カメラマン・小塚毅之氏のルーツとは?カメラマン・小塚毅之氏のルーツとは?

いつもはあまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく連載コラム『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』が、『週プレ プラス!』にて好評連載中だ。

"カメラマン側から見た視点"が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4話にわたってお送りしている。

第6回目のゲストは、かつてまだ名もなき頃の優香(1997年、週プレ誌面で芸名募集)を撮り下ろした小塚毅之氏が登場。川村ゆきえ『ゆっきー・ざ・ばいぶる!』のほか、くりえみ『ネコ目線』橋本萌花『社長令嬢のフェロモンキャンプ』など、個性的な作品を残してきた小塚氏に、その表現のルーツを聞いた。

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――噂によると、カメラマンになる前にディスコのボーイをされていたんだとか。子どもの頃から音楽はお好きだったんですか?

小塚 好きでしたね。4つ上の姉がクイーンなどの洋楽をよく聞いていたので、その影響を受けたんだと思います。小学生の頃は、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)の『TONG POO』って曲が大好きで、家族から「同じ曲ばかり流すのやめて」と言われるくらい、ずっとループしていました(笑)。そこからツイストやゴダイゴにハマって、中学生のときには、ひとりでコンサートにも出かけるようになって。

――中学生で、ひとりコンサートですか。お早いですね。

小塚 ディスコに通いはじめたのは、高校生の頃でした。当時、カルチャー・クラブやデヴィッド・ボウイ、ニュー・オーダー、デュラン・デュランなど、いわゆるニュー・ウェイヴと呼ばれるイギリスの音楽がたくさん日本にも来ていて、めちゃくちゃカッコ良かったんですよね。

それで、僕は名古屋出身なんですけど、栄に行くと、ニュー・ウェイヴやパンクの人たちが集まるディスコがあったんです。そこで音楽に触れるのがとても楽しくて。気づけば毎週末、遊びに行っていましたね。

それと栄の地下街には、当時流行っていたY's(ワイズ)やコム・デ・ギャルソンなど、DCブランド(80年代の日本で社会的ブームを巻き起こした個性的なデザインのファッションブランドの総称)の服を着た人や、テクノカットの人たちがいっぱいいたんですよ。

そういったファッションカルチャーにも憧れて、『流行通信』や『MR.High Fashion』、『Olive』などのファッション誌を参考に、彼らのような格好をし出したのもこの頃でした。

――音楽とファッションに傾倒した高校時代だったんですね。

小塚 まぁ、ディスコで遊び出してからは高校も休みがちになって、結局辞めてしまったんですけどね。授業にもついていけてなかったし、当時は街で遊ぶのがとにかく楽しかったから。(後に大検取得済み)

そしたら、ちょうど、クリエィティブディレクターの秋山道男さんがプロデュースしたディスコが近くにオープンしたんですよ。もうそこで働くしかないなと。それが"噂のボーイ時代"ですね(笑)。ディスコといっても、今でいうクラブみたいな感じで。いとうせいこうさんや高木完さんらもラップを披露しに来るようなお店でした。

――スゴいですね! わりと大きなお店だったんじゃないですか?

小塚 そうですね。週末は500人くらいの人で賑わっていたんじゃないかな。主なお客さんは、名古屋のアパレル店員さんや美容師さん、モード学園に通う若者。仕事で名古屋に来た俳優やミュージシャンの方がいらっしゃるなんてこともありましたね。ライブ終わりのチェッカーズのみなさんが来られたこともあったんですよ。まだ僕も10代でしたし、有名な人に会えるだけで楽しかったです(笑)。

――お話を聞いているだけで楽しいですね。そのボーイの仕事はどれくらいまで続けていたんですか?

小塚 2年ほどですね。20歳になる頃に辞めました。ディスコは夜がメインの仕事じゃないですか。ほぼ昼と夜が逆転した生活を2年も続けていると、さすがに体も疲れてくるというか。毎日6~7時間、大音量で音楽が流れる空間にいるのがだんだん辛くなってきたんですよね。

一緒に働きはじめた同僚も辞めたし、僕もそろそろ辞めどきかなぁと。その後は、しばらくホテルのレストランやカフェなどの飲食関係を中心にアルバイトを転々としていました。

――将来については考えていたんですか?

小塚 10代のうちは楽しさに身を任せていられたものの、20歳を超えると途端に焦りも出てきて。まだハッキリとした夢はなかったですが、ずっとファッションには興味があったので、ひとまず、東京にある専門学校のスタイリスト科の夜間コースに通うことにしました。

週1回・半年間のコースで、授業料も十数万と安かったですし、何かしらの理由をつけて東京に出てみたかったんですよね。そのときは、原宿で家賃3万4千円の風呂なしアパートを借りて生活していました。

――そんな物件が原宿にあったんですね。

小塚 意外とあったんですよ(笑)。それに当時は、ラフォーレの前でスカパラ(東京スカパラダイスオーケストラ)が演奏していたり、コカ・コーラのCM撮影の現場を見かけたり、何気なしに原宿をぶらぶら散歩しているだけで面白かったんですよね。

「やっぱり東京ってスゴいんだなぁ」なんて思いながら、上京生活を楽しんではいましたが、そうやって遊んでいる間に何もモノにできないまま、半年間の専門学校が終わってしまい......。

――そうは言っても、半年間でそれなりの知識を身につけるのって、なかなか難しいですよね。

小塚 いや、僕の真剣味が足りていなかったんですよ。せっかく上京したというのに、またアルバイト生活です。平和島の方で宅配便の仕分け作業をしたり、肉体労働の派遣バイトをやったり。

しばらくは、バイトして家に帰って寝るだけの日々を送っていました。それも長くは続かず、生活費もままならなくなって......。上京から一年も経たないうちに名古屋に帰りました。

――厳しい現実ですね。

小塚 現実逃避じゃないですけど、名古屋や東京でアルバイト生活をしているときは、ほぼ毎日映画を見ていましたね。最初は、楽しい気分になりたくて、MGM(アメリカの映画配給会社・メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)のミュージカル映画『巴里のアメリカ人』を。

いくつかミュージカル映画を見たあとは、イタリア映画にもハマりました。特に、フェデリコ・フェリーニ監督の『青春群像』や『8 1/2』などの物悲しい雰囲気が好きで。登場人物の情けない感じが、妙に刺さったんですよね。

――洋画が多かったんですか?

小塚 主に洋画を新旧くまなく見ていました。例えば、イタリア映画を見て「イタリア語の響きがいいなぁ」と思うと、片っ端から気になるイタリア映画を辿って見ていくんですよ。

フランス映画だとヌーヴェルヴァーグ(1950年代末にフランスで起こった映画革命。若手監督らが即興演出、同時録音、ロケ撮影などの手法を用い、低予算で制作しているのが特徴)に惹かれた時期は、その時代の監督の作品ばかりを見まくっていましたね。

エリック・ロメール監督の作品とか、これは演技ではないんじゃないかってくらい自然に会話をしていて面白いんですよ。あとは、ヴィム・ヴェンダース監督のロードムービーも繰り返し見ていました。アルバイト生活は辛くても、映画を見ている時間だけは楽しかったですね。

――映画に救われていたんですね。

小塚 本当に救われていましたよ。今は仲良いですけど、その頃は家族からも「こいつは、これからどうするつもりなんだ」と相手にされていなかったですし。そうしていろんな作品を見ていくなかで、次第に「映画に携わる仕事をしてみたいな」って気持ちが漠然と芽生えてきたんです。

高校を辞めてしまって友達もいなかったから、何のツテもなかったですし、どうすれば映画に携われるかも全く分かっていなかったのですが(笑)。そんなあるとき、「アルバイトニュース」を見ていたら、名古屋で未経験者歓迎の写真スタジオを見つけたんですね。「ここに行けば映画に近いことができるかもしれない」。そんな思いで応募して、何とか働かせてもらえることになって。

――写真スタジオですか? 映画と写真はまた違うと思うのですが。

小塚 確かに違うのですが、当時は、どこか近いモノだって感覚があったんですよね。それに性格的には、多人数が集まって作る映画より、少人数でも撮れる写真の方が自分には向いている気がして。

かと言って、最初は写真に興味があったわけでもなく、カメラに触れた記憶といえば、小学生のときに、家の近くの駅で鉄道を撮りに行ったことが1度か2度あった程度。それも親が持っていたカメラだったので、スタジオに入るときも、自分のカメラは持っていませんでした。

と、そんな感じで入ったスタジオではありましたが、写真の道で生きていこうと思うまでに、そう時間はかからなかったですね。

●小塚毅之(こづか・たかゆき)
写真家。1967年生まれ、愛知県出身。
趣味=映画鑑賞、散歩
集英社スタジオ勤務時に写真家・中村昇氏から指導を受け、卒業後、週刊プレイボーイ写真室に在籍。その後、1997年に独立。
主な作品は、川村亜紀・小池栄子・坂井優美・佐藤江梨子・松岡ゆき『Dynamite 5』、佐藤江梨子『cinnamon』、小倉優子『りんごともも』、熊田曜子『TЯAP! 』、川村ゆきえ『ゆっきー・ざ・ばいぶる!』、森下悠里『秘めごと。』など。3月25日、林田百加 1st写真集『ハイレグの国』(竹書房)が発売予定。また、オムニバスおっぱい写真集『コレクション インフィニティ』も発売中。被写体に接近した生々しい作風で、唯一無二の世界観を見せる

★第二話配信中! 写真家・中村昇氏との出会いから、優香、イエローキャブを撮るまで。(第二話以降は『週プレ プラス!』にて、会員限定でお読みいただけます)

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