ともに「本郷猛」を演じた、藤岡弘、(右)と藤岡真威人(左)

本物の親子が、50年の時を経て同じ役を演じると言う奇跡的現実が実現した。1971年、『仮面ライダー』で本郷猛役を藤岡弘、が演じた。そして50年後の2021年、仮面ライダー50周年記念映画『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』で、藤岡弘、の長男である藤岡真威人(ふじおか・まいと)が、父と同じく本郷猛を演じたのだ。

藤岡弘、先生と30年の親交のあるコミネが、映画公開を記念した親子対談を企画し、こちらも奇跡的に実現した!

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■親子で「本郷猛」を演じるという奇跡!

藤岡弘、(以下、弘、) 僕がテレビなんかで子供たちを紹介し始めてから、やっぱりみんなの焦点が真威人に行ったよね。真威人がテレビに出始めて、僕のファンたちからどんどんメッセージが寄せられてね。「真威人に絶対2代目の本郷猛として、跡を継いでほしい」「もう彼しかいない、若い頃の藤岡弘、を思い出す」とね。そういうものはおそらく、東映とか関係者の皆さんも、どこかで気づかれてたんじゃないかなっていう気がします。僕はね、やっぱりどこか、必ずこうなるだろうという予感はあったんですよ。

――『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』の試写を見終えた時、どう思われましたか?

藤岡真威人(以下、真威人 何とも言えない気持ちというか、まず自分が映画の大スクリーンに出るのは初めてだったので、そこにびっくりしました。演じているのは自分なんですけど、変身シーンにはグッと来るものがありました。

変身ポーズを決める藤岡真威人 「ビヨンド・ジェネレーションズ」製作委員会  (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

――映画を見た時は目元や視線の力が藤岡先生にそっくりと思ったけど、今お会いするとそうでもないですね。映画ではやっぱり演じてたんですね?

真威人 そうですね。映画では普段の僕とは全然違う雰囲気になっていると思います。

――変身ポーズはお父さん直伝ですか?

真威人 直伝です。大きな姿見のある所で横に並んで、時間があれば何度も一から教えて貰いました。一見簡単そうに見えるかもしれませんが、実際は難しいんです。腰の入れ方を何度も注意されました。

弘、 私がやった変身ポーズは、気を入れ、魂を入れてやる。その気の入れ方は、丹田に落とし込んで一気にやるという、武道でいう身体の中心に気を入魂する方法を教えました。武士道の抜刀のやり方だね。そして後はゆっくりと「静」だよね。そして「動」に移り、一瞬で気が入って「変身!」と言う。彼は土台に武道的なセンスが入っているから、体でわかっていましたね。だから他の変身している人とは違った、一本芯のある気が入った形でね。そういう面では彼はしっかりやっていた。

実は彼がいる撮影現場には、大丈夫かなと思って頻繁に行っていたんですよ。

撮影現場での藤岡弘、(左)と藤岡真威人(右) 「ビヨンド・ジェネレーションズ」製作委員会  (C)石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映

――現場にお父さんがいたら、いつ取って変わられるかわからないじゃないですか(笑)。そういう危機感はありましたか?

真威人 かなりプレッシャーはありました。ただ、現場にはたくさんのスタッフさんもいます。この方々の思いに応えるために準備して、とにかく本気でやろうと。なので撮影に対する不安は無かったです。

弘、 僕が最初に本郷猛を演じた時は、25歳だった。今の彼は17歳(映画撮影当時)。彼が立った時のすべての雰囲気が、僕の25歳当時とオーバーラップしてね。

仮面ライダーがなぜ、戦わなければならないのか? 改造されて人間に戻れない悲しみを背負った孤独なヒーロー、自分を改造したショッカーに二度とこのような力を使わせないぞとの決意の下に戦う。真威人がどう感じ、どう表現するか心配したけど、一発目の台詞「出たな、ショッカー!」と言った時、周囲から「おおっ!」という声が上がってね。それは俺が"気"を持ってやった時の声にそっくりだった、一本芯が入っていて。そこで「あっ、もういいな、大丈夫」と思いました。

――"真威人ライダー"の格闘アクションは、既に達人の域でありました。

弘、 武道的センスは赤ちゃんの時から少しずつやってきて、今は空手をやっています。その前は柔道、柔術、今度は剣をやろうとしている。

――今回の映画の終盤で、改造人間を作り出したことに悩む科学者に向けて、"真威人ライダー"が語りかける言葉。あれこそ藤岡武士道の真髄ですね!!

真威人 正にそうです。

弘、 武士道を歩む侍は、親子の血が繋がっていようとも、いざとなった時、お互いに命を捨てる覚悟を持てと。自分の命は自分で決めなさいと息子には小さい頃から教えました。読み書きができるようになった頃からは、武士道の本に僕が必要と思う箇所に『ここは重要!』と書いて渡して、まず読めと。

私も自分の父から、同じように何度も刷り込みで教えられました。彼の場合も絶えず言い続けて、最初はさっぱり理解できないけれど、やがて気づき、いつのまにか体に入ってしまっている。それが絶対に、画面に現れてくると思うんですよ。

――そんなお父さんを嫌な時もあったのでは?

真威人 こういう言い方はあれなんですが、同じ事の繰り返しを言ってくるから「この前聞いたよ」って思う事はありました(笑)。でも今思うと、本当に良かったなと思います。

――命を捨てる覚悟と言いながら、実は心配で撮影現場に毎回来てしまう、とても可愛いお父さんですよね(笑)。あと、マネジャーさんから聞いたんですけど、撮影が終わった後、藤岡先生は満面の笑みで、真威人くんは泣いてたっていうんですけど。普通は逆じゃないですか?(笑)

弘、 彼が高台に立ってライダーの変身ポーズをした時、「お父さんはここから、この景色を見てやったんだ」と思ってジーンときたらしい。それで撮影が終って、彼、泣いちゃってね。

真威人 普段は全然泣かないんですけど、その時は号泣しました。やり切った達成感と、プレッシャーを乗り越えたという色んな思いが溢れて来てしまって。

――映画俳優として、本郷猛をもう一度演じたいですか?

真威人 今回が50周年ですから、さらに50年後、100周年とかなった時には、また......。

――そんな奥ゆかしい事言わないで、今年は毎週『仮面ライダー2代目襲名披露』をやったらどうですか?

真威人 (笑)やりたい気持ちは、本当にありますね。

弘、 今回の作品では、私の生きざまが武士道にのっとった侍のライダー、"サムライダー"本郷猛という、一番のキーポイントをきっちりと抑えていたと思うね。

本当の自分の子供、本郷猛役(真威人)を教え伝えるオヤッさんの役を私が演じる、次の仮面ライダーでそんなストーリーができたらと構想したりもしますね。

――今の日本の親子関係に欠けている大切なモノが、そこにあるように思います。

弘、 親が子にどれだけのモノを託し、教え、諭し、文武両道で伝えるか。2人の親子の関係が見えてくる話をね。このコロナ禍の状況で今、親が子に何を委ねて託し、残すかを皆考え始めている。仮面ライダーで親子のあり方について、そういう所に焦点を当てたら新しい仮面ライダーが出来るよ。

でもね、家で4人の子(長男・真威人と3人の姉妹)たちを見ていると、藤岡ファミリー映画を作りたいなという気持ちがあってね。

――それは『大草原の藤岡さん家(ち)』であります。母さん役は天海祐希。牧場を経営していて、時代は現代ですが全員、侍です。そこに山賊が来て、馬牛を獲ろうとする。藤岡家は、家族総出で迎撃。警察が来る前に、既に山賊は皆殺し!! 『七人の侍』を越える、ファミリー侍映画であります!!

弘、真威人 (笑)

――真威人さんは今18歳、3月に高校を卒業して、その後はどうするんですか?

真威人 大学に行きますね。大学にも行きながら、僕はやっぱりアクションが好きで、表現者、俳優としてもっと成長して、上達していきたいなという思いがあります。

――今回の『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』では、世界映画史上初、50年の時を経て親子で同じ役をやったんです。これはギネスに登録申請すべきです!

弘、 それは面白いですね、ぜひ実現させましょう!

『仮面ライダー ビヨンド・ジェネレーションズ』公開中!
「ビヨンド・ジェネレーションズ」製作委員会 石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映