『キン肉マン』という作品から離れていたアラフォーの肉おじさんたちも「これにはやられたよ」と思わずポチッと予約してしまったなんて話が多数!
すでに発売前から超ベストセラーが決定している"肉図鑑"は、学研プラスの芳賀靖彦(はが・やすひこ)氏のクレイジーすぎる情熱から生まれた!!
(*こちらの記事は、『週刊プレイボーイ』2019年22号「祝40周年!! 昭和、平成、令和を駆け抜ける『キン肉マン』大特集」内に掲載されたものです)
●超人募集で採用されたことがあるんです
―そもそもなぜ〝超人〟の図鑑を出版することに?
芳賀 『キン肉マン』が子供の頃から大好きで、超人ってなんだろうということはよく考えていたんです。バッファローマンやマンモスマンなどほ乳類らしき超人もいれば、ステカセキングみたいな家電の超人もいて、じゃあアトランティスとスニゲーターは近い種族なのかなとか、そんなことを考えだすと止まらない子供でした。
でもそんなことも忘れ、大人になって学研に就職して......すると、学研には図鑑の部署があるんですね。それに気づいた瞬間、すっかり忘れていた昔の妄想が一気に蘇ってきたんです。図鑑には鳥とか花とかさまざまな種類があるんですけど、会社の棚に並んでいるそんな図鑑を眺めながら「もしこの中にシレッと〝超人〟というのが交ざってたら面白いだろうな」って。
―入社時からそんなことを考えてたんですか?(笑)
芳賀 その頃は妄想だけですけどね(笑)。僕自身も当初配属されたのは別の部署でしたので、実際にそういう本を作るチャンスはないと思ってました。でも、少し前に社内で大きな動きがあって、僕のいる部署と図鑑の部署が合併することになったんです。そのときに、もう20年以上も前の入社時の妄想が再び蘇ってきて。
―チャンスが来たと?
芳賀 もう、やるならこのタイミングしかないなと。
―しかし学研さんというと、学習書がメインのまじめな出版社という印象が強いんですが......社内でこの企画を通すのは大変だったのでは?
芳賀 そこはまず心配でしたね(笑)。特に前例のない類いの本ですし、コミックとのコラボとなると図鑑の部署だけでは決裁できなくて、全社会議で通さないといけないことになるんです。それはかなりハードルが高くて、ここで潰されたらどうしようとヒヤヒヤしてました。
でも、幸い社内には『キン肉マン』世代の人が多くて、思いがけずあちこちから味方が出てきてくれたんです。例えば、営業担当の部署の人が、やはり僕と同世代なんですが、「この企画を通さないで、ほかにどんな企画を通すんですか!」って、かなり強く推してくれたり。それで役員たちも最終的には納得してくれて、なんとか無事に乗り切ることができました。
―そこまで芳賀さんを衝き動かした『キン肉マン』を大好きになられたきっかけはなんだったんでしょう?
芳賀 最初は兄が『週刊少年ジャンプ』を買って読んでたんです。2回目の超人オリンピックで、キン肉マンとウォーズマンが闘ってた頃に初めて読んで「なんて面白いんだ!」って。でも、僕の中で一番大きな出来事があったんです。「超人募集」という企画があるじゃないですか?
―はい、今もやってます。
芳賀 あの企画で僕、採用されたことがあるんですよ。
―ええ!? どの超人で?
芳賀 ジャンクマンっていう、悪魔騎士の超人なんですけど。
―めちゃくちゃメジャーな超人じゃないですか!? 『週プレNEWS』で復活した完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編でも大活躍したくらいのすごいヤツですよ!
芳賀 はい、うれしかったですね。ほかにハンマーヘッドとタキングというのも、活躍の場面はないんですけど誌面で紹介だけされたことがありまして......。
―3体も!? あの当時って万単位の応募が来てたと思うんですが、その頃に3体もですか?
芳賀 それが、かなりうれしかったというのも大きいですね。
―学校でも話題になったんじゃないですか?
芳賀 ええ、すごかったんですよ(笑)。中1のときでしたけど、僕は部活をやってまして、いつも友達と朝練行く前に『ジャンプ』を買うんです。それで何げなくページを開いたら「おい、芳賀のジャンクマン出てんぞ!」ってエラい騒ぎになりまして。からかう声より「おまえ、よくやったな!」って、みんなにホメてもらえたのが、今でも思い出に残ってます。
―しかも、あのロビンマスクをかなり苦しめました。自分の送った超人が本編で闘うのをリアルタイムで読むのはどんな気分でしたか?
芳賀 頑張ってほしい半面、心苦しかったですね。というのも、上から飛びかかってきたロビンマスクをジャンクマンがジャンククラッシュで血まみれにしてしまったんです。マスクのひさしも取れて。それを見た瞬間、「僕は......とんでもないことをしてしまった」と青ざめてしまって。
―責任を感じた?(笑)
芳賀 ひしひしと感じてましたね(笑)。でも、そのジャンクマンの一件は僕の人生で外せない出来事のひとつで、今こうして出版社で編集者をやってるなかでも仕事相手に「僕、昔『キン肉マン』でジャンクマンを採用されたんですよ」って言えば、いろんな人にすぐ覚えてもらえましたし。それで、同世代の『キン肉マン』好きの作家さんやイラストレーターさん、ライターさんに知り合いがたくさんできて......。
―どれだけたくさんの才能ある人とつながってるかというのも、編集者として大事な要素ですもんね。
芳賀 そうなんですよ。だから実は今回の図鑑も、そういう人たちのパワーを結集したからこそ作れたというのは、ありますね。
―満を持して『キン肉マン』の仕事につなげた。
芳賀 そうですね。この図鑑はイラストレーターさんもライターさんも、内容に関わる人のほとんどが本当に『キン肉マン』が大好きな人ばかりです。だから熱量はものすごく高いです!
●図鑑制作でわかったあの超人の秘密
―実際、どれくらいの期間と人数で作られたんですか?
芳賀 制作期間は2年ほど。人数は編集者、イラストレーター、ライターなど制作の中心になって動いていたチームは20~25名になりますね。
―最も苦労されたのは?
芳賀 一番大変だったのはやはりイラストです。『キン肉マン』の初代、Ⅱ世、復活シリーズすべて含めると、収録超人の数は700体以上になるんですけど、さすがに週刊で漫画連載を抱えられているゆでたまご先生にこれを新規で描いていただくわけにはいかないので......。
しっかり先生の監修を受けるという条件で、普段、通常の図鑑のイラストを描いていただいている方などにお願いして、なるべくゆでたまご先生のテイストに近づけつつ、図鑑絵としてのリアルな雰囲気を出しつつ、という難しいオーダーに応えてもらいました。しかも数が多いので、これを15名ほどで手分けして。
―15名というと先ほど伺った総人数の半分以上ですね。
芳賀 そうなりますね。だから絵のテイストがバラバラにならないよう、最大限に気を使いました。そのためのイラスト指定紙というのを約700体分、超人ごとに細かく、色や質感の特徴などを描いて作ったんです。同時に、この段階で先生のチェックも受けて。僕ら編集者側の仕事としては、これを作るのが実は一番大変だったかもしれません。
―見せていただくと、この段階からすでに指定も驚くほど細かいですね。それがこれだけ大量にあると......先生側のチェックもまた大変そうです。
芳賀 ゆでたまご先生もお忙しいなか、本当に根気よくお付き合いいただけたと感謝しています。
―印象に残るチェックバックはありましたか?
芳賀 印象的だったのは、ネメシスという超人のブーツのところに、紫に近いカラーサンプルが貼りつけられてて、その脇に「このブーツはミラージュマンから託された思いを受け継いだものなので、彼と同じ色にしてください」とメモが書かれていたんです。それは本編でも明かされてない設定だったので、感激してしまって。そういう意外な裏設定がいろいろと聞けたのは、役得でしたね(笑)。
―そんな初出情報もたくさん入っていそうですが、芳賀さんの思うこの超人図鑑の最大のアピールポイントは?
芳賀 まず全超人の身長、体重、超人強度、出身地がほぼ明らかになったことですね。今まで不明だったもの、あやふやだったもの、初出となる情報も可能な限り先生に決めていただけたのは、僕自身もファンとして知りたかったことですし、ライト層だけでなくコアなファンにもご満足いただけると思います。
あとは、解説文。ライターさんにはキャラブックではなく〝図鑑〟としての書き方にこだわってもらって、そこはかなり面白く読めるようになってると思います。ぜひ隅々まで目を通してもらいたいですね。
―図鑑制作を通してあらためて気づかれたことは?
芳賀 作ってる間、最も強く感じたのは、〝友情パワー〟ってこういうことなんだということでした。もちろんこの本に携わったスタッフは仕事仲間であり、友達じゃないのはわかってます。それでもみんなそれぞれ、ひと肌脱いでくれた感がありまして。各人の主義や都合はさておき、よりよいものを作るために、誰もがちょっとずつ融通して無理してくれて。その過程は、まさに『キン肉マン』の友情パワーを見るようでした。みんな『キン肉マン』を見て育った人たちばかりだから、自然とそういうマインドが身についていらっしゃったのかなと。
なんとなくそう思ってたところ、最後の極めつきにゆでたまご先生から直々に「芳賀さんの熱意が『キン肉マン』の旗の下に集まって、イラストレーター、ライターさんたちを動かしたんだと思います。友情パワーのマグマの噴出です」とお手紙をいただいて。
それを見て、ああ、これが『キン肉マン』という作品で先生が描いてこられたことだったのかと。熱意をもって巻き込んでいくことで、こんな大きなことができる。もちろん自分だけの仕事ではないですが、そこに触れた気がしたのはとても幸せな経験でした。
―まさにこの図鑑が友情パワーの具現化そのものだと。
芳賀 はい、そんな意味でも、『キン肉マン』という作品のエッセンスが詰まった図鑑だと思います。ぜひ多くの人に読んでもらいたいですね!