キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス6巻を熱く語る

この6巻でアメリカ遠征編がいよいよ決着。前巻から続く団体間抗争がさらに泥沼化し、昔の仲間も続々と再登場。

まるで最終回のような盛り上がりを見せていきます!

『キン肉マン』第6巻

●リーグ戦でバトルを描く難しさとは?

ロビンマスクが謀殺される衝撃のラストを迎えた5巻でしたが、その余波で荒野でのシリアスな大乱闘から始まるという異色の開幕。それを収めるべく始まるのがこの巻のメインとなる闘い、タッグリーグ戦なのですが、まず注目したいのがここ。バトルマンガでリーグ戦って、ほかではあまり見なくないですか?

同じバトル展開でも、例えば勝った者がどんどん残って、次はどっちが強いのかっていうのは、みんな興味を持ちやすいと思うんです。だから、トーナメント方式が多くなってくると思うんですけど、リーグ戦となるとすでに負けてしまった者の新たな闘いも、さらに数回描いていかないといけない。これが難しい。中だるみせず、最後まで見せていくには相当な構成力が必要になってきます。ゆでたまご先生ご自身は後のインタビューで、この時期は読者人気が落ちて厳しかったとよくおっしゃられていますが、少なくとも僕は、最後まで非常に緊張感を持って楽しく読ませていただいたので、こんな難しいことに挑戦されてよく最後まで描き切られたものだなぁと感心せずにはいられません。

そして、それに見合う構成へと仕上げるためにオールスターが総出演。今では違和感を覚えがちなキン骨マン&イワオですら、初期においては重要なライバルです。彼らが再び闘いの場に出てくるのも大きな意義のあることですし、何より目玉はテリーマンの再登場。ここまではスカル・ボーズやビューティー・ローデスといった新超人をメインに闘いを描き、彼らのキャラが十分に周知できたところで、アメリカが舞台にもかかわらず封印してきた、みんな大好きテリーマンが満を持して登場する! 非常にアツい演出ですし、いよいよすべてをかけた闘いが始まるんだという興奮もさらにヒートアップしてきます。

しかしそのテリーマン、やはり常に哀愁を背負った男だなと思うのは、なんと義足になってしまったというところから再会が始まる。ここまでの活躍を考えると、いわばこの作品の準主役ですよね。それだけの重要キャラに、ここまでの仕打ちを課すというのもゆでたまご先生流の思いきった選択。しかしそれゆえに、読者もあっさり「テリーマンがいれば大丈夫!」とはならない。激戦地に向け、期待と不安が入り交じる絶妙な船出です。

●さよなら...キン骨マン

いよいよ始まるリーグ戦初戦。ザ・マシンガンズvsジ・エンペラーズの見事な開幕戦を経て、実は、僕がこの巻で最も衝撃を受けたのが続く第2試合。イワオ&ブラック・シャドーの凸凹ブラザーズvsスカル・ボーズ&デビル・マジシャンの宇宙一凶悪コンビ戦。実力差は歴然ですぐ終わってしまうのですが、これの何が印象的かって、イワオはすぐにぶっとばされ、残ったブラック・シャドーがふたりがかりの8の字固めを受けながらもなんとか耐えているところで、生みの親のキン骨マンが「ヤツは口がきけないようにつくってあるだわさーっ!!」って、あのひどいキン骨マンが、必死の形相でまさかの命乞い。何が切ないってメタ的な視点になりますがこの両陣営、作品内で住んでる世界が違うんです。

キン骨マンたちは、『キン肉マン』がギャグマンガ時代のノリを引きずってそのまま再登場したキャラクターたち。でも、いつの間にか時は過ぎて『キン肉マン』はすでにバトル中心のストーリーマンガになってたんですよね。そんなところにノコノコ出てきたギャグキャラたちが、今のシリアス展開についていけず、ただ無残に殺される。この切なさったらないですよ。このマンガ内に、僕が笑って愛したあのキン骨マンの居場所はもうなくなってしまったんだと思うと無性に悲しくなって、僕は読みながら本当に泣いてしまいました。もう試合にすらならず一瞬でひねられる。張り合うことすらできなくなってしまった。こんな切なさもまた、ギャグからストーリーに姿を変えていった『キン肉マン』ならではの現象だなぁと思うのです。

そんなシリアスな激闘続きの果てに到達した最後の闘い。ザ・マシンガンズvs宇宙一凶悪コンビの優勝決定戦で、満を持してレフェリーとして登場するラーメンマン。ほかにも、昔のライバルたちが続々応援に駆けつける過剰なフィナーレ演出には当時のファンもドキドキしたんじゃないでしょうか。

最高の名勝負が繰り広げられる陰で、最後まで切ないのはやはりキン骨マンでした。お邪魔虫となってテリーマンの義足を守る少年をポカポカ殴る最後の抵抗も、昔ならギャグとして見てもらえたことでしょう。しかし今は、誰の目にもただのイヤなヤツ。もう誰もキン骨マンのイタズラを笑って許して見てくれない。この巻自体のサブタイトル「タッグの鉄則の巻」とありますが、実は隠れた裏テーマは「さよならキン骨マンの巻」でもあったんじゃないのかと。キン骨マン好きの僕はそこに一抹の寂しさを覚える巻でもあるのです。

●こんな見どころにも注目!

メインの流れから外れたところでひとつ、この巻でものすごく気になるのがこのシーン。男女3人が一緒にシャワーを浴びるって、こんなこと普通ありますか?(笑)。イヤデス・ハリスン女史は選手といったいどういう関係性を築いているのか、僕はいまだにここが気になって仕方ないです。思えば彼女は、ビジュアルも後のビビンバを思わせるほどにどんどんかわいくなっていきました。陰惨な闘いが続くなかで一輪の花といった存在でもありますが......謎の多いキャラクターです。

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●2月28日発売『週刊プレイボーイ』11号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

『謎尾解美の爆裂推理』2巻、好評発売中!

●JC『キン肉マン』77巻、好評発売中!!