『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス11巻を熱く語る 『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス11巻を熱く語る

今回ご案内するのは「7人の悪魔超人編」の2巻目となる11巻。

前巻から続く正悪両超人軍の団体戦がますます激化していくシリーズの中盤戦は、まさに伝説の名場面の宝庫です!

『キン肉マン』第11巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●昨日の敵は今日の友。ただし命に容赦なし

瀕死のキン肉マンを助けるべく集まったアイドル超人たちと、残りの悪魔超人らによる全国5ヵ所、5対5の団体対抗戦。前巻では、早々にウルフマンが敗死を遂げる展開に誰もが度肝を抜かれましたが、その衝撃を引きずったまま突入したロビンマスクvsアトランティスの試合途中からこの11巻は始まります。

こういう展開になると、みんなが見たいのはそんな悪い流れを吹き飛ばす強豪ロビンマスクのスカッとした大勝利ではないでしょうか。そもそもこの団体戦、人気のアイドル超人が大集結したところから始まったわけで、当時のリアルタイム読者はきっとほぼ全員が全員、「自分の好きな超人がいったいどんな大活躍シーンを見せてくれるのか」と期待に胸を存分に膨らませて読み進めていたに違いありません。全勝だって夢じゃないくらいの期待感まであったことでしょう。

しかし、安易にそこへ流れないのがゆでたまご先生の非凡さであり、同時に恐ろしいところです。先に結果を言ってしまうと、ウルフマンに続いてロビンマスクも敗北。しかも、ただの敗北じゃありません、ウルフマンと同じく敗死です。もっと言えば、さらにこの後、ウォーズマンも敗死します。いやいや嘘でしょ、ありえないでしょ。最初、僕はわが目を疑いました。みんな屈指の人気超人ばかりで負けるだけでも衝撃なのにその上、全員死ぬだなんて......。

さすがにこの展開は当時、誰ひとり予想できなかったんじゃないでしょうか。もちろん、そんな大人気キャラをあえて死なせるケースが他作品においてもまったくないわけではありません。でもそれは、マンネリ展開を打破しようとしてカンフル剤的にやるような場合がほとんどで、決定的に違うのは当時の『キン肉マン』ではこういうチーム戦が行なわれるのも初めてなら、あの恐ろしかったロビンマスクやウォーズマンがキン肉マンの味方として闘ってくれるのも初めてのことでした。マンネリどころか、それだけで作品史上、十分刺激的な新展開。そうなると話はまったく違ってきます。なぜここまで斬新な味つけをしようと思われたのかが、ますますもって理解し難い(笑)。そもそもここまでやれば、さすがに人気だって落ちそうなものです。それでも不思議なことに、読者はこの展開にグイグイと引き込まれていきました。結果として、『キン肉マン』はこの団体戦展開中に『週刊少年ジャンプ』読者アンケートで初の連載人気1位までもを獲得したといいます。その秘訣はなんだったのでしょう。

●毎週生まれた名場面。秘訣は「同時並行」

人気漫画に不可欠な三大要素はキャラクター、ストーリー、演出だと僕は思ってますが、その中でも特にこの時期の『キン肉マン』に傑出していたのは、ゆでたまご先生の圧倒的な演出力だったのではないでしょうか。それもそのはず、この時期の展開を各話ごとによく見返してみると「ロビンのマスクをはぎ取って浮かび上がるアトランティス」「テリーマンの切れる靴ひも」「ラーメンマンシルエットの救世主登場」「強さの数値化〝超人強度〟の発明」「ウォーズマン計算式による1200万パワー二刀流スクリュー・ドライバー」「テリーがいったっ!!」。そして極めつきの「おかえりテリーマン!!」。シーンを見なくてもファンなら言葉だけですぐピンとくるような、今なお伝説として語り継がれる名場面が誇張ではなく本当に毎週爆誕していたわけですから、これはもう納得の1位奪取。

そして、これほどまで名シーンが集中的に連発された最大のポイントは、5つもの試合を「同時並行」で描いていくという画期的な試みにあったと僕は思うのです。5試合という長丁場で、視点を目まぐるしく変えながら進めることによって読者を飽きさせないばかりか、正義超人の大劣勢で犠牲者続出という一見マイナス的な要素すら、ホラー映画でゾンビやジョーズに誰が突然襲われるかわからないような、スリルというプラスのエンターテインメント要素に変換。なおかつ、そんな読者の反応を見ながら、どのタイミングでどの試合にスポットを当てるか選んで調整していけるなどなどいいことずくめ! 

もちろん、言うは易しでそれをひとつひとつしっかり描ききるには相当な手腕が必要で、やはりゆでたまご先生の実力あってのことなんですが、その成果としてバッファローマンvsウォーズマンやテリーマンvsザ・魔雲天のような作品全編のベストバウトに挙がることも多い名勝負を一気に量産。あらためて、この5試合はとんでもない密度だったと言わざるをえません!

そして、続く11巻のラストはロビンを倒した憎きアトランティスへのキン肉マンのリベンジマッチ。2戦目にもかかわらず、セントヘレンズ大噴火など、さらに奇想天外な新技を続々魅せる無尽蔵のアイデアで悪魔超人の底知れなさをさらに深めつつ、最後はキン肉バスター破りという謎解きのような要素まで追加。ボスのバッファローマンの格まで高める絶妙なシメで、シリーズは12巻へと続きます。

●こんな見どころにも注目
僕が大好きなシーン満載のこの巻の中でも、バッファローマンに立ったままKOされたウォーズマンの姿は特に激しく心を揺さぶられる珠玉の超名場面です。しかしそのページを見るたび気になってしまうのがその姿に「あっ...」と驚く観客3人の左端の男。『キン肉マン』全編通したモブの中でも一、二を争うアクの強さを誇るブサメンだと僕は思ってまして、感動の数%が彼のせいで毎度持っていかれるのが本当に腹立たしくて仕方ありません。よりによってなんでココに?

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

●7月25日発売『週刊プレイボーイ』32号では、
『キン肉マン』休載特別コラムを掲載!!

●JC『キン肉マン』78巻、好評発売中!!