異端のモノマネ新星・喉押さえマン異端のモノマネ新星・喉押さえマン

モノマネ界に新星が現れた。その名も「喉押さえマン」。高校卒業を機に、今年上京してきたという19歳の青年は、喉仏を指で押さえて動かす(!)という前代未聞の手法で自在に声色を変え、あらゆるキャラクターの声を再現する。このスタイルが生み出されるまでの経緯は? ってか、喉は大丈夫なの!?

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■練習のしすぎで4日間声が出ない

――そもそも、なぜモノマネをやろうと?

喉押さえマン(以下、もともとは山寺宏一さんに憧れて、声優を目指していました。ある日、山寺さんがモノマネ番組に出ていたのを見て、「モノマネから声優に通ずる道があるのでは」と思いまして。さすがに、いきなり喉を押さえたりはしませんでしたが。

――喉を押さえる前のモノマネのクオリティはどうだったんですか。

 手応えがまったくなかったですね。小学校低学年ぐらいから「ツイキャス」などのプラットフォームでモノマネ配信を始めたんですが、視聴者からも「全然似てない」とか言われて落ち込んだりして。

じゃあどうしようかと悩んでいたときに、「喉仏を指で押さえて動かせば声の高さを変えられる」と気づいたんです。

――理屈はわかりますけど、いざ実行するのは怖くないですか?

 視聴者から「似てる」って言われたくて、切羽詰まってたんでしょうね(笑)。最初はいろんな指を試したり、2本で押さえたり、違った角度で押さえたりと、あれこれ模索しました。

1日10時間練習したこともありましたし、「24時間モノマネ配信」に挑戦したことも。ただ、そうこうしていたら声が出なくなってしまって。

――えっ。

 それも4日間ぐらい。

――いやいや、一大事!

 そのときはさすがに焦りましたね。筆談でずっと周りとコミュニケーションして。

あと、原因不明の血が出てきたり、食べ物が喉を通らないこともありました。何か飲み込むごとに「オエッ」とえずくので、親もさすがに心配していましたね。結局、喉が安定するまでに3年はかかったと思います。

――過酷すぎます! 普通なら心が折れそうなものですが、諦めようと思ったことはなかった?

 ないですね。これはほかのモノマネ配信者たちの存在が大きかったです。コラボ配信をしたり、技術面でアドバイスをもらったりしているうちに、「もっとモノマネを極めたい」と向上心が湧き上がったんです。

また、練習すれば視聴者から「似てる!」と言われることも増えますから、モチベの維持になりますし。

――ってことは、配信サービスがなければこのスタイルにはたどり着かなかった?

 そうだと思います。で、そうこうしているうちに、TikTokでバズり始めまして。きっかけはアニメ『銀魂』の複数キャラを演じ分けるメドレーでした。

――なるほど。ちなみに、今は喉に支障はないんですか?

 特になんともないですよ。一度お医者さんに診てもらったことがあるんですが、「問題ない」と言われています。喉が柔軟な若い頃からやっていたこともあってか、体も適応したようで、今ではかなり自在に動かせるようになりました。触ってみます?

――じゃあ失礼します。(指を当ててみると喉仏がグッと下がる)うわっ、なんだこれ!

 毎日動かしているから、喉周りの筋肉が発達したんだと思います。最近知り合った看護師さんに「触ってみたい」と言われたので触れてもらったところ、普通の人の喉と構造が違っていたようで、「こんな突起物、人間にはないよ!?」と驚かれました(笑)。

喉には突起がふたつあり、下の小さな出っ張りを中指で押さえて固定しつつ、親指で上の突起(=喉仏)を上下に動かす。普通の人の喉仏は強く押さないと動かないが、彼の喉は異様に柔らかく、少し力を加えるだけで自在に動いた喉には突起がふたつあり、下の小さな出っ張りを中指で押さえて固定しつつ、親指で上の突起(=喉仏)を上下に動かす。普通の人の喉仏は強く押さないと動かないが、彼の喉は異様に柔らかく、少し力を加えるだけで自在に動いた

■喉にドレミの音階がある

――アニメキャラを中心に、レパートリーがすでに300種類以上あるとのことですが、こう押さえたら低い声、こう押さえたら高い声になるといったコツがあるんですか?

 「オタマトーン」ってご存じですか? 押さえる箇所をスライドさせるだけで音の高さが変わる電子楽器です。それと似ていて、喉仏を押し下げていくと低音が出ますし、上げると高音が出る。

つまり、喉にドレミの音階があるイメージです。それに加えて前かがみになったり、鼻にかけた声を出したり、喉をキュッと狭めたりすれば、何百通りの声になります。

――それだけ出し分けられるなら、人の声を聞いてもすぐに分析できそうですね。

 はい。声を聞けば「この人は鼻声ぎみで、高さはこれくらい」とすぐにマッピングできますね。

――とすると、声優さんに対する解像度も上がるのでは?

 ええ。映画やアニメを見ていても、「この人はこういうシーンで鼻にかけるんだ」とか、「これ、自分でもまねできそうだな」とか思ったりして。見終わる頃には練習し始めているので、作品にまったく集中できないんですよね(笑)。

――ちなみに、今しゃべってる私の声はどう聴こえます?

 (じっと聴いて)......はいはい。普通の人よりちょっと低めで、けっこうわかりやすく「ガラガラ」とした音が入っています。そう言うと良くない印象ですけど、めちゃくちゃいい声だと思います。低音のほうが人は聞き取りやすいですし、安心感を与えるので。

――へぇ~。では例えば、僕みたいな声質の人がモノマネをするならどんなキャラが向いてますか?

 ガラッとしている方は、「ばいきんまん」が習得しやすいんじゃないですかね。似たようなタイプでNHK Eテレに登場する「ニャンちゅう」もあるんですけど、喉に力を入れて力強く発声しなければいけないので、やや難易度が上がります。

――誰もがまねしやすいキャラなんてのもいる?

 東京ディズニーシーのアトラクション「タートル・トーク」の声ですかね。「やあ~みんな!」と、喉の中心をちょっとだけ押さえながら太い声を出すようなイメージです。もちろん、最初は無理に喉を上げ下げしないよう注意してくださいね。

■「喉押さえマン」として声優デビュー

取材中に突然喉を押さえはじめ、「待たせたな」とスネークの声になったと思えば、「私の戦闘力は53万です」とフリーザに切り替わる。手品を見ているようだった取材中に突然喉を押さえはじめ、「待たせたな」とスネークの声になったと思えば、「私の戦闘力は53万です」とフリーザに切り替わる。手品を見ているようだった

――モノマネしづらい声もあったりするんですか?

 癖がない中間の高さの声を出すのが苦手なんですよね。例えば『鬼滅の刃』の竈門炭治郎、我妻善逸の声とか。声優さんの名前を挙げると、中村悠一さんのような方(『呪術廻戦』の五条 悟役など)。極端に声が高かったり低かったりする分には喉を押さえれば近づけられるんですが。

――太った人だったり、女性の声を出すのも可能?

 体形や性別の壁は乗り越えられます。配信でも女性キャラのコスプレをしてモノマネをしたこともありますし。喉押さえって従来の声マネよりカバー範囲が広いので、ほかの人がやっていない領域もできるんですよね。ただ一方で、最近は地声がわからなくなってきましたが......。

――最近ではテレビ、舞台など「モノマネタレント」としての認知度が上がっています。憧れだった山寺宏一さんもTwitterで「喉押さえマンのマネしたら喉が痛くなった(笑)」と投稿していましたね。

 最初見たときは、ウソかと思いましたよ。その後、テレビのモノマネ番組で対面する機会があったんですが、会えた感動で頭が真っ白になって何も話せませんでした。

最近では、『僕のヒーローアカデミア』で爆豪勝己役をしている岡本信彦さんからも「僕の声も真似してほしい」とブログに書いていただきまして。喉を押さえ続けてきて良かったなと。

――近々、ついに声優のお仕事もやられるんですよね。

 はい。ただ、本名で出演できると思っていたんですけど、名義はまさかの「喉押さえマン」(笑)。ただ、これは先方のオーダーで、「ここは野沢雅子さん風で」とか「その次は山寺宏一さん風で」とか、作中で何役も演じ分けるみたいです。

でも、これってすごく光栄なことですよね。最初はネットで叩かれたりしていたのに、今やプロの方々から「似てる」と認めていただけたわけですし。

――では最後に、これから挑戦していきたいことは?

 歌をやりたいですね。パートごとにいろいろなアニメキャラの声で歌ったりして。

あとはやはり、山寺宏一さんのように、マルチに活躍できる存在になりたいです。モノマネ、声優、演技、歌と、小さい頃の自分が憧れる存在になれたら最高ですね。

●喉押さえマン 
2003年3月2日生まれ、香川県出身。ジャストプロ所属。TikTokのフォロワー数は27万人超。10歳の頃から喉を押さえたモノマネを始める。レパートリーは300種以上。
公式Twitter【@popbca】 
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公式TikTok【@pop0302】