現在、ソロデビュー25周年を迎えているアーティスト・カジヒデキ

バンド『ブリッジ』としての活動を経て、1996年にソロデビュー。以降、渋谷系を代表するアーティストのひとりとして、時代を超えて愛されるエヴァーグリーンな楽曲を生み出し続けている。

そんな、カジヒデキさんにインタビューで直撃。前編に続いて後編では、カジさんのトレードマークともいえる「『ボーダー』について」と、「これからについて」のお話を中心に伺った!

──前編の最後では「『デトロイト・メタル・シティ』を通して気づけたことがある」と言っていましたが、具体的にはどんなことですか?

カジ ソロデビューして最初の頃、僕はボーダーの長袖シャツに短パンって格好でしたけど、単純にそういうファッションが好きだったんです。

──ボーダーに短パンはカジさんのトレードマークでしたね。

カジ でも、当時は若かったし求められると嫌だなって気持ちになって(笑)、ある時期は短パンは履きませんって感じになっていました。髪型もずっとマッシュルームヘアーって思われがちですけど、実はグルグルのパーマをかけたり金髪に染めたりした時期もあったんですよ(笑)。誰にも求められてないのに。

──あまのじゃく感ありますね(笑)。

カジ いやー、そういうところがすごくありますね(笑)。それで『デトロイト・メタル・シティ』で「甘い恋人」をリリースしたときに、やっぱり自分はボーダーに短パンってすごい好きな世界だし、みんなのイメージとしてあるならこれが一番いいじゃんって急に思ったんです。

──10年かかって気づけたと(笑)。

カジ そうです(笑)。その頃からライブは基本的にボーダー、短パンって格好でやってますね。しかも、ボーダーも短パンもなんでもいいわけじゃなくて、ボーダーのブランドはアニエスベーとかセント・ジェームスとかオーチバルとか、本場フランスのブランドが基本ですし、短パンは丈の長さや形が重要で、素材などにもこだわっているんです。

ファッションも音楽もそうですけど、何年も同じようなスタイルでやっていると、そこで良し悪しが出るのは心持ちだったり選ぶセンスが大事だなと思うんです。なので自分のこだわりをちゃんと出していけば、ちゃんとそこを見てくれる人もいるって思ってます。

『MINI SKIRT』のレコーディングでスウェーデンに行った時のカジさん。当時からボーダーがトレードマークだった 『MINI SKIRT』のレコーディングでスウェーデンに行った時のカジさん。当時からボーダーがトレードマークだった

──ディテールにこだわるってことですね。そもそもボーダーと短パンは何がきっかけで好きになったんですか。

カジ 自分の中で一番は、自分が好きだった80年代のネオアコースティック、インディポップのバンドがそういう格好をしてたからですね。例えば、オレンジ・ジュースのエドウィン・コリンズがすごく丈の短いショートパンツ履いてたり、タルーラ・ゴッシュってバンドのアメリアって女の子がいるんですけど、ボーダーでショートパンツでギターを弾いてる写真がめちゃくちゃかっこよくて。

やっぱり、そういうスタイルがギターポップにはぴったりだなって思ったんです。あと、ザ・スミスの「ザ・クイーン・イズ・デッド」って曲のMVをデレク・ジャーマンって映画監督が撮ってるんですけど、MVに出てくる黒と白のボーダーに黒のショートパンツを履いた長身の女の子がすごくかっこよかったんです。そういうスタイルに影響を受けましたね。

──なるほど。

カジ もっと言うと、60年代のアンディ・ウォーホール、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの人たちがボーダーをよく着てたんです。彼らの影響を受けたバンドが80年代には多くて、それで僕らの好きなイギリスのバンドたち、初期のプライマル・スクリームとかがみんな着てたんだと思います。それを見た自分たちも、ボーダーかっこいいなって思って着てたんです。

──影響の連鎖ですね。

カジ しかも、90年くらいに僕らの周りでフレンチカジュアル、フレンチポップが流行ったときがあったんです。アニエスベーをみんな着たり、A.P.C.とかも人気がありましたし。あと、僕はもともとフランス映画が好きなんです。60年代のヌーヴェルヴァーグ、(ジャン=リュック・)ゴダール、(フランソワ・)トリュフォー、(エリック・)ロメールだったり。

同時代でもレオス・カラックスがデビューしたり、あと『ベティ・ブルー』『グラン・ブルー』とかが流行ったり、フランス映画がすごく活気があった頃だった。それで80年代の終わりから90年代の頭にかけて僕らの周りには、フランス映画、アニエスのフレンチカジュアル、それと同時にフレンチポップがあったんです。

フレンチポップは同時代のものだけじゃなく、セルジュ・ゲンズブールとかフランス・ギャルとか昔のものも掘り起こして、それを時代関係なく一緒に吸収してたんです。そこにもボーダーがあったので、ボーダーはいろんな意味で象徴的でした。

──ボーダーひとつ検証するだけでも面白いですね。

カジ そうですね。もっと言えば、ピカソもボーダーを着てましたよね。まあ当時は若かったんで、フランスの歴史を身にまとってるエセフランス人みたいな感じがかっこいいなって気持ちもありました(笑)。

今もボーダーと短パンを着続けるカジさん。そこには深いこだわりがあった 今もボーダーと短パンを着続けるカジさん。そこには深いこだわりがあった

──今ではボーダーは一般的なものですが、それが自然にカジュアルになったのは渋谷系の影響が少なからずありますよね。

カジ それはあるかなと思います。それでいうと、やっぱりフリッパーズ・ギターの影響が大きかったです。小山田くんと小沢くんがボーダーとかフレンチっぽい格好で雑誌とかに出てたのって、そうしたファッションが普及するのに大きかったなって。

それが年月を経て一般的になったのかなって思いますね。00年代になると、ボーダーを誰でも着るようになったじゃないですか。でも、僕は普通は嫌なんですよ(笑)。なので、普通にならないように、すごくこだわらないとダメだなっていうのも思ってます。

──カジさんのボーダーに込める熱量がたっぷり伝わりました(笑)。そんなカジさんは、ソロデビュー25周年記念ライブ『all about mini skirt and tea』を10月30日にBillboard Live TOKYOで開催します。アニバーサリーライブは、どんなものになりそうですか。

カジ Billboard Liveは、僕が20周年の2016年に初めて東京と大阪で公演をやらせてもらいました。その前にも野宮真貴さんのライブでゲストで出させてもらったりしてるんです。ある程度の年齢になって、ああいう素晴らしい場所で音楽ができるのはすごく贅沢だなと思いますし、今回25周年のタイミングでできるのはすごくうれしいですね。

去年と今年に『MINI SKIRT』とセカンドの『TEA』が初めてアナログ盤になったんですけど、6月に『TEA』のリリース記念全曲ライブを新代田FEVERでやったんです。そのときにASHってギタリストと久しぶりにライブをやったんです。彼は、僕がソロになって最初の作品から10年くらいギターを弾いてくれてた人なんですけど、久しぶりに一緒にやったら、やっぱりフレーズを考えてくれたオリジナルの人が弾くのは全然違うなって思えたんです。忘れてた何かがゴーンって蘇ってきた感じがして、ライブもすごく気持ちよかったですし、お客さんもすごく喜んでくれたんですよ。

今回のライブもASHが参加してくれて、『MINI SKIRT』と『TEA』の音をできるだけちゃんと再現できるライブにしたいなと思ってます。かなりスペシャルなライブになると思うので、ぜひたくさんの方に足を運んでいただきたいです。

今回のビルボード公演ではソロセカンドアルバム『TEA』も再現。ファンにはたまらないプログラムだ 今回のビルボード公演ではソロセカンドアルバム『TEA』も再現。ファンにはたまらないプログラムだ

──期待してます! では25周年を経て、カジさんはこの先どんな活動をしていきたいですか。

カジ 年内にまた新曲を出したいなと思って今も動いてる感じですね。去年から配信シングルをコンスタントに出してるんですけど、来年はそれに新曲を足してアルバムにまとめたいなと思ってます。

もともとはアルバムを1年に1枚くらいのペースで出していたので、できればそれくらいの気持ちで活動できたら一番幸せだなって思いますね。やっぱり曲を制作してリリースするのはすごく楽しいことなので。

──曲を作り続けたいという思いが強いと。

カジ そうですね。今は、昔と比べると音楽制作も大変にはなってきてますけどね。僕は90年代の音楽産業が一番絶好調のときにソロデビューさせてもらったので、その恩恵にあやかって、それこそスウェーデンで何度もレコーディングさせてもらったんです。

予算の話をすると、当時のスウェーデンの1回のレコーディングで、今だったらアルバム何枚も作れちゃうくらいだと思います。昔みたいに贅沢には作れないかもだけど、でも、自分が今やりたいことを形にできる環境で音楽活動をしていけたらいいなと思ってます。あと、人に曲を作るのは楽しいので、もっと楽曲提供ができたらなって思います。

──音楽以外でやってみたいことはありますか。

カジ 僕は地元が千葉県の富津で、2015年から富津市観光大使をやらせてもらってるんです。なので、富津のいいところをもっと知ってもらえるような活動を地道に続けられたらなというのはありますね。あと、紅茶がすごく好きなんですよ。ちゃんと勉強して、紅茶ソムリエになりたいです。

──急に来ましたね、紅茶のソムリエですか。

カジ できるならイギリスで勉強したいです。僕はほんとにイギリスの文化がすごく好きなので。

──イギリスで勉強して紅茶ソムリエの資格を取りたいと。

カジ ハイ...ふざけてるみたいですけど大真面目です(笑)。若いとき、ちゃんと勉強しとけばよかったなぁ~(笑)。

──いやいや、まだ大丈夫ですよ。

カジ まだ間に合いますかね? じゃあこれから勉強して、ちゃんとしたブリティッシュなスタイルの紅茶ソムリエになりたいです。なんだか最後ふざけたみたいになっちゃいましたけど(笑)、音楽にしろ趣味的なことにしろ、これからも好きなことをずっと続けられるようにがんばります!

(取材協力/下北沢T)

●カジヒデキ
1967年5月8日生まれ、千葉県富津市出身。1986年にゴスバンド『Neurotic Doll』にベーシストとして加入し、本格的に音楽活動をスタート。1989年にネオアコースティック・バンド、BRIDGEを結成。1995年に解散し、翌年の1996年に「MUSCAT E.P.」でソロ・デビュー。1997年1月に発表したファースト・アルバム「MINI SKIRT」は30万枚を超える大ヒットを記録した。2008年には映画「デトロイト・メタル・シティ」の音楽を担当。主題歌「甘い恋人」がスマッシュヒットした。
〇最新シングル『SUMMER SUNDAY SMILE』がデジタル配信中。10月30日(日)にソロデビュー25周年記念公演「ALL ABOUT MINI SKIRT AND TEA」を開催する。公演の詳細はカジヒデキ公式サイトでチェック。
公式Twitter【@hidekikaji】
公式Instagram【@hideki_kaji】