50歳の芸人・錦鯉が『M-1グランプリ』の頂点に立った! お笑いに年齢は関係ないのだ。だからこそ、あえて50代の芸人を特集する。
まずは、ドキュメンタリー漫談で勝負するコラアゲンはいごうまんが登場!
■身の丈に合った笑いをしてなかった
――50歳の長谷川雅紀(まさのり)さんがいるお笑いコンビ「錦鯉」が2021年の『M‐1』王者になりました。
コラアゲンはいごうまん(以下、コラ) 同世代の人間が優勝したのには感動しました。ただ、それはお笑いだからじゃなくて、ミュージシャンでも俳優さんでも、一般企業の方でも同じだと思います。50代の人が長年かけて開発した商品がヒットしたという話からは勇気をもらいますから。
――錦鯉が売れたことに嫉妬みたいなものはないですか?
コラ ないですね。僕の芸風は漫才みたいに作ったネタじゃなくて、ドキュメンタリー漫談なのでジャンルが違うんです。それに、嫉妬はこれまで死ぬほどしてきましたから......。
僕は高校を卒業して吉本興業のNSC(養成所)に入り、同期の元雨上がり決死隊の蛍原(ほとはら)徹君とコンビを組んでいたんです。でも、解散後、蛍原君は宮迫(みやさこ)博之君とコントを始めた。そして、彼らは売れた。そのときから、僕の嫉妬は始まっています。
元相方が売れる。後輩もどんどん売れていく......それなのに僕はまったく売れない。「なんでみんな俺の芸をわかってくれないんだ」と思っていました。そして、30歳になった頃には、もう大阪に僕の居場所はなくなっていたんです。
だから東京に出ていきました。そこで出会った演出家の人から「君の作った漫才やコントはつまらないんだよ」とストレートに言われて目が覚めたんです。
――ああ......。
コラ そして「君は身の丈に合ったお笑いをやってないんだよ。君は『苦労してそうだなあ』『貧相だなあ』と見えるし、お客さんが知りたいのは『相方だけ売れたときはどういう気持ちだったか?』というリアルな話。だから笑わそうとせずに、それを本音でしゃべってみたら」と言われました。
それで、ライブで「僕の元相方は蛍原君でね、僕と別れてあいつだけ売れやがった。雨上がり、むかつくわ!」って言ったらめちゃめちゃウケたんです。それ以来、ネタじゃなくてドキュメンタリーの漫談をやってます。
――例えば、どんな感じですか?
コラ 新興宗教に潜入したネタがあるんですが......。ある新興宗教の儀式に参加したんです。そこでは教祖の体を通して神様がアドバイスをしてくれるということで、僕が「お笑いを15年くらいやってるんですけど、まったく芽が出ません。どうしたらいいですか?」と聞くと、神様が降りてきていろいろ言うんですが、最終的には「お笑いから足を洗いなさい」と。
で「ちょっと待ってください。なんで神様からダメ出しされなきゃいけないんですか!」って言ったら「35歳でしょ。今ならまだほかの仕事を見つけられるから」って、なんかハローワークみたいになっていくんです。こっちは参加費を5000円も払ってるので、だんだん腹が立ってきて、その神様と大げんかするんですよ。
ほかにはSMのM奴隷になるための試験を受けてきた話とか、地縛霊にネタを披露した話とか、そんな感じです。
――なんかちょっと面白そうですけど......。
■2時間ひとりでしゃべり続ける全国ツアー
コラ で、その頃にはもうテレビに出るのは諦めたんです。有名になりたいと思ってやってきましたけど、有名になれないからお笑いをやめるという気持ちにはなれなかった。テレビに出て何百万人という人には見てもらえないけれど、ライブに出れば数十人の人には笑ってもらえる。それでもいいんじゃないかと思ったんです。
だから、マネジャーと一緒にいろんなライブに売り込みに行きました。そして、そこで面白がってくれた人たちが、自分たちが主催するライブに呼んでくれるようになったんです。すると、35歳くらいで全国ツアーができるようになりました。
――全国ツアーってすごいですね。
コラ はい。居酒屋さんだったり美容室だったり、お店を持っていない人は、ご自宅に行っておしゃべりします。5人だろうが、10人だろうが全力でやります。「青森なんだけど、20人集めるからうちでやってくれ!」って声がかかるとうれしいですよね。
僕のライブは、ひとりでしゃべるんですけど2時間くらいは軽く持つ。さっきの新興宗教の話は、完全版だと55分くらいなんですよ、だから、ネタを2本やると2時間を超えるんです。
それで、全国を2周ぐらいすると飽きられるので、今度は地元の有名な人を取材して各地の地元ネタを入れる。広島だったら"広島太郎(ぬいぐるみを身につけたホームレスと思われる人物)"の話とか。すると、あと3年くらいは持つ。
そうやっていくうちに、40歳くらいでアルバイトをしないでライブだけで生活ができるようになったんです。といっても月の収入は10万円くらいですが......。でも、僕にとっては「お笑いやって10万円ももらえるの!」という感覚です。それを52歳の今でも続けているだけです。
――やめようと思ったことはなかったんですか?
コラ 絶えずありましたよ。でも40代までは未来がある。だから一発大逆転を考えて踏ん切りがつかない。そして、50歳になると逆に「もう続けるしかない」と思うようになる。それから、この年になると「売れる、売れない」「飯が食える、食えない」とか関係なくなるんです。
だから、才能がなかったとしても僕にとってお笑いは天職なんですよ。年老いてライブに出ることができなくなっても、目の前にいる人に冗談を言って笑わせたい。それで十分なんです。
●コラアゲンはいごうまん
実録芸人。1969年生まれ、京都府出身。1988年NSCに入学後、吉本興業に所属。その後、2003年にワハハ本舗へ。2022年に個人事務所「笑数派」を設立