いつもはあまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく連載コラム『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』が、『週プレ プラス!』にて好評連載中だ。

"カメラマン側から見た視点"が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月イチゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。

第9回目のゲストは、橋本萌花の初グラビア『社長令嬢はウーバーイーツ』ほか、尾碕真花寺本莉緒などのグラビアを多数撮り下ろしてきた栗山秀作氏が登場! 関係性から作り上げるグラビア、そして奥深き白ホリの魅力を語る。

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――栗山さんは、カメラマンになられる前にトラックの運転手をされていた時期があるそうですね。

栗山 あはは、そうだね。地元・高知県の高校を卒業して、東京にある阿佐ヶ谷美術専門学校に進学して、そこを卒業した後に就いた仕事がトラックの運転手でした。

――美術の専門学校を卒業して、トラックの運転手とは。面白い経歴ですね。そもそも、進学当初は美術系の進路に興味があったんですか?

栗山 うーん。というよりは、どちらかというと、あまり将来の夢がない子どもで。小学校から中学校に上がるとき、「あんた、頭が良いんだから」と親にそそのかされるがまま、進学校にお受験をしたんですよね。

それなりに勉強を頑張って合格したはいいものの、入ったら入ったで、周りは優等生ばかり。お受験するまでは、親に期待をかけられるうれしさもあって、勉強を頑張れていたのに、自分が学校で下を這っているのを感じるようになっては、どんどん勉強もつまらなくなったんです。中高エスカレーター式の学校で、高校受験も必要なかったですしね。

そんななか、高校生になると、みんな大学受験に向けてさらに勉強モードになっていくわけです。でも僕は、授業にすら行かなくなってしまって。何をやっていたかと言うと、美術室にこもって絵を描いていたんですよ。優しい美術の先生が「そこで自由に絵でも描いてな」って、こっそり遊ばせてくれたから。

――そうだったんですね。もともと、絵を描くのはお好きだったんですか?

栗山 まぁ、共働きの両親のもと一人っ子で育ったものだから、ひとりで時間を潰すのは得意だったというか。「これ、自由に使っていいからね」と、段ボールいっぱいのわら半紙を渡されて、ひたすらそれに絵を描いて遊んでいたんですよ。だから、本格的に絵を習った経験はないけど、絵を描くこと自体はわりと身近なことだった気がしますね。

――では、美術系の専門学校に進学されたのも絵が理由で?

栗山 いや、絵は関係ないです(笑)。たまたま、阿佐ヶ谷美術専門学校の先生が、僕が通っていた学校に説明会をしに来てくれたんですよ。「うちはグラフィックや写真を教えている学校で、一応、入試はあるけど、やる気があれば大丈夫ですよ」みたいな話を聞かされて、楽しそうだなぁと。それで進学しました。

正直なところ、勉強からの逃げもありましたね。周りが大学に進学するなか高知にとどまるのもイヤだったし、東京とか行ってみたいし、くらいの勢いで。写真に興味を持ち出したのも、ちょうどこの専門学校に通っていた頃でした。

――おぉっ! きっかけは何だったんでしょう。

栗山 普通に、単純な男心で女の子の写真集を見るのは好きだったんですよ。当時は、荒木経惟さんや篠山紀信さんの写真を見かける機会が多かったわけですけど、その延長上で、荒木さんの写真集『センチメンタルな旅』(1971年、妻・陽子との新婚旅行の様子を撮影し自費出版で発売された幻の写真集。2016年、河出書房新社よりオリジナル版が復刻された)を見たとき、衝撃を受けたんです。

それこそ、『S&Mスナイパー』(ミリオン出版)みたいなエロ本で、エッチな写真を撮っている写真家だってイメージだったのに、『センチメンタルな旅』は全く毛色が違っていて。全く知らない夫婦の私写真にもかかわらず、見た瞬間、心が震えたんですよね。写真の持つ力、スゴさを身に染みて痛感しました。

実際に、荒木さんの個展に足を運んで、直接話を聞かせてもらったこともあったなぁ。もう、ただのファンですね(笑)。

そこから次第に、カメラマンになりたい気持ちも芽生えてきました。とはいえ、美術学校で専攻していたのは、写真じゃなくグラフィックデザインだったんですけど。

――それはなぜです?

栗山 3年制の学校で、最初の一年は写真やグラフィック、建築などをひと通り学ぶんですよ。で、2年、3年と学年があがるごとに専攻を絞っていくんですけど、生意気にも、写真の授業を担当していた先生の写真があまり好きじゃなくて、授業も一切とらなかったんです(笑)。

何というか、「カメラマンになりたい? 今どき、よほど財力があるか、コネがあるかじゃないと食っていけないよ」と、夢のないことを言ってしまうような先生だったので......。

――確かに、そこまでハッキリ言われてしまうと学ぶ気も失せてしまうかも。

栗山 でも、将来はカメラマンになりたいって気持ちはずっとあって。そしたら、就職活動の時期に、仲の良い先生が「栗山くん、カメラマンに興味あるって言っていたよね? うちから集英社スタジオへの推薦枠があるんだけど、良かったら行ってみる?」と声をかけてくださったんです。僕からしたら「ぜひ、お願いします!」って話じゃないですか。

ただ、ここでひとつ問題が。面接の前日にいきなり進学科の先生から「写真担当の先生に『おれの授業をとっていないやつを推薦するな』と言われてしまって、急遽ダメになってしまいました」と電話がかかってきたんです。

――えっ、前日に!?

栗山 そう。そのまま就職する気満々だったし、「マジっすか?!」って感じでしたよ(笑)。と言いつつも、授業をとっていなかったのは事実。仕方ないかと、推薦は諦めました。それで、当時住んでいた武蔵小金井の近所で何とか職を探して、見つけたのがトラックの運転手だったってわけです。

――なるほど。トラックの運転手になられたのは、止むを得ない理由があったからなんですね。

栗山 そうそう。わざわざ自分から「トラックの運転手になろう!」と思ってなったわけじゃないからね(笑)! 運転手時代は、問屋さんが卸すお酒を近所の酒屋さんに運ぶ仕事をしていました。そしたら、その問屋さんが個人経営で小さい居酒屋を出すと言い出して。ご縁あって、そこで店長をやっていた時期もありましたね。

――トラックの運転手から居酒屋の店長ですか! 面白いキャリアですが(笑)、カメラマンからは随分かけ離れてしまいましたね。

栗山 一応「カメラマンになるまでの食い口として働かせてください」とは言っていましたよ。それから1年経たない頃だったかなぁ。一緒に阿佐ヶ谷美術専門学校を卒業して、とあるデザイナーのもとへ就職した友達がいたんですね。

その友達が「うちの(デザイナーの)先生の友達のカメラマンがアシスタントを募集しているらしくて。栗山くん、どう?」って紹介してくれたんですよ。何でも、雇ったアシスタントさんが急に卒業することが決まり、困っていたみたいで。で、言われるがまま行ったのが丸谷(嘉長)さんの写真事務所だったんですよね。

――えー! まさかの急展開!

栗山 だから失礼な話、丸谷さんの写真が好きで弟子入りしたわけでもなければ、それまで丸谷さんの「ま」の字すら知りませんでした。「お前、おれのこと知っているか?」「すみません、知りません!」とか言っていたら、丸谷さんが丁寧に仕事や作品で撮った写真を見せてくれて。

そこには、有名な女優さんの写真がいっぱい並んでいるわけですよ。「おれはこういう仕事をしているカメラマンだけど、それでもやりたいか?」「(こんなスゴい人のところに来ちゃったの!?)と、とんでもないです!」って流れで、弟子入りさせてもらうことになって(笑)。

――スゴい話ですね。主に人物を撮る荒木さんに憧れた栗山さんからすれば、偶然にも、それに近いジャンルのカメラマンさんに巡りあえたってことでもありますし。

栗山 そうですね。風景やブツ撮りのカメラマンさんのもとへ行っていたら、今グラビアを撮れているか分からないですもんね。恵まれていたと思います。お会いするまで丸谷さんのことを知らなかったとはいえ、作品を見させてもらって、絶対にこの人のところで写真を学びたいと思いましたよ。

丸谷さんも、よく僕を採用してくれましたよね。専門学校でも、ろくに写真を学んでいない、ただカメラマンに憧れているだけの素人だったのに(笑)。

――これまで本コラムでお聞きした弟子入り話によると、写真云々よりも人柄で採用されたケースも多いみたいです。

栗山 そうだね。後から聞いた話だと、ある程度写真の知識を持ったスタジオ経験者を雇っても、丸谷さんが指示することに対して自分の意見を入れたがる人ばかりで、現場がやりづらかったらしいんですよ。

でも、僕くらい何も知らないヤツは、丸谷さんが白と言えば白だし、黒と言えば黒でしかないから。吸収も早そうだし、現場もスムーズにアシストしてくれそうだと思ってくださったみたいで、採用していただけたんだそうです。「それにしてもお前は何も知らなすぎだったけどな」とも、いまだによく言われますけどね(笑)。

栗山秀作編・第二話以降は『週プレ プラス!』にて配信中! 「ちゃんとアシスタントが務まるまでに3年かかりました」。師匠・丸谷嘉長氏とのエピソードを語る。

●栗山秀作(くりやま・しゅうさく)
カメラマン。1972年生まれ、高知県出身。
趣味=映画鑑賞
写真家・丸谷嘉長氏に師事し、2000年に独立。
主な作品は、小松彩夏『アヤカのナツ』、『アヤカのゼンブ』2004、堀北真希『Castella~カステラ』2006、岩佐真悠子『IWASA MAYUKO』2007、真野恵里菜『MANO DAYS ~二十歳の初恋~』、『Escalation』、『ERINA』、火将ロシエル『ignis』など。スタジオでの撮影も得意としており、ファッションブランド・KIKS TYO×週プレコラボTシャツの撮影も手掛けている。

『グラビアの読みかた-WPBカメラマンインタビューズ-』
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