『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス12巻を熱く語る

この巻からいよいよ「7人の悪魔超人編」もクライマックス、キン肉マン&モンゴルマン組vsバッファローマン&スプリングマン組のシリーズ最終タッグ戦も驚きの仕掛けが満載です。

『キン肉マン』第11巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●加速度を増していくありえない技の応酬

序盤2戦はキン肉マンのシングルマッチ連勝から始まった「7人の悪魔超人編」でしたが、キン肉マンが力尽きた中盤戦で正義vs悪魔5対5の団体戦に、そして、今回の終盤戦では満を持してタッグマッチへ。お気づきでしょうか。つまり、ゆでたまご先生はストーリーの進行具合に合わせて、見事に試合形式を変えていらっしゃるんですよね。

終わってみれば、「7人の悪魔超人編」自体がしっかりとした三部構成に仕上げられていたわけです。このシリーズが『キン肉マン』という作品の歴史における初の大長編といって差し支えないと思うのですが、あらためてそうとは思えない構成力の高さに、ゆでたまご先生はいったいどこまでが天然でどこからが計算なのか......まったく底の見えない空恐ろしさを感じます。

そんなこんなで、キン肉マンが(正体はラーメンマンだと目される)モンゴルマンと組むミラクル演出に誰もが心躍らせるなか、僕はあえてもう一方、絶対的なボスであるバッファローマンと組む最後の相手がスプリングマンだというところに心を躍らされます。だって、あえて強調させてください。やっぱり、どう見てもゆるキャラですよ。なのに、このシリアスな最終戦で威風堂々と悪魔超人軍の副将としての立ち居振る舞いを見せつけ、物語を完璧に成立させている。そんな彼こそが、まさに『キン肉マン』の懐の深さを象徴するキャラ1位じゃないでしょうか、もう大好きですね(笑)。

この悪魔ふたりが魅せるコンビネーションはオリジナリティに満ちた発想の塊、まさに超人プロレス。特に僕が大好きな流れは、バッファローマンとスプリングマンが超人ドッジボールという誰も見たことがない技でキン肉マンを場外へ吹っ飛ばしかけたところを、モンゴルマンが「そりゃーヘアーネット!!」と辮髪をほどいて投げ網のように広げて救う一連のシーン。

「ありえない発想の技」に「ありえない発想の技」で返すという文法が超人プロレスの醍醐味ではありますが、その流れはこのあたりからますます加速していったと僕はみていて、また超人プロレスは数段高みに上ったなと。新たな息吹を感じずにはいられない名攻防の場面でした。

この後も闘龍極意ネコジャラシなど新発想のオンパレードでスプリングマンを沈めたモンゴルマンでしたが、前半戦で早々に退場して後半戦、闘いはついに本当のクライマックス。キン肉マンvsバッファローマンの実質シングルマッチ最終戦へと流れていきます。

●バッファローマンはボスキャラの最終形!?

バッファローマンが『キン肉マン』屈指のボスキャラなのは誰もが認めるところだと思いますが、なぜ、そこまで特別な存在になりえたのか。それは彼が、初めて、主人公のキン肉マンを上回るキン肉マンになったからだというのが僕の考えです。

思えば、最初のボスキャラのロビンマスクは、まさに筋肉しか取りえのないキン肉マンに対してテクニックや経験、気品といったその他のすべてを持ち合わせた相手でした。続くウォーズマンはキン肉マンの優しさに対し、残虐性を色濃く持たせてテーマとしたボスキャラ。どちらもキン肉マンにない何かを持っていて、その対比で魅せる試合で読者を引き込んでいきました。

しかし、バッファローマンはキン肉マンの持ち味である筋肉、つまりパワーをそれ以上に強調したいわば上位互換。これは己に打ち勝つという主人公に残された最後のテーマでもある気さえして、それゆえ僕はこのバッファローマン戦にある種の最終回感を覚えてしまうのですが、それを「キン肉バスターやぶり」という誰もがわかりやすいところに集約させたのがまた、ゆでたまご先生のストーリーテリングの巧みなところ!

「6を返せば9になる」というなんともキャッチーなセリフに、その数字がひっくり返る絵を技に添える演出は、単純ながらも強烈な納得感を読者に与えたでしょうし、この名シーンが誕生したおかげで以降『キン肉マン』の試合には複雑に絡み合った体術をいかに破るか、というパズル(謎解き)的要素まで加わりました。その意味でも、この「キン肉バスター返し」は作品の評価をさらに数段押し上げた、素晴らしい大発明だったと思います!

それに加えて、ロングホーンブーメランや悪魔殺法デビルシャークといった機転を利かせた予想外の攻撃法までキン肉マンの上位互換ぶりを発揮。試合の結末は次巻に持ち越されますが、最終的には、一試合にキン肉バスターを計3発食らってようやく轟沈するという驚愕のタフネスを見せつけての大決着。主人公の最強必殺技を3発も食らってやっと沈むなんて相手は、さすがに今後も二度と出てこないのではないでしょうか?

試合決着後の爽やかにして切ないラストも含めて、僕の中では今なおこのバッファローマンこそが史上最強にして最高のボスキャラです。

●こんな見どころにも注目
ストーリーの流れと離れたところで注目したいのが、この当時の扉絵の作り方。超人人気投票を開催していた時期だったというのもあるかもしれませんが、これがコミックスではなく『週刊少年ジャンプ』本誌に載っている状況を考えた場合、オールキャラ大集合のこんな豪華扉絵があると、きっと読者はページをめくる手を止めて見入ってしまいますよね。これもまた、雑誌の中でいかにして目立とうかというゆでたまご先生の創意工夫、および上昇志向の表れだと僕は思います!

●キン肉マン4コマ

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

8月29日(月)発売『週刊プレイボーイ』37号では、おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第13巻編】を掲載!!

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