツを着ていようが着ていまいが、俳優として芝居をすることは変わらないと思いますよ。アクションも、難しい内容を毎日たくさん撮るわけじゃないから。

でも、スーツは表情が出ないから、芝居のセンスが大事かな。例えば、"ちょっと右を向く"芝居をする場面なら、普通は、顔は大きく動かさずに視線を右に動かす。

でも、スーツの目は正面しか向いていないし、構造的に首だけ少し振り向くことができないこともある。そこで"ちょっと右を向く"をどう表現するか、というセンスが求められるんですよ。

こういうスーツの芝居はとても難しいんだけど、ケースバイケースで違うし理論的な説明もできないから、センスと言うしかない。生身と同じように自然すぎる芝居をしたら箸にも棒にもかからないし、わざと身振り手振りを大きくやってもおかしい。

それを口で言ってもなんとなくでしかわからないから、スーツアクターはほかの人の芝居を見たり、自分で演じて体で覚えたり、実際の映像を見て反省したりして、少しずつ理解していくんです。

「アクション監督をしていたときは、アクションよりカメラワークを考えましたよ。グッとアップにしたり、映像のコマをふたつ落としてみたりね」(金田) 「アクション監督をしていたときは、アクションよりカメラワークを考えましたよ。グッとアップにしたり、映像のコマをふたつ落としてみたりね」(金田)

――素人考えでは、"スーツを着てダイナミックなアクションすること"が一番難しいというイメージでしたが、そこではなく芝居の奥深いところに難しさがあるんですね。

金田 そうそう。やっぱりスーツのキャラクターも人間ドラマの一部だからさ。面をかぶったただの動く物体ってわけじゃなくて、そういう姿に変身してるだけで、れっきとしたドラマの登場人物のひとりなんだよね。

昔の作品は変身前と変身後が同一人物であるってことに、そこまでこだわって演出してなかったように思う。だけど、今は変身前の内面を引き継ぐようになっている。

だから、スーツアクターは変身前の役者さんとディスカッションをしたり、ちょっとしたクセを勉強して取り入れたり、監督とも相談したりして、変身前後の人物像が一致するように芝居を作り上げているよ。

そのためにも、やっぱり芝居がわからないとね。いくらアクションがうまくても芝居ができない人がスーツを着ちゃったら、ドラマとして成立しないですから。

■深くて難しい物語。特撮以前にドラマ

――近年、スーツアクターという職業が注目される機会が増えてきましたが、そういったスーツアクターを取り巻く状況の変化をどのように感じていますか。

金田 僕たちはただ昔からそういうことをやってきただけで、スーツアクターの定義を決めたわけでも、そういう職業があると広めたわけでもない。でも、そのなかで際立ったものがある、人間ドラマを形成する職業のひとつであると、一般の人からスポットライトが当てられるようになったことは、それはそれで価値があると思っていますよ。

――金田さんはアクション監督、監督として仮面ライダーシリーズに携わり、特に初めて監督として参加された2000年の『クウガ』以降の作品は、重厚なストーリーから子供だけでなく、大人からも高い評価を受けています。

金田 子供にわかりやすい昔の番組から、精神的な悩みのようなナイーブなものを描く、大人の番組になったよね。どちらがいい悪いという話ではないけど、僕は素晴らしいことだと思いますよ。

――現場で活躍してきた金田さんから見ても、平成仮面ライダー以降で大きく変化したという印象があると。

金田 メインは子供向けだったとしても、この程度でいいんじゃない?って考え方で作ってはだめ。ヒーローや怪人が出てきても、人間ドラマであることは変わらないんですよ。

ある意味、仮面ライダーシリーズほど難しいドラマはないと思うよ。物語や設定が難しくて、ちょっとわけのわからないドラマだけど、そこが魅力。ドラマが終わったときに「あいつはなんだったんだろう」って思うような謎が残らないと。

全部わかってしまったらつまらないでしょう? だから、僕は今の仮面ライダーシリーズの重厚感のある物語には大賛成。

――最後に、スーツアクター、アクション監督、監督としてシリーズに関わってきた金田さんにとって、仮面ライダーとは何かをお聞かせください。

金田 よくわからないうちに「行け」と言われて参加して失敗した経験があるから、初代の『仮面ライダー』についてはいい思い出はないね(笑)。でも当時は無我夢中だったからわからなかったけど、今にして思うと世の中の人に勇気や希望のメッセージが送れる、夢のある作品だと思います。

そしてそれが今は、キャラクター番組としては異色な、圧倒的に人間ドラマになってきた。東映さんには100年でも200年でも、見た目がどう変化しようがぜひ続けてもらいたいですよ。

予定時間を大幅に超えたインタビューはまさに金田氏の独演会。身振り手振り交えて哲学を語るアクション界のレジェンドは、熱血社長だった......! 予定時間を大幅に超えたインタビューはまさに金田氏の独演会。身振り手振り交えて哲学を語るアクション界のレジェンドは、熱血社長だった......!

* * *

この取材の後日、JAEの源流であるJACの創設者で俳優の千葉真一さんが逝去された。あらためて金田さんに電話取材をお願いしたところ、千葉さんについてこのように語ってくれた。

金田 千葉さんとの思い出は数え切れないほどあるけど、印象に残っているのは同じ作品に出演したことより、JACの合宿に行ったり、番組の企画で千葉さんとふたりでアメリカのアクション映画のロケ地を巡ったり、一緒に練習をしたりしたことだね。

千葉さんの功績は日本におけるアクションの専門職を作ったこと。千葉さんは自分だけがすごいアクションができてもダメだと言っていたんですよ。あの人が日本のアクションを変えたと思う。

すごいアクションをやっていたアメリカ映画に負けたくない、日本の映画やテレビでもできるんだというポリシーを持って、スタントマンが冷遇されていた日本でアクションをやってきたのが千葉さんのJAC。

僕は20年以上前に独立したけど、千葉さんが考えていたこと、やりたいことを今も自分なりに続けているよ。千葉さんがいなかったら僕はこの道に入っていないかもしれないし、アクションの仕事で飯を食えていないかもしれない。今の自分は存在していなかったね。

* * *

"日本アクション界の偉大な父"のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

●金田 治(かねだ・おさむ)
1949年生まれ、新潟県出身。JAE代表取締役社長。1970年にジャパンアクションクラブに入所し、スタントマンとして活躍。アクション監督として多数の映画、テレビ、舞台作品を手がけ、仮面ライダーシリーズにはアクション監督、監督として数多くの作品に参加している

■JAE(ジャパンアクションエンタープライズ)とは
アクション俳優、スタントマンを養成・輩出する芸能事務所で、源流は1970年に千葉真一さんが設立したJAC。平成仮面ライダー18作品の主役・仮面ライダーを歴任した高岩成二、『仮面ライダーリバイス』の主役である仮面ライダーリバイ役の縄田雄哉、仮面ライダーバイス役の永徳などが所属する