『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
7月16日より公開される映画『ほとぼりメルトサウンズ』に出演しているムーンライダーズの鈴木慶一さんが、青春時代に影響を受けた映画、造詣の深い映画音楽、4月に発売された新作アルバムについて語ります!
■青春時代に影響を受けたヒッピー映画とディストピア映画
――子供の頃に見て印象に残っている作品は?
鈴木 3歳か4歳の頃に見たアニメ映画『ピーター・パン』(1955年)。ウェンディを初めて見て、「外国人の女性ってこんな顔してるんだ」って。あと犬のナナ。あんな巨大な犬も初めて見た(笑)。30年後にロンドンへ行って、「ああ、これは『ピーター・パン』の屋根だな」と思いましたね。
――青春時代に影響を受けた映画はなんですか?
鈴木 『イージー・ライダー』(1970年)です。ちょうど高校を卒業して、「さあ、これからどうしようか」と思っていた時期に見て、ヒッピーの方向に押し出してもらったよね(笑)。ああいう生き方をしようと。 でも、実際ああいう生き方はできないけど(笑)。
――ムーンライダーズの歌詞は映画的ですが、バンドマンになってから見て、印象的な映画はありますか?
鈴木 高校を卒業してから1、2年はものすごく映画を見ていました。特に衝撃的だったのは(ジャン=リュック・)ゴダールの『ウイークエンド』(1967年)。吐き気がしたよね(笑)。夫婦が事件に巻き込まれて人肉を食らうヒッピーが出てくる話だけど、シャロン・テート事件のようにヒッピーの終わりを象徴していると思う。
あとは『サテリコン』(1970年)。古代ローマの話が現実のように描かれていて、聞いたことのない民族音楽を使っていて。その相乗効果でこれも吐き気がした(笑)。
――グロテスクな映画がお好きなんですか?
鈴木 当時はハッピーエンディングな作品も見てはいましたよ。スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスの作品を面白いなと思う時期もあった。でも、やっぱりディストピアがいいよね。『時計じかけのオレンジ』(1972年)、『シャイニング』(1980年)、『ブレードランナー』(1982年)、『マッドマックス2』(1981年)とか。
――ムーンライダーズのアルバム『マニア・マニエラ』然り、同『ANIMAL INDEX』然り、ディストピア感はありますよね。
鈴木 映画の影響はあります。アルバム『カメラ=万年筆』のタイトルも映画から引用していますしね。でも、その映画自体は全部見ていなかったりするし、映画と曲がリンクするものもあれば、リンクしないものもあります。
――映画音楽をたくさん手がけられていますが、サントラにはどう触れてきましたか?
鈴木 子供の頃から映画音楽は耳に入ってきていました。最初にターンテーブルに乗せたのは『西部開拓史』 (1962年)。そこでグリーンスリーブスを知って、後にビートルズに移っていくわけだけど。
日本の60年代のヒットチャートはアメリカやイギリスと違って、映画音楽がけっこう入っていたんです。それで自然と聴いていたし、『カッコーの巣の上で』(1976年)のエンディングとかもすごくいい音楽だと思いましたね。そういう経験が蓄積されて、80年代になると映画音楽専門店に通い出しました。
――映画音楽が本当に好きなんですね。
鈴木 「すみや渋谷店」のお店の人と友達になって、新譜の情報をもらったりして。サントラ盤は相当買いましたね。
――映画出演も多いですが、俳優としての活動は?
鈴木 お誘いがあれば出るスタンス(笑)。最初に出たのは『良いおっぱい悪いおっぱい』(1990年)。一瞬ですけど。
■最新出演映画では偶然が連発!
――7月16日公開予定の『ほとぼりメルトサウンズ』に出演されていますが、ご感想は?
鈴木 生涯で一番長い出演時間でした。ロケ地に1週間いるのなんか初めて。毎日、翌日のセリフを覚えなきゃいけない。その心配を解消するために、イチローと一緒で、毎日必ず同じルーティンをしていましたよ。夜帰ったら明日のシーンを読む。寝る。その繰り返しでした。
――『ほとぼりメルトサウンズ』はムーンライダーズっぽい作品ですよね。「テープレコーダーを土に埋める」なんて歌詞のまんまですし。
鈴木 台本を見て、「あれ?」と思いました。「夢が見れる機械が欲しい」とか、そのまんま歌詞と同じだと。
――歌詞の映像化ですね。
鈴木 歌詞の可視化(笑)。ぶったまげましたよ。だって監督はムーンライダーズの歌詞を知らなかったんだから。ものすごい偶然。「この偶然は面白いな」と思って、出演を決めました。
――偶然だったんですか! 高校1年生からのムーンライダーズファンとしては「どうやってテープレコーダーを土に埋めるんだろう?」ってずっと思っていたんですよ。
鈴木 テープレコーダーごと埋めるのか、カセットテープだけ埋めるのか、自分でも判然としてなかったけど、映画を見て、「あ、レコーダーごと埋めるんだ!」という発見がありました(笑)。
――ご本人が一番驚いている!(笑)
鈴木 ほかにも歌詞と映画の共通点は多いので、ムーンライダーズ好きは深読みできる映画だと思います(笑)。全部偶然なんだけど。偶然って本当に素晴らしいよね。
――ムーンライダーズとしては4月に約11年ぶりとなるニューアルバム『it's the moooonriders』をリリースされました。本当に過去最高傑作だと思います。
鈴木 前作から11年空いての再始動だし、メンバーの状況も変わっているし、今作は特別ですね。
――ムーンライダーズはライブタイトルに「ラスト」とよくつけますし、「終わり」を感じさせる活動が多いんですけど、今回は逆に「始まり」しか感じなくて。感動してます。
鈴木 再デビューですね(笑)。11年休んだかいがあったんじゃない? 11年前は「これが最後だ、これが最後だ」って気持ちが積み重なっていて、「最後」をコンセプトにしたアルバム『Ciao!』(2011年)を作りました。一回、さよならしてるわけ。
始まりを感じてもらえるのは非常にうれしいですね。「もっと作ろう」という希望になる。これから音楽をやるときに評価とか不安になるんだろうけど、そのときに角田さんのこの言葉を思い出すだろうな。「角田さんの頭、緑色だったな」とか(笑)。
――うれしいです! 映画もアルバムも本当に最高なので。
鈴木 雑誌とかWebサイトのレビューで、10点か4点のどっちか取りたいね(笑)。
●鈴木慶一(すずき・けいいち)
1951年生まれ、東京都出身。1972年にはちみつぱいを結成。日本語によるロックの先駆的な活動を展開。その後、ムーンライダーズを結成。バンド活動の傍ら膨大な数のCM音楽、アイドルから演歌まで幅広い楽曲提供とプロデュース、『Mother/Mother2』などのゲーム音楽に関わる。映画音楽では『座頭市』『アウトレイジ 最終章』で、日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。俳優としての出演作も多数
■映画『ほとぼりメルトサウンズ』7月16日(土)より全国順次公開予定