「義経は鎌倉幕府という事務所のタレント。朝廷はテレビ局で、後白河法皇はプロデューサー。義経が勝手に朝廷とやりとりしたら幕府の力がなくなっちゃう。つまり、闇営業なんですよ」と語る松村邦洋さん 「義経は鎌倉幕府という事務所のタレント。朝廷はテレビ局で、後白河法皇はプロデューサー。義経が勝手に朝廷とやりとりしたら幕府の力がなくなっちゃう。つまり、闇営業なんですよ」と語る松村邦洋さん

1月9日から放送されているNHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』。

その見どころを語り尽くしたのが、歴史好きで知られる松村邦洋さんの新著『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』だ。歴史上の複雑な人間関係を現代の芸能界にたとえるなど、歴史が苦手な人にもわかりやすく解説している。

「一番好きな時代は鎌倉」という松村さんに、話題の大河ドラマの見どころを、ものまねを交えながら熱く語ってもらった。

* * *

――『鎌倉殿の13人』は今後どんな展開になると思いますか?

松村 対抗馬の平家が滅んだ瞬間から、源氏の中で政権争いのトーナメントが始まります。それに勝ち抜いたのが、今回の主役、小栗旬さん演じる北条義時です。義時はこれからドロドロした悪役になっていきます。そこを、脚本担当の三谷幸喜さんが笑いを入れてほぐしていくから、面白くなるでしょうね。

――松村さんは三谷さんと交流があるそうですね。

松村 三谷さんが演出されていた舞台を見に行かせていただいたときに、楽屋でお話しする機会があったんです。そのときにはまだ大河の出演者が発表になる前だったので、僕が「〇〇役は××がやったらいいですよね。北条政子なんかは誰なんですかねえ」なんて言ってたんですよ。そしたら三谷さんが「誰にも言わないでくださいよ」って言って、小池栄子さんだって教えてくれました(笑)。

――信頼がすごいですね!

松村 三谷さんに「どう思いますか?」って聞かれたんで、「いやあ、いいですね!」って。なぜかというと、小池栄子さんは2005年の大河ドラマ『義経』で、強い女性である巴御前(ともえごぜん)役をやっているので政子もできるなと。だから、今回、巴御前役を演じる秋元才加(さやか)さんが政子を演じる時代が来るかもしれません。

――そもそも源氏と北条家はどんな関係だったんですか?

松村 源頼朝が峰竜太さんだとしましょうか。峰さんは長野県から俳優を目指して上京したんですが、若い頃は苦労されてたんですよ。それが『おはよう!こどもショー』(日本テレビ)で海老名美どりさんと知り合って結婚することに。それによって、北条家ならぬ海老名家(林家三平一家)のバックアップを受けて、その後は『西部警察』(テレビ朝日)や『アッコにおまかせ!』(TBS)のレギュラーが入るようになったんです。

――(笑)。

松村 頼朝も峰さんと同じで、北条家という後ろ盾があると強いんです。

――『鎌倉殿の13人』は放送が始まったばかりですが、ご覧になってどうでしたか?

松村 初回は姫を馬に乗せて走るシーンから始まりましたが、八重姫(新垣結衣)が義時の初恋の相手だというシナリオは発表されていたので、てっきり八重姫かなと思って見ていたんです。そしたら、頼朝役を演じる大泉洋さんが姫に扮(ふん)していたからびっくりしました。大泉さんが頬紅と口紅を塗っていたのは賛否両論あったと思いますけど。

――昨年末の『第72回紅白歌合戦』(NHK)で、審査員の三谷さんが司会の大泉さんに対して、「第1話の最後のセリフがちょっと僕のイメージとは違う」とダメ出しをしていました。放送されて明らかになりましたが、姫に扮した大泉さんが女性のような裏声で「はい」と言うシーンでしたよね。

松村 あれは『鎌倉殿ではどうでしょう』ですね。

――大泉さんは『水曜どうでしょう』(HTB)のノリが出てしまったんですかね(笑)。

松村 あの番組はよくバイクで移動するじゃないですか。だから馬のシーンとかけてるのでは。

――かかってないでしょ(笑)。あと気になったシーンといえば、平清盛(松平健)が敵将の息子である頼朝を生かした場面。なぜ生かしたんですか? ものまねを交えて教えていただいてもいいでしょうか?

松村 清盛がビートたけしさん風に「頼朝バカヤロー。13歳で戦に出たんだから死んでもらうよ」って。そしたら頼朝が出川哲朗さん風に「いやいやいや、清盛様、僕、なんでもやりますから許してください」って。

それで清盛も「頼朝コノヤロー! 平家を滅ぼそうなんて考えたら殺しちゃうぞ」って言ってるところに、清盛の継母である池禅尼が森光子さん風に「ねぇ、許してあげて。あなたはもう天下人なんだから」って。それで清盛も「かあちゃんがそこまで言うなら仕方ないか。頼朝、かあちゃんに感謝しろよな。バカヤロー」。だから頼朝も「わかりました。これからは厳島神社で充電バイクの旅をやろうと思います」って。

――いや、もうそれは頼朝じゃなく出川さんですよ(笑)。

松村 でも生きていたらなんとかなるんです。僕もマラソンで心肺停止になって死にかけても、今のところ生きているということは生かされているんです。生きていれば次がある。やっぱり大事なのは生きるってことですよ。

――ドラマの最初の山場はどこになると思いますか?

松村 頼朝が旗揚げした石橋山の戦いじゃないですか。この戦は平家の本社じゃなく支社の店長と頼朝が戦うんですが、その店長に頼朝はやられるんです。『スクール・ウォーズ』(TBS)でいうと、川浜高が相模一高に109対0で負けた感じ。

――初戦はぼろ負けだったと。

松村 そこで頼朝が山下真司さん風に「平家の支店長に負けて、おまえら悔しくないのか!」って。それで義時も「悔しいです!平家に勝ちたいです!」ってなって。その敗北から頼朝が勝つようになり、その後、義経と出会うところも見どころです。

――義経は菅田将暉(すだ・まさき)さんが演じますが、どんなキャラですか?

松村 義経はいわば、鎌倉幕府という事務所のタレントです。朝廷はテレビ局で、後白河法皇(西田敏行)はプロデューサー。事務所を通さずに仕事をもらったら、「すいませんが、『官位を義経にあげます』と幕府のほうにも連絡してもらえますか? 僕が勝手にもらうとまずいので」って言わないとダメなんです。勝手に朝廷とやりとりしたら幕府の力がなくなっちゃいますから。つまり、闇営業なんですよ。そうなると『義経トーーク!』はなかなかやれなくなる。

――義経は宮迫さんですか(笑)。

松村 そこに後白河法皇を演じる西田さんが『ドクターX』(テレビ朝日)のときみたいに「平家がまだ強いかな? でも源氏も強いよね? どっちにつこうかな?」って揺れ動くところが注目ですね。

●松村邦洋(まつむら・くにひろ)
1967年8月11日生まれ、山口県出身。お笑いタレント。大学生の頃、バイト先のテレビ局で片岡鶴太郎に認められ芸能界入りし、斬新な声帯模写で一躍有名に。ビートたけし、半沢直樹、ひとりアウトレイジ、掛布雅之、野村克也監督など多彩なレパートリーを誇り、バラエティ、ドラマ、ラジオなどで活躍中。プロ野球好きで、大の阪神ファン。芸能界きっての歴史通で知られ、YouTubeで日本史全般を扱う『松村邦洋のタメにならないチャンネル』を開設。特にNHKの歴代「大河ドラマ」とそれにまつわる知識が豊富。著書に『武将のボヤキ:松村邦洋のお笑い裏日本史』『愛しの虎:松村邦洋の阪神タイガース応援日記』『ボクの神様―心に残るトラ戦士:阪神タイガース画集』がある

■『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』
プレジデント社 1540円(税込)
『鎌倉殿の13人』の舞台である鎌倉時代を、芸能界随一の歴史通である松村邦洋さんがさまざまなたとえを駆使して、わかりやすく解説。源頼朝亡き後の鎌倉幕府は悪人が主役で、映画『アウトレイジ』以上に恐ろしく、人間関係がドロドロしていた! そこで繰り広げられる血で血を洗うサバイバルトーナメントの様子を、松村さんが語り尽くした一冊。本書を読めば、『鎌倉殿の13人』が何倍も味わい深くなること間違いなし!

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