人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが4月の『キン肉マン』連載をレビュー! 人気小説家の燃え殻さんと爪切男さんが4月の『キン肉マン』連載をレビュー!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』の燃え殻、『死にたい夜にかぎって』の爪切男の意外な共通点、それは『キン肉マン』!!

希代のストーリーテラーのふたりが5月分の『キン肉マン』連載を甘く、そして辛く批評。

●今回の「先月の肉トーク」テーマ

第381話 漆黒の闇に浮かぶリング!!の巻(5月2日分)
第382話 魔界のプリンス、復讐戦!!の巻(5月16日分)
第383話 サムソンの仇!!の巻(5月23日分)
【あらすじ】
超人vs超人のバベルの塔決戦は第4戦。アシュラマン・サンシャインのふたりが迎え撃つは、アシュラマンの師匠であるサムソン・ティーチャーを十字架にとらえたザ・ナチュラルと、"自制の神"ザ・バーザーカー。タッグマッチでの戦闘が始まり、憎き相手との闘いに暴走ともいえる動きを見せるアシュラマンであったが......

タッグ対決は{hlb}お互いが映し鏡

爪切男(以下、 今回のアシュラマンとサンシャインのタッグ、テーマはわかりやすいですよね。ザ・ナチュラルに師匠のサムソン・ティーチャーを倒された仇討ちですからね。

燃え殻(以下、 アシュラマンにとってはね。

 で、やっぱり、アシュラマンとサンシャインのふたり、バランスがいいですよね。

 タッグチームとしては素晴らしい。

 アシュラマンが先鋒に出て、後ろにでっかいサンシャインが控えている画が、スゴくカッコいい。このタッグ、燃え殻さんの勝敗予想としては、どうなんですか?

 バベルの塔以降、闘いごとにテーマがあるじゃない? 今回は、超神側に負けることによって、それに気づくんだと思うんだよね。アシュラマンが何かに気づく、そのためにサンシャインの立ち位置がある、みたいな。

 そうですね。

 今回の相手、モデスティーズもアシュラマンとサンシャインの映し鏡みたいなタッグだと思う。鉾と盾タッグの完全版がザ・バーザーカーとザ・ナチュラルのモデスティーズで、対するアシュラマンとサンシャインは、何かが欠落していて。自分たちの完全版と対峙するがゆえに、アシュラマンが何かに気づくんだと思うんだよね。

 で、ザ・バーザーカーとザ・ナチュラルは、ザ・バーザーカーに勝負がかかっているし、アシュラマンとサンシャインのほうは、サンシャインにかかっている気がしますけどね。

燃 そうか......。それぞれの鉾と盾のキャラクターがカギを握るわけね。

 あと、383話までの闘いでは、鉾であるザ・バーザーカーがまだ未知数なんですよね。で、〝自制の神〟だって言いつつ、どこかのタイミングで自制を解いて暴れ出すみたいなパターンが予想できそうですね。

 そうだねえ。

 ......(第383話を読みながら)......でもアシュラマンは、いつもカッコいいですよね。ただの逆水平チョップでも、腕が3本だから顔面、胸板、ボディを同時に打てる。でも、こんなにカッコいいのに、立ち位置が難しい。

 そう。長年『キン肉マン』に登場し続けてきて、アシュラマンのカリスマ性がだんだんうせてきているじゃない?

 ああ、昔ほどはね。

 プロレスの興行でいったら、中盤あたりの試合に出てくる感じ。でも、最初に悪魔六騎士で出てきた頃って、スゴくキャラ立ちしていて。クモの化身っていう設定もあったり、どの部分も魅力的なキャラだったんだけど。その頃みたいな、「魔界の王子」としての威厳をもう取り戻せ、ということなのかもしれないね。

 キャラクターとしての完成度が高いがゆえに、強い相手に当たってしまいがちなんですよね、戦績もタッグマッチを抜くと2敗2引き分け。単独では勝ってないんですよ。

 そういう勝ててない部分も関わってきているのか、なんとなく収まりがいいキャラになってない、今のアシュラマンって? 初期の非情だった頃のことをもう少し思い出してほしい。今もあの恐ろしい「魔界の王子」なのに、そのことをみんな忘れがちじゃない? 愛されてはいるんだけど、「アシュラマンって怖い」という部分が、薄まっている気がして。

 そう、いい人なのが、バレちゃいましたからね。

 今回も師匠の仇討ちがテーマだけど、それ、普通のマンガだったら、ヒーロー側の行動原理じゃない? 悪役が抱える業ではないよね、師匠を倒したヤツを倒すって。

 悪魔の所業じゃない(笑)、確かに。だから今回、逆にヒールっぷり全開で勝ってくれたら、うれしいですね。

 まず、サンシャインがモデスティーズにボコボコにされる。それによって、アシュラマンが覚醒して、本来の残虐性にこだわった勝ち方をする。

 昔、サンシャインが「悪魔にだって友情はあるんだーっ」と叫んだ有名なシーンありましたよね。あのあたりから残虐性が落ち着いてしまったんですかね。

 その後、アシュラマンも泣いちゃったしね。確かに、悪魔超人としては、キャラが弱まったというか、いい人ふたりになっちゃったのかもね。その逆トリガーとして、アシュラマンが「魔界の王子」として復活する、という展開じゃない?

 じゃあ、残酷な勝ち方をしないといけないですね。

 ボロボロになったサンシャインを「関係ねえ」って置き去りにして、ひとりで天界に行く。それで、背中で泣く。三面の顔のうち、一面だけで泣いてるみたいな、哀愁ある悪魔超人に戻ってほしい。

 そうすると、試合には勝ってメンツも復活するけど、はぐれ悪魔超人コンビの最後の試合になってしまいそうな雰囲気が出ますね。

 ......って考えると、サンシャイン、この闘いでいなくなってしまうかもですね......。

●アシュラマンの行き詰まりを正す闘い

 アシュラマンはそもそも、最初に出てきたときから、キャラクターが完璧に近いから。腕が6本、顔が三面、カッコいい要素が全部そろってたんだよな。それ、プロレスでいったら、途中でどん詰まるタイプじゃないですか。エリートはどこかでそうなるから。

 だからまさに今、行き詰まってるんじゃない? アシュラマンって、人気投票でもトップ10入りできなかったよね。キャラクターは申し分ないし、技も全部カッコいいのに。

 2021年のキャラクター人気投票では11位だったみたいですね。

 だから、もっとキャラを立たせるために、興行主であるゆでたまご先生が動いたんじゃないかな、今回。

 確かにアシュラマン、最初出てきた頃は、一流のヒールだった。

 それなのに、いつの間にか、正義超人感が出てしまっているよね。まだサンシャインのほうが、悪魔超人的なものが残ってる。

 そんなサンシャインは、ジェロニモに負けたことを、相当気にしてますからね。

 そういうところも足りない。アシュラマンも、キン肉マンに負けてるわけだけど(「黄金のマスク編」)、最近の会話でもそこにコンプレックスを感じないと思わない?

 確かに、ロビンマスクは、今回「キン肉マンと闘いたい」ってはっきり言いましたよね。

燃 あとアシュラマン、ネプチューンマンのマスク狩りで、三面ともはがされたよね? なのに今、平気でネプチューンマンの横にいたりする。ほかの超人はいろんなことにこだわっているのに、アシュラマンは執着がない。「丸すぎるだろ」って気がするんだよな。

 王子だからなあ、育ちがいいのかな。

 アシュラマンって、一皮むける可能性がたくさんあるキャラクターだったのに、うまくいかなかった感じあるじゃない? それってまさに、爪さんが言うように、最初から完璧だったからじゃないかな。

ほかのキャラクターは、どんどん成長するか、いなくなるかのどっちかという厳しい状況なのに、アシュラマンはずっと同じままでそこにいる。

 ガクンって人気が下がることもないけど、ブレイクもしない、みたいな。最初からそのポジションを手に入れちゃったから。

サタンクロスが言っていた、「より完全に近い不完全者」(JC74巻)が、アシュラマンを指してるんでしょうね。さっき話したように、最初から完璧だった、でも一皮むけてはいかない。「完全に近い」と「でも不完全」が、アシュラマンの永遠のテーマになってくるのかと思います。

 サタンクロスは、大事なこと言ってるね。

 あと、今、ジェロニモとネプチューンマンが、もう天界に上がってるじゃないですか。悪魔超人の思想を持ったキャラクターも、天界に上がってくれないと、上のバランスが取れない。

 ああ、そうだよね。

 正義と悪は、対で存在するから成り立つわけで。このまま中途半端な悪の状態で天界に上がると、世の中のバランスが取れなくなるから。だから、燃え殻さんが言うように、悪魔的に勝って、天界に上がってほしいですね。

悪とはなんぞや、っていうのを見せてほしい。ネプチューンマンも完璧超人らしく、最後まで手を抜かないで勝ちましたもんね。アシュラマンもそうやって勝つとしたら、どういう感じになるんでしょうね?

 例えば、サンシャインが攻められて、彼の命がヤバいと思ったとしても、アシュラマンは助けずに攻め続ける。そこでアシュラマンが助けると正義超人的な行動になっちゃうから、「助けるな!」とサンシャインが言って、アシュラマンが悪魔超人として目覚めて、勝つ。サンシャインは死ぬ......いい線いってると思う、これ(笑)。

 完璧なるダーク・ヒーローが出来上がるんですね。

 それで勝って、アシュラマンが怒りの面のまま、泣くわけですよ。

 ああ、怒り泣きを。

 怒り泣きをしながら勝つ。痛みもあるけど悪魔に徹することが、今回の試合に求められているから。そしてそれは、サンシャインの花道でもあるということで......。

 さよならですか?

 うん。さよなら、サンシャイン。俺がゆでたまご先生だったら、小川直也&橋本真也ですよ。サンシャインがアシュラマンに「俺ごと狩れ!」って言って、サンシャインごとさらに改良した阿修羅バスターを食らわせて、勝ちます。で、サンシャインも死にます。

 それこそアシュラマンにとっては、悪魔超人とはなんなのか、という答えが、この闘いで出るんじゃないですかね。

 それを取り戻す闘いになってほしい。昔、アシュラマンの腕が取れて、代わりにテリーマンの腕が生えたことがあったの覚えてる? そのパターンで、今回はサムソン・ティーチャーの腕が生えますね。

 ああ!

 サムソン・ティーチャーがアシュラマンに教えたのは、仇討ちとかそんなことじゃなかっただろう、もっと勝負に徹しろ、というので、サムソン・ティーチャーの腕が生えて、アシュラマンをひっぱたく。で、目が覚める。

 はははは。

 サムソン・ティーチャーの仇を討つ、っていうのは、ひとりだけテーマが小さいというか。今の『キン肉マン』が抱えているテーマの中では、私的すぎるから。もっと自分自身をグレードアップしていかないと、天界に上がったときに対応できない。そこでサムソン・ティーチャーの腕が生えて、アシュラマンをひっぱたく。それでサンシャインが死ぬんじゃない?

 (笑)。

 というので、全部の道理がつく気がします!

●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)がNetflixで全世界配信中。最新著は『それでも日々はつづくから』(新潮社)。『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)が成田凌主演でドラマ化

●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。7月26日(火)には、風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が刊行

●7月25日発売『週刊プレイボーイ』32号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

●JC『キン肉マン』78巻、好評発売中!!