人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが4月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが4月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

●今回の「先月の肉トーク」テーマ

第378話 友の決意に敬意を払え!!の巻(4月4日分)
第379話 1億パワーの代償!?の巻(4月11日分)
第380話 
機械の善悪!!の巻(4月18日分)
【あらすじ】
超神vs超人のバベルの塔大決戦は、第3ラウンドのオニキスマンvsウォーズマン。応戦に次ぐ応戦の末、ついにオニキスマンの必殺技をくらうも、限界突破の大技・1億パワースクリュー・ドライバーを振り絞る。ウォーズマン自身も力果てた結果、引き分けとなった。だが、オニキスマンの慈悲により天界へ行けることに

●弱点があるから愛される

爪切男(以下、) ウォーズマンと超神オニキスマンの闘い、引き分けで終わりましたけど。最後、わかり合えてよかったですよね。勝敗の先に「わかり合う」があるのって、『少年ジャンプ』のお約束ですよね。

燃え殻(以下、) 『キン肉マン』は、その先駆けだよね。僕らの世代は、「7人の悪魔超人編」でキン肉マンがバッファローマンに勝って、仲間になるって展開を見てきたから、「わかり合う」を素直にのみ込める。面白いのは、アメリカのバットマンとジョーカーって、いつまでたってもわかり合わないよね?

 それはそうですよね。

 闘って、そこで因縁が清算されて、握手して次へ行くみたいな武道精神って、日本のマンガでは当たり前だけど。

 アメリカのDCやマーベルでは見たことないかも、そんなの。アメリカと日本の文化の大きな差かもしれないですよね。

 日本のプロレスのひとつの特性でもあるじゃない? 闘って、そのなかでわかり合って、チームを編成していくみたいな形。新日もそうだし、女子プロも。

 そう、スターダムも、そのへんすごく面白い。でも逆に、例えば、デスペさん(エル・デスペラード)を見ていると、宿敵の高橋ヒロムのことをすごい信頼している感じ、あるじゃないですか。同じチーム(鈴木軍)の人への信頼とは別に、手を合わせてわかり合うことができる対戦相手に対しての信頼ってのも、プロレスでは大事なファクターですよね。

 ああ、確かにね。

 ロビンマスクが言う、「お前ともう一度真剣に闘いたい」(JC77巻)っていうのは、そういうのもあるんでしょうね。闘って肌を合わせないと、わかり合えない。そしてもう一度、キン肉マンと真の意味で強敵になりたいんだろうなと。とはいえ、そこまでの展開をつくることも含めて、そう簡単に実現はできないですよね。

 そうなんだよね。

 ロビンマスクとキン肉マンが闘うってなったら、ゆでたまご先生ご自身も相当な覚悟が必要だろうし。でも今回は、超人と超神という主張が違う同士が、死力を尽くしてぶつかった末に、お互いを認め合った。神に試練を与えられて、それをクリアすると、引き分けでも認められて、天界に行けるという。

 試練というか、それぞれの超人の弱点というか。そこの人間味あふれる感じも、ファンが『キン肉マン』に惹かれるところだと思うんだよね。その弱点がなくなると、神には近づくんだろうけど、逆に弱点を埋めると読者とは遠ざかるんだよね。

 欠けてるからこそ魅力的、っていうのはありますもんね。俺の場合、自分が惹かれる異性って、欠点がある女性ばっかなので。完璧な女性には魅力を感じない。だから俺の欠落も愛してほしい。

 ああ、なるほどね(笑)。

 だから、欠点があることがその超人の魅力だったのが、この先どう変わっていくんだろう?

 ウォーズマンの30分しか闘えないという設定がなくなったら、より強くはなるけど、30分しか闘えないがゆえの物語性も、失われちゃうもんね。

爪 そうなんですよね。

●唯一負けるのはキン肉マン!?

 オニキスマンがウォーズマンのことを認めて、ウォーズマンは天界へ行けた。引き分けからこういう展開になるのもアリなんですね。

 これにより、サンシャインまで天界に行くことが見えてきた気もする。

 それはなんで?

燃 プロレス団体同士の対抗戦の途中で「あ、今日これ、全部片方が勝つんだ」ってわかった感覚に近いとき、あったでしょ? その状態か、キン肉マンだけは負けるかの、どっちかだと思う。

 それか勝ちはしたけど、対戦相手がキン肉マンのことを認めてくれない、とか。キン肉マン、ちょっと甘ちゃんなとこあるじゃないですか。ウォーズマンとか、みんな自分の弱点を克服して乗り越えていってるのに、「おまえはそうじゃない。だからダメ、天界に行かせない」って超神に言われる(笑)。

 主人公だからって、キン肉マンを40年以上許してきた読者がいるじゃない? その、甘やかしてきた僕らのいいかげんさが、ついに否定される日が来る(笑)。

 あるかも。

 キン肉マン以外の超人たちは、ちゃんと自分の人生を生きてきたじゃない? でもキン肉マンは、成り行きで今まで来ているというか、ある種、感覚的で、さらに運にも恵まれてきたように思うんだよね。ほかの超人と比べて、努力が見えないというか。

 絶対的な主人公ゆえにね。

 「だからおまえはダメだ」と、今回超神からついに突きつけられる。で、キン肉マン以外は、全員天界に行く。

 その可能性、ありますね。

 とにかく、ウォーズマンが引き分けで天界に行った、っていうところで、「この興行は荒れるな」っていう。で、アシュラマンとサンシャインのタッグマッチが始まったから、残りはバッファローマンとロビンマスクとキン肉マンだよね。

 順番を予想すると、タッグマッチの後はバッファローマン、次がロビンマスク、最後がキン肉マンかな。でもほんと、キン肉マンだけは負けてもいいんじゃないか、っていう気がしてきたな。ほかの人たちは、試練を超えてきたから。キン肉マンにとっての、一番の試練ってなんだろう?って考えると、それは負けることだと思うから。

 確かに、キン肉マンって、勝ち負けに対する執着が、ほかの超人より薄いよね。なんとなく勝ってきてしまった、という部分があるので。

 だから、カメハメにあっさりやられたときのように(JC5巻)、久しぶりにめちゃめちゃ敗北を感じているキン肉マンを見てみたい。敗北を味わって、超えてほしい。

 瞬殺だったら面白い。

 いいですね! でもほんと、みんながキン肉マンに「おまえと会えてよかった」とか「おまえと闘いたい」って言ってくれているのに、本人はトーンが全然変わんないから。ここでそのまま勝ったら試練にならないですよね。何か乗り越えないといけない。

燃 キン肉マンの負け筋が見えてきたね。そろそろわれわれ読者も、キン肉マンに厳しく接していくべきなのかも(笑)。

 キン肉マンが負けたら、ニュースですね。

 ツイッターのトレンド入りじゃない? そしたらPV数上がりますよ、〝キン肉マン 敗北〟は。

●委員長の名ジャッジ

 あと、ウォーズマンvsオニキスマンで面白かったのは、最後に委員長が泣きながら「引き分けじゃ...」ってゴングを鳴らしてたこと。

 はははは。ねえ?

 「何さまだよ」って思いますけど。こんな名試合、おまえがジャッジしていいのか?

 そう、今のシリーズで初めて、委員長が引き分けというジャッジを下したじゃない? 「あ、この人にそんな権限があったのか!」っていう。

 でも実際、素晴らしいジャッジだった。勝ち負けをつけずに引き分けにしたことによって、試合後のウォーズマンとオニキスマンの対話が生まれたから。

 そうだよね。さすが委員長、ダテに長くない。

 委員長の名ジャッジに期待しますよ、これからも。キン肉マンが負けるんだったら、委員長に「負けじゃ!」って言ってほしい(笑)。

 ウォーズマンが負けるかもしれない、と思ったのは、技が......スクリュー・ドライバーとか、離れ業じゃない? これ、棚橋弘至状態でハイフライフローとか、かわされるとダメージがでかいから。

 サッとよけられるとね。

 固め技とか投げ技なら、逃げられてもそこまでダメージないけど。でもバッファローマン、ハリケーン・ミキサーが中心になってくるでしょう? かわされてボコボコにされる可能性がある。バッファローマンが勝つか負けるかによって、キン肉マンがどうなるかも変わってくるなあ。

 確かに、残ってる中で、誰かが負けなきゃいけないんだったら、ロビンマスクが負けるのはないと思うから、キン肉マンかバッファローマン。

 でも、バッファローマンが負ける所以が、ちょっと少ないので。キン肉マンの負けが濃厚かな。

 でもほんと、今のキン肉マンって、みんなの中心にいて、キン肉マンのせいで、ウォーズマンもロビンマスクも、心をかき乱されている。無自覚っていうのは、一番罪が重いですからね。その罪を超神に突きつけられたら、面白いかも。「おまえは無自覚すぎる。周りがどんなことを感じているか、考えたことがあるのか?」みたいな。

 確かにね。そもそも、リーダーとしての自覚が......。

 ちょっと最近見えない。

 そう、無意識にできちゃう人だから。

 プロレスラーでも、運動神経がすごく良くて、無意識になんでもできちゃう人は、リーダーにはなってないですよね。何かしらバックボーンがあったり、言葉の力があったりする人じゃないと。

 あるいは、何かを乗り越えた経験があるとか。内藤哲也とかそうだよね。

 キン肉マンも、ダメ超人の頃は、カメハメに負けたりとか、「夢の超人タッグ編」でみんなに裏切られたりとか。そういうのを乗り越えてきたけど、じゃあ今のキン肉マンは?っていうと。

 今のところ見えないよね。

 「現状維持すぎないか?」って言いたくなる......俺ら、キン肉マンへの愛が強すぎて、「だから負けてくれ」って思っているのかもしれない(笑)。

●ミートくんの偉大さ

 それから......4月8日だったから、もうだいぶたっちゃったけど。アニメのミートくんの声優、松島みのりさんが亡くなったね。

 ご冥福をお祈りします。『キン肉マン』を好きになったら、ミートくんは憧れますよね。自分にもミートくんみたいな、名セコンド兼親友のような存在がいてくれたらなあ、って。

 あとなんといっても、「キン肉星王位争奪編」のときのミートくんとミキサー大帝との闘い(JC25巻)。

 闘いで技を出さなきゃ、っていうときに、ミートくん、「王子をはじめとする、たくさんの正義超人たちの超一流のテクニックを目の当たりにしてきた」って、いろんな技を覚えていて、マネできるっていう。あれは、すごく胸が熱くなる展開だった。

 それでバックドロップで勝つんだよね。

 閉門クラッシュでミキサー大帝の腰を、自分が抱えられる細さにして、バックドロップ。あれ、めちゃめちゃいいシーンですよね。

 そうだねえ、あの声の方が亡くなったんだよねえ......。

爪 俺らも行った40周年の記念パーティ、松島さんも来ていらっしゃいましたよね。壇上に上がって、挨拶されて。

 そうそう。

 キュンってする声でしたよね。あの声で「王子ー!」って言われたら。昔のアニメの『キン肉マン』の声って、ベストキャスティングだった。

燃 いや、ほんとにそうだね。ご冥福をお祈りいたします。

 ミートくんの声が、松島さんでよかった、とあらためて思いますね。

燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がNetflixで全世界配信中。最新著は『それでも日々はつづくから』(新潮社)。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)が成田凌主演でドラマ化

爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。昨年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。本年2月より『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、3月『働きアリに花束を』(扶桑社)、4月『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)、の3ヵ月連続のエッセイ集刊行でも話題となった

●6月27日発売『週刊プレイボーイ』28号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

●JC『キン肉マン』78巻、好評発売中!!