燃え殻と爪切男の先月の肉トークに、新日本プロレス、エル・デスペラード選手が登場!
『キン肉マン』のWeb更新のたびにご自身のTwitterで感想をつぶやいてくれる新日本プロレスのエル・デスペラード選手。おふたりとも交流があるということで、今回スペシャルゲストとして参加してくれた!

回の「先月の肉トーク」テーマ

第363話 最初の超人!!の巻(11月1日分)
第364話 リアル・ディールズの"調和"!!の巻(11月8日分)
第365話 キン肉マンとロビン!!の巻(11月15日分)
第366話 発心の鎧!!の巻(11月29日分)

■『キン肉マン』で地獄から脱した

爪切男(以下、) プロレスラーになる前となった後では、『キン肉マン』に対する気持ちって、変わりました?

エル・デスペラード
(以下、デスペ) はい。単純にマンガとして好き、というだけじゃなくなりました。『キン肉マン』って、あくまでプロレスが根底にあるじゃないですか。現実のプロレスラー、いろんなタイプのプロレスラーが、全部『キン肉マン』のキャラクターとして出ていると思うんですよね。

燃え殻
(以下、) ああ!

デスぺ
 一般社会に認知されている、プロレスラーっていうアイコンが、『キン肉マン』には全パターン出ている。と思うと、そこに合わせて、やっぱり体はでかくなきゃいかんな、と。タッパは無理ですけど、太ももはパンパンじゃなきゃダメ、とか。

 『キン肉マン』が好きということを、表に出し始めたのって、いつ頃でしたっけ?

デスぺ
 昔は、レスラー像というものをつくり上げなきゃいかん、という変な責任感があって。あえて何もしゃべらなかったりとか、いろいろやっていたんですけど......『キン肉マン』でもそれぞれみんなキャラクターがあって、自分の考えを言って、同じ正義超人の間でも、いろんな対立があったりする。ならば、ユニットに所属していたら、そのユニットの考えに沿ってやらなきゃいけないわけじゃない。その中に一個人がいっぱいいたほうが面白い、と思うようになって。

凶器を使ってるレスラーが、アニメを好きなのはおかしいだろう、と思ってたけど、そうでもないな、と。エル・デスペラードは、エル・デスペラードのまま、リングにも上がっているし、リングを下りてマンガを読んでるし。もういいや、っていうのが、ここ3年ぐらいですかね。

 そうか、割と最近ですね。

デスぺ
 それまではずっと、いろんなことに悩んでいて。頭でっかちになって、試合も、その後のコメントも、内容がついてこない。悩んで、悩んで、地獄を経験しましたね。「俺がやっていること、間違いなんだよな」っていうのはわかるんですけど、どれをどう直せばいいのかわからない。

周りのやつらは、すごく動けて、すごく飛べて、すごいスピードで。俺には何があるんだ?って、悩み続けていました。でも、『キン肉マン』のキャラクターみんなが自分の好きなことをやっているだけ、っていうところに戻ってこれて。

 そこにヒントがあった。

デスぺ
 はい。あと、自分を救ってくれたのは金丸義信選手。今のタッグパートナーと組んだことで......俺はリング上で、目の前しか見てなかったけど、試合会場全部見えてるんですよね、あの人。

燃 
はあー!

デスぺ
 試合終了のゴングが鳴った瞬間に、時計も見ずに「×分で終わったな」って言いそうなくらい、全部見ている。それで「あ、視野を広く持てばいいんだ」と。やっと、自分がちゃんとレスラーとして、そこそこできるようになってきたな、と。

 じゃあマンガを読んでいた学生の頃よりも、今のほうが『キン肉マン』を好き?

デスぺ
 思い入れはどんどん強くなっています。

 デスペさんのファンが、試合中の写真を撮って、ツイッターとかにアップしてるのをよく見るんですけど。その写真が、すっげえいいんですよ。ばっちり決まっている写真が多くて。デスペさんの立ち居振る舞い、マンガっぽいなあ、『キン肉マン』みたいだなあ、キャラクターとして固まってるなあ、と思うんですよね。画として成立している瞬間が、試合の中に多い。それは意識されてるんですかね?

デスぺ してます。大正解です。モノマネ芸人の神奈月さんが武藤(敬司)選手のモノマネをするとか、いろんな人がモノマネする(アントニオ)猪木さんって、プロレス技じゃなくて、しぐさなんですよね。その選手を代表するアイコンって、技じゃなくて、立ち居振る舞いじゃなきゃいけないんだ、と。

燃・爪
 ああー!

デスぺ
 マンガだから、全カット美しくなきゃいけない。やられ方だって、絵にならなきゃいけない。でも、それって、人前で何かする人と全部一緒だと思うんですね。

 うーん......すごいなあ。

デスぺ オペラであろうと、格闘技であろうと。美しく闘えなきゃいけないし......それは美術的な意味じゃなくて、闘うために合理的なものが、美しいんですよね。素人が見ても「ああ、美しいなあ」っていう立ち居振る舞いは、その格闘技にとって、一番合理的な姿なんです。

 僕、最初にすごくカッコいいと思ったのが、声なんです。偉そうに言って申し訳ないですけど、試合後のコメントも、本当に大事だと僕は思っていて。そこで、聞き取りにくい声だと......本間(朋晃)選手はいいですけど。

デスぺ 
(笑)。そうですね。

爪 レスラーって、強いだけじゃなくてコメントも大切で。デスペさんはいつも、テーマを持ってしゃべっているのがわかる。しかも、間の取り方とか、大事なことを言うときのタイミングとか、「ああ、ここまで考えているプロレスラーがいるんだな。絶対上まで行くだろうな」と思ったんです。

デスぺ
 物を書いておられる、表現者の目っていうのは怖いな、と、今思いました。自分が一番気を使っているふたつを、最初に言われたので。

■ネプチューンマンが見せた背中が気になる!


 最近の『キン肉マン』の展開、どう受け止めてます?

デスぺ 超人は、実は神様の候補生だった、というのは、よかったですねえ。

爪 
2番目の試合がネプチューンマンだったのも、いいですよね。超人側の全勝はないだろうから、誰が負けるんだろう?っていう見方をしたときに、2番目がネプチューンマンというのは、予想しなかったから。

 どの超人の負け姿も見てるじゃないですか、これまでに。この中で誰が負けると華があるかな、って思うと、ネプチューンマンかもなあ、と。負けそうにない人が負けたりする、っていうのが、最近の『キン肉マン』のトレンドな気もするし。

 でも、なんか、勘繰っちゃうんですよね。ネプチューンマンが背中を見せたのは。

デスぺ そうなんですよ!

 ワザとじゃないのかな。見せるわけはないんだけどな。

デスぺ そう、「前進しての向こう傷は許されるが、後退しての背中への傷は一切許されん!」って言ってた人が。僕もこの1コマがずっと引っかかっていて。これ、絶対何かの伏線だよな、と。

 そうですよね。

デスぺ でも、この伏線って、どう回収できるんだろう?

 この会話が誌面に載る頃には、その答えは、もうわかってるはずなんですよね。

爪 あ、そうか。

 (2021年)50号で「超人総選挙2021」の投票結果が発表になりましたけど。デスぺさんが投票するなら誰でした?

デスぺ 俺、デザインだけでいうと、ランペイジマンが好きなので。あとは、やっぱり、「神威(かむい)の断頭台」の美しさが好きなので、そのふたり(ザ・マンと悪魔将軍)ですかね。(ページを見る)ランペイジマン、いないっぽいなあ。

燃 あ、46位にいますよ。

デスぺ なんとも言えない順位だなあ(笑)。レオパルドン、26位かあ......今回、復活して、けっこう暴れたじゃないですか? あれ、ツイッターで......。

 トレンドに出てましたね。

デスぺ レオパルドンを考えて投稿した人も、ツイートしてたんですよ。

燃・爪 ええっ!?

デスぺ 本当に本人かどうかはわかんないですよ? でも、当時採用されてうれしかったのに、マンモスマンに一撃でやられて、周りから散々バカにされた。それがリベンジできた、うれしい、と。
 すごい! 報われてる!
デスぺ あと、プリズマンとジェロニモのやりとりが、いまだに好きですね。レインボー・シャワーを食らって、「ぎゃあ! あれ? 不思議と平気ズラ」って、なんだよそれ!
 はははは。プリズマンが、あんなに表情ないのに、いろんな感情を表すんですよね。

デスぺ スゴいですよね。中井先生、何をどうしたらこんなに表現できるんだ!?っていうくらい、感情が出てましたよね。

 あれはなかなかできないですよ、ほかのマンガでは。目がないですからね。口だけあって、常に笑っている状態で、哀愁を表現する。

デスぺ そうそう、口角が上がってるだけなのに。

 プリズマン以外も、表情が固定されているキャラクターがほとんどですよね。

デスぺ 『キン肉マン』って、目が見えるキャラクターと、目が見えない、ブロッケンJr.みたいなキャラクターがいて。

爪 目があっても、黒目は描かれない超人も多い。

デスぺ そう。でも全員、感情が出る、見ればわかるって、あれ、恐ろしいですよね。

 確かに。でもそう考えたら、プロレスラーも、マスクマンって、表情が見えないから大変なんじゃないか、と思ったんですけど。その大変さ、デスペラードさんを見ていても、まったく感じない。悔しさとか、怒りとか、喜びとかが出る。『キン肉マン』と一緒ですけど、マスクっていうものに対して、ハンデを感じないのが不思議です。

デスぺ たぶん、マスクで感情が出るっていうのは、時間がかかると思います。自分の顔にマスクがなじむまでは、がんばっても出ないと思うんです。獣神サンダー・ライガー選手が一番恐ろしかったのって、口のところしか開いてないのに、すべての感情が出ていたんですよ。なんでこの人、怒ったら怒ったってわかるし、笑ったら笑ったってわかるんだろう?って。

 ああ、確かに。

デスぺ 今、笑うときに、腹を抱える人、いないじゃないですか。あの人、リング上で笑うとき、腹を抱えるんですよ。

燃・爪 ああ!

デスぺ ナチュラルにそう動いちゃってるんですよ。体が勝手に、思ったことを表現してくれる、そうなるまでが、マスクが自分になじむまでの時間だと思います。
 なるほどー!

 デスペさんはここからの『キン肉マン』に、どんな展開を期待します?

デスペ
 僕、まったくないんです。描いてくださったものを、おいしくいただくだけで。ただ、個人的に、唯一、僕が『キン肉マン』の中で、生理的に受けつけなかったのが、サタンクロスが寄生虫だった。

燃・爪
 はははは!

デスペ
 サタンクロスが復活して闘っていても、ずっと寄生虫って呼ばれてるじゃないですか。あの表記が本当に苦手で。僕、目黒の寄生虫館とか行けないタイプだから。無理なんです!

燃・爪
 意外な弱点!

●エル・デスペラード(EL DESPERADO)
鈴木軍の一員として、現在、新日本プロレスで闘うマスクマン。2014年1月デビュー。2021年11月6日、大阪府立体育会館でロビー・イーグルスを破り、第91代IWGPジュニアヘビー級の王座に就く。2022年1.4東京ドーム「WRESTLE KINGDOM 16」では高橋ヒロム相手に王座防衛。金丸義信とのタッグでも活躍中

●燃え殻(MOEGARA
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。2021年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中。燃え殻が原作、おかざき真里が漫画を担当している『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(『週刊SPA!』連載中)が22年5月に「Huluオリジナルドラマ」として配信

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。2021年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった。現在は『週刊SPA!』、『EX大衆』でコラム連載中

●1月31日発売『週刊プレイボーイ』7号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

「ゆでたまご中井先生の『キン肉マン』368話執筆作業動画」を公開中!

●JC『キン肉マン』77巻、好評発売中!!