3月、ブルース・ウィリス(67歳)が失語症の発症を理由に俳優業の引退を発表した。アクション映画の『ダイ・ハード』シリーズをはじめ、ネタバレ厳禁の『シックス・センス』、文字どおり全米が泣いた『アルマゲドン』などの名作を世に残してきたブルース。
そんな彼の魅力を、23年間いちずに研究してきた20世紀フォックス映画公認ものまね芸人、プチ・ブルース氏が語り尽くす!!
■すべての出演作品を研究してきた男
――俳優、ブルース・ウィリスが引退を表明しました。23年間もの長きにわたりものまねをしてきたプチ・ブルースさん、今の心境は?
プチ・ブルース(以下、プチ)残念としか言いようがないです。失語症で俳優としての活動に支障をきたしたための引退だそうですが、確かに役者として致命的ですよね......。
私の父親も脳梗塞(こうそく)の後遺症で失語症になったことがあり、2回目の発作で逝ってしまいました。そう考えると、現時点でブルースは一命を取りとめているわけで、ほっとしている部分もあります。
今後はモデルの現妻、前妻のデミ・ムーア(女優。代表作に『ゴースト/ニューヨークの幻』)、そして3人の娘の計5人がかりで介護をすると報道されているので、それも安心材料です。しかしながら今後、俳優としての彼を見られないのはショックが大きいです。
――近年のブルースは脇役が多かったそうですね。
プチ そうなんです。ポスターには主演級で掲載されているのに、実際に見てみると最初と最後にしか出てなくて、実質的な主人公は若手俳優というケースが多かった。
アメリカではそれがネタにされてて、2021年のワースト映画の祭典「ゴールデンラズベリー賞」で「ブルース・ウィリスの最低演技賞」という部門賞が設置されたほど(ブルースの引退を受けて同賞は取り下げられた)。
この彼の仕事ぶりについて、坂上忍さんはテレビで「失語症でセリフが覚えられないからチョイ役が多かったのでは?」なんて言ってましたけど、私はそうは思わないですね。彼の性格でそういう仕事を選んできたんじゃないかと。
――といいますと?
プチ 「出演本数を増やして稼ぎたい」という感覚はあったはず。父親として娘たちの養育費を稼ぐ責任がありますからね。それに知人のプロデューサーに出演を頼まれると断り切れないこともあったかもしれません。ブルースの名前があるだけで製作予算が集まりやすくなるし、一緒に演じる若手の役者たちの育成にもなりますし。
――......とワケ知り顔で語ってらっしゃいますが、そもそもプチさんってブルースに会ったことは?
プチ ないんですけど(笑)。ただ、ものまねをする上で全作品を見てきましたし、研究も続けてきました。かなり近いところまで接近したこともありまして。
2007年の『ダイ・ハード4.0』の公開時、20世紀フォックス映画(現・20世紀スタジオ)がプロモーションのために、私が主演のパロディ動画を数千万円かけて制作してYouTubeで展開したんです。そう、私はフォックス公認の『ダイ・ハード』ものまね芸人なんですよ!
で、その流れで来日会見中のブルースに直撃することになったんですが......何度も呼びかけたけど無視されましたね(笑)。
ブルースはものまね芸人が宣伝に関わっていることは知っていたらしいんですが、あまりいい印象を持っていなかったそうで。フォックス映画に説得されて最終的に納得されたと聞きました。
■子供と家族を救う普通のおじさん像
――映画マニアでもあるプチさんから見て、ブルースはどんな役者だったのでしょう?
プチ 簡単に言うと、ブルースはどの映画でも"普通のおじさん"なんです。『ダイ・ハード』(1988年)は普通の刑事がテロに巻き込まれる話だし、『アルマゲドン』(1998年)に至っては石油採掘員です。そんな普通のおじさんが家族を助け、最終的には人々や地球を救っちゃう。カッコよすぎでしょ!?
シルヴェスター・スタローンやアーノルド・シュワルツェネッガーのように訓練された兵士でもサイボーグでもない。そしてトム・クルーズやジョニー・デップのようなイケメンでもない。ブルースは終始、普通のおじさんなんです。
『ダイ・ハード』でいうと、アクションもののヒーローなのにいちいち愚痴を言いますよね? 「ツイてねえなぁ」とか「早く帰りたい」とか。ついでに敵と戦っている最中、壁に張ってあるエロいポスターを2度見、3度見したりもする。こういう男性っぽいリアリティはブルースにしか出せない味なんです。
しかも彼、役者を始めたのが20代後半からで、それまでは工場労働や原子力発電所の警備員として働いていた市井(しせい)の人だったんです。探偵をやっていた時期もあったとか。
さらに生まれつきしゃべるときにどもってしまう吃音(きつおん)症を抱えていたにもかかわらず、役者の夢を捨てられず最終的に成功をつかんだ。演じているときには不思議とどもらなかった、なんていう話も。そんなの憧れちゃいますよね。
――そんなプチさんの心に残っているブルースの出演作といえば?
プチ やはり『ダイ・ハード』シリーズは外せません。彼の「普通のおじさんなのにカッコいい」というキャラクターが確立された作品ですから。シリーズは全部で5作。できれば全部見ていただきたいんですが、あえて言うなら1作目『ダイ・ハード』、3作目『ダイ・ハード3』(1995年)、4作目『ダイ・ハード4.0』の3本ですね。
ほかにも、私が一番好きなM・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』(1999年)。ブルースはアクション映画で売れたことに対して少し戸惑いがあったらしいんですが、本作はサスペンス映画。大がかりなセットもCGもない。ブルースが淡々と小児精神科医を演じる作品なんです。
本人がネタバレ厳禁と公言していたのでこれ以上の解説は避けますが、興行収入は『ダイ・ハード』よりも上で、全米で3週連続1位。2000年のアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされた名作です。
そしてディズニー映画の『キッド』(2000年)。成功のためなら恋人も家庭もいらないというエリートビジネスマンが、ある少年との交流のなかで人間性を取り戻していくストーリーです。これもアクション俳優ではないブルースが見られる一本ですね。
極めつきは『アルマゲドン』でしょう。小惑星の衝突で人類が滅亡の危機に。ブルースは石油採掘員で、年頃の娘を持つ父親役。ブルースは娘と地球を救うために宇宙でのミッションに赴くワケです。
ラストシーンでエアロスミスの名曲『ミス・ア・シング(I Don't Want to Miss a Thing)』が流れるところでボロ泣き必至! ただのおじさんがこれだけカッコよく描かれている映画を私は見たことがない。こんなのシュワルツェネッガーやトム・クルーズじゃ絶対にできません!
――子供や家族が絡んでくるとブルースは途端に輝きますね。
プチ やはりブルースは子供や家族を守る一般人のお父さんやおじさんを演じたときに光るんです。決してスーパーヒーローじゃない。だからこそ彼の作品は共感しやすいんだと思います!
ちなみにこのほかにブラッド・ピットとの共演作でもあるSFアクション『12モンキーズ』(1995年)、リュック・ベッソン監督作の『フィフス・エレメント』(1997年)も忘れられないですし、彼が最初から最後まで主演として演じきった作品としては実質最後だったのではないか?ともいわれている『デス・ウィッシュ』(2018年)の重々しい名演も見逃せない......。もうダメだ! 選びきれない! 彼の出演作は全部見てください!
■AKB48でブルースを唯一知っていた人
――ちなみにプチさんは今後もブルースのものまねは続けるんでしょうか?
プチ はい。ブルース・ウィリスという役者がいた事実を後世まで伝えていきたいと思ってます。営業に行くとわかるんですが、今の若い人はブルースのことを知らないんですよ。
10年くらい前にテレビ番組でAKB48と共演したことがあるんですが、ほぼ全員ブルースのことを知らなかったんです。私をただのハゲだと思って「頭触らせてー」って言ってきたりして。
そんななか、ひとりだけ「あれ? ブルース・ウィリスじゃん!」って爆笑してくれた人がいるんです。それが大島優子さん。彼女だけが『ダイ・ハード』を認識していた。アイツはわかってる。デキる女です(上から目線で)。もう最近は「面白くない」って言われるよりも「ブルース・ウィリスを知らない」って言われるほうがショックです。
――ところで、もし『ダイ・ハード』シリーズ最新作が作られるとして、プチさんにオファーが来たらどうします?
プチ (急にビビった表情で)いやいや、そんなこと絶対にないですよ......。
――でもこの世でものまねが公認されてるのはプチさんだけです。20世紀スタジオともつながりはありますし。
プチ いやぁ~、本家をやるのは畏(おそ)れ多くて......。『ダイ・ハード4.0』の公認パロディ動画に出ることさえ勇気がいりましたから。でもマクレーン刑事本人ではなく、パロディだったらぜひお願いしたいです。「あ、ブルースだ!」と思ったら実は私で、すぐに撃たれて死んじゃうみたいな(笑)。
――それでは最後にウィリスさんに向けて国境を超えたアツいメッセージをお願いします!
プチ 失語症が憎くて仕方ないです。病気なのであれば奇跡的に回復したりしないのでしょうか? 脳細胞のダメージであればiPS細胞の移植とかでどうにかなりませんか? そしてモーガン・フリーマンやショーン・コネリーのように、老いてもいい味を出せる、存在感のある演技を見せてほしいです。
贈る言葉ではなく、私の単なる願望になってしまいましたが、これは本心です。「今までありがとうございました」「感動をありがとう」なんて言葉は使いたくありません。まだまだアナタの演技を見たかった。これに尽きます。
●プチ・ブルース(Puchi Bruce)
1959年生まれ、神奈川県出身。本名、鈴木亮裕。幼少期から洋画と洋楽を愛す。会社員時代、同僚に「ブルース・ウィリスに顔が似てる」と言われ、ものまねオーディションに合格したことをきっかけにものまねを始める。30代後半に住宅ローン返済のめどが立ったため脱サラして芸人に