平日の夜でも渋谷駅のハチ公前改札の出口からスクランブル交差点に向け、列をなすようにビラ配りをする地下アイドルたち 平日の夜でも渋谷駅のハチ公前改札の出口からスクランブル交差点に向け、列をなすようにビラ配りをする地下アイドルたち
いつでも人が集っている渋谷駅のハチ公前に最近、ビラ配りをしている地下アイドルたちが増えている。ライブハウスが多い渋谷は、地下ドルのファンもよくいるためメリットは多々ある。しかし、困ったことも起きているそうだ。本人や関係者らに話を聞いた。

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都内一の繁華街ともいえる渋谷。居酒屋やクラブも多く、夜のハチ公前には酔っ払いも集う。ビラ配りをしていた地下ドルのAさんはこう話す。

「冷やかしでからかってきたり、ナンパとかしてくる人もたまにいます。でもこっちも"仕事感"があるから、適当にあしらえばすんなり離れてくれます。近くにマネージャーもいるし、目の前に交番もあるから、しつこかったら逃げればいいし」

ライブやレッスンの前後でビラ配りをしている地下ドルも多く、ほとんどの地下ドルには事務所の人間が荷物番も兼ねて帯同している。

またそもそも「酔っ払いがいるような時間には引き揚げる」そうだ。Aさんが続ける。

「遅い時間までビラ配りをしているグループもいるみたいだけど、うちは夜9時くらいには帰るように言われています。たぶん、だいたいのグループが夜は禁止されているはず。未成年のコも多いですし。時間を決められていない事務所でも、地下ドルがみんないなくなるから、それくらいの時間には帰ってると思いますよ」

ナンパや酔っ払いよりも面倒なのは、「メン地下(メンズ地下アイドル)の連中」だというのは、半年ほど前から週1でビラ配りをしている地下ドル・Bさんだ。

「あいつら、『こないだもいたよね、お疲れ!』とか平気で声かけてくるんですよ。別に地下ドルと話しても意味ないのに。こっちは近くにファンがいるかもしれないし、見られてメン地下と仲がいいと思われたら最悪」

渋谷のハチ公前では、ビラ配りをしているメン地下も多い。日によっては地下ドルよりメン地下のほうが多い日もあるほどだ。しかしメン地下が地下ドルに話しかけるのにはワケがあるそうだ。

「もちろん全員ではないですけど、ハチ公前でビラ配りをしているメン地下はビラ配りが目的じゃないですから。だって、ここは屋外合コン会場でしょ? あいつらからしてみれば、それくらいの意識。ビラ配りはついでで、かわいいコにしか渡しません。そりゃあ、地下ドルでもかわいかったらいきますよ」

渋谷・ハチ公前でビラ配りをするメン地下。メン地下のCさんが言うようにかわいいコにしかビラを渡すつもりがないのか、5分ほど見ていても彼らは何十人通り過ぎても渡す様子は伺えなかった 渋谷・ハチ公前でビラ配りをするメン地下。メン地下のCさんが言うようにかわいいコにしかビラを渡すつもりがないのか、5分ほど見ていても彼らは何十人通り過ぎても渡す様子は伺えなかった
そう話すのは、現役メンズ地下アイドルのCさん。彼自身は「ビラ配りしているようなグループは、アイドルとして格が下がる」とビラ配りはしていないが、業界の話を教えてくれた。

「昔はモテたいからバンドを組んでいたでしょ。メン地下も一緒。ほとんどのグループは女を抱きたいってだけ。その相手が地下ドルだと二度おいしいんですよ」

一体、どういうことか。Cさんが続ける。

「普通、アイドルの恋愛スキャンダルってマイナスにしかならないでしょ? でもメン地下は違うんです。本人のキャラにもよるけど、スキャンダルが発覚するとファンが増えることがあるんですよ」

現在はその是非が問われているものの、恋愛スキャンダルによって卒業や活動休止となったアイドルを見てきたはずだが......。

「普通に考えたらアウトですよね。少なくともファンは離れるのは当たり前。でも、メン地下のファンは違うんですよ(笑)。『地下ドルなんかでいけるなら、私もワンチャンあるかも』っていう女性が一定数いるんです。もしくはそのメン地下を経由して、本命のメン地下に繋がろうとする人もいます。

地下ドル相手ならかわいいコを抱けたうえに、バレたとしても"新規"が増えるだけ。どっちにしろ得しかないんですよ。一般人だとバレにくいから、あえて地下ドル狙うやつもいるくらいですから」

そうしたメン地下が地下ドルと繋がるための場所が、ハチ公前になっているというのだ。

「衣装を着ているコはマネージャーが近くにいることが多いから、自主的にビラ配りに来ている可能性の高い私服の地下ドルが狙いやすいそうです。積極的に努力しているのに迷惑な話ですよね。

まあ中にはナンパに付いていったり、そこでファンと繋がる地下ドルもいるって噂ですから、どっちもどっちなのかもしれませんけど」

女性と話し込むメン地下。右奥には水色のビラを持つ地下アイドルの姿も 女性と話し込むメン地下。右奥には水色のビラを持つ地下アイドルの姿も
迷惑なのはメン地下だけではない。地下ドルが集まることによって、「"無銭接触"目的のオタクや一般人も現れるようになってきた」と地下ドルのDさんはいう。

「地下ドル界隈では、物販ブースでグッズを買うフリして話すだけとか、お金を使わず交流することを"無銭接触"や"無銭がっつき"と言って、迷惑行為として認識されているんです。

だから、ほとんどの地下ドルオタクはハチ公前でもビラをもらったら1、2分で立ち去ってくれます。でも、一部のオタクや普通の人は、10分くらい延々と話してくるんですよ」

Dさんは、彼らが意図的に無銭接触していることに気が付いたと話す。

「その人たちって、ビラ配りしている地下ドルを目当てに周ってるんですよ。ひと通り話したら新しい地下ドルが来るのを待っていて、また話をしに行く。以前、2時間くらいビラ配りをしていたんですけど、私が帰るときもまだハチ公前にいて、他の地下ドルと話してました。

地下ドルをガールズバーだとでも思ってるんですかね。かわいい女のコが普通のビラ配りをしていても、絶対10分も絡まないじゃないですか。ファンとして現場に来ることなんてないですよ。いろんな女のコとタダで話して楽しむだけで、ホント仕事の邪魔です」

さまざまな人が行き交う渋谷のハチ公前。そこには地下ドルに下心を抱く男たちも多数潜んでいるようだ。