『ツギクル芸人グランプリ2022』(フジテレビ系)で優勝した、ストレッチーズの福島敏貴(左)と高木貫太 『ツギクル芸人グランプリ2022』(フジテレビ系)で優勝した、ストレッチーズの福島敏貴(左)と高木貫太

次世代のスター候補の若手芸人らがピン芸・コント・漫才などジャンルを問わず争う『ツギクル芸人グランプリ』。

今年5月に行なわれたこの異種格闘技戦を制したストレッチーズは、ダチョウ倶楽部・上島竜兵の"最後の息子(ラストサン)"と呼ばれかわいがられた漫才師だった。彼らが受け継ぐ太田プロイズムとは――。

■優勝の背景にあった真空ジェシカの存在

――『ツギクル芸人グランプリ2022』優勝おめでとうございます! 副賞は人気番組への出演権でしたが、今のところの感触は?

福島敏貴(以下、福島) ありがとうございます! 大会の翌々日に『ポップUP!』(フジテレビ系)に出させていただいたんですけど、普段のライブとテレビ収録のスタジオとでは感覚が全然違いました......。月に30本くらいライブに出ていましたが、テレビはこれから感触をつかみたいと思ってます。

高木貫太(以下、高木) 今までテレビにほとんど出たことがないから、反省も、正しくできてるのかわからないというか(笑)。テレビで活躍するためには、今の自分にはない必要なものがたくさんありそうだなって雰囲気だけは感じ取りました。

――『ツギクル』決勝のファイナルで競り合ったGパンパンダは、おふたりと同じく、大学のお笑いサークル出身。昨年は真空ジェシカが『M-1グランプリ』決勝に進出するなど"大学お笑い"の面々が活躍しています。

高木 実は、真空ジェシカの川北(茂澄[しげと])さんは同じサークル(慶應義塾大学の「お笑い道場O-keis」)のひとつ上の先輩でずっとお世話になってきたし、相方のガクさんとは8年ぐらいルームシェアしてる関係なんです。

だから決勝が決まったときはうれしいよりも、悔しい気持ちが強くて。あと「行かないで!」って気持ちでした(笑)。

福島 真空ジェシカって芸歴の半分ぐらいはコントに重きを置いていて、あるときから漫才に切り替えて『M-1』決勝に行ったんです。僕らは後輩ですけど"漫才歴"でいえばこっちのほうが長い。だから、漫才で追い抜かれたって悔しさがありましたね。

高木 ただ、川北さんは僕が18歳でお笑いサークルに入って初めて見た面白い人でもあるんです。もちろん中学・高校のときにも面白い人はいましたけど、「こういう人がお笑い芸人になるんだ」って思ったというか。そんな先輩が去年『M-1』決勝に行って活躍しているのは誇らしくもあります。

福島 僕らストレッチーズは、『M-1』で5年連続準々決勝止まりなんですけど、真空ジェシカも2年前まで同じような状況だったんですよ。そこから去年パーンっと決勝に行って、そのときに川北さんが「やっぱ準々決勝が壁だわ」と言ってて。

ってことは、この壁を突破すれば決勝に行けるかも、と勇気がもらえたし、身近な人たちが行ったことで自分たちも行けるんじゃないか、と希望も湧きました。

■太田プロの上下関係は「竜兵会」で築かれた

――太田プロダクションというと、有吉弘行(ひろいき)さん、劇団ひとりさん、土田晃之(てるゆき)さん、とバラエティ番組で活躍する芸人さんが多いイメージがあります。その中で、ネタで優勝したストレッチーズは珍しいコンビ?

福島 決してそんなことはないと思います。今バラエティで活躍している宮下草薙(くさなぎ)とか納言(なごん)はキャラクターが強いので、ネタで売れたワケじゃないと思われがちですが、2組ともネタ番組で面白いと認められたから売れてると思うんですよ。

賞レースでいうと、さすらいラビー、青色1号、サルベースっていうネタに強い同世代がいる。「太田プロの若手はネタが強いんだ」ってところを見せられるよう、先陣を切っていきたいです。

高木 自分たちで言うのもなんですけど、事務所関係なくすべての若手の中でも、太田プロはネタが強いと思います。

本当にここ1、2年の賞レースでバーンっと全組決勝に行って、「太田プロ、ネタすごくない?」って言われる未来もそう遠くないんじゃないかなって。どのコンビもそれぐらい普段のライブからウケまくってますから。

――ここ最近で若手の層が厚くなったのは何が理由だと思いますか?

福島 伸び伸びやらせてもらってるのが大きい気がします。事務所によってはネタ見せが多かったり、先輩に見てもらってガチガチにアドバイスを受けてたり。それでいうと、僕らは好きなようにネタをやれてるので、その環境が合ってるのかもしれません。

高木 仮に僕らがほかの事務所にいたら「そんな普通の漫才やってても絶対売れないよ?」「キャラクターがなさすぎるよ」みたいなこと言われてると思う(笑)。金髪にするか、坊主にするか、長髪にするかで悩んでたかも。

福島 お世話になってる土田さんにしろ、ダチョウ倶楽部さんにしろ、若手時代はしっかりネタをやられてるんですよね。事務所ライブでもガンガン1位を獲(と)ってたし、ネタ番組とかで優勝してる。そう考えると、やっぱりまずはネタを頑張ったほうがいいのかなって。先輩の影響も大きいかもしれないです。

高木 確かに、ネタやることをないがしろにする先輩はひとりもいないですね。あと、太田プロって先輩・後輩の関係がジメジメしてないんですよ。いい意味ですごく体育会系というか。あらためて考えると、「竜兵会」が大きいと思うんですよ。

上島(竜兵)さんが一番トップにいたから、先輩・後輩のいい関係が今も脈々と太田プロに残ってるんじゃないかなって。どの先輩とも親しくさせていただけているのは、優しくすべてを許してくれる上島さんが全員の先輩にいたからだと思います。

■"ラストサン"福島が上島さんに伝えたこと

――その竜兵会、最後のメンバーが福島さんです。入ることになったきっかけは?

福島 5、6年ぐらい前にヤマザキモータースさんが僕らふたりを上島さんに紹介してくださったのが最初です。上島さんと飲ませていただいてることで、有吉さん、ひとりさん、土田さんみたいなスゴい先輩方も僕に優しくしてくださいます。

「面白いかはさておき、上島さんがかわいがるなら悪いヤツではないんだな」って感じになるというか(笑)。特に、有吉さんは上島さんがかわいがってるってだけでちょっと目が優しくなる。そんな有吉さんが僕に"最後の息子(ラストサン)"と命名してくださったんです。

――上島さんの告別式にも参列されたそうですね。どんな言葉を伝えたんですか?

福島 今までずっと励ましてくださっていたので、最初に口から出たのは「売れます、頑張ります」でした。あとは「直接は無理だけど、ずっと報告させていただきます」と。

上島さんのことは今でもずっと頭にあります。『ツギクル芸人』で優勝したときは、なんとか上島さんに報告したかったので「優勝しました!」って天に拳(こぶし)を突き上げました。

楽屋に戻ったときも「いつもなら絶対ここで電話してるのにな」と思いましたね。事務所ライブで優勝したこととか細かいことでも上島さんに報告すると、「よかったな! スゴいな」って言ってくださったので。

もうそれがないと思うと寂しいです。大会が終わった後の祝勝会では、最初に上島さんの好きな黒霧島のロックを2杯頼んで、自分に近いところに置いて一緒に飲みました。

――きっと同じ場所で飲んでいたでしょうね。あらためて、上島さんはどんな方でしたか?

高木 本当に芸人が大好きだったんだと思います。100人キャパぐらいの小さな劇場でのライブにもわざわざ来てくださったこともありました。後日お会いした際に「あのネタ、最初はいいけど、後半にもうちょっと強いボケがあったほうがいいよね」とアドバイスもいただいて。「でも面白かったよ、スゴいな」とまでおっしゃってくれました。

福島 一緒に飲んでるときと仕事でお会いするときとでは、全然違う顔をお持ちでした。普段は世話好きでお話が好きな優しいおじさん。それが一緒にテレビに出ると「こんな元気だったかな?」ってくらい豹変(ひょうへん)する。

目の色も覇気も違う。僕が仕掛け人のドッキリ企画でも、仕掛けてるときは「ダマされてる、シメシメ!」って思っていたんですけど、それも後日「あのときのあれ、嘘(うそ)くさいからダメだぞ」と全部バレてて(笑)。全部見えてて、全部わかっているんだなと。

――つい最近は、K-PRO主催のバトルライブ「トッパレ(A)」でも優勝。7月18日には初単独ライブ「ヘマル」(東京・北沢タウンホール)も控えています。最高の形で『M-1』の予選を迎えますね。

高木 もちろんテレビやラジオでも頑張りたいですけど、今やるべきことはやっぱりネタを作ること。まず単独ライブを成功させて、『M-1』の決勝進出、そして優勝したいと思っています!

福島 一生お笑いや漫才をやっていくつもりではあるんですけど、マジで今が生きてきたなかで一番大事な時期だと思うんです。バイトも辞めたし、今年は覚悟を決めて臨みたいと思います!

■ストレッチーズ(STRETCHEES)
太田プロダクション所属の漫才コンビ。埼玉県立浦和高等学校のバスケットボール部で出会い、その後進学した慶應義塾大学のお笑いサークル「お笑い道場O-keis」にて結成。2012年に「大学生M-1グランプリ」で優勝

●高木貫太(たかぎ・かんた)
1991年生まれ、埼玉県出身。慶應義塾大学理工学部卒。ツッコミ・ネタ作り担当。数学検定準1級と高校教員(数学)免許を所持。特技はルービックキューブ

●福島敏貴(ふくしま・としき)
1992年生まれ、埼玉県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒。ボケ担当。趣味は酒造巡りと『男はつらいよ』観賞。特技は全国のドッジボールチーム名を50音から言うこと