いつもはあまり表に出ることのないカメラマンに焦点を当て、そのルーツ、印象的な仕事、熱き想いを徹底追究していく連載コラム『グラビアの読みかたーWPBカメラマンインタビューズー』が、『週プレ プラス!』にて好評連載中だ。

"カメラマン側から見た視点"が語られることで、グラビアの新たな魅力に迫る。週プレに縁の深い人物が月一ゲストとして登場し、全4回にわたってお送りする。

第10回目のゲストは、『週刊ヤングジャンプ』にて雪平莉左の初グラビアを撮り下ろし、今年4月に発売されたファースト写真集『とろける』までを手掛けた佐藤佑一氏が登場! グラビアを撮る際のコミュニケーションや、カメラを持ち始めた頃から撮り続けている母の写真について語る。

* * *

――まずは、カメラマンになるまでのルーツを教えてください。学生時代は何をされていましたか?

佐藤 学生時代ですか......。何の取り柄もない男の子でしたよ。一応、中学ではバスケ部に入っていたものの、前から数えた方が早いくらい身長が低くて。何故か、部活を引退した後になって、背が伸び始めるという感じだったんです(笑)。

高校では、友達との遊びの延長でサッカー部に入るも、当然ながら、小中からやってきた子たちに敵うわけもなく。

ファミコン世代なのでゲームにも馴染みがありましたが、『ドラクエ(ドラゴンクエスト)』は最後までクリアできなかったし、『ストツー(ストリートファイターII)』でもほとんど勝てた試しがありませんでした。本当、何をやってもうまくいかないから、何かにハマった経験もないんですよね。

――な、なるほど。では、将来の夢も特になかったんですか?

佐藤 そうですね。高校を卒業したあとは、帝京大学に通っていたんですけど、目標も何もなかったので、早めに受験が終わる法学部をとりあえず受けたって感じでしたし。

きっと何かしらの仕事に就いて、普通に結婚するんだろうなぁ、くらいにしか将来を考えていませんでしたね。バレーボールサークルに入っては、みんなで飲んで、授業に出て、バイトをして、また飲んでを日々繰り返していましたよ。

――絵に描いたような大学生活ですね(笑)。

佐藤 ただ、大学2年生の終わり頃だったかなぁ? 偶然、出会っちゃったんですよ。写真に。というのも、ビデオ屋のアルバイトで一緒だった先輩が役者をやっている人で、プロのカメラマンに撮ってもらった宣材写真を見せてくれたんですね。背景がボケていて、人物だけにピントが合っている。一眼レフカメラで撮られた、ごく普通のポートレートでした。

それを見た瞬間、ふと「写真っていいなぁ」と思ったんです。当時、実家に住んでいたので、母ちゃんにその話をすると「じいちゃんが使っていた一眼レフがあるよ」と教えてくれて。早速借りて、写真を撮るようになりました。

――おぉ、本当にいきなり出会っちゃいましたね。当時、写真には夢中になれたんでしょうか?

佐藤 まぁ、お遊び程度でしたけどね。最初はカメラの扱い方が全く分からなかったので、入門書的な本で勉強しつつ、分からないなりに何とかいろいろ撮っていました。決してうまい写真ではなかったですが、周りに写真をやっている友達が全然いなかったこともあり、写真を撮っているだけで「うわっ、すげーじゃん」って、みんな褒めてくれたんです。

ですから写真は、やりたいことが何もない大学生だった僕にとって、初めて見つかったアイデンティティのようなものだったんですよね。

――周りに認められるのはうれしいですよね。

佐藤 ひとつ覚えているのは、みんなで飲み明かした日の朝、いじられキャラの友達が窓際でタバコを吸っている姿を何気なく撮ってみたら、まぐれでスゴくカッコいい写真になったんですよ。

本人も「えっ。おれ、こんな顔するんだ」と、驚きながらも喜んでくれて。本気で「カメラマンになりたい!」と思ったわけではないにしろ、「こうして喜ばれることを仕事にできたら最高だなぁ」と、少しずつ写真の道に興味を持ち始めましたね。

それで、『ケイコとマナブ』(リクルート/習い事や資格の情報が掲載されている情報誌)を読んでいたときに、写真表現中村教室という写真学校を見つけて。大学も暇だし、面白そうだと思ったので、週1~2ペースで通うことしたんです。

――無趣味な少年だったとは思えないほど、どんどん写真の世界へのめり込んで行っていますね。ちなみにそれは、どういう教室なんでしょう?

佐藤 カメラの基礎から始まり、最終的に写真表現を追求していく写真教室です。いわゆる専門学校とは違って、コースごとに開講される講義を受けに行くスタイルだったので、どちらかというと、社会人の方や年配の方が多くて。

もちろん、僕みたいな大学生や若い生徒さんもちらほらいましたけど、僕も夜に講義を受けることが多かったですね。そこに通ううちに、年配の先輩方からいろんな写真家さんの話を聞かせてもらうようになって。

そこで初めて知ったのが、荒木経惟さんの『センチメンタルな旅・冬の旅』(新潮社)。もう、衝撃を受けましたよ。一見、何でもない写真なのに、どうしてこんなに人の心を動かせるんだろうかと。

――『センチメンタルな旅・冬の旅』というと、妻・陽子さんが亡くなるまでの写真日記をまとめた荒木さんの代表作。影響を受けたカメラマンさんも多い印象です。

佐藤 名作ですよね。自分も、愛する彼女の写真を撮ってみたいと思いましたもん。生憎、当時お付き合いしている女性はいなかったですけど(笑)。それでも真似して、大学にいる女友達を撮ってみるんですよね。

でも不思議なことに、写真学校の先生には感情がバレるんです。「お前、この子のこと本当に好きか? 向こうもお前のことそんなに好きじゃねぇだろ」って。

――写真には関係性や気持ちが写ると言いますが、実際に言い当てられるとドキッとしますね。

佐藤 そうそう。衝撃でしたね。他にも、写真教室の授業の一環で、街中にいる人に声をかけて写真を撮らせてもらう課題があったんですね。一年ほど続けて、あらゆる人を撮らせてもらいましたけど、それもやっぱりバレるんですよ。みんな同じシチュエーションで撮っているにもかかわらず、「お前の好きなタイプ、この子だろ」って。

――新鮮な体験ですよね。カメラを持って初めて得られる感覚と言いますか。

佐藤 ただシャッターを押せば、写真は撮れる。でもそこには、目に見えない感情までもが一緒に写り込んでしまう。まさにこの感覚は、写真を撮ることでしか味わえないですよ。じゃあ、具体的に自分が感情を向けられる女性は誰だろうかと考えたとき、いちばん身近な存在として母親が思い浮かびました。

後に、母ちゃんの日常とヌードを写した写真と、当時付き合っていた彼女との日常を写した写真をひとまとめにした作品がNikon juna21(写真ギャラリー施設・ニコンサロンが主催する35歳以下の若手写真家を対象とした公募写真展)で賞を受賞するんですけど、母ちゃんのヌードを撮り始めたのは、この写真教室に通い始めた頃だったんですよね。

――大学生の息子がお母さんのヌードを撮ったということですよね。す、スゴい話です......。

佐藤 まぁ、うちの母ちゃんも少し変わっているんですよ。ちょうど僕が写真を始めた頃に、母ちゃんが子宮を摘出する手術をしたんですね。そしたら「佑一、摘出された子宮の写真を撮っておいてくれない? それ、私のだから」と言ってきて。

――し、子宮の写真......!?

佐藤 そうです(笑)。手術中に隣の部屋で待っていたら、先生がトレイに母ちゃんの子宮を乗せて持ってきてくれるわけです。衝撃的でしたよ。病気だったこともあって、結構デカくて。「おれ、このなかにいたんだ」「母ちゃんも女なんだ」といろんな感情が芽生えてきたんですよね。

――なかなか見る機会がないですからね。しかも、自分のお母さんのモノなんて。

佐藤 女性特有の器官を取ってしまった母ちゃんに対して自分ができることは、母ちゃんの女性の部分を残しておくことなんじゃないかと。半ば衝動的に、退院したばかりでお腹に傷が残っている母ちゃんに「ヌードを撮らせてほしい」と頼みました。

直視はできなかったですけど、暗室で出てきたモノクロの写真を見たときは、また不思議な感覚になりましたね。自分の知っている母ちゃんとは、まるで違う目をしている気がして。撮りためていくと、さらに、そのときにしかない姿を写真に残すことの偉大さを痛感しましたよ。

――まだプロのカメラマンさんになられる前とは思えないくらい濃い写真体験だと思います。ただ、大学生といえど、思春期の名残はあるじゃないですか。お母さんに対する感情は複雑じゃなかったですか?

佐藤 おっしゃる通り、素直に甘えられる関係性ではなかったです。荒木さんが愛する妻を撮る感覚とも確実に違いますしね。"女性の部分を撮る"といっても、やっぱり母ちゃん自身を女性としては見られないので。

ただ、写真を撮ることによって、母ちゃんとのコミュニケーションが生まれたのも事実。「ちょっと撮らせて」と声をかけてみたり、笑っている写真を撮りたいときは、頑張って笑わそうとしてみたり。実際、カメラを構えてでしかできないコミュニケーションがたくさんあったんです。やってみて初めて分かった、面白い発見でした。

――何だか素敵な話ですね。新しい親孝行の形な気がします。

佐藤 今でもたまに、母ちゃんの写真は撮っています。さすがにヌードを撮ろうとすると、狙いすぎた写真になっちゃうのでやらないですけど(笑)。散らかった部屋でご飯を食べている姿や、洗濯物を干している姿なんかを、サラッと。

でもそれは、写真が好きだからとか、表現を追求したいからとか、そういう感じじゃないんですよね。単に、写真が僕と母ちゃんのコミュニケーションツールになっているだけ。多分、これからも撮りたいときに撮り続けるんだと思います。

★佐藤佑一編・第二話以降は『週プレ プラス』で配信中! 写真教室を卒業し、カメラマン・渡辺達生氏のもとへ弟子入り。「ミスして頭を丸めたことも......」。

佐藤佑一 作品のデジタル写真集一覧はコチラから!

●佐藤佑一(さとう・ゆういち)
カメラマン。1981年生まれ、東京都出身。
趣味=サウナ、サーフィン
カメラマン・渡辺達生氏に師事し、2010年に独立。
主な作品は、芹那『しるし』、桜庭ななみ『Birth』、都丸紗也華『とまるまる』、大友花恋『Karen』『Karen2』『Karen3』、戸田れい『TRENTE』、伊東紗冶子『SAYAKO』、新内眞衣『どこにいるの?』、鹿目凛『ぺろりん』、福原遥『はるかいろ』、伊原六花『rikka』『sau hoa』、平祐奈『Comme le Soleil』、上西怜『水の温度』、薮下楓『さよならの余韻』、早川渚紗『なぎちぃ』、雪平莉左『とろける。』など。2005年に実母のヌードを撮影した作品『感情日記』でNikon juna21を受賞。

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