前巻までのキン肉マン単独による連戦を経て、この巻からはいよいよアイドル超人が総登場! 対悪魔六騎士戦の天王山、五重のリング決戦の開幕がやはり今巻最大の見どころです!
『キン肉マン』第14巻
●試合づくりの第一歩は舞台づくりから
まず触れるべきは、この巻からのメイン決戦場となる新舞台、五重のリングのロケーションですよね。
一般的に、バトルマンガの戦闘場面はどの作品でも「誰」が「どんな」闘いをするかという2項目に集中して描かれることが多いですが、ゆでたまご先生に関しては、そこにプラスもう1項目、ほかでは軽視されがちな「どこ」で闘うかという項目が、同等に重要なファクターとして考え抜かれていることが非常に多く、今に至るまで先生の大きな特徴のひとつだと僕は常々感じているところです。
その最たる例が、今回ご案内するこの五重のリング。同時進行していく闘いを見せるため、リングを縦に積み重ねるという発想だけでもインパクト絶大なのに、加えてその設置場所がウォーズマンの体内という発想もまた尋常ではありません。機械でできた体の中にミクロ化して進入し、心臓を再始動させるために五重のリングのてっぺんを目指す。
しかも、その途上には背骨や肺、予備の心臓など、リングを取り巻く環境の面白さが後々の展開にも生きてきます。さらに、各階の試合ごとに多種多様な味つけを施し、闘いのエッセンスと結びついていく。読者を飽きさせない強力な手法です。
さらにこのシリーズで見逃せないのは、そこで待ち受ける悪魔騎士たちのデザインのガチガチ感。前シリーズ「7人の悪魔超人編」ではステカセキングやスプリングマンみたいなゆるキャラ然とした超人も紛れていましたが、今回は全員が全員、本気で死闘を繰り広げてくる雰囲気しか感じない相手ばかりです。
13巻レビューでも、この「黄金のマスク編」でゆでたまご先生が目指された境地は、〝超人プロレス〟というオリジナル競技の質を徹底的に極めていくことにあったのではないかと言及させていただきましたが、その思いをさらに強くさせるジャンクマン、ザ・ニンジャ、アシュラマン、サンシャインという強力な新超人ラインナップ。迫力十分な彼らの初お披露目シーンからして、この先の名勝負連発を期待せずにはいられません。
●作品のスケール感をアップさせたセリフ
五重のリング1階の初戦は、ジャンククラッシュという必殺技一点に特化したジャンクマンが登場。歴代でも屈指のシンプルさを持つ超人だと思うのですが、その相手が多彩な戦法を持つロビンマスクという対比が面白いですよね。
しかもここまでロビンって、実力や人気の割に驚くほど勝ってないんですよ。キン肉マンとの2戦しかりアトランティス戦しかり、試合中は終始相手を圧倒するのに不思議と最後は勝てずに終わる。今のような常勝イメージはまだなくて、今回はそんなロビンに余裕のそぶりすら一切なし。
脂汗をかいて、ヨロイもはがされ、血だるまになって逆に圧倒されていく。もしやまた負けるのかと、その緊張感たるや半端ではありません。でも、そんな中でボロボロの彼が放った宣言が「こいつはもうウォーズマンを助けるためだけの戦いじゃねえ......正義超人と悪魔超人、どちらが生き残るかの戦争なんだ!!」。
このセリフが「黄金のマスク編」さらには『キン肉マン』という作品そのものの壮大さを一気に押し広げたのではないでしょうか。少し前からその傾向はありましたが、この宣言で『キン肉マン』はいよいよ完全にストーリーマンガのど真ん中へと飛び込んでいったようにも思えます。
そして2戦目のブロッケンJr.対ザ・ニンジャ。まず忍者の超人というのが、今までいそうでいなかった面白い設定ですよね。特に順逆自在の術という技の不思議さは、こんなのどうするんだという超人プロレスらしさの極みすら感じますが、その技へのブロッケンの対応策が「見よう見まねでやり返す」というのも驚きで、しかもそれすら別の忍術でかわされるという対応策の無限連鎖。
「彼らはいったいどこまでいくんだ」という応酬の決着のカギは、ついさっきまで試合をしていた下の階のジャンクマンの死体にあったというのも、五重のリングという仕掛けをしゃぶり尽くしている感があり、冒頭でも触れたゆでたまご先生のロケーションへの意識の高さが存分に感じられる一幕です。
そして、続く3戦目は真打ち登場テリーマン。対戦相手アシュラマンについて語るべきことは尽きませんが、あえて絞るならやはり〝阿修羅バスター〟という必殺技の大きさでしょう。何せ主人公の必殺技キン肉バスターの完全上位互換技、しかも音読したくなるほど語呂もカッコいい。
そんなどう見てもキン肉マンと対戦するために出てきたような技を持ってるのに、戸惑うのは対戦相手がこれまた絶対簡単には負けなさそうなテリーマン。この絶妙なバランスの取り合わせもまたゆでたまご先生マジックです。
しかも6本腕のアシュラマンに対し、テリーマンは両腕まで奪われて6対0で闘わせるドSぶり。それでも、きっとテリーマンならタダで終わらない......そんな読者の信頼感も逆手に取りつつ、勝負の結末は次巻へと続いていきます。
●こんな見どころにも注目!
『キン肉マン』世界で、人気超人に駆け上がるための下積みがあるとすれば、それはひとりで初登場の敵集団に突っ込んでボコボコの返り討ちに遭うという"儀式"ではないでしょうか。7人の悪魔超人初登場時にはウォーズマンが背負った役目でしたが、この巻でそれを担ったのがブロッケンJr.。後世「完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)編」ではジェロニモがようやくその通過儀礼を終えましたが、その後、超神との闘いに抜擢されたのは、きっとその御利益もあったことでしょう
●おぎぬまX
1998年生まれ、東京都町田市出身。漫画家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン!