『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
2月25日(金)公開の映画『Ribbon』で脚本・監督・主演を務める、のんさん。幼少期に見た作品や影響を受けた作品を語ります!
■ジブリやディズニーが怖かった幼少期
――子供の頃に見た映画で一番覚えているものは?
のん ミッキーとプーさんのVHSビデオが家にあって、小さい頃はそれをずーっと流していた記憶があります。休みの日とか、それで暇を潰(つぶ)さないといけなくて。面白いけど、ちょっと怖い話だったんです。『ジャックと豆の木』の話とか。あと、プーさんは西部劇が舞台で、汽車が止まらなくなっちゃうみたいな話でした。
――「かわいい」じゃなくて「怖い」だったんですね。では映画館で見た作品は?
のん 『もののけ姫』(1997年)や『千と千尋の神隠し』(2001年)が印象に残っています。小学2年生の頃に映画館で『もののけ姫』を見たので、恐ろしくて、トラウマになったんです。テレビで『となりのトトロ』(1988年)とかやっていても、本当に怖くてしょうがなくて......。「わ、今日やってる」みたいな感じでした(笑)。
だから、大人になってから見てみて、「こんなに面白かったんだ!」って衝撃を受けました。怖いのばっかり映画館で見た記憶だったので。
――ちなみにジブリで一番好きな作品は?
のん 一番好きなのは『魔女の宅急便』(1989年)かな。『崖の上のポニョ』(2008年)も好きですね。
――では、青春時代に見て好きだった作品は?
のん 岩井俊二監督の『花とアリス』(2004年)がすごく好きでした。あとは、実在のピアニストを描いた『シャイン』(1997年)もすごくツボって何度も見ていました。それと『スナッチ』(2001年)。DVDで見たんですけど、すごく影響を受けていますね。
――『スナッチ』いいですよね。僕も大好きな映画です。ほかにはありますか?
のん 大林宣彦(のぶひこ)監督の尾道(おのみち)三部作も大好きです。
――初の劇場長編監督作品『Ribbon』にもその雰囲気を感じました。
のん うれしいです。やっぱり出ちゃうんですね。若者のちょっと愚かなところとか。
――怒ってるときの言い争いとか(笑)。ちなみに、のんさんはMovingMovieに出会ったとき、作ってみたいと感じました? それとも、出てみたいと感じました?
のん 作るようになってからは「こういうのがあったら面白いな」って目線でも見るし、「こういう役やりたいな」という目線でも見ます。
――両方なんですね! 『Ribbon』では脚本・監督・主演。難しくないですか?
のん 難しいですね。
――拝見しながら、「すごい、北野武監督かよ!」ってツッコんじゃってました(笑)。
のん 本当にどうやってやってるんですかね?
――僕がのんさんに聞きたいです(笑)。感情の入ったシーンを演じた後、監督として冷静に分析できるものですか?
のん モニターで自分の演技をチェックしてジャッジするのは全然できて、どちらかというと、監督から演技のほうに切り替えるのが難しかったです。監督をやってると、ずっとアドレナリンが出てるんです。でも、演じるときにアドレナリンが出るシーンなんてそんなになくて。脳みその使ってる場所が全然違うんです。
――自分の演技に満足できなかったときはどうしてましたか?
のん そのときは正直に言ってました。「ちょっと私がへただったのでもう一回やります」って。
――正直に言うんですね。
のん 同じように主演映画をご自分で撮られたことがある桃井かおりさんとお話しさせていただいたとき、「撮りたいものが見えている、自分と同じ考えを共有している役者が現場にもうひとりいるといいよ」っておっしゃっていたのがすごく印象に残っていたんです。
「そういう発想なんだ」ってそのときは思ったんですけど、でも、現場でいざ演技すると、「やりたいことは決まってるけど、感覚が全然違う」って思いました。
■コロナ禍をリアルに描いた初監督作品
――話を戻して、大人になってから見て面白かった作品は?
のん 『アイアンマン』(2008年)が好きです。いやなやつなんだけど、痛みを持っていて、子供みたいに甘えたりするキャラが大好きなんです。
――なるほど。それ、のんさんが演じた『Ribbon』の主人公・いつかに重なる気がします。
のん いつかはそこまで才能がある設定ではなかったんですけど、でも、自分が主演でやるんだったら、「ヒーロー感を出したい」という欲望はすごくあったんです。だから、「いつかは平井(親友役)のヒーローにしよう」って思っていました。
――『Ribbon』を見て、「これまでのどの作品よりも、コロナを描いている」と感じました。個人的な映画かと思いきや、社会性があって、すごいなって。
のん ありがとうございます! ホメられた(笑)。
――のんさんがコロナ禍に感じたことが反映されているんですか?
のん そうですね。『Ribbon』は映像のイメージが先にあって、そこから脚本を書きました。コロナ禍に撮影しようと思っていたので、コロナ禍の話にしたいなって気持ちが自然とあったんです。コロナになって、日常のルールも変わった。それに対する主人公の感覚はリアルに描きたい......そう思っていました。
――映画が出来上がってどうですか? うまく表現できましたか?
のん そうですね。自分としてはすごくベストな形でつくれたと思っています。見てくださった方とお話ししてるときに「リアルだ」って思ってくれる場所が違うというか、それぞれに共感してくれる場所があったのはうれしかったですね。そのあたりはうまくいってる気がするので、たくさんの人に見てほしいですね。
――具体的には、どんな人に見てほしいですか?
のん コロナ禍で、悔しさやモヤモヤを感じた人に見てもらいたいです。今でこそルールも変わってきて、ちょっと柔らかくなっているけど、第1波のときは全部が遮断された感じでしたよね。
なんとかやり過ごせた方もたくさんいると思うけど、そのときに我慢したものがいまだにずっと解消されてない、報われてない人もいると思います。そういう感情を全部叫んでくれる作品になったと思ってるので、ぜひ見て、モヤモヤを晴らしてもらえたらと思います。
●のん(NON)
1993年生まれ、兵庫県出身。2016年、劇場アニメ『この世界の片隅に』で第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞」受賞。2020年、映画『星屑の町』『8日で死んだ怪獣の12日の物語』出演。2017年に自ら代表を務める新レーベル「KAIWA(RE)CORD」発足。創作あーちすととして、2018年に自身初の展覧会「"のん"ひとり展-女の子は牙をむく-」開催
■映画『Ribbon』2月25日(金)よりテアトル新宿ほかロードショー
衣装協力/ジャンプスーツ、シューズ(THROW by SLY) ニット(SLY) イヤリング、シルバーイヤーカフ、リング(ブランイリス)