堀越耕平氏の同名コミックが原作の人気アニメ『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)。待望の第6期シリーズが10月1日(土)より放送されることを記念して、主要キャラクターを演じる声優たちの連続インタビューが実現! 第2弾は主人公・緑谷出久の幼なじみでありライバルでもある、「かっちゃん」こと爆豪勝己役を務める岡本信彦さんが登場する。
■「かっちゃんと違って怒ることがないタイプ」
――先ほど、緑谷出久(デク)を演じている山下大輝さんにインタビューしてきたのですが、そこで岡本さんの印象を伺ったら、「すごく癒やされる人」と答えてくださって。
岡本 それはうれしいです(笑)。
――癒しキャラだという実感はある?
岡本 いや、まったくないです(笑)。ただ、僕は常日頃から、「一度きりの人生なんだから、みんなが楽しくなるようにしたほうがいいよな」とは思っています。でも、こうやって話すと、「絶対に嘘だ」と言われちゃうんです、なぜか。本音なんですけどね。
――周りを楽しくすることが好きな性格というか。
岡本 そうですね。キャストの中では緩衝材の役割かなと思います。新人が入ってきたら、みんなとつなげようとしますし、イベントでもその場がうまく回るように振る舞ったりするタイプです。
――過去のインタビューでもおっしゃっていますが、演じている爆豪勝己とは真逆の性格ですよね。爆豪はどちらかといえば我が道を行くタイプで、究極の負けず嫌いでもある。
岡本 口も悪いですからね(笑)。僕はかっちゃんみたいに、他人に「クソが」とは言わないですし、「死ね」なんて思ったこともない。人に対して心の底から怒るってことが基本的にないタイプです。
――それだけ正反対な性格のキャラクターを、どうやって演じてきたのでしょう?
岡本 これを言うと母親から怒られちゃうんですけど(笑)、子どもの頃によく叱られていたんです。僕が怒られるようなことをしていたのが悪いんですが、そのイメージを引っ張ってきていると思います。
だから、僕は役者としては珍しいタイプかもしれないです。自分の中の記憶を掘り起こして感情を爆発させるっていうよりは、「このキャラクターなら、こういうふうに思うだろうな」と考えたうえで、あれこれ想像しながら演技を作っていく感じなんです。
■演じている立場から見た爆豪勝己
――では、岡本さんは爆豪勝己というキャラクターを、どのように解釈されているのでしょうか。
岡本 かっちゃんは"ウルトラストイックマン"だと思っています。強い言葉で人に何かを言うと、ブーメランになって絶対に自分に返ってきます。「お前、こんなこともできないのかよ」って言うなら、「じゃあ、お前はどうなんだ」と思われることを覚悟しないといけない。
かっちゃんはそういう反応をわかったうえで、有言実行しながら高みを目指している人物です。人に言った以上のハードルを自分にも課す。一本筋が通っていてカッコいい生き方ではあるんですけど、ツラい人生を選んでいるなって思います。
だからこそ、壁にぶち当たったときのことが心配です。かっちゃんのアイデンティティは、「すべてに勝つ」なんです。彼は(元No.1ヒーローの)オールマイトと授業で戦ったときに、「折れて折れて、自分を捻じ曲げてでも選んだ勝ち方で、それすら敵わねえなんて、嫌だ......!」と言いましたが、それだけ勝ちにこだわる人が負けたときのことを考えると、なかなかツラい結果が待っていそうじゃないですか。
かっちゃんの「すべてに勝つ」は、敵(ヴィラン)だけでなく、自分に打ち勝つことでもあるんです。常に上を目指しているところが彼の魅力であり、しんどいところでもあると思うので、もし決定的な敗北があったら......どうなってしまうんだろうと心配しています。
――幼なじみでありライバルでもある、デク(緑谷出久)との関係はどう見ていますか?
岡本 デクとかっちゃんは似ていると思います。それがずっと演じてきた結論です。どちらも「理想のヒーローになりたい」という強い思いが原動力になっている。そして、似ているからこそ、かっちゃんはデクを遠ざけてしまうのだと思います。この2人の関係性がどうなっていくのかも、今後の見どころだと思います。
■今後の爆豪は「とにかく心配」
――アニメの6期ではヒーローと敵(ヴィラン)の全面戦争が描かれますが、今後の爆豪にはどんな活躍を期待していますか?
岡本 正直、4期のあたりから周りの強さのインフレについていけるのか心配な自分がいまして。僕はかっちゃんの「爆破」という"個性"(登場人物たちにそなわっている超人的能力)で、ここまでやってきたこと自体がすごいと思っています。周囲を爆破させるだけでなく、その力を利用して空まで飛ぶ。すごくコントロールが大変そうじゃないですか。それはかっちゃんがいかに努力してきたかという証明になっていると思います。
でも、最近では頑張ってきたかっちゃんの成長速度を上回る勢いで周囲の強さがインフレしてきている。だから、これからの活躍を考えると、難しいところです。もちろん、本人としては最前線で戦えるように今も頑張っているんですけど、実際にそれが通じるのかどうかを考えると......。かっちゃんが現状の自分をどう思っているのかはわからないですが、僕は見ていてずっとしんどいです。
――岡本さんのお話を伺っていると、爆豪になりきって演じているというよりも、ちょっと離れたところから見守っているような印象があります。
岡本 あ、それはあるかもしれないです。「頭で演じやがって」と叱られるかもしれませんが、僕は自分自身も少し離れて眺めるタイプなので、これが自然な態度ではあるんです。
――ちょっと離人症みたいな。
岡本 子どもの頃からそういう感じはありました。だから怒られやすかったのかな(笑)。
――爆豪を演じてきて6年以上が経ちましたが、岡本さんにとってはどういう存在ですか?
岡本 単純明快に見えて、実はめちゃくちゃ深い。それが爆豪勝己という人物です。そんな複雑なキャラクターを演じられていることには、もう感謝の気持ちしかありません。自分とは真逆の性格だから演じるたびに新しい発見がありますし、僕が普通に生きていたら味わえない刺激を、かっちゃんからはもらえている気がします。6期も続けて演じられることがうれしいですし、視聴者のみなさんには、いろいろ心配なところはあると思いますが、これからのかっちゃんを見守っていただけたらと思っています。
■「この作品と出会うまでヒーローが好きではなかった」
――山下大輝さんをはじめとした主要キャストのみなさんとも長い付き合いですが、岡本さんから見て、どういう関係になってきていますか?
岡本 これは声優業界の面白いところなんですが、僕らはオーディションのときは役を競い合うライバルなんです。でも、レギュラーで一緒になった瞬間にチームワークを発揮する。特に『ヒロアカ』は、その一体感がすごくあると思います。でも、それは単純に仲が良いってだけではなくて、切磋琢磨し合っているからこその関係性というか。ライバル心とリスペクトの両方があるからこそ、いい関係が築けているのだと感じています。
――まさに『ヒロアカ』の1年A組(デクや爆豪が通うクラス)のクラスメイトたちの関係性そっくりですね。最後に、今回のインタビューでみなさんに聞いているのですが、岡本さんにとっての「ヒーロー」とは?
岡本 僕はぶっちゃけ、『ヒロアカ』をやるまでヒーローってそんなに好きじゃなかったんです。子どもの頃は好きでした。でも、大人になってからは、「正義って1つじゃないよな」と思うようになってきて。絶対的な正義と悪がいるのではなく、あっちの正義とこっちの正義がぶつかって争いになるというイメージを抱くようになったんです。
それにヒーローってものすごく難しい立場だと思います。困ったときに助けてくるのがヒーローの役目だとして、例えば、10人か1人のどちらかしか助けられませんとなったら、どうするのか。そこで両方を救うのを期待されるのがヒーローですが、だからこそ、それが無理だったときに許されるには、その場で死ぬしかない。そんなのってどうなんだろうと思っていました。
でも、『ヒロアカ』と出会って、オールマイトが答えを言ってくました。「ヒーローとは、お節介をするお仕事だ」と。僕には、ヒーローは神様じゃない、完璧な人間なんていないけど、それでも助けようとするからヒーローなんだ、と言っているように聞こえました。
それに、本編での麗日お茶子の「ヒーローがツラいときに、誰が助けてあげるんだろう?」という言葉も印象的でした。つまり、ヒーローも一人の人間に過ぎないんです。むしろ、その限界を受け止めたうえで頑張っている人がヒーローなんです。それは「誰でもヒーローになれる」ということでもあると思います。だから、僕にとってのヒーローは「とにかく必死に頑張っている、すべての人」です。
⇒佐倉綾音(麗日お茶子役)さん、内山昂輝(死柄木弔役)さんのインタビューは来週公開予定!!
●岡本信彦(おかもと・のぶひこ)
10月24日生まれ、東京都出身。
2006年に声優デビュー。翌年には、テレビアニメ『sola』の森宮依人役で初主演を果たした。2009年には第3回声優アワードにて新人男優賞を、2011年第5回声優アワードにて助演男優賞を受賞した。主な出演作品に『僕のヒーローアカデミア』、『青の祓魔師』(奥村燐役)、『とある魔術の禁書目録』(一方通行〈アクセラレータ〉役)など
公式Twitter【@ok_nobuhiko】