キン肉マン大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス7巻を熱く語る

7巻のテーマを短い言葉で表すなら「嵐の前の静けさ」そして「超人オリンピック再び」ということになるでしょうか。

展開も前巻までの凄惨なシリアス路線とは打って変わって......。

『キン肉マン』第7巻

●テコ入れの中にも光る作家としての大胆さ

この巻から突如、初期の怪獣退治編に戻ったかのような1話完結のギャグスタイルが復活。作画もシブめのアメコミタッチは鳴りを潜め、原点回帰を思わせる丸みを帯びた描写へと切り替わります。その感想は、僕が最初に読者として読んだときも、今の作家としての視点から見直してみてもやはり同じ。明らかにテコ入れ感が漂ってます(笑)。

前回までのレビューでも散々お伝えしたように、僕はそれまでのアメリカ遠征編があまりにも大好きすぎるので、この改変にはやはり寂しさを覚えてしまうところはあります。それでも後の先生のインタビューを拝見すると、「この頃は読者人気が凋落して、なんとか取り戻そうと必死だった」ということをよくおっしゃられていて、そのお気持ちもまた、僕自身が作家となった今だからこそ、昔以上によくわかるので......複雑ですね。そんななかで、ひときわ大胆な決断をされたと驚かされるのが、毎週の連載のなかで作画を根本的に見直された、という点です。

どんなマンガ作品でも長期連載になると、1巻と30巻くらいでは作画が全然違うというのはよくあることです。でも、まだデビューから1年少々の漫画家が、しかも週刊連載中のある週から突然ガラッと作画を変えたなんて話はまず聞きません。苦肉の策だと先生はおっしゃるかもしれませんが、それでもここまで大胆なことをされたというのはひとつ、この巻の注目すべき大きなトピックだと思います。

そんなこんなで、再び初期のような怪獣退治のギャグマンガが始まるわけですが、やっぱり僕はこの時期のノリもそれはそれでけっこう好きでして、特に好きなのがゴキブリ家族に家を乗っ取られる回(クリスマス怪獣の巻)ですね。この回の何が好きって、次々と出てくるギャグやらおかしな描写に誰ひとりツッコまないまま話が進んでいくところ。アメリカ遠征で留守中のキン肉ハウスにゴキブリ一家が勝手に住んで、クリスマスパーティを始めている。そこにキン肉マンが帰ってきて、やるなら牛丼パーティだと言い出す。巨大なゴキブリを3匹連れ、町の牛丼屋に入って、普通にみんなで牛丼を食べて出てくる。最後はそのまま円満解散......って、このわずか2、3ページの流れだけでもおかしなところは、山ほどありますよね? でも、誰も何も言わないままそんな狂気が淡々と進んでいく。

昨今のギャグマンガって、ツッコミで笑わせる傾向がかなり強いと思うんです。大きな書体でどれだけ強くツッコむか、みたいな。そういうのにすっかり慣れた今の人たちからすると、こういうノリは逆にものすごく新鮮なんじゃないですかね。

●テリーマンの真の役目は裏キン肉マン!?

そして、新キャラとして注目なのはやはりビビンバ。7巻にして、いよいよ登場した正ヒロインですが、ヒロインといえば1巻から登場していたマリさんがいますよね。流れとしては原点回帰を図ってるところですし、わざわざ新キャラを立てずともマリさんを復活させればとも思えます。が、僕が思うに、マリさんってまじめでおとなしい正統派ど真ん中のヒロインですから、実はギャグマンガの流れのなかではものすごく動かしづらいキャラでもあったと思うんです。以下もあくまで僕の想像ですが、それゆえにおそらくギャグマンガによりなじむヒロインとして、昔のマリさんはあえて更迭。代わりにビビンバを出してきたのではないでしょうか。ゆでたまご先生って、よく天然みたいにいわれますが、要所要所でけっこうこういうクールな計算をされていると僕はずっと感じてまして、この交代劇などはまさにそういう一面が出たところなんじゃないかと思ってます。

その後、短い宇宙野武士編を挟み、満を持して2回目の超人オリンピックが開幕。まずは予選ということで、前回同様、相変わらず超人が当然のように焼死するガソリンプール力泳などモラルハザードにまみれた競技が続くなか、この巻どころか『キン肉マン』全編を通しても屈指の名シーンが登場。テリーマンの新幹線アタックです。小犬の命を守るためにあえて失格の道を選ぶという、優しさゆえの哀しい結末を迎えるわけですが、ここに至って強く僕が思うのは、実はテリーマンとはキン肉マンというキャラでは描けない感動を代わりに描き続けてくれている存在なのではないか、ということです。

なぜなら、キン肉マンはジャンプ作品の主人公、勝利を運命づけられた存在です。しかし勝利だけで描けない感動というのは必ずあります。本作中でそれを描くための存在が、実はテリーマンだったんじゃないか。もっと言えば、それを含めてキン肉マンとテリーマンは表裏一体の存在ということなのではないでしょうか。その予選敗退後に添えられた名言「世の中には勝利よりも勝ちほこるにあたいする敗北がある」とは、そういうことだったんじゃないかと......哀しい余韻に浸りつつ、超人オリンピック ザ・ビッグファイトは真の盛り上がりを見せる次巻へと続いていきます。

●こんな見どころにも注目


注目のゆでたまご先生ミラクルテクニックが炸裂しているのがこのシーン。テレビの中で語っていたウルフマンが、文句を言うキン肉マンに、画面を飛び越え張り手一発。これを物理的におかしいなんて語るのはやぼなことで、恐ろしいのはこの不思議なたったひとコマで、このふたりの初対面から因縁形成まで、お膳立てが完璧に終わってる。ほかの作家なら後日控室に行って悶着が起こって......なんてことを1話ほどかけてやるのをこのひとコマで完全消化。まさにゆでマジックの極地です

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●3月28日発売『週刊プレイボーイ』15号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

『謎尾解美の爆裂推理』2巻、好評発売中!

●JC『キン肉マン』78巻、4月4日(月)発売!!