今、独身生活を満喫するその姿から、ひそかに話題を集めるYouTubeチャンネルがある。ネタも企画動画も上げない異色な芸人YouTube、チュートリアル・徳井義実の『徳井video』だ。"ひとり"の男がなぜこうも幸せそうに見えるのか―――。

■長いひとり暮らしで培った料理スキル

――"芸人YouTube戦国時代"といっても過言ではないほど、芸人による動画チャンネルが乱立するなかで、チュートリアル・徳井義実(よしみ)さんによる『徳井video』は異彩を放っています。

徳井 基本的に笑いは捨ててるからですかね。面白い動画を上げよう!っていう気持ちがあんまりないんです。たまたま芸人なだけの普通のオッサンが、日常をVlog(ブイログ)風の動画にしました、みたいなノリでやってます。ひとりでキャンプしたり、自炊したり。

――YouTubeでお笑いはやらないんですか?

徳井 実は1本だけ『同期の次長課長河本君にギャグをもらう』っていうお笑いに振った動画を上げたんです。「キャンプや料理の動画ばかり上げてて申し訳ないな。お笑いもせなな」って。でもコレが8万回再生っていう。「僕のお笑いは、こんなにも興味持たれないものなのか!?」ってなって。

逆に、「なんかお店の雰囲気ええな」って軽い感じで撮影したおすしを食べる動画とかは26万回再生とかいくんです。ただ食ってるだけやのに。

――主なコンテンツのひとつに、ひとりでキャンプする"独キャン"がありますが、もともとキャンプはお好きだったんですか?

徳井 がっつりキャンプに行くようになったのはコロナの影響ですね。あと、コロナの前に"個人的な自粛期間"があったので......。

――あっ......。

徳井 そのへんですかね、急に時間が増えたので。"独キャン"というのは、"ソロキャン"だとありふれてるから僕なりに言い換えただけです。

――「独身」の「独」かなと思ってたんですけど。

徳井 あー、確かに。......「単独」の「独」ですね! 「独身」というニュアンスはないです。

――すみません(笑)。料理動画では"こじらせ飯"というワードがよく出てきますが、これは?

徳井 自分の中では"ひとり暮らしが長すぎた人間が、ひとり暮らしが長すぎたがゆえに、必要に駆られて身に着いてしまった料理"って定義になってます。食べるのは自分だけやし、うまくなくてもいい。生きていく上で最低限のご飯。それが"こじらせ飯"です。

僕がひとり暮らしを始めたのが25歳とかで、20年もひとりでいるんですよね。これは"ひとり暮らしあるある"だと思うんですけど、自炊熱が高いときと低いときが繰り返し来るんですよ。

男ってなぜかやたらチャーハンにハマる時期があるじゃないですか。また別のときには炊き込みご飯にハマったり。その繰り返しのなかで磨いた料理スキルで作ってる感じです。

――ご自身が特に気に入ってる動画はありますか?

徳井 いろいろありますけど、『実家の玄関でキャンプをする人間』ってやつが好きですね。

――どういうことですか?

徳井 大阪の仕事終わりに京都の実家に帰って、玄関前にテントを張って寝たんです。

――え......? ご実家に寝る場所はあるんですよね?

徳井 もちろんありますよ、実家ですもん。家族はコワかったでしょうね、40超えた長男が外でテント張って寝るって言い出したときは。あのときの家族の引いた顔は忘れられません。

■動画からサムネまで編集は全部自分!

――動画内の徳井さんは基本的に無言で、後入れのナレーションやテロップで状況や心情の説明をされています。それが無駄に詩的でクスッとくるのですが、独特な編集はどのように指示されてるんですか?

徳井 編集は全部自分でやってます。

――えー!?

徳井 撮影、編集、アップロード、全部自分です。編集は移動中や劇場出番の合間にiPadでやってます。

――驚きました。編集などは外注するタレントさんも多いかと思うのですが......。

徳井 内容は芸人らしからぬことをやってますけど、ネタを作ってお客さんの前で披露する気持ちに近いです。動画を作り始めて、「自分ってネタでも動画でも、何かモノを作って発表するのが好きだったんやな」って気づいたんですよね。

なんなら僕じゃなくて、キレイなおネエちゃんが飯を食ってるとこを撮影して編集させてもらえたら、僕はそれでいいのかもしれないです(笑)。

――視聴者の方々からのコメントも読まれますか?

徳井 全部見てます。始めたときはちょっとビクビクしてたんですけど、ありがたいことに好意的なコメントが多いんですよ。ひとつひとつ自分で"いいね"を押してます。

――もらってうれしかったコメントはありますか?

徳井 なんやろうなあ。やっぱり編集の細かいところに気づいてもらえるとうれしいですね。卵が割れるタイミングをBGMに合わせてみたり、そういう変にこだわった部分にちゃんと気づいてコメントをくれたりするんですよ。みんな細かいところまで見てくれてるんやなって驚きます。

――そもそもYouTubeはなぜ始めたんですか?

徳井 自己発信が必要だなとは前々から思っていて、今やるならYouTubeかなと。ただ、最初はレビュー系の動画チャンネルにしようと思ってたんですよ。僕、モノが好きなので。「家電芸人」でもありましたし。

でも、芸人だとどうしても案件動画っぽくなってしまうでしょ。マネジャーにも「レビュー系チャンネルにするわ」って伝えてたんですけど、気づいたらご飯作ってました。

――モノが好き、とは?

徳井 例えば包丁でいうと、「この刃はこういうふうにつくられてんねや」とか「持ち手が木なんや」とか仕組みが気になっちゃって。包丁って鋼の炭素含有量が多いとよく切れるんですけど、必要以上に多いとさびやすくなってメンテナンスが面倒になったり、とか。そんなんを調べるのが好きなんです。

――YouTubeを始められる上で、ほかの方々の動画も見られたんですか?

徳井 かなり見ました。でも、始めるためにってワケではなくて。コロナ禍とかその前の自粛中にYouTubeばっかり見てて、そういう趣味系の動画に救われたんです。気が紛れるというか、新しい興味を掘り起こしてくれるじゃないですか。自分の世界が広がるし、視野が広くなるというか。

――好きなユーチューバーもいたりするんですか?

徳井 えっ、います! ちょっと紹介してもいいですか? ソロキャンプ動画をアップしている「Mr SYU」さん。まず動画を作る姿勢が素晴らしいんです。正しい情報を伝えるためにしっかり下調べをしていて。

普段、生配信をする方ではないのに、先日初めて生配信をしていて、友人と旅行中だったのに、先にホテルに戻って生配信を見たくらい好きです(笑)。

■西麻布で豪遊より野原で飲むビール

――悠々自適な独身生活を送っているように見えるのですが、ひとり遊びと友人と遊ぶ比率はどのくらいですか?

徳井 コロナ禍なんで、どうしてもひとりが多いですね。でも、コロナ前でもひとり7:友人3くらいでした。昔から割とひとりが好きなんですよ。

一時期スピードワゴンの小沢(一敬[かずひろ])と一緒に住んでたことがあるんですけど、アイツは「常に友達といたい!」ってタイプなんですよね。小沢は友人が9だと思うんですけど(笑)、僕は3あれば全然さみしさはないです。

「『徳井さんって思ったより静かなんですね』とか『テレビと印象違いますね』とか、よくコメントでいただきます。テレビの中の僕と、YouTubeの僕だとだいぶギャップがあるらしいです」 「『徳井さんって思ったより静かなんですね』とか『テレビと印象違いますね』とか、よくコメントでいただきます。テレビの中の僕と、YouTubeの僕だとだいぶギャップがあるらしいです」

――年齢を重ねるにつれ、周りが家庭を持つようになり、ひとりの時間が増えてきたという人も多いかと思います。

徳井 幸いなことに、こんな世界にいることもあって、小沢をはじめ、僕の周りは独身が多いので、まだなんとか遊んでくれる人がいるんですよね。一般社会で生きていたら、おそらく40代後半なんて仕事に家庭に忙しい頃でしょ? だいっぶキツいやろな......。

ただまあ、ひとりでいることは悪いことじゃないし、友達がいたほうがいい明確な理由もないし。むしろ、ひとりならではの楽しみ方はたくさんありますからね。

――では、今の生活は幸せですか?

徳井 幸せですよ。僕ね、生まれてこのかたずっと幸せなんですよ。幸せっていったって、仕事終わりにふと空を見上げて「ああ、今日は月がきれいだな」と思ったり、キャンプに出かけて「空気がおいしいな」と感じたりとか、そんなことなんです。僕の幸せってそういうちっちゃい幸せなんです。

キャンプに行くようになってから、贅沢(ぜいたく)なんてなんの意味もないなって思うようになりましたね。西麻布でひと晩で数十万円使うとか、それってなんも楽しないなって。

野原でビール飲むほうが楽しいし。人それぞれの幸せがありますから、ちっちゃくても大きくても、それは幸せなんですよね。その幸せをちょっとでも皆さんと共有できるように、仕事もYouTubeも頑張っていきたいですね。

●徳井義実(とくい・よしみ)
1975年生まれ、京都府出身。1998年に幼なじみの福田充徳とチュートリアルを結成。ボケ・ネタ作りを担当。2006年『M-1グランプリ』王者。2021年5月からYouTubeに動画投稿を始め、現在チャンネル登録者数約26万人