2021年よりバンド編成での活動を終了し、堀込高樹のソロ・プロジェクトへと新たなスタートをきったKIRINJI。新体制後初のアルバム『crepuscular』(クリパスキュラー)が昨年12月に発売された。

このアルバムは、マイカ ルブテなどの若手ミュージシャンを迎え、制作。洗練されたメロディーとサウンドの妙がより円熟し、シニカルながらロマンティックな歌詞はよりシャープに。KIRINJIの新たな第一歩となる一枚だ。今回は堀込にインタビューを試み、コロナ禍の影響やKIRINJIとしての現在地について語ってもらった。

――今回はKIRINJIがバンド体制から、堀込さんのソロ・プロジェクトとなり初のアルバム。制作面で何か変化はありました?

堀込 もともとデモテープを作り、それを演奏に差し替えていくスタイルで制作していたので、演奏者が変わっただけで作り方はこれまでと特に変わりません。ただ新しい人たちと演る以上、新しい何かを反映させようとは思いました。自分が想定していた以上の音色やリズムなどが生まれてきて、そこは面白かったです。

――ガラリと変えたというよりは、アップデートだったと。今回もKIRINJIらしい、都会的で洗練されたポップスが詰まっています。アルバムのコンセプトは?

堀込 先にリリースしていた「再会」と「爆ぜる心臓」がともに極端な曲なので(注:「再会」はダンスミュージック要素溢れる軽快なポップス。「爆ぜる心臓」はラップをフィーチャーした、ハードロック調のナンバー)、アルバムは共通点を見出して作らなきゃなって。その2曲は低音がしっかりしている一方、リバーブがきいてサイケな感じがある。「下どっしり、上ふわふわ」みたいな(笑)。なのでそれを全編にまぶしていこうと思いました。

――音響的なイメージが先にあったんですね。でもなぜサイケに?

堀込 普通のポップスに聴こえないよう工夫する中でそうなったわけだけど、ではなぜそうしたのかというと......わからないです(笑)。でもサイケって非現実的なムードがある。それがいまのコロナ禍の生活に通じているというか。例えば外に出るとみんなマスクしているじゃないですか。そういう光景が心の中でどこかで現実とは思えない。そんな気持ちのありようが表れたのかもしれないですね。

――歌詞も非現実的な生活、コロナ禍での日常を感じさせるものが目につきます。「ただの風邪」という曲ではタイトル通り、(コロナではなく)風邪だったことに安堵する心情をつぶさに描き、「再会」ではコロナ後の日常に思いを馳せる様子を綴っています。

堀込 やっぱり毎日、ニュースを聞くからコロナに関してはどうしても気になっちゃうんですよね。で、そんな時にアルバムを作るのだったら、いま感じていることを歌に残しておいてもいいかなって。

――堀込さん自身はコロナ禍で生活は変わりましたか?

堀込 一昨年、ツアーが延期になったけど、コロナに患うことはなかったし、仕事もあったので、周りに比べると変わらない方だったと思います。それでも会食なんかもそうだけど、すべて抑制されるわけで。そんな生活の中、どうしてもウキウキするような気持ちにはなれなかったです。今回のアルバムでも、アッパーな曲がほとんど生まれなかったのはやはりコロナ禍での生活の影響ですね。

――本作の中で、自分自身で特に気に入っている曲は?

堀込 全部ですが、強いていえば「薄明」かな。マイカさん(シンガーソングライターのマイカ ルブテ)に参加してもらいましたが彼女の柔らかな声がふわっとした楽曲との相性が良くて。もともと彼女のことは、クルマのラジオで聴いて気になり、半ばヤマカンでお願いしたのですが、見事にハマりましたね。

――歌詞も「鈍色の空」「霧の中のイルミネーション」など、どこかコロナ禍のどんよりしたイメージを喚起させる言葉が羅列されていますね。

堀込 もともとは薄明かりみたいなものを表現したかったんです。雲や霧などの合間から光がかすかに見えて、塞いでいた気持ちが少しだけ晴れた、みたいな。それが結果としてコロナにも通じちゃいましたね。

――アルバムタイトルの「crepuscular」(クリパスキュラー)って言葉も「薄明かり」って意味ですよね。

堀込 そう。最初は曲と一緒の「薄明」にしようと思ったのですが、「薄」って単語が縁起悪そうに思えちゃって(笑)。それでいろいろ調べているうちに辿り着きました。仄の暗い状態だけを言うのではなく、明け方とか夕暮れに活動するって意味合いもある。今回アルバムではぼんやりした中、ただ立ちすくんでいるのではなく、アクティブであることもイメージしたので合っている気がして付けました。

――なるほど。ところで昨今のシティポップブームもあってか、最近はKIRINJIの名前をお見かけする機会が増え、若いコが聴いているなんて話も聞きます。

堀込 ありがたいですね。先日のライブでも制服姿の高校生がいたらしいですし。あと若い人が好きなミュージシャンがKIRINJIのファンでいてくれたりとか。

――デビューして約25年。同時期にデビューして、現役バリバリにやってるミュージシャンやバンドも少なくなりました。ここまでやってこれた秘訣は?

堀込 やっぱり新曲を頑張って作り続けることですよね。長年やってると目の前にいるお客さんを大事にするあまり、どうしても同じ曲ばかりやることになっちゃうんです。

――ライブなどで常にヒット曲を演るみたいな。

堀込 そう。あと新作が出たなと思ったら、セルフカバー集とか新曲1~2曲を加えたベスト盤とか。もちろん昔からのファンに喜んでもらえるのはうれしいけど、それだけだといやだなと思って。僕の好きなミュージシャンは常に新しいことをやっていますからね。YMOのお三方とか山下達郎さんとか。それにKIRINJIって、グループの形が大きく変化したじゃないですか。

――最初は兄弟ユニットとしてスタートして、途中、弟・泰行さんが脱退されました。

堀込 彼はメインボーカルであり、曲の半分を書いていたメンバーだったわけで、過去の曲に頼ることができなくなっちゃった。それで新作を頑張るしかなかった。もし兄弟としてのキリンジが続いていたら、いまも昔の曲ばかりをやっていたかもしれないです。

――年齢を重ねながら常に新しいものを生み出していくってすごいバイタリティです。それにしても最近のアーティスト写真を見て思いますけど堀込さん、どんどんカッコよくなっていません? オトナ雑誌のモデルみたいです。

堀込 いや、そんなことはないですよ! 恥ずかしいな(照笑)。なんかすみません。

――いや、謝らなくても(笑)。そのバイタリティの秘訣は?

堀込 「昨日わからなかったことが、明日はわかる」って状態を保ち続けることじゃないですかね。例えば音楽の聴き方とかでも常に新しいものばかりを聴くんです。

――新しいものを? 年齢を重ねると頭が硬くなるのもあって、新しいものって素直に楽しめなくないですか。

堀込 もちろん僕も、最初はどこが面白いのかなって思うことはありますよ。でも聴き続けるんです。そうするとある日、突然面白さがわかるようになる。それが大事というか。考えてみたら、音楽を聴き出した頃はそうでしたよね。ロックでもなんでも最初はなんだかよくわからないけど聴いてるうちに段々わかるようになって。

――カセットが擦り切れるまで聴く、みたいな。

堀込 そうそう。そういうことでいえば楽器もそうだし、歌もそう。10年前は自分がいまほどたくさん歌うなんて思っていませんでしたから。とにかくどんなことでも少しできるようになると他にもこういうことができる、ああいうこともできるってわかってくる。それが楽しくて、次につながっていくんですよね。

――最後にKIRINJIはどこを目指していくんでしょう。

堀込 わかりません(笑)。でも駄作と言われてもいいから恐れず新曲を出し続けていきたいなって。何度も形態を変え試行錯誤しながらも音楽を続けていく中、ごまかし、ごかましでも長くやっていけば、それはそれで価値があるんじゃないか。そんなふうに思えてくるんですよね。

■KIRINJI
1996年10月に堀込高樹と堀込泰行の兄弟で「キリンジ」を結成し、98年にメジャーデビュー。2013年、堀込泰行が脱退し、その後は新メンバー5人を迎えたバンド編成の「KIRINJI」として活動。2020年12月にバンド編成での活動に終え、2021年からは堀込高樹のソロ・プロジェクトとして新たなスタートを切った。
○最新アルバム『crepuscular』が絶賛発売中! 2022年3月5日(土)・6日(日)にブルーノート東京で、2022年3月9日(水)にビルボードライブ大阪でライブを予定。詳細は公式サイトをチェック。
公式Instagram【@kirinji_official】