『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス12巻を熱く語る

大激闘「7人の悪魔超人編」決着の興奮も冷めやらぬまま、さらなる強敵続出の新章「黄金のマスク編」へと物語は突入。神話的要素も絡み、さらに壮大となったシリーズが開幕です!

『キン肉マン』第13巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●超人プロレスの完成形を目指して

13巻最初の見どころは、もちろん「7人の悪魔超人編」クライマックスと感動のエンディングなんですが、その素晴らしさは12巻レビュー時に勢い余って散々お伝えした感もありますので、あえて割愛。今回は、これまた人気の名編「黄金のマスク編」に焦点を当てていきたいと思います。

さて、その気になる新章開幕ですが、最初の扉ページからさっそく戸惑うほどの緊張感を突きつけられます。並べて飾られた金銀マスクの台座中央にひと言「ふたつのマスクをわかつものにわざわいあるべし」。いきなり怖い!(笑)

思い返せば、こんなものものしい始まり方をしたシリーズはこれまでありませんでした。本筋に入る前に笑いを主体にした緩い日常風景を挟んだり、優勝後のドンチャン騒ぎから始まったり、そんな様子を見るたびにやはりギャグベースのマンガなんだとホッとするところもあったんですが、今回そんな息抜き描写は一切なし。いきなりハードモードから始まります。

しかしこれこそ、この作品がもはや新たなステージに入った象徴のような気もします。バッファローマン戦で最高潮に達した緊張感を保ったままその先へ。何より勢い重視の姿勢をゆでたまご先生が採用されたのも、読者が『キン肉マン』という作品に、そういう刺激を求め始めたからだという見方もできると思います。

そして、僕が大きく驚かされたことがもうひとつ。それは先々の展開にも少し触れることになりますが、このシリーズ全体の流れが前章「7人の悪魔超人編」の流れをあえてなぞっているように見えるということです。序盤は主人公のキン肉マンが孤軍奮闘し、中盤で仲間の援護が加わり、最後はやはりキン肉マンの闘いで締める。非常に似ていると思うのですが、それはどういう意図なのか?

一般的にマンガ家の話作りの方針を大きくふたつに分けるとすれば、ひとつは読者の予想を裏切ること、もうひとつは読者の願望を叶えることだと思います。それでいうと、おそらくゆでたまご先生は「7人の悪魔超人編」で、最高のシリーズ展開のひな型を開発できたという感覚がおありだったんじゃないでしょうか。

読者はこういう展開を望んでる、という確かな手応えを感じられた。話の流れとしてはそれを踏襲して安定感を確保した上で、新たな冒険としてチャレンジされたのは、超人プロレスの中身をさらに進化させ、極めていくということだったのではないかと僕は推測するのです。

この「黄金のマスク編」で組まれた対戦カードを見渡すと、興味深いことに先のシリーズでいうステカセキング戦みたいな緩い試合はひとつもありません。どの試合も誰も見たことない驚天動地の必殺技オンパレードで、バチバチの命のやりとりをひたすら繰り返していく。見ているほうが緊張感で疲れてくるほど壮絶な死闘の連続です。

しかしその甲斐あって、このシリーズで超人プロレスという競技は現実のプロレスとはまったく違う、揺るぎない唯一無二の独自性を確立させ、ほぼ今にまでつながる完成形に至りました。これぞまさに、ゆでたまご先生がこのシリーズで目指した境地だったのでは、と僕は強く感じるのです。

●初戦から相手がいきなり強すぎる!?

そして、この「黄金のマスク編」もうひとつのキーワードはスケールアップ。闘いの目的も前章ではミートを助ける、という個人的感情に根差したものだったのが、今回は超人界そのものを救う、という壮大さに。さらに究極のエポックメイキングはその仕掛け装置として、物語に〝神話性〟を混ぜ込んできたということです。

正直、『キン肉マン』と神話がここまで相性いいなんて、誰が想像できたことでしょう。この両要素をつなげたのもまた、ゆでたまご先生のセンスの非凡さ。以降、この世界では神様が当たり前のように天界でプロレスをしていることになりました。そしてその設定は、今の連載にまで影響を及ぼし続けることになるのです。

さらには、敵の格も強烈にスケールアップ。何せいきなり初戦のスニゲーターから強すぎます。特に僕が好きなのは「地獄の封印の巻」という回で、このたった1話内でスニゲーターは6回もまったく別の姿に大変身。

出し惜しみのないこの疾走感に、彼の能力の底知れなさを感じますし、最後に変身した彼の正体がティラノサウルス......ではなく、その足っていう先生のセンスがまた謎すぎて、かえって不気味さマシマシ。挙げ句の果てに、キン肉マンの全パワーを吸い取って殺してしまうという衝撃度MAXの結末。ウルフマンの犠牲のおかげでなんとか復活できましたが、キン肉マンの命すら危うい相手なんだというインパクトは絶大でした。

そして続く第2の相手、プラネットマンもモチーフが太陽系という壮大さ。ほかのマンガならボスキャラでもおかしくない設定です(笑)。こんな地獄巡りがどこまで続くのかという戦慄を読者にしっかり植えつけたまま、物語は次巻、五重のリングの出現でさらにヒートアップしていきます!

●こんな見どころにも注目!

僕はよく「ゆでたまご先生はサービス精神がほかの作家と比べても断トツにすごい!」という話をさせていただきますが、その象徴ともいえるのがこのシーン。闘いの手順説明を終えた悪魔六騎士が各地に散らばるという場面なんですが、普通におのおの空に飛んでいってもなんら問題ないですよね。なんでわざわざみんなで巨大拳銃に変身して、弾になって空に発射されていくの......? こんなところまでアイデアを出し惜しまないゆで先生が僕は大好きです!

●キン肉マン4コマ

●おぎぬまX
1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!

9月26日(月)発売『週刊プレイボーイ』41号では、おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第14巻編】を掲載!!

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