『幽☆遊☆白書』(以下、『幽白』)、『HUNTER×HUNTER』(以下、『H×H』)などのヒット作品で知られる漫画家、冨樫義博先生の画業35周年を記念し、「冨樫義博展-PUZZLE-」が東京・森アーツセンターギャラリーで10月28日(金)から2023年1月9日(月・祝)まで開催される。
開催に先駆けて行なわれた内覧会に訪れたのは、芸人界屈指の冨樫先生ファンを自負するお笑いコンビ・ダイヤモンドのネタ作り担当、野澤輸出さん。冨樫作品の生原画や貴重な設定資料を見て周りながら、今回の展示の見どころや、冨樫作品の凄さを豊富な豆知識を交えながら語っていただく。
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場内は「プロローグエリア」「"奇"生物の世界エリア」、各作品ずつのエリアなど複数のエリアに分かれており、その中にも「キャラクター」「ストーリー」など様々なテーマに沿って原画や資料が展示されている。冨樫作品とは、これらの多彩な要素が、文字通りパズルのピースのように組み合わさって出来上がっているのが実感できるだろう。
まず我々を出迎えてくれるのは、歴代の冨樫作品に登場した無数のキャラクターがパズルのピースになって出迎えてくれる「プロローグエリア」から。早速、野澤さんの豆知識が飛び出す。
「やっぱり幽助は不動の主人公感があってカッコいいですね。ヤンキーなのにゴツくない、細ヤンキーっていうのは革新的で、やっぱりそこは女性人気も考えられていたんじゃないかと思いますね。『幽白』の主人公チームは4人とも好きですけど、やっぱり幽助が一番好きです。ここはいきなりマニアックなキャラクターまでたくさんいて楽しいですね。あ、鈴駒! 鈴駒の名前の由来は『ゼルダの伝説』シリーズのリンクから来ているらしいですね。
続く『レベルE』には吉本の先輩芸人をもじったと思われる名前のキャラクターとか、先輩芸人そっくりな謎の生物も出てきますし、ダウンタウンさんの有名な誘拐ネタも登場するんです。それこそ『H×H』の作品名の由来もダウンタウンさんです(※浜田雅功の「なんで2回言うねん」というツッコミからヒントを得た)し、冨樫先生は相当お笑いがお好きなんだと思いますね。モタリケっていうキャラクターはアップダウンの竹森さんが由来だという説もありますし、最近の連載でも『H×H』に同期のおかずクラブや、ウド鈴木さんそっくりのキャラクターが出てきて、めっちゃ羨ましかったですよ」
続いて各作品のエリアへ。まずは1990年から94年まで週刊少年ジャンプで連載され、シリーズ累計発行部数は5000万部を突破(デジタル版含む ※2022年9月現在)。不動の人気作品の地位を築いた『幽☆遊☆白書』のエリアに突入。冨樫先生との出会いの作品でもあるという『幽白』の原画や貴重な資料を前に、「うわ〜!」「か〜!」と興奮を隠せない野澤さん。
「僕と冨樫先生作品との出会いは、幼稚園の頃アニメ版の『幽白』を見たのがきっかけで、その後、漫画を読み始めました。中学生になってからアニメの再放送があって、そこで一番ハマりましたね。当時はバトルが面白かったし、霊丸や霊剣は子供の僕らが真似しやすかった。徐々にグロテスクなシーンも出てくるようになって、戸愚呂(兄)とか気持ち悪かったですけど(笑)、そこも良かったです。
この資料なんて普通のルーズリーフに描いてありますね(*会場でぜひご覧ください)。よく残ってたな〜! これがネームになって、この原画になるんですね。コミックスだと分からないホワイトの跡や写植の跡も原画だと見られるのは嬉しいですね。
この飛影かっこいいなあ! 飛影と蔵馬は人気投票で幽助と桑原を凌ぐほどの人気が出ますけど、ふたりの名前の由来は山の名前ではなくて思いつきで付けられたとか、蔵馬は妖狐だから南野洋子で南野という苗字になったとか、飛影のモデルが『パタリロ』のスカンキーだとか、面白い話はいくらでも出てきますね。『幽白』は今では不動の作風に思えるので他の漫画から影響を受けてるのは少し意外ですけど、冨樫先生はお笑いや漫画だけじゃなく映画や小説、ゲームからも影響をたくさん受けていらして、それを自己流に解釈したりアレンジを加えたりしてオリジナルな作品にしているのは、とにかくすごいのひと言です。
この蔵馬と海藤の戦いは小説家の筒井康隆さんに影響を受けたと言われている名バトルですね。このテリトリーの話あたりから、ただの力比べではない頭脳戦になっていくところも魅力です。のちの『H×H』の念能力に繋がっていると思います。冨樫先生は軀と樹がお好きなキャラクターらしいですね。僕も軀も樹も好きなんですけど、一番好きなのは仙水ですね。強くて、潔癖なところがあって。この仙水もかカッコいいな〜!」
『幽白』エリアに続くのは、たった16話ながらも、宇宙人と地球人の不思議な交流を描いた濃い作品『レベルE』のエリアへ。
「作品解説に『読者アンケートの票を取らない作品を描く』ってありますけど、その発想からしてすごいですよね。冨樫先生がお好きなものを自由に描かれた印象がありますし、この虫のような宇宙人(マクバク族の女王)は『H×H』のキメラアントに通じるところがある。また、この絵(少女の両親が口論し、化け物のように変貌していくシーン)は『王位継承編』の王子たちの念獣に通じるものがあると思います。
『幽白』が迫力あるタッチだったのに対して、『レベルE』はリアルさを求めたタッチになっている。小説家の名前をもじったキャラクターばかり登場したり、劇中劇みたいなストーリーがあるのもいいですね。そういうメタ的な発想とか、冨樫先生から感じる『漫画を壊す』みたいな考えは、自分にも影響を与えてると思いますね。『漫才を壊す』とか、変わったことをやろうとか」
そして、今回の展示の肝とも言える『HUNTER×HUNTER』エリアへ。1998年に連載がスタートし、休載を挟みながらも今なお連載が続いている長寿作品でもある。「設定」「描写」といった作品を構成するパズルのピースや、各ストーリーを追いながら、1枚1枚の原画を丹念に眺めていく野澤さん。
「『H×H』は冨樫先生が31歳の時に連載スタートして、その翌年にはご結婚されています。それもあってか、ゴンは当初、ご自身が息子にしたいようなキャラクターにしたんじゃないかと勝手に想像しているんですが、そう思いつつも、ゴンは初回から親が身近にいないんですよね。でも、だからこそゴンには目標があるし強くなれる。そして、強くなるための過程はある種ヤバいくらいなまでの純粋さ、ストレートさを孕んでると思うんです。だからシンプルだけど実はヤバい、というのがゴンの最大の魅力だと思います。
そして、幽助に対する桑原のように、冷静なキャラであるレオリオがいる。落ち着いているし、主人公の暴走を止める役割で、でもどこか抜けていて。どうやらそういうキャラは、冨樫先生の中では長身のイメージなんじゃないですかね。もちろんキルアもクラピカも大好きですけど、連載当初のゴンとレオリオの関係性は特に好きですね。
あとは、念能力が登場しますが、この念能力というシステムを思いついたのが素晴らしいですよね。冨樫先生は、いわゆるボス的なキャラクターにはそれに合った強い念能力を用意していて、一回でやられるようなキャラにはそういう能力を用意している。で、主人公たちはその中間くらいの強さになるようにしていて、成長が読者も実感できる。もちろん、どのキャラクターのどの能力も魅力的なのも素晴らしいんですけどね!」
「『グリードアイランド編』の原画は特に印象的ですね。作中に登場するゲームの呪文カードの説明だけで、4ページ使っている回がありますけど、あのゲームのプレイヤーはその内容を1時間で覚えなければいけない。その大変さを読者にも実際に味わってもらうための意味もあると思うんです。そういうメタ的な演出にもなっているのがいいですよね」
そして『H×H』エリア中程には、この冨樫義博展でしか見られない貴重な設定資料のコーナーが。初めて明かされる内容も多いファンにはたまらない設定の数々が展示されており、野澤さんも一番長く時間を割いて眺めていたが......内容の記載は一切禁止とのことで、ぜひ、実際展示に足をお運びいただき内容をご覧いただければ幸いだ。
「初公開の情報が多すぎる凄すぎるコーナーでしたね...。内容はしゃべれないですが、もう一回来て全部覚えたいと思いました」
この他にも、冨樫作品に時折登場する奇妙な生物たちをフィーチャーした「"奇"生物の世界エリア」、そして冨樫先生の人生を年表で辿り、漫画家仲間や豪華ゲストからのコメントも展示されている「冨樫義博エリア」などを巡り、野澤さんもご満悦。
「印象に残る原画ばかりで感動しっぱなしでしたね。一番衝撃的なのは、ここでは言えない設定資料のコーナーでしたが、『幽白』『レベルE』『H×H』はもちろん、それ以外の冨樫先生の作品についてもきちんと歴史が網羅してあって、先生の画業35年間の集大成が詰まっていたのが良かったです。『PUZZLE』というこの展示のテーマも、全体的に冨樫先生の作風とマッチしていて面白かったですし濃密でした。
冨樫先生の良さって、キャラクターとか設定とか、まさにこの展示のように色々な要素が組み合わさってできているんですけど、その中でも僕は特に、ストーリーの先の読めなさが好きで。いつもいい意味で読者を裏切ってくれるじゃないですか。自分も芸人をやっていて、『普通の漫才にはしたくない』という気持ちがどこかにあって、冨樫先生のマインドはどこかしらに影響があると思っています。だって何回も何回も読んでますからね。
芸人でも冨樫先生のファンは多くて、マヂカルラブリーの野田(クリスタル)さんに会えば絶対に『H×H』の話になりますし、連載が再開されれば芸人仲間で最新話について絶対話題になります。でも、吉本芸人の中でも冨樫先生を一番好きなのは僕だという自信はありますし、これからもっと冨樫先生好きはアピールしていきたいですね。
今回の展示は、冨樫先生の作品を少しでも読んだことがある人は絶対楽しめますし、行った後から作品を読むのもありだと思います。『こんなシーンあったな〜! 読み返そう!』でもいいと思います。『H×H』の秘密の設定資料も見てしまったので、僕も帰ったらまた読み返して理解度をさらに深めたいと思ってます。何回読んでも再発見があるのが冨樫作品ですけど、今回の冨樫義博展に来てからまた作品を読み返すと、再発見の度合いは全然違うと思います。いや〜面白かったな〜! また絶対来ます!」
●冨樫義博展-PUZZLE-
会期 2022年10月28日(金)〜2023年1月9日(月・祝)※会期中無休
会場 森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52F)
※本展示会は「全日日時指定制」となります。
●野澤輸出(のざわ・ゆしゅつ)
1986年生まれ、栃木県出身。2017年にボケの小野竜輔とともにお笑いコンビ・ダイヤモンドを結成。2021年「おもしろ荘」(日本テレビ)優勝で注目を集める。東中野の片隅で暮らす芸人たちで「軍儀」も行なっているYouTubeチャンネル「東中野ハウス」もチェック!
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