『さんまのスーパーからくりTV』『中居正広の金曜日のスマたちへ』など、数多くの人気番組を手がけてきたバラエティプロデューサー角田陽一郎氏が聞き手となり、著名人の映画体験をひもとく『週刊プレイボーイ』の連載『角田陽一郎のMoving Movies~その映画が人生を動かす~』。
9月にニューシングル『出町柳パラレルユニバース』をリリースした「ASIAN KUNG-FU GENERATION」の後藤正文さんが登場!
■バンド名の由来はカンフー映画だった!
――初めて映画館で見た作品はなんですか?
後藤 初めて親以外と自発的に見に行ったのは『孔雀(くじゃく)王』(1988年)。三上博史さん主演で、ユン・ピョウも出ていたカンフー映画です。
――「アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)」のルーツですか!?
後藤 くしくもそうですね。しかも、『孔雀王』は2本立てで、もう1本が『ランボー3/怒りのアフガン』でした(笑)。あと、ジャッキー・チェンもすごく好きでしたね。子供の頃は再放送を山ほどやっていましたから。あと、浪人しているときは暇すぎて、結局、そこでカンフー映画にどっぷりとハマっちゃって。
――そもそも、アジカンのネーミングの由来はカンフー映画でいいんですよね?
後藤 間違いなくそうですね。浪人時代にブルース・リーの映画とかをいっぱい見ていなかったら、絶対に「カンフー」とはつけていなかったので。
――僕、アジカンのマジファンだけど、初耳です!
後藤 インタビューで話したりもしているんですけど、そこを拾って記事にしてくれないんですよ(笑)。「オアシスが好きです」みたいな話は使われるけど、カンフー映画の話はまったく......。広げてくれたのは『プレイボーイ』が初めてですね(笑)。
――光栄です(笑)。
後藤 ほかにはサモ・ハン・キンポーも好きだし、あとジミー・ウォングも好きですね。『片腕カンフー対空とぶギロチン』(1976年)とか、無理のある設定がもう最高で。ちょっとB級感あるやつがすごく好きなんですよね。
ジャッキー・チェンの映画はエンターテインメントとして成立してるけど、どの映画も構造がなんとなく一緒なのがまたいいんですよ。いつも最初はいじめられていたり(笑)。『サイクロンZ』(1988年)もヤバかったです。
――アジカンは映画の主題歌もたくさんやられていますけど、どうやって曲を作っているんですか?
後藤 映画だと特にイントロは気にします。冒頭のシーンが終わってから音楽が始まることが多いので。最初はあんまり気にしていなかったんですけど、映画『鉄コン筋クリート』(2006年)の主題歌で『或る街の群青』を作った頃から、その作品をめちゃくちゃ調べるようになりました。
基本的にオーダーを受けると、「『リライト』みたいな前向きな曲で」ってだいたい言われて(笑)。それで最初にできたデモを送ると、「もう少しサビを派手にできますか?」って返されるという。「え、みんな、そういうハウツー本でも読んでるの?」ってくらい鉄板で言われます(笑)。
――(笑)。確かに、「アニメ主題歌=『リライト』」というくらいのインパクトがありましたもんね。
後藤 でも、『リライト』って暗い曲だと思うので、ちょっと矛盾するような気がしていて。そこは不思議ですけど、面白いですね。
■『アメリカン・ユートピア』に影響を受けた新アルバム
――最近もアニメ『四畳半タイムマシンブルース』の主題歌として、シングル『出町柳パラレルユニバース』をリリースされましたよね。
後藤 もともとアニメ『四畳半神話大系』(2010年)でも主題歌で『迷子犬と雨のビート』を作らせてもらっていて、今回もその流れでやらせてもらいました。曲作りをしていたのはちょうどツイッターで炎上して、「アジカンは干された」とか言われていた時期ですかね(笑)。
――あ、あの時期にですか!(笑)
後藤 ちなみに、炎上はしたけど、干されてはいません(笑)。ありがたいことに全然仕事は減らなくて。
――(笑)。主題歌の『出町柳パラレルユニバース』以外の曲はいかがですか?
後藤 もともと先に『柳小路パラレルユニバース』という曲ができていたんです。
――柳小路は江ノ電の駅名で、ほかの収録曲である『追浜(おっぱま)フィーリンダウン』の追浜は京浜急行の駅名。つまり、鎌倉や横須賀のあたりを舞台にしていたわけですね。
後藤 そうなんです。もともと『柳小路パラレルユニバース』を映画に使ってもらいたかったけど、京都が舞台の作品だから鎌倉の歌じゃダメかなと思っていたんです。
でも、この映画にはタイムマシンも出てくるし、並行世界みたいな話だから、「京都の青春と鎌倉の青春が同時進行していたという作りにすれば面白いんじゃないか?」ということで歌詞を書き直したんです。
――なるほど、そういうことだったんですね!
後藤 実際、原作の森見登美彦さんが大学生の頃に、僕たちも大学生ぐらいだったと思うので、「森見さんが見ていた原風景は並行世界にあったんだ。だから、歌詞が違っても矛盾はない!」ってプレゼンしたら、スタッフも面白がってくれました(笑)。
――最後に、10月27日に横浜アリーナで開催するツアー「プラネットフォークス」の話をお聞きしたいと思います。3月発売の最新アルバム『プラネットフォークス』には、どのような思いがありましたか?
後藤 実はデイヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』(2021年)に強く影響を受けているんですよ。
――Moving Movieがあったんですね!
後藤 アルバム制作中にシネコンで見たんですけど、ひとりスタンディングオベーションしましたからね(笑)。途中から立って踊りながら見たいくらいでした。もともとニューヨークのブロードウェイの舞台なんですけど、コロナになってしまったので映画として公開されて。いろんな人種やジェンダーの人たちが出てきて、本当に最高です。
――僕も大好きです!
後藤 「やっぱりこうなっていかないといけないんだよな」と思いましたけど、同時に「今はまだここまでできないな」とも思って。僕たちが今できることとして、デイヴィッド・バーンに肉薄できるような何かをやりたいと思って作ったのが『プラネットフォークス』なんですよ。
自分が70歳くらいになったときにあれができるようになるために、逆算して勉強したりイメージしたりしないといけないなと思いましたね。今できる限りの思いをすべて込めて、横アリのセットリストを作りました。思い立ったら見に来てほしいですね。
●後藤正文(ごとう・まさふみ)
1976年生まれ、静岡県出身。「ASIAN KUNG-FU GENERATION(アジアン カンフー ジェネレーション)」のボーカル&ギターであり、ほとんどの楽曲で作詞作曲を手がける。1996年に大学の音楽サークルで結成後、2003年にメジャーデビュー。代表曲は『リライト』『君という花』『遥か彼方』『Re:Re:』など
■ASIAN KUNG-FU GENERATION『出町柳パラレルユニバース』絶賛発売中!