『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!
希代のストーリーテラーのふたりが2021年12月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。
●今回の「先月の肉トーク」テーマ
第369話 完璧の未来!!の巻(1月4日分)
第370話 完璧がなし遂げたもの!!の巻(1月17日分)
第371話 ロビンの背中を追う者!!の巻(1月24日分)
【あらすじ】超神vs超人のバベルの塔決戦第2ラウンドは、リヴァイアサンvsネプチューンマン! 完璧超人のあるべき姿を問うこととなったこの闘いは「喧嘩(クォーラル)クロス・ボンバー」でネプチューンマンが勝利。そして、次なる闘いにはウォーズマンが立ち上がる。その胸の内には師であったはずのロビンマスクへの複雑な思いがあった。
●ゆでたまご先生は、各超人のキャラを再定義している
爪切男(以下、爪) ネプチューンマンのフィニッシュ技、よかったですね。
燃え殻(以下、燃) うん、完勝だったね。
爪 で、超人に負けた神が、その後にちょっとずつしゃべって、何かを教えてくれるっていうのが今回のスタイルなんだ、ってことがわかりましたね。
燃 神が負けるっていう、新しい概念が。
爪 奇襲する、負ける、負けた後よくしゃべるっていう(笑)。でも、ネプチューンマンが勝って、リヴァイアサンに「約束どおり最上階へと招待しよう 今度こそ正式な〝客人〟としてな」(370話)って言われたじゃないですか。ということは、「天上界で待ってるのは、争いじゃない可能性もあるのかな」と思って。
燃 ああ、なるほどね。
爪 その超人の強さを認めると、丁寧になる。っていうことは、前に燃え殻さんが言ってたみたいに、神はリアル・ディールズを試す側にいるのかもしれない。
燃 リヴァイアサンはネプチューンマンに、「どうかその力で...光で 天界の危機を救って...ほしい...」(370話)とも言っていたしね。
爪 ってなると、天界の危機を救うメンツに、神様が交じっているのも変な感じがするし。じゃあ超人側の全勝かな? でも、これで天界に昇ったら、もっと強い敵が出てくるっていうことだったら、さらに描くのが大変ですよね、ゆでたまご先生。
燃 そうだよねえ。
爪 みんな自分に足りなかった部分、弱い部分を、神との闘いによって補てんしてから、天界に昇るわけだから。じゃあ、ウォーズマンは何が改善されるんですかね? 精神面の弱さかなあ。
燃 どうだろうね。でもみんな、『キン肉マン』の歴史のなかで、ひとりひとりのキャラクターが持っているトラウマを、ひとつひとつ出していく、みたいな展開だよね。それによって、各キャラクターの定義づけをもう一回行なう、っていうことを、ゆでたまご先生がやっている気がする。
爪 ああ、そうですね。
燃 各超人の輪郭をはっきりさせた上で、ひとつ高いステージで、新たな神と対決するのかな。僕も「ウォーズマン、負けてたな。(第21回超人オリンピック編のラーメンマン戦以降)スクリュー・ドライバー、そんなに決まってなかったな」とか、なんとなく覚えてたけど、そういう記憶を全部、いったん試合ではっきり描いて、その上で新技を見せる、ということをやっていくのかもしれない。
爪 なるほど。ここまでの闘い、ジェロニモもネプチューンマンも、そうだったし。
燃 ものすごく長い連載であるがゆえに、読者の中でもおぼろげになっていた各超人のキャラクターを再定義する、みたいな。
爪 確かにそうですね。超人と僕らは長い付き合いだけど、気づいてないことがまだまだある。「あ、そんなこと気にしてたんだ?」っていうのが、あらためてわかったりしたし。で、やっぱりキン肉マンは、強くて天然なんでしょうね。みんなキン肉マンとのことをライバルとして意識しているのに、「みんな仲良くしよう」とか言っているから。
燃 いろんな超人の傷口に塩を塗ってるのがわかってないんだよね(笑)。キン肉マンのおかげで良くなったこともあれば、コンプレックスになってしまったこともあるよね、超人それぞれに。
●「負けが映える男」ウォーズマンはどうなる?
爪 で、3試合目、いよいよウォーズマンの出番になりましたね。過去の戦績一覧(左ページの図表)を見ると、ウォーズマンって、キン肉マンに負けてから、けっこう負けてるんですね。
燃 うん。ウォーズマン、強いのに、割に合わない感じで。かわいそうが似合う人。
爪 ウォーズマンの名ぜりふが、ネプチューマンに負けて、マスクがはがれて、ロビンマスクが近寄っていったら「だ...誰かオレの顔を見て笑ってやしないか?」。ロビンマスクが「誰も笑ってやしないよ! このわたしが笑わせるものか......!!」と答える、あのシーンはすごい好きだったから、自分の小説に引用しました。
燃 確かにいいね。
爪 超人師弟コンビ対ヘル・ミッショネルズ(夢の超人タッグ編)は、すごくいい試合だったんだよな、ベストバウト。
燃 確かに、ベストバウトだったよね。あの頃、ジャンプを早く読みたくて、日曜の夜中にコンビニに行ったもん。ロビンのマスク狩りとか、悲しかったの、覚えてる。
爪 でも今回、神様がみんなで超人を変えようとしてる感じ、しますね。
燃 神様と闘うことによって、これまでと別の面が引き出される。
爪 今の闘いも、神様(オニキスマン)も機械の体だから、ウォーズマンに何かを教えるんだろうし。デザインもちょっとウォーズマン的ですよね。どの超人も、自分の合わせ鏡みたいな神様が出てきて闘う、ということなんですかね。
燃 そうかもしれないね。
爪 となると、キン肉マンの相手が楽しみですね、どんな神が出てくるのか。この分だと最後かなあ。
燃 そうねえ。
爪 そこまで超人が全勝していて、最後がキン肉マンで、すごいプレッシャーがかかる、っていう展開も......。
燃 ああ、それもいいね。でも、ここまでくると、超人全員勝ってほしいけど、7人の悪魔超人編のときも、悪魔六騎士の頃も、全勝はなかったじゃない?
爪 そうなんですよ。
燃 だから、ゆでたまご先生からしたら、全勝はないのかもね。
爪 そういうときに、負ける役割を担わされてきたのが、ウォーズマンとバッファローマンだから。このふたりには勝ってほしい......となると、全員勝ってほしい、ってことになっちゃうなあ、やっぱり。
燃 でも確かに、いいところで負けるのがウォーズマンだとしたら、今回負けそうでイヤだね。
爪 だから、絶妙のタイミングで出てきましたよね、ウォーズマン。そろそろ誰かが負けるならここ、っていう。俺らも最初に予測したときに、ウォーズマン、バッファローマン、サンシャインあたりが負けるんじゃないか、って言ってたじゃないですか。で、ジェロニモとネプチューンマンで2連勝したところで、対抗戦だったら、そろそろ相手に星をあげるタイミング......。
燃 僕ら、前回(1月31日発売7号)のこの対談では「超人側の全勝じゃないか」って言ってたんだけど。
爪 このタイミングでアシュラマンかロビンマスクかキン肉マンが出てきたら「全勝かな」って思ったけど、ウォーズマンか......っていう。
燃 そうなんだよ。
爪 ウォーズマン、強いけど負ける、負けるけどいい試合はできるキャラクターだから。
燃 ウォーズマンとバッファローマンは、いい負け方をするから。サンシャインだと砂になっちゃったりするけど、ウォーズマンはグシャグシャにされて、「誰が直すんだ?」っていうぐらいになるじゃない? そこがいいよね、悲壮感があって。
●ウォーズマンの勝敗が、バベルの塔決戦の命運を分ける!
爪 でも、逆にウォーズマンが勝つとしたら、決まり手が楽しみですよね。パロ・スペシャルは「ジ・エンド」までいっちゃったから(完璧超人始祖編・対ポーラマン)。
燃 ああ、そうかそうか。
爪 じゃあ、ベアークローが進化するのか。
燃 もし、ウォーズマンのマスクとかはがれるような、ハードヒットな闘いになった場合、最後の決まり手はベアークロー、というのは、ありだと思う。ボロボロになった末に、スクリュー・ドライバーの撃ち合いになって、決着がつく、とか。
爪 『熱血硬派くにおくん』みたいになりそうな気が(笑)。
燃 大日本プロレスの蛍光灯デスマッチみたいな。神のほうもスクリュー・ドライバー的な武器、あったよね。
爪 ああ、オニキスパルバライザー。序盤でスクリュー・ドライバーと激突して、勝ったやつ。
燃 そう、それとスクリュー・ドライバーで、お互いがグサグサ突き刺し合うっていう。お互いをバキバキにぶっ壊し合うロボット対決が見たいな。昔、ロビンマスクが、タワーブリッジのときに、キン肉マンをツノで刺してたじゃない(第20回超人オリンピック決勝)?
爪 刺してましたねえ。
燃 ああいうの、マンガだからやってほしいな。現実のプロレスだとできないから。
爪 でも、オニキスマンが勝ったら、神のほうが変わったりするんですかね? 神が自分の足りない部分を埋めて、変形するとか。今のルックスから、もっと派手でわかりやすいデザインに変身したりして。
燃 ああ、ああ。
爪 実は第2形態があって、「勝って、真の姿を取り戻した」みたいなことを言って、ウォーズマンの遺志を継いで、天界に昇っていく。
燃 確かに、神が勝った場合、どういう展開にすればいいのかが難しすぎる、今のままだと。ということは、爪さんが言うその出口は、ありだね。
爪 神が勝つなら、それぐらい闘いによって変わってほしいというか。超人の遺志を継いで、神が変身するぐらい。
燃 でも、ここで超人側に土がつくと、サンシャインも負けそうだねえ。バッファローマンも、負ける可能性がぐっと上がるね。
爪 だからほんとに、対戦相手が楽しみです。ここまで超人と因縁深い神が出てきているから。あと、前回、燃え殻さんが言ってた、6人タッグはあるのか?というのも......。
燃 いやあ、ないね(笑)。でもほんと、ウォーズマンが勝つか負けるかによって......。
爪 大きく変わりますね、この後の予想が。
燃 ウォーズマンが負けると、ほかの超人たちが負けてもいい要素が増える。ウォーズマンが勝つと、全勝の目が出る。
爪 全勝の目と、バッファローマンの負けがちょっと怖い。
燃 あ、それでも怖い?
爪 はい。バッファローマンは、それぐらい、いろんな人の犠牲になってきたので。
燃 ああ、確かにね。バッファローマンも、負けたとき、半端ない出血するじゃない?
爪 はい。でも、確かに、昔の技で勝つのも、おもしろいかもしれないですね。ベアークローもそうだし、スクリュー・ドライバーでぶちかましてくれるのもいいし。
燃 そうそう。今回ウォーズマンは、スクリュー・ドライバーが、ラーメンマン戦以来、がっちり決まるっていうのもありだよね。パロ・スペシャルはもう「ジ・エンド」までいったので、使えない。となると、スクリュー・ドライバーが決まるか決まらないか、というところで、試合を見るのがいいんじゃないですかね。
爪 はい。とりあえず、パロ・スペシャルはない、と予想すると(笑)。でも、ウォーズマンってほんと、プロレスで言う「引き立て役」っていうか。善戦はするけど、勝てないっていう、そんな感じになっちゃってるのかな。俺らの時代のプロレスで言うと、木村健吾みたいな。
燃 不遇すぎるでしょ、それは。ウォーズマンって、ほんとに初期からいるキャラクターだからね。ロビンマスクとかと同じで。
爪 ロビンマスクがバラクーダだったときの師弟関係が、いまだに続いているってことですもんね。
燃 そうだね。
爪 30分以上闘うと全身がショートするっていう設定でしたよね、そういえば。
燃 ああ! 忘れてた、昔はそうだったね。手を替え品を替え、その時間を延ばしていったけど。
爪 今回もそれが出てきたら、びっくりしますね(笑)。
燃 はははは。でもほんと、ウォーズマンには勝ってほしいなあ、がんばってほしい。
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。テレビ美術制作会社に勤めながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、2016年、90年代の若者を描いた『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)で小説家デビュー。本年、同作が森山未來主演でNetflixより全世界同時配信予定。最新著『これはただの夏』(新潮社)も好評発売中。燃え殻が原作、おかざき真里が漫画を担当している『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(『週刊SPA!』連載中)が22年5月に「Huluオリジナルドラマ」として配信
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった