結成して1年ちょっとの8人組が今、東京のライブシーンを席巻している。SNSでバズったワケでもなければ、テレビ番組に出演したワケでもない。ただただ面白いコントが見る人を魅了し、口コミが口コミを呼び、出演するライブはほとんど満席状態。演劇でもあり、コントでもある。これは"ダウ90000(きゅうまん)"という新ジャンルだ――。
■はじめは大学の演劇サークル
今、エンタメ界で注目度が急上昇している8人組のコント集団・ダウ90000。公演は連日完売になるなど、ライブシーンで大きな話題を呼んでいる。
――そんなダウ90000で脚本・演出を務める蓮見翔さんにお話をお伺いします。
蓮見 よろしくお願いします。
――9月に行なわれた第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』は6公演が完売。『ゴッドタン』の佐久間宣行(のぶゆき)Pや『有吉の壁』総合演出の橋本和明氏なども演技力や脚本力をベタボメしています。
蓮見 いやもう、ありがたいです。今回の公演は芸人さんや放送作家さん、テレビ局の方々も多く見てくださったようで。テレビ出られたらいいですね。まだ出たことがないので。
――本公演は90分の演劇でした。一方で、YouTubeに投稿されているコントは5~15分くらいのネタが多いです。ダウ90000は劇団? それともコント師?
蓮見 うーん、コント師ではないですが、劇団でもなくて......。一番しっくりくるのは「8人組」ですかね。コントもやっている集団というか。演劇もコメディがベースにあるので、ちょうどズルいところなんですよ。演劇とコントの間の。
――ダウ90000の唯一無二の魅力はそこにある気がします。結成はいつなんですか?
蓮見 旗揚げは去年の9月ですね。
――ってことは芸歴でいえば1年ちょっと!?
蓮見 そうですね。ただ、芸歴って言われると違和感があるんですよね。というのも、もとは大学のサークルだったので、コント自体はやり始めて6年くらいになるんです。
僕の大学が日藝(日本大学藝術学部)で、映画学科映像表現・理論コースで脚本を書くところだったんです。そこで、友達と一緒に演劇サークルを立ち上げて。そこからちょっとずつ後輩が入ってきて今の形になりました。といっても当時は、来てくれた友人6人に向けて出演者15人とかでやっている感じでした。
――活動を本格的に始動したのは卒業後?
蓮見 2020年3月に大学を卒業したんですけど、コロナのせいもあって半年間ほとんどなんの活動もできず。9月からちゃんと仕切り直そうと腹をくくり、「申し訳ないけど、就職を考えている人はここで抜けてもらって、これでメシを食べていこうと思っている人だけ残ってください」と、再始動したのがダウ90000です。
もともと役者志望の人が多く、就職を予定している人は少なかったんですが、こんなに残るのは予想外でした。
――ダウ90000の魅力のひとつはその脚本。蓮見さんは数々の芸人さんに脚本提供もされています。そんな蓮見さんのお笑いのルーツは?
蓮見 僕、夜10時には寝なきゃいけない家庭で育ったので、バラエティ番組がほとんど見られなかったんです。しかも父親が毎日『報道ステーション』を、母親がドラマを録画するから録(と)ることもできず。
唯一見てたのは、土曜7時にやってた『イロモネア』だけ。それを録画して、1週間毎日見てました。同じ『イロモネア』を7回(笑)。それしかお笑いを知らなったんです。
あるとき、テレビ欄を見てたら深夜にお笑い番組をやっているのを見つけて、「なんだ、これ......?」って。衝撃でしたね。中学に入ってからバラエティ番組を毎週27本くらい録画して全部見てました。だからルーツはテレビかもしれないです。
――今の目標は?
蓮見 まずはメンバーがバイトを辞められるように、が最優先ですね。あと、いろんな芸人さんにネタを書かせてもらう機会が増えたので、それはもっとやっていきたいです。ラブレターズさんのネタも作らせていただくんですけど、出られていた『キングオブコント』をガッツリ見ていた世代なので、お話が来たときはめちゃくちゃうれしかったです。
賞レースは7時からだから見れたんですよ(笑)。お笑い以外でいえば、ドラマの脚本にも挑戦したいですね。コントほど自信があるかって言われたらないですけど。
――ちなみにダウ90000は賞レースに出るんですか?
蓮見 実は今年、女のコ4人と僕で『M-1』にも挑戦しているんです。編成のインパクト重視って感じですが。ありがたいことに、その日の1回戦で2位通過しまして、YouTubeに載せてもらったところ反響がスゴくて。僕たちのチャンネルの登録者も一気に300人くらい増えたんです。
『M-1』はダウ90000をたくさんの人に知ってもらえたらうれしいなって気持ちで参加しています。『キングオブコント』はずっと1回戦で落ちてるんですけど、優勝するまで出続けたいです。
芸人と名乗らずにお笑いをやらせていただいている以上、勝負の場に出ないのは卑怯(ひきょう)だとずっと思っているので。お笑いに誠実でありたいんです。
■ここからは8人トーク!
――皆さんはどうやってダウ90000に入られたんですか?
蓮見 飯原と上原は新歓だよね?
飯原僚也 そうです。新歓に10人くらいで行って、その中の端の端でついていった感じでしたね最初は。
上原佑太 入ろうよって言ってた人たちが皆辞めちゃって。なぜか僕らが残りました。
蓮見 今いるメンバーはけっこう変なタイミングで入った人たちが多いんですよねえ。不思議。
――皆さんが思うダウ90000の強みは?
中島百依子 8人全員キャラがかぶってないことですかね。際立ってない人がいないってアンケートで書いてもらえることが多い気がします。
道上珠妃 日常を切り取った作品が多いので、誰にでもなじみがあってハマりやすいんじゃないかなって思います。
――仲いいですか?って聞くか悩んだんですけど、仲良さそうですね!
蓮見 仲はね、スゴくいいんですよね(笑)。
忽那文香(手を挙げる)
吉原怜那 手を挙げた(笑)。
園田祥太 異論があるの1?
――忽那さんどうぞ!
忽那 さっきの強みについてなんですけど。
蓮見 テーマ戻したじゃん。
忽那 そこにもつながるというか。稽古の雰囲気がとてもいいんです。演劇の練習ってどうしてもピリつくこともあるんですけど、全然そんなことなくて。それが作品にいい影響を与えているんだと思います。そこが好きで、そこが強みだと思います。
中島 確かに集まってからしゃべりすぎて、なかなか稽古が始まらないことも。
――最初の30分とか?
蓮見 へたしたら2時間とか。
――2時間!?
蓮見 でも、2時間バーッてみんなでしゃべって、「じゃあYouTube撮ろうか」っていったら皆黙るんですよ。緊張して。
中島 雑談で出しすぎてんのかな。
蓮見 みんな、本当はスゴく面白いのに緊張しいなんですよね。だから僕、まだ舞台上でみんなの一番面白いところ見たことないんです。
忽那 すみません(小声)。
――じゃあダウ90000で大変なことは?
飯原 セリフを覚えることですね。8人いると予定がそろわないこともあって、全員が出られないライブとかもあるんです。で、出られるメンバーでできるネタがないってなると、蓮見さんが急遽(きゅうきょ)書いたりするので。
園田 まあ、劇団が始まりなので、稽古→本番っていう流れに慣れてて。短期間の稽古で仕上げる能力は皆高いと思います。
――脚本はパソコンで書いて送るんですか。
蓮見 そうです。LINEに送って。
吉原 稽古中はスマホ見てやってます!
――練習はスマホを見て、大人数なのにピリピリもしないって現代的なグループですね! 皆さん、役者志望ですがコントをやっていて葛藤はないんですか?
中島 コントの演技も楽しいです。
忽那 演劇とかコントっていう分類じゃなくて、「蓮見さんの脚本」って別のジャンルなんだと思います。
蓮見 それちょっとイヤかもしれない(笑)、恥ずかしい。というか、みんなそもそも分けて考えてないでしょ。
中島 コントしてるなぁって思ってないかもしれないです。本当に「蓮見さんの脚本」って感じ。
――それでは最後に、見たことがない人にメッセージをどうぞ!
蓮見 たぶんどの世代の方が見ても楽しんでもらえると思います。演劇をあまり見たことがない人が多いと思いますが、コメディがベースにあるから楽しく見られるんじゃないかなと。コントだと思って見てもらって、そこから演劇に興味を持ってもらえたらうれしいです!
●ダウ90000
2020年9月に日本大学藝術学部出身のメンバーを中心に蓮見翔が旗揚げした8人組。21年1月に第1回本公演『フローリングならでは』、9月に第2回本公演『旅館じゃないんだからさ』を上演。YouTubeではコントのほかエチュードやラジオも配信中