放送された伝説的なコント番組、『ダウンタウンのごっつええ感じ』。業界内外に根強いファンが多く、影響を強く受けたという若手芸人は数知れず。
今なお愛され続けているその魅力と、語り継がれるべき名作コントを『ごっつ』ラヴァー、もう中学生、野田クリスタル(マヂカルラブリー)、サーヤ(ラランド)の3名が徹底的に語り合いました!
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■放送翌日の月曜日に学校で話してまた笑う
――『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ)との出会いを覚えてますか?
野田クリスタル(以下、野田) 断片的なんですけど、たぶん初めて見たのは幼稚園ぐらい。親戚の家にいて、『ごっつ』見ながらみんなで爆笑してました。あの頃、好きな番組があるときはテレビの前で正座して待ってたな。
もう中学生(以下、もう中) 確かに。僕もリアルタイムで『ごっつ』見てたけど、涙流して笑ってたもんね。
野田 涙流してた! そう考えると、俺たちの番組でみんな笑ってくれてんのかなぁ? あれほどには笑ってないと思う。
サーヤ 私は世代的にリアルタイムで見れてないんですよ。幼稚園ぐらいのときに週末絶対に行く「ドラマ」って古いレンタルビデオショップがあって。その店のテレビモニターに『ごっつ』が流れてて、それをポケーッと見ながら親に言って借りたのが最初ですね。
もう中 へぇー、自ら「これ借りたい!」って?
サーヤ これ借りたいって。それから毎週1本ずつ借りてました。家でテレビ見てると全部お笑いに変えちゃうような親だったから、当時やってたテレビドラマとか『ポケットモンスター』『名探偵コナン』みたいなアニメはぜんぜん見てなくて。
「ドラマ」がつぶれるってなったときはDVD全巻買い取ってもらったのを覚えてます。
野田 俺らは明日の学校のために見るっていうのもあったからね。
もう中 『ごっつ』が放送された翌日の月曜日に、学校で友達と話しながらまた涙流して笑うんだよね。
野田 そうそう。じゃあ、サーヤって見た後に友達に話せなかったんじゃない?
サーヤ まったく話せなくて、めっちゃ悲しかったです。「ブスッ娘倶楽部」(性風俗のデリバリーヘルスを下敷きとしたコント)とか、けっこう大人のネタも多いじゃないですか。
ちっちゃい頃だから何が面白いのかわからないですけど、なんとなくの雰囲気で笑ったりすると「外で言うなよ」って絶対親が言うんですよ(笑)。
野田 うちの相方の村上がそうなんだけど、放送当時も「見ちゃダメ」って家庭は割と多かったみたい。グロい描写も多かったもんね。「腸」(一軒家の2階でもめる老夫婦が窓からグロテスクな腸の小道具を放り出すコント)とか覚えてる?
もう中 切れた腸の中から緑色の液体がババババァ~って出てくるんだよね(笑)。
サーヤ アレ一番好きでした(笑)。セリフに書き起こしたら特段何も言ってないですけど、特に好きなコントですね。
■コントの〝イジり文化〟『ごっつ』が起点
――『ごっつ』以前の『ドリフ大爆笑』や『オレたちひょうきん族』(共にフジテレビ)との違いはなんだと思いますか?
野田 『ドリフ』とか『ひょうきん族』までは、なんかちょっと昭和を感じるというか、「何も考えず笑える」っていう王道の笑いだったんですけど、『ごっつ』からは今のコントとして出しても違和感ないですよね。
サーヤ シュールな世界観が大衆に受け入れられてるのがスゴい。玄人笑いみたいなのを飛び越えてる感じがします。
もう中 ニュージャンルすぎるよね。まったく意味もわからないし、どういう世界観かもわからない。でも、面白いから〝わからなくて笑ってる〟っていう。
野田 ちょうどダウンタウンさんの時代からNSC(吉本興業のお笑い養成所)が始まって、みんな師匠につかずして芸人になったじゃないですか。だからか、ほんのり師匠世代をイジッてる感があるんですよ。
それこそ「MR.BATER」(関西弁を話すアメリカ人がパーティの道具をそろえるために店に現れてノリツッコミを繰り返すコント)もそうだし、「妖怪人間」(アニメ『妖怪人間ベム』のキャラでトリオ漫才を披露するコント)も漫才をイジッてる。全体的に〝イジり文化〟が『ごっつ』から生まれた気がするんですよ。
もう中 そう考えるとスゴッ。「やすしくん」(破天荒な人生を送った某大物漫才師をモデルとしたキャラコント)もそうだよね。縁日で金魚すくいやってるところに、いきなり競艇のボートに乗ったやすしくんが現れるの。ボボボボーッて(笑)。
サーヤ 私はやすしくんが誰なのかわからずに笑ってました。だから、当時親によく聞いてましたね、「これはどういう笑いなの?」って。
野田 それは俺らもそうだったよ。
もう中 「サニーさん」とか、後になって「あれは桂 三枝(現・桂 文枝)師匠のマネだったんだ」みたいなことも多かったよね。
サーヤ そこがスゴいなって思います。雰囲気だけでも面白いのに、元ネタ知ってたらもっと面白いみたいな。
――同じ「お笑い第三世代」と呼ばれるとんねるず、ウッチャンナンチャンとの違いは感じましたか?
野田 とんねるずさんってもうちょっと現実寄りな面白さって感じがするんですよね。ダウンタウンさんはファンタジーに近いものが多い気がします。
サーヤ 私はウンナンさんの『笑う犬』シリーズ(フジテレビ)も好きで見てました。『ごっつ』をDVDでしか見られてない分、テレビでやってるお笑いがめっちゃ貴重だったので。『水10!ワンナイR&R』(フジテレビ)とかも全部録画してましたね。
野田 『笑う犬』も面白かったなぁ。俺はその頃って『遺書』(朝日新聞出版)を読んで完全に松本信者になってるわけですよ。ほかの笑いは松本さんのモノマネだと思ってたから、全部認められなくて。
もう中 ワハハーッ! ずーっと坊主だったもんね。そういう僕も当時は野田くんと割と同じ方向で(苦笑)。でも、あんまり言いたくなくて。
サーヤ なるほど(笑)。私の世代はそういう感じなかったですけど、それでも『ごっつ』は別ジャンルって感じがします。DVDのアートワークとか見ても、めちゃくちゃとがってますもんね。人気番組にしようって感じがないのがスゴい。
野田 あ、俺ちょっと自慢していいですか? 3年ぐらい前に東野(幸治)さんのライブのVTR撮るっていうので呼ばれて、吉本の本社に行ったの。
何も聞かされずに部屋に入ったら、東野さんが「放課後電磁波クラブ」(S極くん〈東野幸治〉とN極くん〈今田耕司〉が磁力で世の乱れを正そうとするコント)の格好でいたんだよね。もう最高!
もう中 あの姿(青色の際どいハイレグのコスチューム)でいたんだ! コントと同じテンションで?
野田 あのままのテンションで。もう夢見てるみたいで震えました。「嘘だろ!? 俺、電磁波クラブと一緒にいるぞ」と思って。
サーヤ うわー、いいなぁ! ラジオで東野さんが「結婚式のお祝いメッセージもこれで撮ってる」って言ってましたよ(笑)。
もう中 その結婚式沸くだろうねぇ~!
野田 〝面白さ〟っていう暴力で誰も文句言えなくなっていくってあるべき姿じゃないですか。俺らも本当なら「面白いから生意気言ってもいいんだ」になりたいんですけども、力が足りないからこびへつらうわけですよ。
それを面白さだけでいったのが『ごっつ』であり、ダウンタウンさん。だから、夢あるなって今もなお思いますね。
■好きすぎて、いまだに自然と影響を受けてる
野田 『ごっつ』って2回出会いません? 俺らだとリアルタイムで見て、芸人になってもう一回見るっていう。
もう中 特に養成所とか、芸歴3年目ぐらいまでの間にめちゃめちゃ見るよね。
サーヤ 私、ちっちゃいときに「世紀末戦隊ゴレンジャイ」(色違いのヒーロー5人が戦う特撮ドラマ『秘密戦隊ゴレンジャー』のパロディコント)をマジの戦隊モノぐらい喜んで見てた記憶があって。
大人になって笑う箇所が変わるって意味では、「ゴレンジャイ」が一番振り幅大きい気がするんですよ。松本さんがビルの着ぐるみ着て「森ビル!」って登場した回とか(笑)、あらためて見て爆笑しましたもん。
野田 デカいから窓から入るときに引っかかるんだよね。もたつきながら、「森ビル!」って(笑)。
もう中 ボイン(乳房)だけで統一してた回もあったよね、回るボインとか、ごっつボインとか(笑)。
サーヤ あと「ノーパンしゃぶしゃぶ!」って登場したり、関係ないじいちゃん出てる回があったり(笑)。スゴいですよね、あのパッケージで週ごとに大喜利できてるのが。
野田 強烈さでいうと、俺やっぱ「みすずちゃん」だけは一生忘れないと思う。お見合い相手の板尾(創路)さんの目の前でみすず(松本)がウンコしてるのに、父親の浜田(雅功)さんは「みすず! おい、みすず!!」って注意するだけ(笑)。
もう究極が出ちゃってるから、俺お見合いのネタできないですもん。同じ設定であれを超えることないだろうと思って。
サーヤ 家族系のコントが多かったから、自分たちがやるにしても「『ごっつ』になっちゃうな」っていうのはありますね。
私ずっと漫才でいろんな賞レースに出てたんですけど、最近コントライブばっかりやってて。『ごっつ』を見てたのもあって、漫才より圧倒的に作りやすいんです、自分の中で。
ただしゃべるだけじゃなくて、見た目やキャラクターからも引き込むっていうのはスゴい影響受けてると思います。見た目とか小道具の魅力もスゴいですね、『ごっつ』は。
もう中 僕は養成所時代から段ボールで物を作り出したんですけど、本当に全部が『ごっつ』というか......。
最初に作ったのがタイムマシンを100tハンマーで破壊するネタだったり、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でも放送された「空車満車ゲーム」も、たぶん電車乗ってると「ガタンゴトン」が「おとんおかん」になっていく『ごっつ』のコントの影響なんです。好きすぎて、いまだに自然と影響を受けてる。
野田 あれ影響受けてたんだ(笑)。でも確かに、大道具さんがスゴかった説あるね。「浸水家族」(交際中の彼女の実家を訪れると、浸水したまま日常を送る一家だった......という衝撃的なコント)とかヤバかったですからね、セットが全部水浸しで。今あんな大きいの作ろうとしたらスゴいお金かかりそうだし。
もう中 普通に考えて、あの住宅よりもさらに大きな水槽が必要だもんね。そこにホースとか何本も入れて(笑)。
サーヤ 確かにスゴいですね。どうやって作ってたんだろう?会ってみたいな、当時の大道具さん。
野田 思いついたとしても、「できるかー!」ですよ。小道具にしてもスゴく精度が高い。単独ライブにせよなんにせよ、発注して思ってたとおりの物が来る確率ってあまり高くないんですよ。「違うんだよな」って思うときもよくあるし。
もう中 「ウンババ」(コント「学校の怖い話」に出てくる男子生徒にウ○コを投げる怪人)のカツラって、何パターンも用意されてたなかから選んだのかな。
サーヤ ああいう衣装って残ってるんですかね? 「半魚人」(コント「産卵」のキャラクター。「産ませてよ」のフレーズで知られる)とか。
野田 半魚人(笑)。あれクオリティ高いから捨てられないよな。こうやって話しててもそうだけど、なんかわかりますよね、「この人、『ごっつ』好きだったんだろうな」っていうの。
「こういうところが影響を受けた」というよりは、「影響を受けたから、こういうもの作ってるんだろうな」っていうのがすげぇ見える。恥ずかしいんだけど、マヂカルラブリーの結成当初に俺がやってた登場の仕方は完全に「AHOAHOMAN」だからね。相方に言ってたもん、「俺はAHOAHOMANになりたいんだ」って。
サーヤ 野田さんがタンクトップだった頃ですよね(笑)。私、中2のときからマヂラブさんのファンだったんですけど、今思い返すと『ごっつ』からの自然な流れだったのかも。
野田 いや、それはただただダウンタウンさんが好きなだけじゃない?(笑)
■松本さんの話を聞いて「もうかなわんな」って
――『キングオブコントの会』(TBS系)で松本人志さんが新作コントを作られていましたけど、『ごっつ』のコントとの違いは感じました?
野田 「落ちる」(自宅とおぼしき部屋でバンド演奏していると、なぜか叫ぶパートで床に穴が開きベーシストが落ちてしまうコント)は、CGっぽいのが懐かしいなぁって思いましたね。
サーヤ なんかめっちゃアートな感じでしたよね。スゴい作り込んでる感じ。
野田 アートっぽいのとバカバカしいのと、両面あるよね。俺、松本さんと一緒に飲ませてもらったときにびっくりしたことがあって。
「休みの日とか何してるんですか?」って聞いたら、松本さんが「自分の事務所で『あのときの返し、あれで正解だったのか?』みたいなことをずっと考えてる」って言ったんですよ。それ聞いて「もうかなわんな」って(苦笑)。俺もけっこうお笑い好きだと思ってましたけど、異常ですよね。
サーヤ スゴいなぁ。そんなことしてるんだ。
野田 映画も作ってたし、今も『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)の企画とかにも携わってる。コントと呼ばれてるものをやってないだけで、それに近しいネタ作りは日々やってるってことだと思うんですよね。
――いまだお笑いにストイックだと。そんな松本さんの真骨頂といえる『ごっつ』は、今後も支持され続けるのでしょうか?
サーヤ 『ごっつ』のコントが切り抜かれてTikTokとかに上がったら、今の女のコたちはどんな反応するんだろうっていうのは気になりますね。
ただ私たちの世代でも『ごっつ』を見てる人はいたし、なんならもっと踏み込んだお笑いフリークみたいな人たちが〝大学お笑い〟に集まってきてました。「ほかの笑いは認めない」みたいなとがった感じはなく、純粋に『ごっつ』を楽しめたなっていう実感はありますね。
もう中 僕は『THE VERY BEST OF ダウンタウンのごっつええ感じ#1』のDVD3枚組は、もう5、6回は買ってて。
個人的にこのDVDセットはずっと残っててほしいから、仲良くなった人に「お願いだから、この#1だけ全部見て」ってプレゼントとして贈ってます。3000年、4000年って時間が流れても、たぶん誰も思いつかない笑いだから、『ごっつ』は永遠に残ってほしいですね。
野田 この先のお笑い界を本当に思うのであれば、もう支持されなくなったほうがいいと思うんですよ。『ごっつ』に引っ張られず、新しいお笑いが生まれることが本来は後輩たちの成長だと思う。
でも、まだ面白いから俺たちが生きている間のお笑いは『ごっつ』なのかもしれないですね。そういう意味では、逆に『ごっつ』じゃなくなったときのお笑いがどうなっていくのか楽しみです。
●もう中学生
1983年生まれ、長野県出身。NSC東京校7期で、主な芸風はイラストが描かれた段ボールを用いるひとりコント。2020年に『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で紹介されたのをきっかけに再ブレイクを果たす。好きな球団は東京ヤクルトスワローズ
●野田クリスタル(マヂカルラブリー)
1986年生まれ、神奈川県出身。2007年に相方・村上とマヂカルラブリーを結成。2020年に『R-1ぐらんぷり』と『M-1グランプリ』で王者に輝く。ゲームが好きで、自身で制作したゲーム『野田ゲー』はNintendo Switchでもソフト化され、大会も行なわれた
●サーヤ(ラランド)
1995年生まれ、東京都出身。上智大学在学中に相方・ニシダとラランドを結成。2021年には個人事務所「レモンジャム」を立ち上げ、代表取締役社長に就任。バンド「礼賛」では川谷絵音らと共にCLR名義で参加し、作詞作曲とボーカルを担当