令和4作目の仮面ライダー『仮面ライダーギーツ』は「生き残りゲーム」! 設定の着想、世界観の大元やキャスティング秘話について、番組チーフプロデューサー・武部直美氏に余すところなく語ってもらった。
■不安定な世の中だから指針となるリーダーを
――いきなり最終決戦から始まるなど、インパクト抜群の第1話でした。
武部 『仮面ライダー』も、平成シリーズから数えても24作目となり、多数ライダー、敵ライダー、女性ライダーといろいろとやってきて新しいことに挑戦するのは難しい。それでもなるべく刺激的な内容で、かつわかりやすさとつかみは欲しかった。
私が担当したシリーズですと『ディケイド』も同じ構成ですが、世界観の説明にはやっぱり0話からスタートしたほうが一番システムをわかってもらいやすいんですよね。初回はパイロット的な意味もあるのでお金もかけられる。なので、迫力のあるシーンを最初に見せて、引きをつくりたかったんです。
――多数ライダーが生き残りゲームを行なうという設定の狙いは?
武部 みんながそれぞれの願いのために生き残りをかけるストーリーですが、これは価値観、趣味が細分化してニッチなジャンルも人気があるような今の時代の流れで、仮面ライダーの世界にもどれが正義とはいえないようなエッセンスを取り入れたかった。
それに、今はサブスクで過去シリーズの作品も簡単に見られる時代だけど、最初に見られる最新の仮面ライダーのオンエアを楽しみにしてほしいと思ったときに、生き残りゲームのような設定だと子供たちも非常に続きが気になるじゃないですか。
――確かに。
武部 『賭博黙示録カイジ』シリーズや『イカゲーム』のように皆さんが夢中になって一気見した作品を参考に、続きが気になって、見終わったら感想を言い合えて......。そんな熱気がもう一度仮面ライダーに戻ってきてくれたらという狙いがあります。
――なかなか今の子供には、1年間腰を据えて同じ作品を見続ける習慣がない、と。
武部 そうですね。短いサイクルでストーリーがわかったり、今何人のライダーが生き残っているのか冒頭で表示して1話だけ見ても世界観を理解しやすくしたりと、時代に合わせて作っています。
それに、今の子供たちは自分の意思で見たいものを選ぶよりは、「友達が面白いと言っていた」「話題になっているから」といったほうが視聴の動機になりうる。そういう意味でも斬新でインパクトのある設定にしたかった。
仮面ライダーのメインターゲットは3歳から6歳、いわゆる"サブロク"と呼ばれており、これ以降は仮面ライダーを卒業する傾向があるのですが、今回の生き残りゲームという設定で、小学生くらいの子供たちも戻ってきてくれるのではないかと期待しています。
――小さい子供にとってはかなりシリアスな内容ですが。
武部 ストーリーは多少ハードですが、最近の小学生はFPSといったゲームで対戦相手をたくさん倒しちゃったりしているので、多数の仮面ライダーが死んでしまうような展開にもある程度、耐性はあるんじゃないかなと思っています。
もちろん、2話で退場してしまった仮面ライダーギンペンに対して仮面ライダータイクーンの桜井景和(けいわ)が、自分が勝利して復活させようとしたりと、あまり人間の命を粗末に描かないようには注意しています。
――一般的なヒーロー像とは違い、最初から強い天才肌の青年を主人公にした意味は?
武部 ロシアのウクライナ侵攻があって世の中が閉塞、混沌(こんとん)としてきているので、やっぱり仮面ライダーもリーダーっぽい、自分たちの指針になるようなヒーロー像にしたくて浮世英寿(うきよ・えーす)のキャラクター設定を決めていきました。それでも強いだけではなくて、しかるべき努力をしていることも大事。
ただそういう人はとっつきにくいから、脇でその人物のすごさを客観的に伝える役柄が必要だろうということで、今までのシリーズでは主人公っぽい景和を2号ライダーのポジションにして、その視点で物語を見せることにしました。もちろん、景和も成長していく展開も予想されますし、彼を主役として見ることもできますが。
――1号ライダー(ギーツ)がガンナー(銃使い)というのも珍しいですね。
武部 1号ライダーは剣を使うことが多いからという理由なんですが、ガンアクションの形が非常にいいですよね。アクション監督の藤田慧(さとし)さんがいろいろとアイデアを出してくれて、映像を縦に使ったり、スローモーションを多用したり、絵はがきのような画え作りも印象的。
私も長く仮面ライダーシリーズを担当しており、着ぐるみのアクションには限界があるのかなと思っていたところ、まだこんなに可能性があるんだと、毎話驚かされています。ギーツのスーツアクターの中田裕士くんも初主役なものの、藤田さんととてもいいコンビネーションを見せてくれていると思います。
■オーディションで印象に残ったのは......
――簡(かん)秀吉さんを主演に抜擢(ばってき)した理由は?
武部 見た目の説得力は大事だと思っていて、簡くんは秀吉という名前はもちろん、183㎝という長身でビジュアル的にもインパクトの残るコでした。ラグビーを一生懸命やっていたらしいので、そんな一直線なところもいいんじゃないかと。
前作(『リバイス』)の前田(拳太郎)くんもそうでしたけど(空手の形の団体戦で全国優勝)、スポーツをやっていたコは負けず嫌いだし、メンタルが強いので、仮面ライダーの主役には合っているかもしれませんね。
――星乃夢奈(ゆな)さんを選んだ理由も教えてください。
武部 今回の設定がインフルエンサー役だったので、人気YouTuberの彼女は役にピッタリだったのもありますが、「夢はトップ女優」とプロフィールに書くだけあってお芝居がしっかりしている。
オーディションではペアを組んでエチュード(即興劇)をやるんですが、台本には状況の説明が書いてない。それを自分で考えて「寝てやってもいいですか?」と聞いてきたんですよね。やはりそういうコは女優のセンスがあると(中澤祥次郎)監督も言っていました。
あと、簡くんはオーディションのときにラグビーのハカをやってました(笑)。スゴすぎて、みんな圧倒されたのを覚えています。
――さすがラグビー部(笑)。簡さんにはどのような演技を期待したいですか?
武部 英寿は背景があまり語られていないけど、人と違う人生を生きてきたところがあるなど謎も多くて一番難しい役。ですが、だんだんと板についてきた感覚はあります。
あとは、英寿はやたらと博識なセリフが飛び出したり、哲学的なことを語るキャラクターなので、それを説得力のあるお芝居で演じられるようになってくれたらいいな、と思っています。現段階ですでに彼しか演じられない英寿ができてきていると感じますし、これからが楽しみです。
――ツムリ役の青島心さんと、桜井沙羅役の志田音々さんについてもお願いします。
武部 心ちゃんは非常にきれいだし、やっぱり芝居に安定感があって女優さんとしてのスゴみをすでに備えています。彼女は「ツムリ役だった女優」と将来もずっと言ってもらいたいくらい役に愛着を持ってくれているらしいので、私たちとしてもうれしい。監督が意味深にいろいろなカットを撮っているので、この先も重要なキャラになると思います。
音々ちゃんも普通のOLという役柄だから気づきにくいけど演技がすごく上手で、(『暴太郎(あばたろう)戦隊ドンブラザーズ』に出演中の志田)こはくちゃんと姉妹というのとは関係なしに選ばせてもらいました。そこまで出演シーンが多くなくても視聴者が忘れられないようなキャラクターを演じてくれていると思います。
――それでは最後に、毎週放送を楽しみにしている視聴者にメッセージをお願いします。
武部 ネタバレがあるのであまり詳しくは言えませんが、人間は愚かだけどがんばって生きてるよ、というメッセージが伝わればいいなと思っています。
たまに見ても面白く見られるように心がけますが、通して追いかけてくれれば1年後には知らない世界が見えるはずなので、ぜひ毎週楽しみにしてもらいたいです。
★『仮面ライダーギーツ』主演・簡 秀吉「『新人にこの役は難しすぎない?』と、ちょっと嘆いています(笑)」
●武部直美(たけべ・なおみ)
1967年生まれ。東映に入社して2年後にテレビ企画制作部に配属。『仮面ライダーアギト』(2001~02年)でアシスタントプロデューサーを務めたことを機に、特撮作品を中心に携わるようになる。本作以外でも仮面ライダーシリーズでは『仮面ライダーキバ』『仮面ライダーオーズ』『仮面ライダー鎧武/ガイム』でチーフプロデューサーを務めた
■『仮面ライダーギーツ』 (テレビ朝日系、毎週日曜9:00~)
ジャマトと呼ばれる正体も目的も不明の怪人たちから平和を守るために開催される、「デザイアグランプリ」。複数の仮面ライダーによってスコアを競い合い、優勝者には「理想の世界をかなえる権利」が与えられるという。このゲームに不敵な笑みで臨む仮面ライダーギーツ、浮世英寿の目的とは? 命を懸けた生き残りゲームで、個性あふれる仮面ライダーたちが死力を尽くす
★発売中の『週刊プレイボーイ42&43合併号』は、丸ごと一冊「仮面ライダーヒロイン大集結」! 新シリーズ『ギーツ』の3人が揃い踏み! 歴代仮面ライダーヒロインが大集結!