『キン肉マン』本編で活躍中のアシュラマン。アシュラマンといえば、漫談ネタもあるハリウッドザコシショウ! というわけで、燃え殻、爪切男がザコシを直撃!
(こちらの記事は『週刊プレイボーイ』37号に掲載されたものです)
●ザコシショウと『キン肉マン』
爪切男(以下、爪) ザコシさんは、『キン肉マン』との最初の出会いは、いつ頃だったんですか?
ハリウッドザコシショウ(以下、ザコシ) 小学生の頃ですかね。最初はマンガです、『週刊少年ジャンプ』。やっぱり、プロレスマンガっていう感覚で読んでました。
燃え殻(以下、燃) それまであったようなプロレスマンガとは、違いましたよね。プロレスファンが見た〝夢〟みたいなマンガ。
ザコシ 超人がね、人間の概念の範囲を超えてるから。腕が6本あったり、足が4本あったりね。ラーメンマンに、キャメルクラッチで体を真っぷたつにされたら、その体の中が機械だったり。
爪 ああ、モーターマン。
ザコシ そういうキャラクターがいっぱい出てくるのが、俺が最初に『キン肉マン』を好きになった理由じゃないですかね。キャラクターがいっぱい出てくるの、今のプロレスに通じるじゃないですか。
燃 ああ、そうですね。
ザコシ 『キン肉マン』も、WWEとかのプロレスも、新しい超人、新しいプロレスラーがいっぱい出てくる。で、どっちも軍団がいくつもある、「7人の悪魔超人」とか、NWOとか、バレット・クラブとか。そういうのに興味をそそられたというか。
燃 俺はその頃、キンケシにもハマっていて。
ザコシ キンケシも集めましたね。何万円も使いましたよ、ガキの頃。買っても買っても、同じのがかぶって。一番欲しいマンモスマンが出ないんですよ、全然。
爪 ああ、出なかった。
ザコシ むちゃくちゃ怒られましたもん、母親に。
燃 後のガンプラと近い感じで、キンケシという、形があるものから入る感じもありましたよね、『キン肉マン』には。物に触れる、物を集められるというのも、入り口になっていた。
ザコシ リングも売ってたね。
爪 売ってました!
ザコシ 最近、俺の子供(双子の女の子)がね、サンリオとかの人形を欲しがるから、買い与えるんですけど。何個持ってても「買って、買って」って。その人形を両手に持って、ひとりで劇みたいなことをして遊んでるんですよね。「あ、俺もキンケシでやってたなあ」と思って。
燃 俺もやってました。
ザコシ 時代は繰り返されるな、と思いました。
爪 うちの近所に、変わった子というか、絶対キンケシの腕を切り落とすヤツがいて。
燃 あ、でも、俺も切ったけどなあ。
ザコシ そうなんですね。アシュラマンの腕がサンシャインの地獄のローラーに巻き込まれて切れちゃったから、自分のキンケシのアシュラマンの腕も切るんですけど。でも、結局後悔するんですよね(笑)。
爪 溶かすヤツもいましたね。
ザコシ ライターでな。うまく溶かせばワザケシになるからね。技を極めているポーズにする。
爪 溶かして手足の角度を変えて、キン肉ドライバーの形を作ろうとしたりして。
ザコシ キンケシのトントン相撲もはやらなかった?
爪 やりました、やりました。
ザコシ 箱の上に相撲の土俵を描いて、トントンって叩いて、負けると相手にそのキンケシを取られる。ババやんっていう友達がいて、そいつの家でやったんですよ。ババやん強くて、絶対に勝つんですよね。誰にも負けない。もう手持ちのキンケシ、全部取られて、「なんでやろなあ」と思いながら帰ったんですよ。で、外からババやんの家を見たらね、傾いてた。
燃・爪 ははははは!
ザコシ 地形の利を知ってたんです、ババやんは(笑)。
爪 あと、『キン肉マン』、最近のほうが、プロレスからの影響が大きいですよね。ティーパックマンにマンモスマンと、ドラゴンスクリューを使う超人が増えてきたり。この間、アシュラマンがドラゴンスクリューをやってましたね、3本の腕で(385話「鉾×盾、矛盾の張り合い!!の巻」)。
ザコシ (笑)。バカ強いですよね、3本でやりゃあ。
爪 総合格闘技とかやったら強いでしょうね。マウントを取ったら、6本の腕で相手を押さえて。
ザコシ 防御もできるし、パンチもできるし。サムソン・ティーチャーだって、プロレスのルールなら反則ですからね。ふたりがかりなんだから(笑)。
燃 そうですよね。
ザコシ 分裂するからね、あいつら。あと、『キン肉マン』の技を実在のレスラーがやる、というのもおもしろくて。小橋(建太)、『キン肉マン』に影響されて、スリーパースープレックスをやったでしょ?
燃 ああ、あれ、『キン肉マン』の影響だったんですね。
ザコシ 絶対『キン肉マン』の発想でしょ(*あくまでもザコシショウさんの見解)。あと、ネプチューンマンの、ダブル・レッグスープレックスなんて......。
燃 あった! やってた、DDTの竹下(幸之介)選手が。
ザコシ 危険極まりないですよね。あれはやる選手、珍しいけど、キン肉バスターは多かった。モハメド・ヨネとか。
●舞台で『キン肉マン』ネタをやる理由
爪 燃え殻さんとよく話すんですけど、『キン肉マン』って、アンチが湧かないのが不思議だなと思っていて。
燃 そう、「『キン肉マン』、超嫌いなんだよね」っていう人、いないじゃないですか。
ザコシ そうですね、まあ、女性ぐらいですかね。
燃 そうなんですよ(笑)。
ザコシ 嫌いとかじゃなくて、知らない。
燃 女性は、『キン肉マン』を通ってない人が多い。
ザコシ お笑いの舞台で『キン肉マン』を扱ったネタをやると、ドン引きされますよ、特に女性はね(笑)。
燃 いや、ザコシさん、スゴいところでスゴいネタをやってるなあって、見ていてよく思います。
ザコシ でもね、来たお客さんに合わせるようなネタ、やりたくないじゃないですか?
爪 カッコいい!
ザコシ つまんねえと思ってるものを、なんでネタにしないといけないんだ、という。自分がおもしろいと思っているものじゃないと、体重が乗らないというか。
燃 ああ、なるほど。
ザコシ 若い頃は、それをどうネタに落とし込むか、っていうところがヘタクソだったけど、今はうまく伝える方法を身につけたので、昔みたいにはスベんないです。それでも『キン肉マン』のネタは......「ああ、わかるわかる」という感じには、なかなかならない(笑)。
燃・爪 はははは。
ザコシ 男は、ドンピシャでウケるんですけどね。
爪 アシュラマンをネタにしようと思ったのは、やっぱり好きだからなんですか? ウケたかったからというよりも。
ザコシ そうそう、もともとはね、俺、吉本時代に、ケンドーコバヤシと「タイマン舞台」っていうライブをやっていて。そこで「もしも、アシュラマンとサンシャインが漫才をやったらどうなるか」と、「古館伊知郎と山本小鉄が漫才をやったらどうなるか」とかをやってましてね。
燃・爪 はははは!
ザコシ サンシャイン(ケンコバさん)も忙しくなったので、ひとり用にしたのが、アシュラマンの漫談なんです。
●ザコシの好きな超人&ベストバウト
爪 ザコシさん、アシュラマン以外に好きな超人は?
ザコシ ネプチューンマンですね。もともとハルク・ホーガンが好きで。ブルーザー・ブロディ、スタン・ハンセンも好き。超人募集で、その3人をミックスして送られてきたのが、ネプチューンマンでしょ(*実際は、ハンセンとブロディ、ホーガンをミックスした「イチバンマスク」と「ハルクマシーン」の2体)。その3人のいいとこ取り。チョッキを着てるし、ヒゲ生えてるし、毛皮のリングシューズはブロディだし。カッコいいんですよね、ネプチューンマン。
燃 言われてみれば、確かにそうですね。
ザコシ あと、よく覚えてる名勝負が、ブロッケンJr.対ザ・ニンジャ。
燃・爪 ああ!
ザコシ あれ、好きでしたね。ブロッケンって、地味なんだけど玄人感があるから。
燃 確かに地味だけど、記憶に残るファイトが多いですよね。
爪 うん。でも見ていてちょっと恥ずかしいんですよね、あの裸が。やけにリアルだから。
燃 アゴにマスクみたいなのがついてるのも、気になりますよね。
ザコシ あれ、見ようによっちゃ、ヒゲを染めてんのかなと思ったんですよ(笑)。で、耳はヘッドギアで。
燃 謎スタイルですよね。
爪 ザ・ニンジャとやったとき、五重のリングの2階の底が抜けて、ブロッケンと、「忍法顔うつし」でブロッケンの顔を自分に写したザ・ニンジャが、1階のロビンマスクのところに落ちてきて。
ザコシ そうそう。
爪 どっちが本物のブロッケンか、わかんない状態で。
ザコシ その後、ブロッケンのリモコンハットがフワーッて落ちてきて、「この帽子は本物のブロッケンJr.のもとにしか戻らん!!」ってことで、本物であることが証明されたんだよね。
爪 今の『キン肉マン』には、ああいうめちゃくちゃな展開は、ないかもしれないですね。笑えるようなヤツは。
ザコシ うん、『少年ジャンプ』時代とはちょっと違う。1試合ずつをちゃんと見せていく連載になっていますよね。試合と試合の間の、ちっちゃいエピソードも......「大阪城の血戦」で大阪城へ行くのに、地下の通路の巨大迷宮を通って行かなきゃいけない、とか。ああいうのが、今はなくないですか?
燃 ああ、なくなりましたね、そういうのが。
爪 時代じゃないですかね。僕らみたいに、本を書いていてもそうですけど、わざと遠回りして書いていると「早く正解を教えてくれ」とか言われるから。最短距離でわかりやすいものがウケる時代ですよね。でも私は、脱線や回り道こそが人生の楽しみだと思うんだけどなあ。
●ザコシが思う「キン肉マンよ、永遠に」
燃 『キン肉マン』の最終回って、ザコシさんだったらどういうものにします?
ザコシ ああ、でも、一回最終回、あったからね。
燃 大団円でしたよね、あれ。
ザコシ あの最終回、俺、大満足でしたからね。でも、その後も続いてくれたから......そうなったらもう終わってほしくない、っていうのがありますね。1回目の最終回、大満足の半面、残念だったんですよ、やっぱり。ずっと好きだったから。
燃 ああ、終わってほしくなかった。
ザコシ そう。一番いい終わり方だな、と思いつつ、でもずっと続いてほしいな、「キン肉星王位争奪戦」の次を読みたいな、って思ってたから。だから今、続いてくれていてうれしいです。またあのときみたいな微妙な気持ちになりたくないから、ずっと続いてほしいですね。
●ハリウッドザコシショウ
1974年生まれ、静岡県出身。「あらー1グランプリ2014」、『Rー1ぐらんぷり2016』優勝、『ドキュメンタル』唯一のV3達成など、お笑い版"悪魔界の貴公子"として君臨。『あらびき団』などで「アシュラマン漫談」を披露していたほど肉愛は強い
●燃え殻(MOEGARA)
1973年生まれ、神奈川県出身。働きながら始めたツイッターでの発言に注目が集まり、作家デビュー。最新著は『それでも日々はつづくから』(新潮社)。ドラマ『あなたに聴かせたい歌があるんだ』(漫画:おかざき真里/扶桑社)は、Huluにて配信中。9月14日よりDisney+にて阿部寛主演でドラマ『すべて忘れてしまうから』も配信中
●爪切男(TSUMEKIRIO)
1979年生まれ、香川県出身。2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)で小説家デビュー。2020年、同作が賀来賢人主演でドラマ化。風俗嬢との公私ない交ぜの触れ合いの様子をつづった『週刊SPA!』連載コラムを一冊にまとめた『きょうも延長ナリ』(扶桑社)が発売中。Webサイト『よみタイ』(集英社)にて、『午前三時の化粧水』が連載中