『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
7月8日に全国公開予定の映画『ビリーバーズ』のサウンドトラック、主題歌を手がける曽我部恵一(そかべ・けいいち)さんが衝撃を受けた映画について語ります!
■幼少期から映画好き。小学生で『食人族』のポスターを購入
――子供の頃に見た映画で記憶に残っている作品はありますか?
曽我部 けっこうあるんですけど、特にジャッキー・チェンの映画ですかね。『酔拳(すいけん)』(1979年)とか、『クレージーモンキー 笑拳』(1980年)とか。最初期の『少林寺木人拳』(1981年日本公開)はジャッキーがまだ整形前で顔が渋いんですよ(笑)。ちょっと暗めの内容だけど、カッコよくて。そこからブルース・リーにいきましたね。
あとは『食人族』(1983年)も、小学生の頃に映画館で見たのを覚えています。女の人が串刺しになっているポスターを買って帰って部屋に張っていたら、親が心配してました(笑)。
――今回の『ビリーバーズ』のように『食人族』もエロス要素がありますが、小学生の頃によく見ましたね(笑)。
曽我部 エロスの延長線上のカニバリズムなんですよね。SMというか。ウチはマンガはダメだったけど、本や映画には親がお金を出してくれて。だから、地元の街に一軒だけあった映画館でかかった面白そうな作品はなんでも見てました。雑食というか。
――曽我部さんの音楽スタイルにも通じそうですね。
曽我部 それはそうかもしれないですね。
――ちなみに、ご自身の楽曲で映画をモチーフにしたものってあったりします?
曽我部 映画を見て感動したら、その都度、影響を受けて曲は作りますね。例えば、中国のロウ・イエ監督の『スプリング・フィーバー』(2010年)を見たときは『春の嵐』という曲を作りました。
――『天使』は『ベルリン・天使の詩』(1988年)じゃないかと思っているんですけど、いかがですか?
曽我部 直接的にあの曲を書こうとは思っていないけど、モチーフはあるかもしれませんね。『ベルリン・天使の詩』はカッコいい作品なので、僕の『天使』はもっと、マンガ家のいましろたかしさんが描くおじさんの天使かも(笑)。
――曽我部さんの曲は、映画的ですよね。
曽我部 強く意識はしてないですけど、昔は「ただ曲を集めるんじゃなく、一本の映画のように、物語が進んでいくようなものとして作りたいなあ」って思いながらアルバムを作っていました。
――話を戻して、最近見て刺激を受けた作品は?
曽我部 小学生の頃に昼の洋画劇場でやっていて、録画して何回も見た『サンゲリア』(1980年)という作品を最近DVDで見直したんですが、印象的でしたね。
ジョージ・A・ロメロの映画と双璧を成す、イタリアのゾンビ映画ですけど、ロメロよりもっとエグくてエロもあるんです。例えば、船に乗っている女性が急に服を脱いで素潜りしたら、そこでサメと遭遇するんです。
――当時はサメ映画ブームの頃ですもんね。
曽我部 はい、そのブームに便乗したプロデューサーがサメを飼っていたんですけど、撮影で使わないままそのサメが年を取ってしまったので、この映画で使うことになったらしくて。
劇中でゾンビとサメが戦う場面があって、名シーンとして知られているみたいなんですけど、実は当時のテレビ放送ではカットされていたんですよ。だから、この映画を何度もビデオで見ているのに、僕はそのシーンを見たことがなかったんです(笑)。
――過激だったんですかね?
曽我部 いや、たぶん尺的な問題です。テレビでは「おっぱいが出て、素潜りして、サメが出て......で、海から上がる」という流れで。DVDを見たときは「そんな重要なシーンをカットしてたんだ!」と思ったけど、でも、好きな映画なのに見たことがないシーンがあるのはむしろ面白い体験でしたね。久々に見た映画に発見がありました。
■「崩壊と純朴」を両立させたサントラ
――7月8日公開予定の映画『ビリーバーズ』では主題歌とサウンドトラックを担当されていますが、映画音楽を作る上で心がけていることは?
曽我部 音楽の当て方で作品の雰囲気が変わるので、監督にじっくりお話を聞いて、見せたい方向性と齟齬(そご)がないように心がけています。
――『ビリーバーズ』もそういう意識だったと。
曽我部 そうですね。もともと山本直樹さんの原作マンガも読んでいたので、破滅に向かって人間の回路が壊れていく姿を電子音で表現したらいいんじゃないか、と思っていました。脳のバグみたいな。
そうしたら、城定(じょうじょう)秀夫監督が「電子音に、アコースティックの生の音が同居している世界観がいいですね」と言ってくれて。崩壊の部分だけを見せるのではなく、主人公たちにもともとあった純朴な部分も監督は大事にしているんだなと感じて、その両方が印象に残るように作りました。
――山本直樹原作らしく、エロスのある作品ですよね。
曽我部 山本さんのマンガって、僕の中では植物っぽい印象なんです。線が細くて清潔感があって、手書きの肉感のある画風ではないから。その一方で、城定監督の作品は肉っぽい、動物的なエロスを感じる。そのふたつが合わさるのは面白かったですね。
――曽我部さんは音楽のプロデュースもされますが、その作業と、サントラ作りは近いものがありますか?
曽我部 かなり似ていますね。昔は映画音楽に対して、「悲しいシーンに悲しい音楽をつけるとダサい」と感じていたんですけど、実は全然違って。「悲しいシーンに悲しい音楽をつけてほしい」というのが監督の意向だったら、そういうふうにやるのがサントラ作家だと思うようになりました。
音楽のプロデュースも同じで、そのアーティストの「こう歌いたい」という思いに対して、「自分の経験が生かせるならなんでも手伝います」という感じ。「この人をこう料理した」というのは失礼な気がするんです。だから、下請けって感じなんですよね、本当に。
この作品の前に、行定(ゆきさだ)勲監督の『劇場』(2020年)の音楽も担当したんですけど、この作品も監督の世界観が強固にありました。もし僕が自分のアーティスト性を押し出して音楽を作っても、監督の世界観に入り込めません。
だから、たくさん質問しながら作っていきました。『ビリーバーズ』の劇中のセリフを引用すれば、「あなたの夢の中に入れてくれるなら、私の夢の中に入れてあげよう」ということでしょうか。
■『ビリーバーズ』7月8日(金)より全国順次公開予定
●曽我部恵一(そかべ・けいいち)
1971年生まれ、香川県出身。シンガー・ソングライター。1992年にサニーデイ・サービスを結成し、中心人物として活躍。解散後、2001年からソロアーティストとしての活動を開始。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立。2005年、曽我部恵一BANDを結成。2008年、サニーデイ・サービスを再結成。多岐にわたって活動中