『キン肉マン』の休載時の月に一度『週プレ』本誌限定で掲載している「燃え殻×爪切男の先月の肉トーク!!」。
12月13日(月)発売の『週プレ』52号では、新日本プロレス、エル・デスペラード選手を迎えて鼎談(ていだん)を行なっている。
今回は、面白かったけど、本誌では泣く泣くカットした部分を"番外編"として本記事にて配信!!
みんなが『キン肉マン』を読んでいたら、すごく優しい世界になる
爪切男(以下、爪) デスぺさんの、『キン肉マン』との出会いは?
エル・デスペラード(以下、デスペ) 物心ついた時、家に、黄色い鳩サブレの缶に、キンケシがいっぱい入っていました。最初はそれですね。憶えているのが、スニゲーターの恐竜の足の状態のキンケシ。
燃え殻(以下、燃) ああ、ありましたね!
デスぺ でもその時は、『キン肉マン』のストーリー、何も知らないから、「これはいったいなんだろう?」と。あと、家にゴールドライタン(*1981~82年にテレビ東京で放送されていたロボットアニメ)の超合金があって。
燃 ああ!
デスぺ それとサンシャイン、同じだと思ってました(笑)。
爪 キンケシは、ご兄弟が持っていたんですか?
デスぺ いや、たぶん親父が。僕も、今出ているキンケシを集めてるから。血だな、という気がしますね。
爪 お父さんとは『キン肉マン』の話は?
デスぺ いや、した憶えがないですね。あと、ファミコンとディスクシステムが、家に転がっていて。でもやらせてもらえなかった、「あれは壊れてるんだ」と言い張って。
爪 ディスクシステムを持っているってことは、相当のゲーム好きってことですよね。
燃 あと、超合金とかフィギュアを大人が持っているというのも、早いというか......。
デスぺ 今はオタク文化が市民権を得ているけど、当時は石もて追はるるの時代ですから。と考えると、子供の物で遊んでいるという負い目があったのかもしれないですね、親父に。
燃 マンガのほうは?
デスぺ マンガにちゃんと触れたのは、けっこう遅かったです。20歳くらいの時に、先輩が文庫で『キン肉マン』を持っていたんですよ。それでやっと、サンシャインとゴールドライタンの違いを知った(笑)。あと『キン肉マンⅡ世』が週刊プレイボーイで連載されたのも、同じ頃で。「すげえ、『キン肉マン』がリアルタイムでやってる!」って感動しましたね。
最近、よく思うんですけど、『キン肉マン』の読者って、みんな優しくないですか? 作品に対して。
燃 優しすぎますよ!
爪 何も悪口言わない。
デスぺ だから、もうちょっと、みんな『キン肉マン』を読んだらいいのに、と思うぐらい。みんなが『キン肉マン』を読んでいたら、すごく優しい世界になると思う。
燃 途中で超人の造形が変わっても許しますからね。
デスぺ (笑)そうそう。理論が変わっても許すし。
燃 ......ツイッターやる人は、みんな『キン肉マン』を読んだ方がいいと思うなあ。
エル・デスペラードのコラボ超人はデビル・マジシャン
燃 デスペさん、今着ているの、デスペさんと『キン肉マン』のキャラクターのコラボTシャツですよね。
デスぺ そうです。これ、昔から新日本でやっていたんですよね。棚橋(弘至)選手とロビンマスクとか、中邑(真輔)選手と悪魔将軍とか。
燃 あったあった、はい。
デスぺ その話がスタッフから僕に来て、「ぜひぜひ、やらせてください!」って言ったはいいけど......好きなキャラクターは山ほどいるけど、自分のフィーリングと合う選手って誰? となると......。
爪 ああ、難しいですよね。
デスぺ マリポーサとか、確かにルチャ(・リブレ)だけど、俺、そんなに走ったり飛んだりしないし。とか、すげえ悩んで、納期ギリギリまで。で、単行本を一から読み直して、「もうこいつしかいねえ」と思って。
燃 デビル・マジシャンに。
デスぺ なんでもやるじゃないですか、デビル・マジシャン。「エリート超人の首を取って来い」って言われて、普通に取って来ましたからね。「コイツだろう」と思って。ただ、このTシャツをパッと見て、『キン肉マン』コラボだってわかる人、何人いるんだろう。
燃 はははは。
委員長のゴングは愛である
爪 最近の『キン肉マン』の展開は、どうですか?
デスぺ 「神の席」、誰が用意したんだろう? とか思いながら、ワクワクして読みましたね。超人は、実は神様の候補生だった、というのは、良かったですねえ。
燃 武道が出て来たのも、うれしかったですね。中身は武道じゃなかったけど、あの造形が見れたのは。
デスぺ あれを見るたびに、僕は、今のバッドラック・ファレ(*2010年に新日本プロレスでデビューした、身長193cm体重156kgの超巨漢選手)を思い出すんですよ。
燃・爪 はははは!
デスぺ サイズ感とムチムチ感が似てる。一回、ファレに面をつけてもらいたい(笑)。
爪 あと、委員長が「ようしゴングじゃーーーっ」って言うのが、笑ってしまいますね。
デスペ・燃 はははは。
爪 鳴らす必要ないんだけど、やり遂げようとする根性。「全試合鳴らすつもりなんだな、この人」という。
デスペ 委員長、神々から頼まれたわけでもないし、勝手にやってるだけですもんね。
燃 何の興行かわかんない。
デスペ 遺跡で、観光客がいるところで、「なんだあの超人たち、これから闘うのか?」みたいな。観る気もない人たち相手に、ゴングを鳴らす(笑)。
燃 ただ、今でもちゃんと委員長のゴングを描くのは、先生のこだわりなんでしょうね。
爪 愛ですよね。
燃 だって、いらないもんね。
デスペ 本当はいらない。でもやっぱり、ゴングで始まってゴングで終わる、っていう様式美、その一連の美しさは必要なんでしょうね。プロレスでゴングが鳴らなかった試合って、ないでしょ。巌流島(※1987年10月4日、アントニオ猪木がマサ斎藤を相手に行ったノーピープルマッチ)くらいじゃないですか。
燃 そうかー。
デスペ と考えると、やはり、プロレスの根底は残してるんですよね。リングがあって、ゴングで始まる、という。
マスクマンを選んだ理由
燃 デスぺさんは、マスクマンを選んだのはなぜだったんですか?
デスペ これも、根っこの根っこは、やっぱり『キン肉マン』なんですけど。今出ている格闘ゲームとかRPGとかを思い起こしてみると、プロレスラーのキャラクターが出てきました、という時に思い浮かぶのは、身長2メートルあって身体がごついか、身長そこそこだけどマスクマンか、どちらかなんですよ。僕は身長2mないので、じゃあマスクだ、と。
燃 なるほど。
デスペ 『キン肉マン』の超人たちも、みんな身体がでかいじゃないですか。で、なおかつマスクをしている。マスクなのか素顔なのかわからない超人もいるけど、みんな顔が覚えやすい。初めてプロレスを観に来た5歳の子は、でかい人たちが暴れ回っているという覚え方をするか、「マスクマンがいた」って覚えるか、どっちかだと思うんです。
爪 ああ、そうですよね。
デスペ すごい試合をする人でも、視覚的に頭に入らないと、覚えてもらえない。そういう意味じゃ、顔は変えられないけど、マスクは変えられるので。極論すれば、『キン肉マン』の中のどのキャラクターにも、僕はなれるわけで。
燃 ああ、おもしろい!
エル・デスペラードの燃え殻評・爪切男評は?
――デスペさん、燃え殻さんと爪さんの作品を読んで、どう思われました?
デスペ 燃え殻さんの作品で読んだのは、『これはただの夏』(2021年7月刊 新潮社)で、結婚披露宴で知り合った美女と、酔っぱらって、後日その美女が風俗嬢だということを知って、その店に行く、っていう。
燃 はい。
デスペ 「ものすごく刺さるシチュエーションだな、これ!」と思って。で、あの風俗の個室、換気が悪くてシャワーの湯気が立ち込めてる部屋の描写。不衛生なところで弁当を食ってる、っていう感じが、自分の部屋が居心地悪くなるくらい、伝わってきて。
他のシーンもそうだけど、環境の描写が、もう手に取るようにわかる。自分が見たことのある景色のように感じる。そこでキャラクターたちが動いている、というのが、「これは!」と思いましたね。自分は、毎試合毎試合テーマを見つけたい人間なんです。でもそれは、相手がいるからできるのであって、燃え殻さんはひとりで、一から全部積み上げて書く。
これは、とんでもない作業だと。で、爪さんの本は......僕は特に『働きアリに花束を』(2021年3月刊 扶桑社)が好きで。どこか静かな書き方をされている燃え殻さんのコラムと、ちょっとカロリーが違うというか。
燃 ああ、そうですね。
デスペ 伝わってくる熱量がすごいんですよね。で、「そんな経験、したことないです」っていう、非現実的な話ばかりが(笑)。実際にあることなんだけど、普通の人だったら思いつかないような、けっこうキワキワの......。
爪 でも、僕、いろいろ首を突っ込みたがる方ですけど、戻って来れない瞬間は、なんとなくわかるので。「これ以上入っちゃいけない」とか。僕、歌舞伎町のバッティングセンターで、社員で働いていたことがあるので。本当に書いちゃいけないような経験が、山のように。
デスペ ああー。今、僕が想像したものの、数段上の経験なんでしょうね。
爪 だから、書けないことも多いんです。
燃 もう書いてるあれは、書けることなのか? って思いますけど 。あれでぎりぎりセーフって、どこで線引いてんだ。
デスペ・爪 (笑)。
●エル・デスペラード(EL DESPERADO)
鈴木軍の一員として、現在、新日本プロレスで闘うマスクマン。2014年1月デビュー。2021年11月6日、大阪府立体育会館でロビー・イーグルスを破り、第91代IWGPジュニアヘビー級の王座に就く。金丸義信とのタッグでも活躍中
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中。燃え殻が原作、おかざき真里が漫画を担当している『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(『週刊SPA!』連載中)が22年5月に「Huluオリジナルドラマ」として配信
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった。現在は『週刊SPA!』、『EX大衆』でコラム連載中
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新日本プロレス 年間最大のビッグイベント
『WRESTLE KINGDOM 16』!
2022年は1月4日(火)&5日(水)東京ドームに加え、1月8日(土)横浜アリーナの3連戦での開催が決定!