東京都美術館で2月10日より開幕した「ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展」の展覧会ナビゲーターに就任した女優・小芝風花。これまでもテレビ番組のナレーションや劇での朗読を行ってきた彼女だが、展覧会の音声ガイドを担当するのは、今回が初だという。

本インタビューでは、音声ガイド収録を終えた彼女を直撃し、初収録の感想や本展の見どころを語ってもらった。さらに、デビュー11年目に突入する今年の目標についても聞いてみた。

■美術館初心者の方にも足を運んでほしい

――今回、展覧会ナビゲーターと音声ガイドを担当すると決定したときの心境はいかがでしたか?

小芝 とてもうれしかったです。でも、実は今まで絵画と無縁の人生を送ってきまして......。学生時代に美術の授業で教科書を見るくらいで、一度も美術館に行ったことがなかったんですよね(笑)。

だから、このお話をいただいたのをきっかけに、初めて美術館に行ってきました。当然ながら、展覧会の音声ガイドを聞いたのも初めてで。声でのナビゲーションとはいえ、今までやらせてもらったナレーションや朗読とは、全くの別物だと感じましたね。

――具体的にどんなところが?

小芝 例えばテレビの場合だと、画面から流れる映像に合わせてナレーションの声が聞こえてくるじゃないですか。でも美術館は、ひとりひとり違うスピードで、ひとつずつ絵を見ていく場所。同じ絵を見ても、捉え方は人それぞれです。となると音声ガイドは、展示の魅力を伝えつつも、お客さんの集中力を邪魔しないよう、声のトーンをうまく調整しないといけないなって。

声に感情を乗せてしまうと、作品を見たときの印象が、私の感情に引っ張られてしまうし、かと言って機械的になりすぎても、美術館の空気感と合わなくなってしまう。その塩梅が難しかったですね。どの絵に対しても、なるべく同じテンション感で話すことを心がけましたが、実際にみなさんが聴いた時にどのように感じていただけるのか、今から緊張しています。

――収録を終えられた今、手応えのほどは?

小芝 うーん。OKはもらえたので、うまくできたと信じています(笑)。美術館には、番組の収録で行かせていただくほかに、プライベートで母と一緒に行く約束もしています。収録では、本展の紹介をしつつ、じっくり美術館の雰囲気や作品を堪能して、母と行くときは、音声ガイドをつけて、自分の声をその場で聴いてみるつもりです。もしかしたら、普通に絵画を見ている母の横で、ひとり反省会をしちゃっているかも......(笑)。

――それはドキドキですね(笑)。ところで、今まであまり絵画に馴染みがなかったとのことですが、これらの活動を通して、小芝さんなりに絵画の魅力は感じられましたか?

小芝 意外と、難しく考えなくてもいいんだなって思いました。例えば、本展の見どころであるフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》という作品は、「どんな内容の手紙を受け取ったんだろう」とか「どんな感情で読んでいるんだろう」とか、一枚の絵からいろんな想像ができますよね。どこに着目するかは、見る人の自由。この作品はココに注目すべきだって予備知識を持っていなくても、「この絵、何となく好きだなぁ」「きれいだなぁ」と感覚的に楽しんでいい、ということが、新しい発見でした。

この前、初めて美術館に行ったときも、まだ画家の名前も何も詳しくないにもかかわらず、その展覧会のなかでいちばんお気に入りだった絵画のポストカードを買ったんですよ。こうして、思い出と一緒に好きな絵画が手元に残るって、何かよくないですか? これから、ちょっとずつ集めてみようかなって思っているんです。そういう楽しみ方ができるのも、絵画の魅力なんじゃないかなぁ。

――ナビゲーターの仕事を機に、趣味が広がりましたね。

小芝 さらに言うと、私が初めて行った美術館は東京駅が最寄りで。私、東京に10年住んでいて、プライベートで東京駅に行ったことがなかったんですよ。お仕事で行っても、その場でロケをして終わりだったから、散策をしたことがなかったんです。10年住んで初めて、東京駅にはいろんなお店があるんだってことを知りました(笑)。

そうやって、今まで行くことのなかった街の景色に触れられるのも、美術館巡りの醍醐味ですよね。それが何でもない風景だったとしても、画家の方たちが残した絵も、当時の何気ない街並みだったりするわけですし。

――そう言われると、知識があろうとなかろうと関係ないというか。絵画の楽しみ方は無限大ですね。

小芝 間違いないですね。それに本展は、美術館初心者の方にも見てもらいたい一大プロジェクトがあるんですよ。先ほども話にあがったフェルメールの《窓辺で手紙を読む女》。本展のポスターを見てみてください。後ろの壁面にキューピッドの絵があるじゃないですか。実はこの部分、つい最近まで塗りつぶされた状態で、キューピッドの絵なんて見えなかったそうなんです。

ずっとフェルメール本人が意図的に塗りつぶしたとされていたのが、最近の調査で、フェルメールが亡くなったあとに別の誰かの手が加わって、キューピッドの絵が消されてしまったと判明したんですって。そこから膨大な時間をかけて、塗られてあったニスと絵具を手作業で剥がして修復されたものが、本展に展示されるんですよ。これ、スゴいことだと思いません?

――す、スゴいです。歴史的な展覧会でもあるんですね。

小芝 そしてなんと、所蔵館のドレスデン国立古典絵画館以外で修復後の《窓辺で手紙を読む女》が展示されるのは、今回が世界初。キューピッドの絵があるのとないのとでは、絵の印象がまるで違いますし、何より塗り重ねられたニスを剥がしたために、色味も変わって、より鮮やかになったそうです。それを聞いて、私も早く生で見てみたくなりました。

――確かに、興味をそそられますね!

小芝 ね! 絵画に興味のない方も、足を運んでみたくなったんじゃないですか? 知識がなくて不安だって方でも大丈夫。そういう方にこそ、音声ガイドをつけて作品を楽しんでもらえたらと思います。私と同じような美術初心者の方も、この機会にぜひ、美術館デビューしてみてください!


■デビュー11年目に目指すは、コワイ役?

――少し話を変えて、最近の活動についても聞かせてください。昨年は、デビュー10周年の節目の年でしたね。

小芝 役柄的にも、作品ジャンル的にも、初めての挑戦が多い一年でした。主演を務めさせていただいたドラマ『モコミ~彼女ちょっとヘンだけど~』(テレビ朝日)では、内気で繊細な女の子を演じさせてもらったのですが、脚本の橋部敦子さんが向田邦子賞を受賞されて。また、私自身、初のラブストーリーとなったドラマ『彼女はキレイだった』(関西テレビ・フジ系)では、「ザ・テレビジョンドラマアカデミー賞」の主演女優賞をいただくことができました。

こうして、初めての挑戦があらゆる賞として形に残ったことも含めて、昨年は、見てくださる方に楽しんでもらえる作品をたくさんお届けできた年になったんじゃないかなぁと思っています。とても、充実していましたね。

――やはり、この10年間で演技に対する意識も変化しましたか?

小芝 そうですね。デビュー当初は、家で読んだ台本をそのまま現場に持って行っていたんですけど、共演させてもらった先輩方から、お芝居はキャッチボールだと教わって。現場では、自分のセリフを上手に喋ること以上に、相手のセリフや表情を受け取るお芝居が重要なんですよね。それってつまり、現場に入って、みなさんとコミュニケーションを重ねて、ようやく役ができていくってことでもあって。毎回、役を掴み切れていない状態で現場入りするので、初日は毎回不安ですが、今ではすごく大事な意識だと痛感しています。

――役を演じるとは、その意識があってこそだと。

小芝 やっぱり、実際に共演者の方とキャッチボールをしないと気づけない感情もあるんですよ。例えば、"怒り"の感情のなかにある"恐怖心"とか。そういう、現場で生まれる役としての感情に気づけたときは、役者としてのやりがいを感じられる瞬間ですね。逆に、気づけないときは焦ります。それは、相手の方とうまくキャッチボールができていない、私のお芝居で相手の方の心を動かせていないってことでもあると思うから。お芝居は、ひとりだけじゃ成立しない。今後も、見てくださる方の心に残る作品を作っていくために、この感覚は常に意識し続けていたいですね。

――最後の質問です。デビュー11年目となる今年、新たに挑戦してみたい役はありますか?

小芝 コワイ役、かなぁ(笑)。これまでは、明るくて表情豊かな役が多かったので、「こんな人近くにいたら嫌だな~」って思うような陰湿な役に挑戦してみたいです。サイコパスな役とか! あとは、ふとしたときに「あのシーンよかったな」とみなさんに思い出してもらえるようなお芝居を残していきたいですね。そして「小芝風花が出るなら、絶対面白い」って言われたい。そんな女優さんを目指して、11年目も頑張ります。

●小芝風花(こしば・ふうか)
1997年4月16日生まれ 大阪府出身 身長158cm
特技=フィギュアスケート 趣味=ギター
〇2011年11月に開催された『ガールズオーディション2011』でグランプリを獲得し芸能界デビュー。その後は、女優として、映画・ドラマ・CMなど数々の作品に出演。3月16日(水)放送のドラマ『この花咲くや』(NHK BSプレミアム 22時00分~)では、主演を務める。4月には土曜ナイトドラマ『妖怪シェアハウス-帰ってきたん怪-』(テレビ朝日)が放送予定。 公式Instagram【@fuka_koshiba_official】

■ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展
会場:東京都美術館 企画展示室
会期:2022年2月10日(木)~4月3日(日) ※日時指定予約制
休室日:月曜日、3月22日(火)
※ただし2月14日(月)、3月21日(月・祝)は開室
開室時間:9:30~17:30 (入室は閉室の30分前まで)
金曜日の夜間開室は展覧会公式サイトでご確認ください
その他、詳細は展覧会公式サイトにてご確認ください。