歴史的名作『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975~1977)の放送以降、長きにわたり親しまれているスーパー戦隊シリーズ。その最新作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』が革新的な作品として話題を呼んでいる。

3月19日に発売された『週刊プレイボーイ14号』には「素顔のスーパー戦隊ヒロイン大集結」と題し、歴代のスーパー戦隊ヒロインたちが登場。最新水着グラビアだけでなくインタビューなども収録し、スーパー戦隊シリーズへの愛を見せてくれている。

その特集から、歴代ヒロイン4名のインタビューを最新撮り下ろしとともに連続掲載。今回はシリーズ第28作『特捜戦隊デカレンジャー』(2004~2005)で、礼紋茉莉花/デカイエロー役を演じた木下あゆ美さんが登場。礼紋茉莉花(れいもん・まりか)は、対象者に手をかざすことでその心理が読み取れるエスパー捜査官。クールだが、なぜか昭和ギャグをつぶやくお茶目な一面も。作品から得たものや当時の心境、そしてスーパー戦隊シリーズの魅力を語る。

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──『特捜戦隊デカレンジャー』では、ジャスミンというコードネームも印象的な礼紋茉莉花/デカイエローを演じられました。ジャスミンはクールでミステリアスで、人の心を読むエスパー能力を持つ美女刑事でした。とても魅力的な役柄だったと思うのですが、先ほどお写真を撮影している際、当時は演技経験があまり多くないながら抜擢された形だったと話していましたね。

木下 あまり多くないどころか、ほぼゼロでした(笑)。当時は「何でもやります!」という気持ちで、いろんなオーディションを受けていた中の一つが「デカレンジャー」だったんです。なので、スーパー戦隊シリーズのことも知らないし、放送が1年間続くということもわかっていない。何も理解していない状況でした。

──しかし、デカレンジャーの一人に抜擢されて。

木下 確かに、自分は何もわかっていない。でも、やるからには何か残さなきゃって気持ちでした。それで、まずは当時放送中だった『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003~2004)を見ようとしたんですけど、朝が苦手なので放送時間に起きられなくて見られないという問題が発生して......結局、すでにDVD化されていた「アバレンジャー」の前作の『忍風戦隊ハリケンジャー』(2002~2003)を見るという(笑)。

木下あゆ美さんが演じた礼紋茉莉花(©東映)

──1年間続くということは、どのタイミングで知ったんですか?

木下 衣装を決めるときですね。デカピンク役の菊地(美香)ちゃんに、「1年間続くんだから、ちゃんと考えなきゃダメだよ!」って言われて、「えっ! 1年間も続くの?」って(笑)。そういう話を聞いていろいろ知っていくうちに、内心では焦るようになっていきました。「誰々は、演技経験が豊富ないい役者みたいだ」とか、そういう話が耳に入ってくるんですよ。だから、「私は何もできないかもしれないけど、とにかくついていかなきゃ!」という気持ちでしたね。

──そこから撮影がスタートし、どんどん経験を積んでいかれたと思います。その中で、女優としての転機になったのは?

木下 まず、最初は本当に真っ白な状態で撮影に参加していたと思います。それこそ、「右向け!」って言われたら「はい!」、「遅い!」って言われたら「はい!」という感じで(笑)。そこから私が変われたのは、「デカレンジャー」はデカレッドがメインの回だけじゃなく、レッド以外のデカレンジャー全員がそれぞれ一人ずつメインになる回があったことが大きいですね。

しかも、私がメインになったのはほかのメンバーがメインの回が終わったあとでした。だから、みんなの演技を見て「こうすればいいんだ!」と学ぶ時間があった。それが良かったんだと思います。特に確認したわけじゃないんですけど、プロデューサーさんが私の演技を見て、デカイエローがメインになる回を最後にしてくれたんじゃないかなと思っています。第1話の私の演技を見れば、そう思っても全然おかしくないぐらい、ほかのメンバーとの力の差は歴然だったはずなので。

──第7話(『サイレントテレパシー)』と第8話(『レインボー・ビジョン』)ですよね。その回では、エスパー能力を持った少年が宇宙人に操られて凶悪事件に加担してしまいますが、ジャスミンは自分と同じくエスパー能力を持つ少年の苦悩に寄り添い、自身の過去も語ります。ジャスミンの人物像が深く描かれたエピソードですよ。

木下 放送がスタートしてから、一人ひとりにそれぞれがメインの回が必ずあるんだということに気づいて、自分の番はいつになるんだろうってドキドキしつつ、自分の演技力の問題でイエローがメインの回はなしなんてことになったら悔しいし、自分がメインの回は絶対にいい回にしたい、みんなに負けたくないと思っていました。

そんな気持ちで挑んだんですけど、演じる上で大きかったのはジャスミンがなぜエスパーなのかなど、彼女の背景が描かれたことです。それまでの私は役作りなんてしたことがないから、台本に書いてあることがすべて。その人物の背景なんて、考えていなかったんです。

そもそも、「自分が演じている人物の背景を、私は理解していない」ということをわかっていない。だから、監督への質問も出てこない。現場で言われる、目の前のことしかできない。でも、第7話と第8話でジャスミンという人間の背景が描かれたことで、演じるということがやっとわかり始めたというか。そこからは、後半に向けて力が抜けたいい演技ができていったと思います。

──ほぼ初めての演技で、ほかに苦労した部分は?

木下 実は、特に難しかったのが「ミステリアスでクールに」と言われたことです。実際の私はそれとは真逆の明るい性格だから、素を隠すのに必死だった記憶があります。もしも劇中の私がクールに見えていたとしたら、最初は緊張で顔がこわばっていたからです(笑)。その後、監督の「ジャスミンはクールだけど笑わないわけじゃないよ」というアドバイスをもらい、肩の力が抜けて本来の自分に寄せていくことができました。もう一つ大変だったのは、アクションシーンです。

デカレンジャーは女の子が2人いるので、どうしても比べられちゃうんですけど、それはアクションでもそうでした。私は全然ダメで、美香ちゃんはダンス経験者なので、キックが上手でアクションが得意。それでも私なりに本気で取り組んでいたんですけど、アクション監督の石垣(広文)さんに「お前、いい加減にしろよ」って言われたことがあったんです。ロケバスで、ドライバーさん以外には私と石垣さんしかいない状況で言われたんですけど、あの言葉は衝撃でしたね......。確かに攻撃するアクションも下手だし、受け身の取り方もダメでよく指導されていたんですけど、アクション監督に「お前、いい加減にしろよ」って言われるぐらいダメなんだって。

──自分なりには本気で取り組んでいただけに、当時はかなりショックだったかと思いますが、そこからさらに一念発起して?

木下 より本気になりました! 特に成長できたと感じているのが、「痛い!」とか「つらい!」というときにリアクションする表情です。「デカレンジャー」って、変身前の素顔のままで戦うシーンもあったし、デカイエローはやられる場面も多かったので、その成果だと思うんですけどね。そういう経験が活きたのか、もともとはアクションができない私なのに、「デカレンジャー」以降の出演作にはアクション作品も多いんです。すごく不思議ですよね。それは、「デカレンジャー」でできないなりの必死さで、"できてる顔"をしていたおかげかなって思います(笑)。

──木下さんにとって、『特捜戦隊デカレンジャー』はどういう意味を持つ作品でしょうか?

木下 私の代表作の一つであり、演技経験ほぼゼロの自分を成長させてくれた原点です。この作品でアフレコを初めて経験したことで声優という職業を知って、興味を持ったことで、その後の声優の仕事にもつながりました。そして何より、今も絆が深い一生の仲間ができた場所です。

そして、「デカレンジャー」はいろいろな人たちとのつながりが生まれた場所でもあります。芸能活動をしていても、普段の生活をしていても、「子どもの頃、『デカレンジャー』を見ていました!」という方に今もお会いしますし、インスタグラムには私が「デカレンジャー」のジャスミンだということを知った、海外のスーパー戦隊シリーズファンがコメントをくれたり。絶賛育児中の3児の母同士として今も連絡を取り合う長澤奈央ちゃんと仲良くなれたのも、お互いスーパー戦隊シリーズに出演していたという共通の経験があったからだと思います。

スーパー戦隊シリーズが今も続いていることで、私も自分の子どもと一緒にスーパー戦隊シリーズの最新作を見て、いろんな話ができたりします。ずっと続いているからこそ、いろんなつながりが広がっていくんですよね。それは、スーパー戦隊シリーズの大きな魅力だし、ならではの面白さだと思います。

──お子さんたちも、スーパー戦隊シリーズ好きなんですね。

木下 特に長男は、『特捜戦隊デカレンジャー 10YEARS AFTER』(2015年)に赤ちゃん役で出演しているので、思い入れがあるんじゃないかと思います。いつかまたスーパー戦隊シリーズに出られると思ってたら、どうしよう(笑)。

──でも、スーパー戦隊シリーズで親子共演が実現したとしたら、すごく夢のある話だと思います。

木下 そんなことになったら、どうしましょうね(笑)。たぶん、息子だから厳しい目で見ちゃうと思うんですよ。自分が石垣さんに言われたみたいに、「お前、いい加減にしろよ」って息子に言っちゃうかもしれません(笑)。

●木下あゆ美(きのした・あゆみ)
1982年12月13日生まれ、愛知県出身。現在は 3児の子育てに奮闘しながら、マイペースで女優として活動している