キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス4巻を熱く語る キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス4巻を熱く語る

3巻から始まった第20回超人オリンピックがこの4巻で完結!

開幕から準決勝戦までを一気に描き切った前巻とは対照的に一戦のみに焦点を絞ったがゆえの新たな仕掛けが満載です!

●『キン肉マン』4巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★(星5つ中の5)

●超人プロレスは試合の前からもう始まっている!

この4巻はひと言で言うとキン肉マン対ロビンマスクの決勝戦をじっくり丁寧に描いた一冊なわけですが、まず押さえておきたいのは、だからといって決してリング上の試合だけを描いた巻なのではないということです。調印式から始まって、お互いの牽けん制せい合戦や特訓風景など、それまでと打って変わってなかなか試合にいかないんですけど、それが決して退屈でもない。世紀の一戦がいよいよ始まるという緊張感が徐々に高まっていく作中のこの感じは、読者のテンションの高まりにも確実につながっていて、この期間すら実に計算された演出だと感嘆しきりです。

そして、大事な決勝前にもうひと山、見逃せないのがテリーマン対ラーメンマンの3位決定戦です。対戦カードとしての豪華さもさることながら、僕が好きなのは試合前に舞台裏でラーメンマンがキン肉マンのポスターに向けて「これからはわたしがねらう番よ!!」とチョップを叩きつけようとする。しかし、たまたま通りかかったテリーマンがその手刀を受け止めて阻止し、無言でにらみあって、その場はただそれだけで別れていくというシーン。

これの何がすごいって、どちらもすでに敗退していて、この大会内でキン肉マンと闘う機会はもうないんですよ。でもそのキン肉マンをめぐってこんなひと悶もん着ちやくがある。こんなの見せられたら、遠い未来の活躍に想いをはせずにはいられない! キャラが立つというのはこういうことなんだと、僕も漫画家として今なお痛感させられる一幕です!

そんなふたりの闘いはそれほど尺を割かずに終わるんですが、名場面は試合後のラーメンマンの涙の訴え。キン肉マンに向けた「神がかりの運の強さにだけはたよらないでくれ!!」というセリフです。これはもう、作品そのものに対する壮大なメタ発言といいますか、これまで読者もキン肉マンは結局、主人公だから負けないし、実力じゃないところでなんとなく勝ってきてるなぁとうすうす感じていたと思うんです。でもラーメンマンにこの発言をさせることで、ゆでたまご先生は自ら先んじてもうその手は使えないぞとくぎを刺してきた。このひと言で読者は「あれ、じゃあキン肉マンはまさか実力でロビンを倒すの? どうやって?」って先の見えない展開にまた想像をかき立てられるでしょうし、もうひとつ作家的な目線で見ると、ここは作品を作るゆでたまご先生が自分自身に縛りを課したも同然のセリフなんですよね。これはすごいことをされたなぁと。間違いなくこの巻の大きなポイントのひとつだと思います。

●非の打ちどころがないラスボスの意義深さ!

そして待望の決勝戦。『キン肉マン』というマンガにおける、初のシリーズボスであるロビンマスクとの対戦へと流れていくわけですが、普通ラスボスといえば古今東西、性格が悪いとか、危険な目的を持っているとか、どこかしら読者に憎まれるべき要素が入っているものだと思うんです。でも、ロビンマスクには驚くべきことにそういう要素が一切ない、ひたすら尊敬に値する非の打ちどころがないキャラクターなんですよ。そんな高潔な相手がラスボスっていうのはあまりほかで見たことがなくて、僕の知る限りで近いのは、『あしたのジョー』で矢吹丈の最後の相手となったホセ・メンドーサくらいですかね。こういうキャラクターが『キン肉マン』の最初のラスボスというのも、以降の本作の爽やかさの原点となっている気がします。

そして個人的にこの巻で一番好きなシーンが試合前の入場場面。普段クールなロビンマスクが、キン肉マンにのまれまいと空から派手に入場してくる。それに対して、普段ならリオのカーニバルみたいな大演出で入場してくるキン肉マンが、決勝はどんな入場を見せるかと思ったら、なんと普通にスタスタと正装で歩いてくるだけ。だけどこれがもう抜群にカッコいい!

これまでのレビューでも散々言ってきましたが、キン肉マンって見た目は間違いなくブサイクなはずなのに異様にカッコよく見える瞬間というのがこのマンガには時々ありまして、そこが毎回大きなポイントになっていると僕は思うんですが、まさにここが象徴的です。こんな大一番の直前にそこを押さえていただいたところが、個人的にはたまらないです。

試合自体は白熱の大接戦の末にキン肉マンがわずかなスキを突いて勝つわけですが、これだけの熱戦を見せながら、興味深いのは最後のゴングが鳴った後、どちらもピンピンしてる。普通、少年漫画の最終決戦後なんて両者死力を尽くしてフラフラ ですよ。しかし、そうじゃない。ラーメンマンがくぎを刺した運ではないけど、機転で勝った。実力ではロビンに勝ちきれてないという未熟さを残したまま決着をつけた。その結末はリアリティがあるし、だから、物語が次に続くんですよね。次巻へと続く、修業がテーマのアメリカ遠征編にスッと入っていける、うまい幕引きだと思います。

●こんな見どころにも注目!

番外編の見どころとしてひとつ挙げたいのは、キン肉マンが優勝を決めた直後のキン骨マンの行動ですね。彼はここまでキン肉マンを散々邪魔してきたわけで、テリーマンの足まで銃で撃ち抜いた。仮に心変わりして、最後はキン肉マンを応援する気が芽生えたとしても、マトモに顔を合わせられる立場ではないでしょう。しかし彼は、まるで昔からの親友のように胴上げの輪に真っ先に飛び込んでいきました。彼のサイコパス感が見事に表現された一コマだと思います(笑)。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載、『ジャンプSQ.』12月号にて幕を閉じた。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

『謎尾解美の爆裂推理』2巻、好評発売中!

12月13日(月)発売『週刊プレイボーイ』52号は休載特別『キン肉マン』コラム4本を掲載!!

●JC『キン肉マン』76巻、好評発売中!!