「『犬が食いそうな肉』いうコメントを使うのはディレクターとして悩んだけど、江頭さんと心中するつもりで動画をアップするボタンを押しました(笑)」と語る藤野義明氏 「『犬が食いそうな肉』いうコメントを使うのはディレクターとして悩んだけど、江頭さんと心中するつもりで動画をアップするボタンを押しました(笑)」と語る藤野義明氏

江頭2:50さんのYouTubeチャンネル『エガちゃんねる』の開設2周年を記念して発売された『エガちゃんねる革命』。江頭さんと20年来の付き合いで、『エガちゃんねる』のディレクターでもある藤野義明さんが書き下ろした一冊だ。

登録者数281万人超えのお化けチャンネルになるまでの苦労、制作の裏話を聞いた。

* * *

――まずはチャンネル立ち上げのきっかけをお聞きしたいです。

藤野 『「ぷっ」すま』(テレビ朝日)で江頭さんと一緒に仕事をしていたんですが、2018年3月に番組が終わったんですよ。その時期に『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)や『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ)など、江頭さんがよく出ていたテレビ番組が立て続けに終わっちゃって。

江頭さんのスケジュールが落ち着いたので、何か番組を作れないかと思って、テレビ局や配信サービスなど、いろんな媒体に企画書を持っていったんです。でも全部断られて。そこで、「YouTubeだったら誰の許可もいらないし、自分で始められる」と思ったんです。

――スタッフの数も多そうなので、制作費はけっこうかかっているんじゃないですか?

藤野 手伝ってくれているスタッフに「最初はお金にならないかもしれないけど、1年後には支払えるようにするからやってくれないか」と話したら、みんなOKしてくれて。最初はみんなノーギャラのつもりでやってくれていました。

――いざフタを開けたら、ものすごいスタートダッシュでしたね。

藤野 初回配信した夜、チャンネル開設祝いで江頭さんとご飯に行ったんですよ。そのときに登録者数を確認したら、「え! 50万人!?」みたいな(笑)。

――当初は審査に引っかかることが多く、動画の3割ぐらいは広告がつかなかったそうですね。

藤野 今ではなんとなく傾向がつかめてきたので1割ぐらいになりましたが、初期は3割ぐらいダメでしたね。例えば、江頭さんの精子が正常かどうかを検査キットで調べる動画を撮ったんですよ。「これは広告がつくかどうか半々かな」と思っていたけど、ダメでしたね。

――厳しいですね。江頭さんはまじめに取り組んでいたのに、なんでダメだったんですか?

藤野 メールで理由を聞いても、「広告をつけるのに該当しない部分があったので」と具体的な答えが返ってこないんですよ。該当しない部分はどこかを聞いても、「お答えできません」みたいな。だから、どこが引っかかったのか、どのレベルがアウトなのかもわからず、探り探りやっています。

――こっちは改善したいのにノーヒントって、グーグルさんもなかなかの鬼教官ですね(笑)。

藤野 自分で考えなさいシステムなんです(笑)。

――広告費は収益面で大切なのにつらいですね。

藤野 でも企業の商品を動画で扱うことで制作費を出してくれるときがあるんです。こういうときに「広告がつかないだろうな」というネタをやっています。

――企業側からクレームは?

藤野 エガちゃんねるに「商品を扱ってください」と言ってくれる会社って、けっこう頭のおかしいところが多いんです(笑)。

――エガちゃんねるでは視聴者を"あたおか"という愛称で呼んでいますが、企業もそうなんですね(笑)。

藤野 ハードめの企画でも、「めちゃくちゃ面白いですね。やっちゃいましょう!」って(笑)。

――最高の"あたおか"企業じゃないですか(笑)。企業も江頭さんのキャラクターを理解してくれているんですね。

藤野 一方で、動画の伸びに関しては「意外だな」と思うこともあるんですよ。僕はエガちゃんねるは江頭さんのキャラを前面に出したチャンネルだと思っているんですけど、下ネタとか下品な企画をやると再生数が全然伸びないんです。

――え!? なぜですかね。江頭さんの真骨頂じゃないですか。

藤野 そういう動画を投稿すると、チャンネル登録者数も減るんですよ。ほかにも体を張る系の企画をやると「危ないからやめてください」とか「エガちゃんは年なんだから、そんなことをやらせないで」というコメントが来るんです。でも、そういうネタがあってのエガちゃんねるなので、懲りずにやり続けていきたいですね。

――心配してくれるなんて、全然、"あたおか"じゃない(笑)。ちなみに、藤野さんが「これは"あたおか"だな......」と思った企画はありますか?

藤野 「江頭55歳 初めてのマクドナルド」(再生数504万回)ですね。

――衝撃の食リポでしたよ。「レタスの感じが死んでる」とか「肉がベタっとしてて、なんのおいしさもないね」とか。めちゃくちゃ笑いました(笑)。

藤野 「犬が食いそうな肉」って言っちゃって(笑)。

――あのコメントを使うのは勇気がいると思いますが、なぜカットしなかったんですか?

藤野 僕もディレクターとして悩んだんですけど、「もうテレビの仕事がなくなってもいいや」って......。江頭さんと心中するつもりで動画をアップするボタンを押しました(笑)。

――確かにコメントを使ったディレクターさんにも責任はありますもんね。

藤野 「犬が食いそうな肉」ってテロップも入れてますしね(笑)。

――藤野さん、完全に共犯者ですよ(笑)。

藤野 でも、結果的に大丈夫だったんですよ。やっぱり世界のマックさんです。あれをスルーしてくれましたから。器が違います。

――今後やってみたいことは?

藤野 江頭さんとゆかりのある芸人さんやミュージシャンを呼んで、笑いと音楽が楽しめるようなフェスができたらいいなと。江頭さんが言っていたのは「夢物語だけど、(ビート)たけしさんが『浅草キッド』を歌ってくれたらな......。でもたぶん、松村(邦洋)くんになるんだろな」って(笑)。

――それはそれで盛り上がるでしょうが(笑)。そういえば、江頭さんはツイッターで宮迫博之さんの焼き肉店「牛宮城」に対して、「食いに行ってやるから、席あけとけ!」とツイートしていましたよね。

藤野 エガちゃんねるとして行こうと思っています。ただ、焼き肉を食べた後の江頭さんのコメントによっては、マックのときのような惨劇が起きるんじゃないかと心配です(笑)。

●藤野義明(ふじの・よしあき)
1978年生まれ、神奈川県出身。『エガちゃんねる』を仕掛けた、総合演出・ディレクター、プロデューサー。明治大学卒業後、テレビ番組制作会社「ケイマックス」に所属。2011年に制作会社「ばんぺいゆ」を設立し代表を務める。テレビマンとして『内村プロデュース』『「ぷっ」すま』『さまぁ~ず×さまぁ~ず』『グータンヌーボ』など、多くの人気番組を手がける。ネット配信では『トゥルルさまぁ~ず』『がんばれ!エガちゃんピン』なども制作。『エガちゃんねる』では天の声として番組を進行し、時にはブリーフ団Dとして自ら出演することもある

■『エガちゃんねる革命』
宝島社 1650円(税込)
「一緒に伝説をつくっていこうぜ」という江頭2:50の言葉と共に2020年2月1日にスタートしたYouTubeチャンネル『エガちゃんねる』。しかし、実際には、その2年前から綿密な下準備が行なわれていた―――。テレビ畑で育ち、YouTube未経験の藤野義明ディレクターは事前に実験チャンネルを立ち上げて研究。『エガちゃんねる』開設後も、広告規制問題や放送コードの見極めなど、江頭2:50と共に闘ってきた激動の約4年間が記された一冊だ

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