2013年にオリジナルビデオシリーズとして始まって以来、現在まで50作以上を数える異例の大ヒットを記録している人気任侠ドラマ『日本統一』。現在は初の映画『劇場版 山崎一門~日本統一~』が全国公開中で、10月17日からは北海道文化放送で念願の地上波シリーズも始まった。
いわゆる"Vシネマ"を代表する人気シリーズとなった同作は、なぜこれだけ根強い支持を受けているのか。男性だけでなく、女性ファンも増えているという『日本統一』の魅力について、エグゼクティブプロデューサーの鈴木祐介さん、そしてシリーズを通して主人公を演じている俳優の本宮泰風さんに直撃。インタビュー前編では、劇場版を中心に話を伺った。
■初の劇場版がスピンオフだった理由
――『日本統一』は無二の親友である氷室(本宮泰風)と田村(山口祥行)という若者ふたりが、横浜のチンピラから日本最大の任侠組織「侠和会」の幹部として成り上がっていき、極道界の日本統一を目指すという壮大なシリーズです。一方、劇場版では、シリーズの中心である氷室と田村ではなく、スピンオフで描かれた「山崎一門」の若手メンバーがフィーチャーされています。なぜ、初の映画化でスピンオフを題材に選んだのでしょうか?
本宮 もともとは本編の映画化を考えていたのですが、コロナ禍の影響もあって制作のタイミングを逸してしまったんです。ただ、「やっぱり劇場版はやりたいよね」という話が出たときに、プロデューサーの鈴木さんから、「スピンオフならフットワーク軽くできるので、この辺からやってみませんか」という提案がありまして。
鈴木 僕は以前から、ドラマもアニメもキャラクターが立っている作品がシリーズとして長続きしていると感じていたんです。それで『日本統一』でも、2019年からキャラクターの個性に焦点を当てたスピンオフを『外伝』として制作していました。
その中でも特に「山崎一門」を扱った作品は評判が良く、順調に本数も重ねていたので、このタイミングで彼らをピックアップしたら、シリーズにもっと厚みが出るのではないかと本宮さんに相談したんです。そうしたら、「それは面白いですね」と言っていただいて、こちらを本編より先に映画化することになりました。
本宮 だから、あくまで本編のドラマにもっと奥行きを感じてもらうために、というのが目的なんです。僕としては若手中心の「山崎一門」をピックアップすると聞いたときには正直、「これであいつら調子に乗るかもしれないぞ」とは思ったんですけど(笑)。でも、結果的には本編とは違ったテイストで、いい作品ができたと思っています。
――シリーズ本編は極道界の権力争いを中心に描いた硬派な内容ですが、劇場版は対照的に「山崎一門」が金塊密輸に絡む事件の解決に奮闘するというアクションあり、コメディありのエンタメ作品となりました。
本宮 劇場版のテーマとして、これまで『日本統一』を観たことがない人も入りやすいように、というのは意識していました。全体的にポップな内容にして、キャラクターも立てて、と。
■「小沢仁志さんは現場で酔っ払っていたので」
――実際、これ単体だけ観ても映画としての面白さがある作品でした。
鈴木 これは現場を裏側から見ている立場としての感想なんですが、「山崎一門」のキャラクターって、演じている若手俳優たちの素の姿そのままなんですよ。彼らは役者としてこれからの人間なので、まだそんなに器用ではない。そんな彼らの良さを一番活かせる方法は、と本宮さんと脚本家の村田啓一郎さんが、こういうかたちにうまく料理してくださったのだと思います。
――「山崎一門」のメンバーの素がにじみ出ているから、任侠ものにもかかわらず、親しみをもって観られるわけですね。
鈴木 例えば氷室との関係性なんて、現実の本宮さんと彼らの関係性そのまんまですからね。
本宮 もし彼らに劇中で僕らよりも上の立場をやらせようとしても、なかなか難しいと思うんですよ。どうしても役者の先輩・後輩の関係性が出てしまう。僕は大先輩の小沢仁志さんだって、お芝居なら平気で叩くことができます。でも、経験不足の彼らに同じことを要求するのは難しい。それならプライベートの関係性を思いきり活かした設定を作ってあげたほうが、彼らの魅力が出るだろうと考えたんです。
――そういった現場のアットホームな雰囲気は、作品からも感じられました。いい意味で若手のみなさんが緊張されていないというか。
鈴木 そうですね。だから、観ていてほっこりできるのだと思います。
――そうした雰囲気に影響されたのか、ベテランの小沢仁志さんも、いつも以上にアドリブを連発されていて、それが笑えるシーンになっていました。
本宮 小沢さんは現場で酔っ払っていたので(笑)。そもそもセリフを覚えてなかったんですよ。
――そうだったんですね。
本宮 台本を読んでいないどころか、言っちゃいけないことばかり言うんで。あれでもかなり削ったんです。大変でした(笑)。
――山口祥行さんが劇中で、「呑んでるんじゃないですか? ●すよ」とツッコんでいましたけど、あれは演技じゃなくて本音だったんですね。
本宮 そうです(笑)。
■主演が必死で支えた作品のクオリティ
――『日本統一』というシリーズは当初、小沢仁志さんのほかにも、哀川翔さんや白竜さんといった"Vシネマ"の常連俳優たちが集結したオールスタードラマとして売り出されていました。しかし、作品数を重ねるにつれ、若手俳優たちの起用を意識的に推し進めてきたように感じています。ずっと主演を務めている本宮さんにとって、『日本統一』を次世代の俳優を育成する場にしていこうといった意識があるのでしょうか?
本宮 それほど立派な大義ではないのですが、無名でもいい役者は世の中にいるんだと知ってもらいたいという思いはあります。これは"Vシネマ"に限らず、テレビでも映画でも同じことだと思うんですけど、キャスティングに有名な人を求められるわけですよ。それ自体はセールスの面で当然の要求ではあります。ただ、有名かどうかを重視するあまり、芝居の上手さは二の次ということもあって。それがすごくイヤだったんです。
実際、「とにかく有名な人を」となった結果、『日本統一』でもキャスティングに難航してしまったことがありました。そのときに僕らが自分たちで動いて、小さな劇場に足を運んだり、映像資料を取り寄せたりして、世の中に認知されていなくても、いい役者を起用していこうと働きかけていきました。そういう僕らの思いをメーカー側である鈴木さんが評価してくださって、徐々にキャスティングにも反映されていったという経緯なんです。
――そういった流れにシリーズが変わっていったタイミングは?
鈴木 『日本統一』は何度か制作会社が変わっているのですが、ちょうど今の体制になったのが2019年頃だったと思います。
本宮 その頃からすべてがいい方向に変わってきたんですよね。今は、この座組をずっと固定していきたいと思えるところまで来ました。だからこそ、映画化とか地上波とか新しい企画にどんどん挑戦できるようにもなってきたんです。
――正直、シリーズの最初の頃は作品としてのクオリティにかなりバラツキがあったことも......。
本宮 それは現場の僕らも感じていました。
――どう見ても東京でロケをしているのに、字幕で「神戸」と出ていたこともありましたね。
本宮 当時の体制では、そういうことに僕らが不満をぶつけてもなかなか通らなかったんです。それでも作品を良くしていきたいから、僕が無理やり意見を言い、少しずつ修正していくことを続けていました。そういった姿勢を今のシリーズを支えてくれている鈴木さんたちが見てくれていて、2020年からは僕を「総合プロデュース」としてクレジットしてくださるようにもなりました。今は全員がチームとして、いい作品をつくっていこうという意識を持っています。
鈴木 今は本宮さんたち俳優陣だけでなく、現場の技術スタッフのみなさんも『日本統一』を愛して参加してくださっています。劇場版の監督である辻裕之さんも、現体制になったタイミングでシリーズに入ってくださっていたり、本当にいい流れで今回の劇場版を実現することができたんです。
■シリーズ永遠のテーマとは
――シリーズでは「このままだと終わる」というほど危機的状況に陥ったこともあったそうですが、そのときも本宮さんが各所に頭を下げて継続をお願いしていったと聞いています。主演とはいえ、そこまで『日本統一』という作品に責任感を覚えていた理由は?
本宮 それは制作会社が変わるタイミングで、僕が引き継ぎをやったことが大きいですね。キャストの連絡先だけでなく、ロケやセットの資料も全部まとめ、次の制作会社に引き渡すということをやったんです。新しい監督もカメラマンも僕が紹介することまでやりました。そうなると、たとえイヤでも作品に責任を持たないといけないですよね。何より、自分としてもこのシリーズが好きで、もっと続けたかったんです。
――シリーズに愛着があるがゆえに、出演俳優としての立場を超えて、『日本統一』という作品の座長になっていったと。今や総合プロデュースも担当されているとのことですが、そんな本宮さんは、新しく『日本統一』に興味を持った人に、シリーズのどこから観ることをおすすめしますか?
本宮 それは永遠のテーマなんです。なんせ50作を超えているシリーズなので、「1作目から観てください」とは言いづらくて。でも、やはり劇場版がいいと思います。そもそも初見の人でも入りやすいように、と考えた企画ですから。
鈴木 本編との大きな違いとして、劇場版は人物が登場するときのテロップがないんですよ。
――「侠和会 若頭 氷室蓮司」といった人物紹介の字幕ですね。任侠ドラマにはおなじみです。
鈴木 それをカットしたのは、どの組織の誰なのかといった情報がわからなくても、この映画は楽しめますよ、と伝えたかったからです。だから、長く続いているシリーズということは意識せず、1本の映画として気軽に観てほしいですね。
本宮 各配信サービスにはシリーズの節目ごとにストーリーをまとめた「エピソード集」もあり、そこで全体の流れを把握することもできます。劇場版で興味を持ったら、ぜひ本編も観てもらえたらうれしいです。