「この話、いったいどうなるの!?」
予想外の展開が次々と襲ってくる映画『さがす』はそんな声が漏れてきそうな一品だ。監督は今や世界的な映画監督となったポン・ジュノの助監督などを務めたキャリアなどで知られ、本作が長編監督2作目となる片山慎三(かたやま・しんぞう)。この名前、覚えておいて損はないぜ!
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■「勝ち負けのない世界で生きたかった」
2018年に自主製作の『岬の兄妹』でセンセーションを巻き起こした片山慎三監督が、商業映画デビュー作『さがす』を完成させた。
『岬の兄妹』では、障がい者の兄と自閉症の妹が売春ビジネスに乗り出すという一見して重い題材をエネルギッシュなエンタメに仕上げて話題を呼んだ。『さがす』では突然失踪した父(佐藤二朗)、父の行方を探す女子中学生(伊東 蒼)、指名手配中の殺人犯(清水尋也)の三者の視点から、複雑怪奇な珍事件の顛末(てんまつ)を鮮やかに描き出している。
現実の事件や社会問題に着想を得つつ、人間ドラマにユーモアを交える作風は2作目でも冴(さ)え渡っている。今後の日本映画を牽引(けんいん)するであろう注目の才人に直撃した!
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――そもそもいつ頃から映画の道を志したんでしょうか?
片山慎三(以下、片山) 中学校のときくらいから漠然と映画をやりたいと思ってました。
――「出たい」ではなく「作りたい」ということですか?
片山 はい。勝ち負けのない世界で生きたかったんです。映画は興行収入という数字で商業的な成果は測られますが、作品の評価そのものは100人いたら100人違う。
僕は受験世代で子供ながらに競争させられて育ちましたが勉強ができなかった。それで中2くらいで考えたのがお笑い芸人かマンガ家か映画監督でした。その中で"いろんな人と一緒に作る"のが向いてると思ったんです。
――そして高校を出て映画の学校に行かれたわけですね。
片山 東京にあった「映像塾」という学校に1年。その後、廣木隆一監督の『アイノウタ』というドラマ作品の現場に入って、『さがす』の佐藤二朗さんと知り合いました。
――『パラサイト 半地下の家族』などで知られるポン・ジュノ監督の現場に参加することになったきっかけは?
片山 最初はポン・ジュノが東京で撮影した『TOKYO!』という短編オムニバスでした。韓国籍の助監督が友達で、韓国映画が好きだってずっとしゃべっていたら、「ポン・ジュノ監督の現場に呼ばれたから一緒にやりませんか」って呼んでくれたんです。
――その後に韓国に渡ってポン・ジュノ監督の『母なる証明』に助監督として参加されているんですが、韓国語はできたんですか?
片山 言葉はできなかったです。最初はまったく。でも、ノーギャラでいいから勉強させてくれって伝えたらOKしてくれました。監督が見るモニターをセッティングしたり、現場にテント立てたり、言葉を使わなくていいような仕事をやってましたね。
――日本の現場との違いは感じましたか?
片山 ひとつ挙げるとしたら、韓国映画は時間をかけて撮影するということです。一本の映画を作るのに半年かけて撮影して、1日で撮るカット数も少ない。朝から夕方くらいの間に4~10カットほどをこだわって撮影してました。
一方の日本映画では撮影期間は基本的に短くて、1日で撮るカット数が多い。そうすると必然的にクオリティを妥協しないといけないところも出てくるわけです。助監督という立場でも「これ、OKカットになったけど、本当に大丈夫なの?」なんて不安を抱えながら進行することもザラにあった。
なので、韓国映画の現場で時間をかけて撮ることが作品の質につながるということを実感できた。あと、言い訳できないですし。
■「今の西成」の姿をとらえる
――長編前作の『岬の兄妹』は監督が自腹を切って作り上げた映画です。助監督の仕事が途切れずにあったなかで、思い切ったことをした理由は?
片山 「今、オリジナル作品の監督をやっておかないと、映画作家としてのキャリアが危うくなる」と思ったんです。それで思い切って自主映画という形でやりました。自分がこういうことをやれる監督なんだと示す、名刺代わりになる作品がないと仕事のオファーも来ないだろうなという思いもありました。
――『岬の兄妹』は、貧困や売春や自閉症など、非常にセンシティブな問題を扱っていながら、笑えたり、目を見張る"バトルシーン"があったりと、誤解を恐れず言えばエンタメとして面白い作品でした。
片山 そこは、ある程度は戦略的な部分がありまして、見る人に監督としての可能性を感じてもらえるよう、いろんな要素を入れ込みました。『岬の兄弟』をきっかけに、ホラーやスリラー作品の仕事について相談が来るようになりましたね。まだ恋愛ものの話は来てませんけど(笑)。
――重い題材なのにヌケ感がある作風は『さがす』にも共通してますが、今回は少し入り組んだ内容になっていますね。
片山 当初はダメなお父さんと彼にあきれている娘がいて、お父さんが高額の懸賞金がかけられてた殺人犯を捜すなか、やがて娘の信頼感を取り戻す、という話にしたかったんです。
――そんなお話でしたっけ?
片山 全然、そうはなってないですね(笑)。初めは子供視点の物語を考えていましたが、脚本の調整をしているうち、父親や大人たちの物語もどんどん増えていった感じです。
――子供のネグレクトの問題や『岬の兄妹』にも通じる貧困の問題とはどこで結びついたんですか?
片山 現実に起きた事件をモチーフにいろいろ考えて、作品の中に取り込んでいきました。事件をストックしておくのが好きなんですよ。
――『さがす』の舞台である大阪市西成区は、大阪府出身の監督にとってはやはりなじみのある土地だったんでしょうか?
片山 子供の頃は親に「あの地域には行くな」とよく言われていました。でも行くなって言われたら、まあ行っちゃうじゃないですか(笑)。高校生のときに先輩の車で連れていってもらいましたね。車から見てるとすごく危なそうな人たちがいっぱいいる。面白い街だし、いつかこの雰囲気を映画にしたいと思ってました。
――被写体として西成をどう映そうとしましたか?
片山 近年、行政の手が入ったおかげか、今の西成って昔ほど"悪い場所"ではないんですよね。街の人は撮影に協力的でしたし、「西成にマイナスイメージを持たれるような撮り方はしてほしくない」と思っているようでした。だから、スラム街のように描くのではなく、あくまでも登場人物の背景として映しました。
『さがす』には三角公園(萩之茶屋南公園)の炊き出しのシーンがありますが、あれは実際に炊き出しをやってもらい、街の人たちがカレーの列に並んでる前で撮影したんです。今の西成の姿をとらえた、いいショットだと思っています。
――『岬の兄妹』でも風景の美しさにこだわって撮られていた印象が強いですが、『さがす』で絶対に映像に収めたいと思った景色はありましたか?
片山 葬式帰りのシーンがあるんですけど、大阪の路地って真っすぐ奥まで抜けていて、実際に雨もリアルに降ってくれて、すごくいいカットになったと思ってます。
――今後、どういう映画を作りたい、どんな活動をしたいという展望はありますか?
片山 いろいろありますけど、お客さんが入るような映画をいかに作っていくか、ですね。韓国は商業性と作家性がうまく融合されている映画が多い。日本でも増えてほしいですし、僕の映画がその先駆けになれたらと思います。いろんな世代の人に『さがす』を見てほしいです!
●片山慎三(かたやま・しんぞう)
1981年生まれ、大阪府出身。中村幻児監督主宰の「映像塾」を卒業後、『TOKYO!』(08年/オムニバス映画 ポン・ジュノ監督パート)、『花より男子ファイナル』(08年/石井康晴監督)、『母なる証明』(09年/ポン・ジュノ監督)、『苦役列車』(12年/山下敦弘監督)などの作品に助監督として参加。自費で製作した『岬の兄妹』(18年)でブレイク。第41回ヨコハマ映画祭新人監督賞、第29回日本映画批評家大賞新人監督賞などを受賞。その後『そこにいた男』(20年)や『さまよう刃』(21年/WOWOW)などでも監督を務める。
●『さがす』(2022年)
テアトル新宿ほか全国公開中。監督・脚本:片山慎三 出演:佐藤二朗、伊東 蒼、清水尋也 上映時間:123分
STORY
大阪の下町で貧しくも平穏に暮らす原田 智(佐藤二朗)と中学生の娘・楓(伊東 蒼)。ある日、智は「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と言い、翌朝にこつぜんと姿を消した。父を必死に捜す楓は、日雇い現場に父の名前があることを知るが、そこにいたのはまったく知らない若い男(清水尋也)。失意に暮れる楓だったが、あるとき「連続殺人犯」の指名手配のチラシを見る。そこには日雇い現場にいた若い男の顔写真があった。父はなぜ失踪したのか? 指名手配の男との関係は? すべてが明らかになったとき、想像を超える"闇"が目の前に現れる。