『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス10巻を熱く語る

この巻から始まる「7人の悪魔超人編」。『キン肉マン』全編を通しても、今なお屈指の人気を誇る名シリーズにして、冊数でいうと4巻分にもまたがる初の大長編に突入していきます!

『キン肉マン』第10巻

読者の心に寄り添える優しさこそセンス!

『週刊少年ジャンプ』における看板作品としての地位を確立させた「7人の悪魔超人編」。肝心の新たな敵「7人の悪魔超人」の登場時、メンバーが安定しないなど語り草に事欠かないシリーズですが、最初の見どころはやはり、みんなの愛するミートくんがバラバラにされてしまうという最高の仕掛けでしょう。

全身が7つのパーツに分割され、そのひとつひとつが人質にされてしまう。10日以内に7人の悪魔超人全員を倒し、全パーツをくっつけないと大事なミートは復活しない。毎度、逃げ腰のキン肉マンが闘わざるをえない、誰もが納得する理由をまず提示するのが、ゆでたまご先生のストーリーテリングの巧みなところですが、僕が真っ先に感服したのはそのトリガーとなる人質の選択です。ヒロインのビビンバではなく、弟分のミートを使った。仮にこれが、ビビンバを救うための闘いだったなら、おのずとロマンスの要素が入ってきちゃう。

でも、当時のメイン読者層が小学生なのを考えたら、その手の追加要素は雑味にしかならない可能性が高いんですよ。それより、ミートを救うということにしたほうが圧倒的にわかりやすいし、子供の感性にストレートに刺さる。このあたりの判断に、作家として抜群のセンスを僕は感じるのです。

もっと根本的な話をすると、「7人の悪魔超人編」というシリーズ名からしてそもそもスッと頭に入りやすい、秀逸すぎるキャッチですよ。ネーミングセンスだと技名もそう。これまでのキン肉バスター、スクリュー・ドライバーなどに続き、このシリーズでもハリケーン・ミキサー、デビル・トムボーイ、レッグラリアートなんて一度聞いたら忘れられない技名が恐るべき頻度で生み出されていく。総じて、どうやったら人の心に刺さるか、という感性がゆでたまご先生は傑出しておられるんですよね。作家として、僕がひたすら尊敬すべきところです。

さて、そんな10巻はまずキン肉マンの2連勝から始まるわけですが、その対戦相手がまた面白い。初戦のステカセキング戦は、ギャグ多めながら超人オリンピックで優勝したキン肉マンの頼もしさが存分に堪能できる一戦。対して、ブラックホール戦はピンチの連続を切り抜けていくガチバトルとして、今回もギャグとシリアスの二面性はしっかり維持されているわけです。注目は2戦目、ブラックホールとの異能バトルともいうべき闘いです。影の中に溶け込んでは飛び出す神出鬼没さ、顔の穴に相手を吸い込むホラー感、前シリーズまでの闘いはあくまで肉体同士がぶつかり合うプロレス然としていたところから、敵の次元がひとつ上がって、まさに四次元レスリングの域にまで到達してきたのがこのあたり。

『キン肉マン』の試合に常識は存在しないという感覚は、今でこそファンなら誰もが持っていますが、その大きな分水嶺となったのは、まさに10巻におけるこのブラックホール戦ではないでしょうか。作品史において、記念碑的な一戦だったんじゃないかと僕は見ています。

待望のお祭り展開到来......かと思いきや!

そんなファンタジックな闘いに、なんとか勝利を重ねつつも、キン肉マンはこの2戦で体力の限界。3戦目は戦闘不可能としたところで、現実的なラインを引いたのも巧みです。じゃあ、この先どうなるんだと読者の不安をあおったところで描かれるのが、この巻の大本命回「役者がそろった!!の巻」。

闘えないキン肉マンの代わりに、超人オリンピックで競ったかつての強敵が勢ぞろい。「おまえばかりいいカッコウはさせないぜ!!」と、彼らが悪魔超人打倒を宣言する見開きはただひたすら感無量、何度見てもしびれます!

しかし、これがただのお祭り演出で終わらない。こんなの圧勝間違いなしかと思いきや、次の回ではあのロビンマスクとウォーズマンが「おれたちまた生きてあえるかな?」「フフ...なーに地獄であえるさ」と思いもよらぬ不穏な発言。そしてさらに次の回「第1の犠牲者!!の巻」ではとうとう全国の子供にトラウマを与えた恐怖のウルフマン惨殺劇へと発展していくわけです。

その相手のスプリングマン、外見はゆるキャラみたいで悪魔らしさは微塵もないのに、狡猾な策で相手を陥れていくその試合運びはまさに悪魔。今でこそ、彼の怖さは誰もが知るところですが、当時、初めて見た子供たちは勝ち確定の安パイキャラにしか見えなかったはずです。それが、あんな残虐な試合をやってのけた。

直後「しかし...その自慢の筋肉美もいまやただの...肉片にかわりはてた......!!」という、キン肉マンの詩的なウルフマン追悼モノローグまで含めて、このシリーズは今までとは違うという印象を強烈に植えつけたところでまだ序盤。さらに凄惨を極める11巻のロビンマスク対アトランティス戦へと物語は続いていくのです......。

●こんな見所にも注目!
バトル作品としての『キン肉マン』の特異性であらためて注目したいのが、対戦ごとに考え抜かれたロケーション。あくまでリング上での闘いを前提としつつ、ステカセキング戦は彼のラジオ機能を生かせる電波塔・東京タワー下。ブラックホール戦は影がくっきり出やすいソーラーハウスデスマッチで。対戦者同士の実力差、相性に加え、地形の有利不利がここまで勝敗を左右する競技はありそうで他に類を見ません。超人プロレスの隠れた醍醐味ここにあり、です!

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