平成仮面ライダー歴代最多メイン監督にして、スーパー戦隊シリーズ最新作、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』でメイン監督を務める田﨑竜太氏 平成仮面ライダー歴代最多メイン監督にして、スーパー戦隊シリーズ最新作、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』でメイン監督を務める田﨑竜太氏

『暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ』でメイン監督を務めるのは、平成仮面ライダーシリーズで最も数多くメイン監督を務め、またスーパー戦隊のアメリカ版ローカライズ作品『パワーレンジャー』でもメガホンを取った名匠・田﨑竜太監督だ。東映特撮ドラマを知り尽くした彼が語る、スーパー戦隊シリーズ最新作の魅力とは。

■描きたいのは戦隊の形をした群像劇

――平成仮面ライダーシリーズでは最も多くメイン監督を務めてきた田﨑監督ですが、スーパー戦隊のメイン監督を務めるのは、『星獣戦隊ギンガマン』(1998年)以来24年ぶりだそうですね。

田﨑 避けていたわけではないのですが(笑)、今回久々に声をかけていただきました。「ライダー」もそうですが、「戦隊」は数あるテレビシリーズの中でも常に"革新性"が求められるコンテンツ。前作の『機界戦隊ゼンカイジャー』が異色な作品だったのでそれを上回らなければ、と気合いを入れて臨んでいます。

――今回はチョンマゲ頭の主人公ドンモモタロウ(レッド)が、サルブラザー(ブルー)、オニシスター(イエロー)、イヌブラザー(ブラック)、キジブラザー(ピンク)を従えて戦うのですが、その相手というのが、人間の欲望から生まれる怪人「ヒトツ鬼」と、そのヒトツ鬼を人間ごと消去しようとする謎の組織「脳人ノート」のふたつ。

ここから話がどう転がっていくのか予想がつかないし、そもそも「桃太郎」というモチーフ自体がユニークです。しかしなぜ桃太郎を?

田﨑 「桃太郎」は、「主人公+お供4人」という形でレッドの絶対的な強さを示すための設定なんです。物語は登場人物が並列だと動かない。いうなれば気圧の差をつくって風を起こすわけです。『ゼンカイジャー』はひとりの人間と4体のロボットの物語で『魔進戦隊キラメイジャー』(2020年)はレッドが新参者だったみたいにね。

また、「桃太郎」は日本人にとって最も有名な物語なので、5人の関係性がすぐわかるのも利点です。あと特に注目してほしいのがイヌとキジで、変身体はイヌが身長1m、キジが2.2mと、かなりの凸凹がある。それをCGを使って動かし、過去にないビジュアル的な面白さを狙っています。

最新作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)。「新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、斬新な絵作りと戦隊らしい明るく楽しい作品にしたい」(田﨑監督)。ゼンカイジャーの五色田介人が登場しているのも注目だ ©テレビ朝日・東映AG・東映 最新作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022年)。「新しいテクノロジーを積極的に取り入れ、斬新な絵作りと戦隊らしい明るく楽しい作品にしたい」(田﨑監督)。ゼンカイジャーの五色田介人が登場しているのも注目だ ©テレビ朝日・東映AG・東映

――しかもそのキジのスーツカラーはピンクです。男性キャストがピンク役を演じるのは、シリーズ46作目にして初だとか。

田﨑 そう。しかも各メンバーは過去の戦隊ヒーローに変身して戦えるんですが、キジが変わるのは女性ピンク戦士(笑)。「ピンク=女性」というステレオタイプのイメージを覆しつつ、「ピンク=男性」の鉱脈を掘っていければと思っています。

――ストーリー面で興味深いのは、脚本を井上敏樹先生が書かれていること。井上先生といえば『鳥人戦隊ジェットマン』(1991年)でメンバー間の恋愛を描いたり『仮面ライダーアギト』(2001年)や『仮面ライダーフアイズ555』(03年)で複数のライダーや怪人の心情をつぶさに描いたりと、重厚感のあるドラマ作りで知られています。

田﨑 重厚感があるというのを言い換えると、人間模様が濃いということ。今回、井上先生が描こうとしているのは群像劇なんですよね。

田﨑氏が初めてメイン監督を務めた『星獣戦隊ギンガマン』(1998年)。大自然の力・アースを持つ戦士たちが銀河を守るために戦う姿を描いた。ヒーローものの王道路線を意識したファンタジー要素が強い作品 ©東映 田﨑氏が初めてメイン監督を務めた『星獣戦隊ギンガマン』(1998年)。大自然の力・アースを持つ戦士たちが銀河を守るために戦う姿を描いた。ヒーローものの王道路線を意識したファンタジー要素が強い作品 ©東映

――群像劇!

田﨑 そう。今回のストーリー上でこれまでと大きく違うのは、メンバーたちはお互いの顔や居場所、素性を知らずに過ごしていること。

――どういうことですか?

田﨑 敵が現れると変身し、瞬間移動で戦場に放り出されます。そして戦いが終わると、また元の場所に戻る。そこから個々のドラマが生まれ、スレ違いのドラマが生まれます。

――ある拠点からチームとして戦いの場に出かけ、一緒に戦うのが当然だと思っていました。

田﨑 しかもレッドは宅配の配達員、イエローは漫画家の女子高校生、ブラックは逃亡者......。これらは井上先生が設定したんですが、いったい、彼らがどこでどう交わるのか。それこそ"鬼ヶ島"がどこにあるのかも含め、まだわれわれも全容をつかみ切れていません(笑)。

――「戦隊」は単話完結で、全話通してもストーリーは明快なイメージですが、お話を聞いていると、今回の作品は、全話を通し大河ドラマ的に物語が進行する「ライダー」シリーズのイメージに近い気が。

田﨑 物語を難しくするつもりはないですけど、一話が完結した後に残された部分は次話に引き継がれ、どんどん進行していくので、しっかり追いかけていただいたほうがより楽しめるかもしれませんね。

――ちなみに監督の中で戦隊とライダーの違いとは?

田﨑 一番はロボ戦です。戦隊はライダーと違い、等身大で倒した後に、ロボットに乗って巨大化した敵と戦うじゃないですか。そこは基本的には、特撮班が撮影するんですが、一部で本編班も担当し、通常のミニチュア撮影に加えて、CGを取り入れるなど、時代に合った表現を冒険しています。そこはライダーでは味わえないので存分に楽しんでいますね。

田﨑氏がメイン監督を務め、井上敏樹氏が脚本を手がけた『仮面ライダー555』(2003年)。ライダーたちばかりか、怪人たちにもスポットを当て、それぞれが自らの生き方に苦悩し、戦う姿を描いた ©石森プロ・東映 田﨑氏がメイン監督を務め、井上敏樹氏が脚本を手がけた『仮面ライダー555』(2003年)。ライダーたちばかりか、怪人たちにもスポットを当て、それぞれが自らの生き方に苦悩し、戦う姿を描いた ©石森プロ・東映

■キャストに一番大切なのは、楽しませたい姿勢

――監督はキャスティングにも関わっていますが、今回、主人公のレッド・桃井タロウ役に樋口幸平さんを選んだ理由は?

田﨑 レッドは絶対的に強いというのが設定なので、彼の真っすぐなキャラクターがつながっていけばいいなと。お芝居の経験値はまだ少ないですけど、よどみのないまなざしをしていて、方向性は間違っていないと思います。これからハードルは上がっていくと思いますが、それを越えていくことでキャラクターにも厚みが出るはずです。

――イエローのオニシスター役、志田こはくさんは?

田﨑 彼女はクラスにいそうなリアル女子高生って感じがしたのと、あとオーディションの中で短い芝居をやってもらった際、人を楽しませたいという姿勢が見られたところがいいなと。

――人を楽しませたい?

田﨑 オーディションだから仕方ないんですけど、大半は「自分!自分!」という人ばかりなんです。でも、それより大事なのは「この場にいる人を楽しませたい」とか「一緒にお芝居をやるのが楽しい」などの感覚を持っていることで、それって後から訓練で身につけることができない素質ですから。

第1話、2話ははるかの視線で物語が進むんですが、ここで志田さんが視聴者に愛されるかどうかに番組の命運がかかるなと思いましたが、杞憂(きゆう)に終わりましたね。

――番組の命運! そこまで重要な役だと志田さんにはお話しされていたんですか?

田﨑 まさか(笑)。でも彼女は十分に役割を果たしてくれました。週プレの読者も彼女のポテンシャルを感じてもらえたらと思います。

■東映ヒーロー作品は駄菓子

――監督は以前「『ウルトラマン』はキレイな箱に入った上質なお菓子だけど、『仮面ライダー』は人工甘味料、着色料の入った駄菓子だ」とおっしゃっていたとか。「戦隊」はいかがでしょう?

田﨑 確かにそんなこと言ってましたね(笑)。それって「ライダー」を「東映ヒーロー」と置き換えてもいいと思います。円谷プロさんの「ウルトラマン」はすべてが洗練されていている。だけど東映のヒーローものは雑多なんです。

例えば今回の『ドンブラザーズ』にしてもCGのイヌとキジがリアルじゃないとか、ちゃちいと言う方もいると思うんです。だけど、キレイに整えず、それこそ刺激的な要素があったとしても子供が喜んでくれればいい。そう思って作っています。

――でもその駄菓子感は海外でも人気ですよね。一昨年の週プレの戦隊ヒロイン特集号で、『パワーレンジャー』の監督を務めた坂本浩一さんがおっしゃっていましたが、スーパー戦隊特有の「見えを切る」スタイルは当初、アメリカでは「なぜポーズをとってる間に攻撃しないんだ」とツッコミが入った一方、子供からは「カッコいい」と大ウケしたとか。

田﨑 そうでしたね。そういえば『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年)はクライマックスで、キャプテン・アメリカが「アベンジャーズ・アッセンブル!(集合)」と叫んでほかのメンバーたちと戦いだすシーンがあるんですよね。そこに戦隊のDNAが生きている気がしました。

――確かに!

田﨑 今、アメリカのクリエーターの中には、『パワーレンジャー』が大ブームだった1992、93年頃に見て育ってる人がけっこうな割合でいる気がします。そもそも『パワーレンジャー』が始まった頃、「全身タイツの男を見てどこが面白い?」とか言われたけど(笑)、今はタイツを着てない映画は逆に少ないですし。

――監督はここまでスーパー戦隊シリーズが続いている理由をどうとらえていますか?

田﨑 ひとつは玩具メーカーと組んで、ビジネスモデルを確立させたこと。あとは女性のメンバーがいることですね。ここ数年は女性ライダーも登場するようになりましたけど、女性が戦うということは想像以上に間口が大きい気がします。ただ、今後は女性であるだけじゃなく、より間口の広い形も生まれそうな気がします。

――どういうことですか?

田﨑 例えばドラマ版の「バットウーマン」はレズビアンだし、アメリカはバイセクシャルのヒーローも何人かいる。アメリカで起きたことは日本にも影響しますから、数年後のスーパー戦隊にはLGBTQのメンバーがいるかもしれませんね。もちろん社会の変容次第ですが。

――最後に、監督はライダーや戦隊で多くの女優さんとお仕事されていますが、今までで一番のヒロインといえば?

田﨑 一番? それは決められないなー(笑)。でも最近で言えば『ゼンカイジャー』のヒナミン(森日菜美)かな。あんなに作品を愛してくれた女優さんはいないですよ。番組が終わるとき、ギャン泣きしていましたから。

――皆さん、泣きません?

田﨑 いや、そんな比じゃなかった(笑)。でも大事ですよ。作品への思いが芝居に表れますから。実際、彼女を見て、素晴らしいと思いましたし。彼女たちヒロインからも愛される作品を今後も作り続けていきたいですね。

●田﨑竜太(たさき・りゅうた)
1964年生まれ、東京都出身。1998年『星獣戦隊ギンガマン』で初のメイン監督を務める。1999年1月に渡米し、米国版スーパー戦隊『パワーレンジャー』に参加。2000年に帰国後は『仮面ライダー』のテレビシリーズ、映画を中心にドラマ『科捜研の女』シリーズなども

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