堀越耕平氏の同名コミックが原作の人気アニメ『僕のヒーローアカデミア』(以下、『ヒロアカ』)。待望の第6期シリーズが放送スタートしたことを記念して、主要キャラクターを演じる声優たちの連続インタビューが実現! 第3弾は同作のヒロイン的存在である麗日お茶子(うららかおちゃこ)役を務める佐倉綾音さんが登場する。

■キャラクターの成長を感じた決定的瞬間

――キャストのみなさんにお話を伺っていると、アフレコ現場がすごくいい雰囲気だと口をそろえておっしゃいます。

佐倉 そうですね。特に私はデク(主人公の緑谷出久)を演じている山下大輝くんが本当に素晴らしいなと思っていて。朗らかな好青年で可愛くて、息子にしたいくらいに思っています、歳上ですが(笑)。

――年齢は山下さんが上ですが、キャリアとしては佐倉さんのほうが先輩なんですよね。

佐倉 年上の後輩なんですけど、あまりにもいい人で(笑)。その大輝くんの人柄が現場を引っ張ってくれています。休憩時間は癒やしを与えてくれるし、でもマイクの前に立ったときには気合の入れ方が凄まじくて。私たちも命がけでアフレコしているんですけど、新人声優さんが大輝くんの気迫に触れたら、オーラで殺されるんじゃないかって思うほどの迫力なんです。

そうやって癒やしの空気もアフレコ中の緊張感も大輝くんが作ってくれているから、やっぱり彼が主演としてリードしているのが『ヒロアカ』の現場なんだと思います。あんなにスイッチの切り替えに振り幅がある人は大輝くん以外にいないですよ。

佐倉綾音さんが演じる「お茶子」 佐倉綾音さんが演じる「お茶子」

――みなさんが『ヒロアカ』に出演して6年以上が経ちました。佐倉さんが演じている麗日お茶子は、初期の頃と現在で印象に変化がありますか?

佐倉 ヒーローとしての覚悟がどんどん強くなっていると感じています。最初は楽しい学園生活が中心でしたけど、6期がヒーローと敵(ヴィラン)の全面戦争になるように、作中の緊張感が次第に増してくるに従って、お茶子も成長しています。

彼女は両親を経済的に助けたいからヒーローを目指しているんですよね。でも、雄英高校ヒーロー科に入学して本当のプロヒーローの現場を見たときに、「自分には何ができるんだろう」と考えるようになりました。

特に変化を感じたのは、(5期の)「私はヒーローを助けるヒーローになろう」と決意するシーンです。あそこはアフレコでも、「新しいお茶子を見せてくれ」というディレクションでした。最初にテストで演じたのは俯瞰で見ているような感じのモノローグだったんですけど、「そうじゃない」と。「覚悟を決めて未来を見据えたお茶子を演じてくれ」と言われて。その瞬間に彼女も成長したんだと実感しました。

――物語がシリアスになっていくにつれ、お茶子も確実に影響を受けているわけですね。

佐倉 今は戦いの合間に挟まる生徒たちの学園ものっぽいやり取りが癒やしになるくらい張り詰めていますからね。最初の頃が懐かしいです。

■「恋愛要素からは目を逸らし続けています」

――佐倉さんから見て、お茶子はどういう女のコですか?

佐倉 これはヒーロー科の全員に言えますけど、みんな敵(ヴィラン)と戦うほかに追っているものがあると思うんです。お茶子はそれがデクなんですよね。デクは1人でどんどん先に進んでしまうから、背中が見えなくなってしまうかもしれない不安があります。でも、彼を追いかけて、なるべく近くで支えてあげたいと思っている。ただ、それは恋愛的な意味ではなくて、手の届くところでサポートしてあげたいということじゃないかな、と感じています。

――デクとお茶子の関係は『ヒロアカ』で唯一の恋愛要素と言われることもありますね。

佐倉 私には2人の関係をはっきり「恋愛」として見たくないって気持ちがあるんですよ。そう言われているのは知っていますけど、ずっと目を逸らし続けています。デクのことを意識しているようなシーンがあっても、なるべくそれっぽくならないように演じてきました。でも、トガちゃんが出てきてから、それだと乗り切れなくなっているのも事実で。

――「トガちゃん」ことトガヒミコは、敵(ヴィラン)でありながらデクに好意を寄せているキャラクターです。確かに彼女が登場してから、お茶子のデクに対する感情がより明確に描かれるようになってきました。

佐倉 そうなんですよ。これから先を考えると、私はどうやってお茶子と向き合えばいいのか悩んでいる最中です。4期や5期でお茶子自身が「この思いはしまっておこう」とギリギリのところで踏みとどまってくれたので、少しほっとできました。

3期で初めてお茶子とトガは出会いましたが、ジャンプフェスタで原作の堀越先生がくださったお手紙に、「トガというキャラクターはお茶子を前提に登場させました」「お茶子はトガに合わせてキャラクターを進めていました」「早く描きたくてウズウズしているシーンがあります」とあったので、私も覚悟を決めて向き合わなければならないと思っています。

■「親心として、お茶子にはまっすぐなままでいてほしい」

――これもみなさんに聞いているのですが、佐倉さんにとってヒーローとは?

佐倉 『ヒロアカ』を観ていると、ヒーローって何かとは一概に言えなくなりますよね。6期の全面戦争でさらに激化しますが、正義と悪の境界が曖昧になって、すべてがエゴのぶつかり合いなのじゃないかとまで思ってしまうんです。ヒーローはヒーローなりの思いがあって、敵(ヴィラン)には敵(ヴィラン)なりの思いがある。すごくデリケートな問題で、敵(ヴィラン)だって傷ついてきた過去があって、ああいう行動に出ていると描かれていますよね。

――ヒーローと対立する超常解放戦線のリーダーである死柄木弔(しがらきとむら)は、その象徴的存在です。恵まれない過去があったために自分を排除してきた世界を壊したいと思っている。

佐倉 そういう彼に共鳴して集まってきたのが、これから戦う超常解放戦線だと思うと、純粋な悪だとは言えなくなります。もし敵(ヴィラン)を支持する人が多数派になったら、その立場が逆転してしまうんじゃないかと思うことさえありますから。これは私たちが生きている現実の世界にも言えることですよね。私自身を考えても、ヒーローの気持ちだけじゃなく、敵(ヴィラン)の気持ちも少しわかるところがあって、自分の中でもヒーロー対敵(ヴィラン)の全面戦争が始まってしまうんです。

――そうやって正義と悪が混沌としていく中で、お茶子にはどういうヒーローになってほしい?

佐倉 お茶子がそういうふうに悩まないといいなと思っています。これまでのようにまっすぐ突き進むお茶子でいてほしい。これは声優として、というよりは親心として、そう願ってしまっています(笑)。

――演じているというよりも、見守っている気持ちが強い?

佐倉 そういう自分もいますね。私はイタコのような憑依タイプではないので、キャラクターに100%寄り添うというよりは、少し俯瞰の視点を残しながら演じることが多いんです。だから私としては、トガちゃんに「これ以上は勘弁してください」と言いたいです(笑)。

先ほどのジャンプフェスタのとき、堀越先生がイラストを描き下ろしてくだったのですが、それがお茶子とトガちゃんがすごく仲良さそうにしている絵だったんですよ。私が望んでいる未来はこっちなんです。でも、「この未来は訪れないから、こうやって"If"を特別に描いてくださったのかな......」と思ってしまって。このまま戦争に突入して、生きるか死ぬかの場面になったとき、もしどちらかを殺めるような展開になったら......本当にツラいです。悲しすぎて泣いてしまうと思います。

■「両親が私のオールマイトです」

――ご自身の人生でヒーローと呼べる存在はいらっしゃるんですか?

佐倉 私にとっては両親ですね。これはずっと変わらないです。私が傷ついたとき、助けが必要なときには必ず駆けつけてくれて、立ち直ったら去っていく。本当に理想のヒーローなんです。

――まさに『ヒロアカ』におけるオールマイトのような。

佐倉 そうなんですよ! きっと私よりも先にいなくなってしまう存在だから、身をもって理想のヒーロー像を教えてくれているのだと思います。私は「家族」が人生のけっこう大きなテーマなんですけど、お茶子もすごく家族を大事に思っているじゃないですか。『ヒロアカ』全体でも家族にまつわるエピソードが多くて、とても心に響く作品だと思っています。

――ちなみに、佐倉さんが「癒やされる」と言っていた山下大輝さんは、ハンバーグが自分のヒーローだと言っていました。

佐倉 大輝くんも変わらないですね(笑)。それ、1期から言っていました。本当に好きなんでしょうね。きっとあの人、40歳、50歳になってもあのままだと思います(笑)。

⇒内山昂輝(死柄木弔役)さんのインタビューも近日公開予定!!

■佐倉綾音(さくら・あやね)
東京都出身。2010年に声優デビュー。2018年には第12回声優アワード助演女優賞・パーソナリティ賞を受賞した。主な出演作に『僕のヒーローアカデミア』、『ご注文はうさぎですか?』(保登心愛)、『『Charlotte』(友利奈緒)、『五等分の花嫁』(中野四葉)など。最新情報は、事務所HPをチェック!