『グランドジャンプ』にて連載中の『ドラフトキング』作者・クロマツテツロウ氏 『グランドジャンプ』にて連載中の『ドラフトキング』作者・クロマツテツロウ氏

大谷翔平フィーバーに、開幕間近のプロ野球日本シリーズ。日増しに冷たくなる空気とは裏腹に、野球熱はまだまだ堅調だ。そんななか、11月19日に最新10巻が発売されたのが、野球ファンから熱烈な支持を集める漫画『ドラフトキング』だ。

主人公は、プロ野球球団の敏腕スカウト・郷原眼力(オーラ)。奇想天外ともいえる方法で、高校、大学、社会人野球のスター候補選手たちの獲得合戦に勝ち残っていく様を描いた、異色の作品である。

プロ野球のスカウトという裏方が主人公の物語で、球数問題や育成の是非など、プロ野球のコアなファンが好みそうな硬派なネタが多いにもかかわらず、幅広い人気を得ている理由はどこにあるのか? 作者のクロマツテツロウ氏に、今年の野球界の話題や注目点とともに話を聞いた。

◆描きたいのは「スター選手」よりも「野球界で今、起きていること」

―― そもそも、『ドラフトキング』の着想はどこから?

クロマツテツロウ(以下:クロマツ) 野球漫画と一口に言っても「高校野球」が一番人気で。必然、企画でも高校野球モノが求められます。でも、自分は中学野球も、大学野球も、社会人野球も......いろんなジャンルの野球が描きたかった。それぞれに魅力がありますから。

そこで考えたのが、主人公がスカウトならば高校野球を入り口にしつつ、どのカテゴリーにも展開できる、ということ。プロ野球選手になる道はいくつもあるわけですが、どれも夢があって面白い。甲子園大会のスター球児だけが注目を集めがちですけど、遅咲きのスターだっているんだぞ、ということを描きたかったんです。

アフロにヒゲ面、ケツアゴと漫画の主人公には珍しいキャラクターの郷原 アフロにヒゲ面、ケツアゴと漫画の主人公には珍しいキャラクターの郷原

―― その意味では、今年パ・リーグ本塁打王に輝いたオリックスの「ラオウ」こと、杉本裕太郎はまさに、ですね。

クロマツ 社会人からドラフト10位で入団。30歳で覚醒......夢がありますよね。オリックスって昔から、高橋智さん(1984年ドラフト4位 2002年引退)のように下位指名で獲ったデカい選手が育つイメージがあります。いずれにせよ、ドラフト10位からの本塁打王は想像もできないですよね。

大谷翔平選手もそうですけど、杉本選手も漫画の企画として出したらボツにされるようなサクセスストーリー。最近は現実世界のほうが「そんなことある!?」というすごい展開が多くて、イチ野球ファンとして楽しいです。

――「漫画のような」ことを現実世界でやられると、漫画家としては困りませんか?

クロマツ 僕の場合、描きたいのはスター選手よりも、「野球界で今、起きていること」。テーマ先行です。

たとえば、「沖縄編」(コミックス4巻〜6巻「それぞれの選手ファースト」)で描きたかったテーマは「球数問題」(*)。答えはひとつじゃない、すごくデリケートな話題ですよね。選手・高校の指導者・大学指導者・プロ側・親......と視点によって捉え方が変わることを描きたかった。だから、"漫画のような"選手がどんどんリアル世界で出てきても困らないです。
(*) 特に高校球界で問題となっている、甲子園などでの勝利のために、ひとりの将来ある投手に限界まで投げさせるか、それとも将来を見越して温存すべきか、という議論

石垣商工の剛腕投手の仲眞大海は、肘のケガを抱えていたのだが、家族や監督、チームメイトの思いを背負い、隠し通し続けていた 石垣商工の剛腕投手の仲眞大海は、肘のケガを抱えていたのだが、家族や監督、チームメイトの思いを背負い、隠し通し続けていた

―― 野球界におけるテーマという意味では、最新10 巻では「育成枠の是非」を扱っています。

クロマツ 実はネットで最近、「この作者は育成反対派だ」と指摘されているんですが、違うんです。「球数問題」もそうでしたが、僕個人の考えと作品で描いている展開は必ずしも一緒じゃありません。また、作品内でも「どっちがいい・悪い」と結論を描くつもりもありません。ただ、極端なキャラを出すことで、何かしらの問題提起ができれば、と思って描いています。

取材をすると、最近のアマチュア指導者がすごく勉強していること、選手を大切にしていることがよくわかります。その観点から「育成でプロに行くのが最善なのか。選手が育つ方法はいくつもあるんじゃないか」という部分をしっかり描きたいと考えています。

ただ、今年のドラフト会議では巨人が10名、ソフトバンクが14名も育成選手を指名したのは驚きました。両球団とも資金力は抜きん出ているとは思いますが、果たしてここからどれだけの選手が大成するのか。漫画の話ともリンクするし、いい意味でハマったなと。たまたまですけど。

育成の光と影、是非を選ぶのはあくまでも読者の皆さん 育成の光と影、是非を選ぶのはあくまでも読者の皆さん

◆進化するプロ野球

―― 今、話題に出た「アマチュア指導者」について。10巻ではまさに「勤勉なアマチュア野球の指導者たちこそがプロ野球のレベルを底上げしてきた」と描かれてあってハッとさせられました。

クロマツ アマチュアの指導者を描きたい、という思いは昔からありました。それはきっと、僕が高校野球部時代、指導者に恵まれなかったから。「もしあのとき、いい指導者がそばにいたら......。もっと選手と指導者が双方に幸せな世界であってくれ」という叫びみたいなものです。

でも、実際にいい指導者は増えているはず。競技人口は減っているなかで、野球の競技レベルはプロもアマもどんどん上がっているわけですから。根性論が反面教師となって、最新理論もどんどん広まるようになってきました。インターネットの力も大きいですよね。僕もダルビッシュ投手のYouTubeで勉強できていますから。

―― 根性論が反面教師に、という意味では、今年のヤクルトの躍進にも通じますね。投手陣をしっかり休ませながら起用して、高卒2年目の奥川(恭伸)投手(今シーズン9勝4敗)が大活躍。

クロマツ 野球がいろいろ新しくなってきた気がします。奥川君もそうですし、ロッテの佐々木朗希君もそう。中9日、中10日というこれまでの常識にはないローテで回して結果が出た。実は当初、このやり方には半信半疑だったんです。でも、CS(クライマックスシリーズ)でのふたりの快投を見て「すみませんでした!」という思いです。

結局、根性は後からでも身につく、ということなのかなぁと。体ができてきて、結果が伴うようになってからのほうが、「エースとしての自覚」だって芽生えて、むしろそこから頑張れるようになる。今年のオリックス・山本由伸投手がまさにそう。全部完封しちゃいそうな勢いでしたから。

―― 「野球が新しくなってきた」という部分で、10巻は最近の野球本で目にすることが増えてきた「回転軸」「ラプソード」「シュート成分」「K/9(奪三振率)」「BB/9(与四球率)」といったワードがどんどん出てきます。その狙いは?

クロマツ 僕は育成編で「カーブの重要性」といったら大げさですけど、カーブを物語のポイントとして描きたかったんです。でもそのためには、カーブと対になるストレートについて、真実味のある話をしておく必要がある。

最新のワードをあえて出していったのは、野球に詳しい読者との信頼関係を築くため......まぁ、握手をする感覚に近いです。「この作者、適当に描いてるんじゃないんだな」と思ってもらうため。

実際、今年のプロ野球では、オリックスの宮城大弥投手や山本由伸投手、巨人の菅野智之投手と、困ったときにカーブを投げる投手が増えましたよね。今の野球と寄り添えた気がして嬉しかったです。

最新10巻では、圧倒的な潜在能力をもつ左腕・菊地原の成長譚が描かれ、カーブがカギとなる。特別編として掲載されている、孤高のセットアッパーもオススメ 最新10巻では、圧倒的な潜在能力をもつ左腕・菊地原の成長譚が描かれ、カーブがカギとなる。特別編として掲載されている、孤高のセットアッパーもオススメ

■「おっさんスカウト」たちの奮闘劇であり、群像劇

―― 今のカーブやストレートの話も含め、相当取材をしている印象があります。実際、インプットはどのように?

クロマツ 若手時代、雑誌の『野球小僧』『野球太郎』で挿絵などを描かせてもらっていて、そのときに取材もさせてもらったんです。あの経験があるから、取材に行くことは苦じゃないし、いつも勉強になることばかりで楽しいですよ。

それに今は、ネットやYouTubeでも情報収集は可能。さっきのカーブの話にしても、ダルビッシュ投手が自分のチャンネルでしゃべっていて、その後に実践していたことですから。

―― 球団スカウトに話を聞いたりは?

クロマツ もちろんしています。でも、スカウトの皆さんの話って、実は漫画化が難しい逸話ばかりなんです。スカウト界のカリスマ、広島カープの苑田聡彦スカウト統括部長()にも話を聞いたことがありますが、「黒田博樹は黙々と走っている姿を見た瞬間、大物になると思った」という、千里眼ですか? というエピソードだったり。
(*)江藤智、金本知憲、黒田博樹など広島カープの数々の名選手を連れてきた敏腕スカウト

他のスカウトさんでも「ユニフォームの着こなしを見ればわかる」とか、「バットに当たる音でわかる」とか、漫画にしにくい逸話ばかりで......(笑)。でも、どの話もすごく面白くて、刺激を受けています。

―― だからなのか、『ドラフトキング』はおっさん描写が濃いですよね。主人公からして"顎の割れたブロッコリー"と揶揄される濃いめのキャラです。表紙が毎回こんなにもおっさん、という作品は珍しいのでは?

クロマツ おっさん、カッコよくないですか? 哀愁が漂うおっさんが好きなんです。若手スカウトの成長譚(たん)、というストーリーにしてもそれはそれで素敵だと思うんです。でも、この作品は「おっさんスカウト」たちの奮闘劇であり、群像劇。これからも、郷原眼力が暗躍する姿を描きていきたいと思います。

その結果、野球が好きじゃない人にも興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

クロマツテツロウ
奈良県出身。右投げ右打ち。2005年、『とんずらmy way』で『ヤングマガジン』(講談社)の第52回ちばてつや賞(ヤング部門)準優秀新人賞を受賞。2012年『野球部あるある1』『野球部あるある2』(『野球小僧』編集部 著:菊池選手)で挿絵を担当。2018年、『グランドジャンプ』(集英社)にて『ドラフトキング』の連載を開始。2021年より、同じく『グランドジャンプ』にて、『山本昌はまだ野球を知らない』(原作:クロマツテツロウ 漫画:マルヤマ)を連載

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