今年1月をもってAV女優業を、2月にストリッパー業を引退すると発表している川上奈々美。1月12日には自伝的小説『決めたのは全部、私だった』と引退記念写真集『すべて光』が発売されるほか、現在は、渋谷ヒカリエ・ダイトカイの2拠点にて同タイトルの写真展が開催中(1月16日(日)まで)。さらに2022年夏には、ドキュメンタリー映画『裸を脱いだ私』が完成予定だ。

これまで、Netflix配信ドラマ『全裸監督』や映画『東京の恋人』、『ゾッキ』などに出演しては、"AV界の演技派"と呼ばれるほど高い評価を受けてきた川上奈々美だが、今後は名前を「川上なな実」に改め、本格的に俳優として活動していくという。インタビュー前編に続き後編では、写真家・熊谷直子を交え、写真集や現在開催中の写真展の話を聞きながら、今後の意気込みについても語ってもらった。

――引退記念写真集『すべて光』には、熊谷(直子)さんとの親密度の高さが伝わる写真がたくさん収録されています。そもそも熊谷さんとは、どういった関係なんですか?

川上 クマコさん(熊谷直子のこと)と初めてお会いしたのは、今から約9年前。私がデビューして1年くらいの頃でした。写真家さんの集まりがあって、そこに私もヤス(小説にも登場する当時のマネージャー)と一緒に参加させてもらったんです。2017年に出した写真集『となりの川上さん』を撮ってくれたチカちゃん(写真家・笠井爾示)と仲良くなったのもこの集まりでしたね。それで、チカちゃんとクマコさんが仲良しだったから、よく3人で食事に行かせてもらっていたんです。そのときは、一対一で喋る間柄でもなかったんですけど......。

熊谷 ここまで親しくなったのは、つい2~3年前だよね。たまたま近所に住んでいて、偶然、道端で久しぶりの再会をして。

川上 そうそう。「偶然~!」ってハイタッチしたもんね(笑)。ちょうどそのとき、私のなかで、女性の方と一緒に何かを作り上げたいって気持ちが込み上げていた時期で。『赤い河』という、クマコさんがお母さんを撮影された写真集を見て「素敵だなぁ。私も女性のカメラマンさんに撮ってもらいたいなぁ」と思っていたところだったんですよね。

熊谷 私も「遠くからすごく綺麗なコが歩いてくるわ」と見ていたら、「え、みぃなな!?」って(笑)。前に会ったときと比べて、オーラがガラリと変わっていたというか、ものすごくキラキラして見えたんですよね。聞くと『全裸監督』が公開されて、いい評価を受けたあとだったみたいで。

写真集『すべて光』より 写真集『すべて光』より

――俳優業に自信がついたタイミングでもあったんですね。

川上 そう。それで「写真、撮ろう!」って意気投合して。こうして形になるまで、3年近く撮っていただきましたね。最初は、スケジュールが合うときに撮ってもらっていたんですけど、喜怒哀楽の全てを写真集に詰め込むには、もっと凝縮して撮らないと意味がないと。最後の方は、どんなに忙しくても毎日会って撮影をしていました。

熊谷 部活みたいだったよね(笑)。

川上 本当に(笑)。毎日でしたから、お互いに苦しい時間もいっぱいありましたよ。地元の福井にも一緒に帰ってもらいましたしね。そこでもまた、自分と向き合う瞬間があって。地元にいた頃の記憶をクマコさんに話していると、何だか泣けてきちゃったんですよね。その間も、クマコさんは静かにレンズを向けながら傍にいてくれました。そうやって撮ってもらっているうちに、「自分の全部を出し切れた」と、だんだん気分が楽になって。最後は、クマコさんに「田んぼのど真ん中を走って!」なんて言われて、全力ダッシュしたんですよね(笑)。

そのあとスタジオでも撮影をしたんですけど、「お疲れさま」と「ありがとう」の気持ちが込み上げてきて、ついにフィニッシュを迎えた感覚がありましたね。写真に写っている私も、新しい表情をしていました。写真集にも載っている、黒いドレスを着た暗めのカットです。

――涙を流しているカットですね。

川上 はい。涙を流してはいるものの、スッキリとした"いい涙"なんですよね。それに、黒いドレスを着るのは、私の夢でもあったんですよ。ヤスがよく言っていたんです。「もっと大きな存在になって、テロッテロの黒いドレスを着ような~」って。このときだけは、まっさらな状態で今の自分を写したいと思ったので、髪色も黒に戻しました。首元には、はじめて自分で買ったダイヤのネックレスを付けて......。ふふふ。私自身、特に思い入れのあるカットになったので、ぜひ注目して見ていただきたいですね。

――ちなみに、3年ほど写真を撮り続けた熊谷さんから見て、川上さんはどういう方ですか?

熊谷 ひと言で言い表すのは難しいですけど、常に前進していく人なんですよね。追いかけても、追いかけても、どんどん先に行ってしまうんです。しかも、ちゃんと敷かれた道ではなく、あえて崖を登ろうとするんですよ(笑)。

川上 自分で行ったにもかかわらず、「もう無理ー!」って叫びながらね(笑)。

熊谷 こんなにも撮り続けるのが面白い人は、なかなかいないですよ。同じ場所に留まることなく、新しい場所に行こうとする人だから、「もう撮り切ったな」と思うこともなく、3年近くも撮っていられたんだと思います。日に日に顔が変わるんですよ。もちろん役の影響もあるだろうけれど、それだけじゃないんですよね。

写真集『すべて光』より 写真集『すべて光』より

――3年分ともなると、相当な写真の量ですよね。写真集や写真展にも収まりきらないくらいだと思います。その写真展も、渋谷ヒカリエとダイトカイの2会場での開催という面白い試みに挑戦されていますよね。この2会場の展示には、どういった違いがあるんでしょう?

川上 簡単に言うと、ヒカリエでは洋服を着ていて、ダイトカイはヌードが多めって感じですね。ただ、ふたつの展示の違いは、見てくださる方それぞれの感じ方次第なのかなぁと思っています。というのも、私はヒカリエが光で、ダイトカイが影になって、コントラストが描かれていると感じたんですけど、クマコさんは、私が影だと思った部分も含めて光だと言ってくれたんですよね。写真集と写真展のタイトルが「すべて光」になったのは、そんなクマコさんの言葉があったから。これは、ふたりの作品であり、写真展なんですよ。

――インタビュー前編でも、小説、写真集、ドキュメンタリー映画でそれぞれタイトルが異なるのは、作品ごとに川上さん以外の視点が加わっているからと話されていましたね。言える範囲でいいのですが、いま撮影中というドキュメンタリー映画『裸を脱いだ私』は、どんな作品になりそうですか?

川上 私が毎日自分で撮った映像と、ストリッパーとして浅草ロック座のステージに立つ姿や舞台袖の様子をあつきちゃん(監督・灯敦生)に撮ってもらった映像で構成される予定です。ドキュメンタリーなので、小説に書いた内容と重なる部分も絶対的に出てくるのですが、小説には書き切れなかった話も私の言葉で表現しているので、小説を答え合わせする感覚で見ていただけると思います。見たら「マジかー!」ってビックリしちゃうかも(笑)。写真展でも、ちょこっとだけ映像を流しているので、公開を楽しみにお待ちください。

――完成が楽しみです!

川上 完成したら、ベルリン映画祭に出品して、まずは海外の方に見てもらうつもりです。日本での上映は、そのあとで。どんな反応が返ってくるか、今から楽しみで仕方ありません。今も昔も「大きな人間になりたい」って気持ちは変わらないものの、これほどまでに純粋な気持ちで未来にワクワクできるのは、本当にやりたいことに挑戦できているからでしょうね。今年は、いろいろと学びの多い年になりそうです。

――最後に、引退に向けて作り上げた作品や今後の「川上なな実」としての活動を、これまで応援してくれたファンの方にどう見てもらいたいですか?

川上 AV女優を引退して俳優業に専念するとお知らせしたとき、それを望んでくれていたファンの方が多くいたんですね。「みぃななは、いつも新しい景色を見せてくれるから、そのたびに、僕らも新しい交流ができる。それが楽しいんだ」って。そう背中を押してくれるファンの方がいるから、私もどんどん新しい環境に飛び込んでいけるんです。名を「川上なな実」に改めても、私は私。海外でも活躍できるよう頑張っていくので、また新しい景色が見られるのを、楽しみにしてもらいたいなぁと思いますね。

それと、こんな私でもいろんな挑戦ができたんだから、みなさんも何だってできるんだよってことを、私の活動を通して伝えていきたいです。私は人生の辛さを20代で経験しましたが、私より年上の方でも、この先のどこかで人生に躓いてしまうことがあると思います。そんなときは私のことを思い出して、何とかなると踏ん張ってもらえれば......って、『全裸監督』の村西とおるさんみたいなことを言っていますね。なんかヤダなぁ(笑)。

●川上なな実(かわかみ・ななみ)
女優。2012年1月にAVデビュー。15年5月、浅草ロック座でストリップデビュー。同年9月から「恵比寿マスカッツ」加入し、17年7月まで副キャップを務める。AV、ストリッパー、アイドル活動以外にもドラマや映画に多く出演。2019年に出演した「全裸監督」での演技が話題に。2022年2月にAV女優、ストリッパーを引退し、俳優業に専念することを宣言した

〇写真展「すべて光」1月16日(日)まで渋谷ヒカリエ&BARダイトカイ2会場で開催中
〇浅草ロック座川上奈々美引退公演「ファイナルストリップツアー」2月1日~28日
〇川上なな実ドキュメンタリー映画「裸を脱いだ私」2023年公開予定



■写真集「すべて光」


■自伝小説「決めたのは全部、私だった」