週プレ公式YouTubeチャンネルと、3月14日(月)発売『週刊プレイボーイ13号』のカラー特集で気迫あふれるアクションを見せてくれたスタントパフォーマー・伊澤彩織(いざわ・さおり)。アクションを始めたきっかけから、知られざるその仕事内容まで聞いた!
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■痛いのがキラいな超文化系だった
――スタントパフォーマーとはどんなお仕事なんですか?
伊澤 スタントとひと口に言っても大きく舞台系と映像系に分けられると思っていて、ヒーローショーなど生のパフォーマンスが舞台系のスタント。小学校での交通安全スタントもこっち寄りですかね。
で、私は主に映像全般に関わるスタントをやっています。ドラマ、映画、CMなどですね。ゲームのモーションキャプチャもやったりします。
――確かに今回撮影した写真も映画のワンシーンのようなカッコよさでした!
伊澤 映画でいえば、演じるだけじゃなくアクションの動きを作り、それを役者の方々に指導するのも仕事です。練習時には本番で使う武器やセットは壊れる恐れがあるため使えないので、自分たちで段ボールやウレタンから作ったりも。
映画『るろうに剣心最終章』の現場では森林を部屋の中に再現したりしてました(笑)。今回も映像に出てくるマチェット(刃物)を段ボールから作ったので、注目してみてください!
――伊澤さんは初めからアクションに興味があってこの世界に入ったんですか?
伊澤 いえ、きっかけは偶然です。映画はずっと好きで、中高では映画制作部に、大学では映画学科に入っていました。20歳のときに「商業映画の現場に行きたい」と思い立ち、初めてスタッフとして携わったのが照明部とか録音部ではなくアクション部だったんです。
最初はただのお手伝いで、役者さんにケガ防止用のパッドを渡したり、倒れてくるところにマットを差し込んだりしていただけなんですけど。その現場で、『アクション部に来たら?』と誘われたんです。
中高大とまったく運動してきてないし、痛いのキラいだし、素質ないだろって思ったんですけど。しかも私、潔癖性で地面に手がつけなかったんです(笑)。さすがにすぐに平気になりましたけど。
その後、大学3年生の夏休みに、福山雅治さんが主演を務めた『マンハント』という映画の現場で2ヵ月ほどお手伝いをしました。その撮影中に、私のアクションの師匠である田中(清一)先生が急逝したんです。現場が地方だったこともあり駆けつけることもできず。
生前、「アクションを続けてくれ」と言ってもらっていたこともあり、「ちゃんとプロになろう」と思ったのが一番のきっかけです。
――その後も大きな作品に関わり続けます。
伊澤 大学卒業後すぐに『キングダム』、その翌年に『るろうに剣心 最終章』。これは現場に10ヵ月くらいいました。その次が、日本での撮影だけですが『G.I.ジョー』。そして去年の夏に『ジョン・ウィック4』。
そんなこんなでやってきたアクションで『ジョン・ウィック』まで行けちゃった!っていう。どんどん作品の市場が大きくなって、自分でもビビってました......。『ジョン・ウィック』でいえば、コロナ禍にもかかわらず、ドイツまで呼んでもらえたのは本当に光栄でした。
――スタントってかなり危険そうですが、ケガしたりは?
伊澤 めちゃくちゃありますよ。スタントの仕事ってケガをしに行くようなものなので。しかも作品が大きくなればなるほど派手になり、参加するスタントマンの数が増えて安全管理も難しくなる。
目の前で先輩がアキレス腱切ったり、前十字靱帯切ったり。私も肋骨(ろっこつ)を3回いってます。とある現場で男性に肩で持ち上げられた瞬間に「パキ」って。疲労骨折でした(笑)。
――痛いのがキラいだった人の反応じゃない(笑)。海外と日本でアクションの現場に違いはありますか?
伊澤 国によって違いますが、一番感じるのは働き方への意識ですね。海外は一日の労働時間に厳しく、「現場にいていい時間は○時間」と決まってるんです。そこは新鮮でした。日本は夜通し待たされて朝方からアクションを撮り始めることもあるので。
でもそういう大変な現場だからこそ、日本のスタントは世界で評価されているのかもしれません。短い撮影期間にギュッと凝縮して撮らなきゃいけない現場だから、熱のあるアクションが撮れるのかもしれません。
――普段のトレーニングを教えてください!
伊澤 仕事がない日はジムで筋トレをしたり格闘技を習ったり。あとはヒマなスタントマンを集めてミット打ちしたりするくらいです。動きだしたら止まれなくなるタイプなので、3~5時間くらい動きっぱなしです。
――そういえば今日も朝から動きっぱなしでしたが......。
伊澤 ちょうど体が温まって、いい感じにアドレナリンが出てきたので、まだまだいけます!(笑)
――最後に、今の伊澤さんの夢を教えてください!
伊澤 子供の頃はケーキ屋さんになりたくて、今でもケーキ屋さんになりたいんですけど(笑)、スタントパフォーマーとしてはスタントをする人がもっと増えてほしい。アクション部が必要とされる現場はいくつもあるのに、どこも取り合い状態なんです。
やる気があって、しかるべき場所にいれば私みたいな人が増えると思うので、誰かをアクションの道に誘い込むお手伝いができたらなと思います。
●伊澤彩織(いざわ・さおり)
1994年生まれ、埼玉県出身。日本大学藝術学部映画学科卒業。映画『るろうに剣心 最終章』などにスタントで出演。昨年、映画『ある用務員』で俳優デビューし、『ベイビーわるきゅーれ』でW主演を務める。